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気付きたくなかった【帝幻】









帝統は、きょろきょろと辺りを見回す。
ここにも居ねぇ、と呟くと、焦ったように歩き出した。
こんなに蒸し暑いのに、一体どこに行ったんだ。
幻太郎のやつは。

後ろから、走るような足音がするので振り返ると、同じように探しまわっている乱数がこっちに向かってきていた。


「幻太郎いた?」

「いや、どこにも居ねぇ」

「はぁ、意味わかんない」


二人で大きくため息をつく。
三日目だ。
自立した大人ならこれくらい連絡取れずとも、普通ならそこまで心配することではない。
しかし、問題は幻太郎の家だ。
物が散乱した状態で、書きかけの原稿を机にぐしゃぐしゃに散らかしたまま、本人はどこにも居ない。
普段絶対に使わないのを条件に、お互い一人暮らしの乱数と幻太郎は何かあったときのために合鍵を交換しているため、連絡が取れなくて三日目の今日、帝統と一緒に様子を見に行ったのだ。


「んー困ったなぁ〜、テリトリーバトルの作戦会議したかったのにぃ」

「それより幻太郎の安否だろ」

「とにかく、行きそうな心当たりがこれ以上無いからいったん幻太郎の家に行こ。何か手掛かりがあるかも!」





























小さな川のほとり。
大きめの岩にちょこんと腰掛けている。


「困りましたね···」


小さくため息をついた。






















幻太郎の家についた二人は、とりあえずこの部屋で何をしていたのか考えることにした。
行動パターンを予想することでなにかヒントになるものが得られるかもしれない。


「げ。シンクきったなー。三日もほっといたから臭いキッツ」

「あいつがそのままで出掛けるなんてよっぽどだぞ。只事じゃないだろ絶対」

「こっちは帝統にまかせた〜。僕寝室見てくるねっ」


そういうと乱数は寝室へ向かう。
帝統は、そのシンクを眺めた。
作ったもののほとんど手付かずで捨てられているのは、牛肉を焼いたもの。
以前に、一人でわざわざ牛肉なんかは焼いて食べることは無いと言っていた。
自分一人なら、適当に惣菜か、良くて卵焼きくらい。
そう言っていた。
つまり、普段とは違う状態だったということ。
気分の問題か、来客があったのか、それはわからないけれど。
ただ来客があったとしたらこんなに部屋が散乱していることはないだろう。
脱ぎ散らかした服にタオル、なんならゴミまで落ちている。
だとしたら、いつもと違ったのは、他からのものではなく幻太郎自身だ。
うーん、と小さく唸ると、散らかした衣服を手に取る。
変わった様子はない···と元に戻そうとして、手が止まった。
普段はアイロンをかけて綺麗にしている幻太郎の服。
床に落ちているから多少よれているものの全体的には確かにそこそこ綺麗だ。
違和感のある場所は袖口。
両方の袖口だけ、シワがよっていて、何かが染みたあとで乾いたような、違和感のある質感になっている。

帝統はそれをもって、寝室の乱数のところへと向かうと、乱数はベッドに座って書きかけの原稿を読んでいた。


「おい何やってんだよ。ちょっとこれ···」


そう言って、感じた違和感を説明すると、乱数は少し考えたあとで立ち上がった。


「よっし。心当たりはだいたい絞れたよっ」

「へ?!」

「ただココだっていう場所はわからないんだけど、幻太郎の気持ちはなんとなく予想出来たから、そこから場所を限定して探そ」

「なんだよ、気持ちが予想出来たって。なんか書いてあったのか?」

「帝統は見ちゃダメー」

「なんでだよ!」

「それは幻太郎が望むかわかんないから!」


全然理解出来ないけれど、とりあえず乱数がそういうのできっとそうなんだろう。
幻太郎の家を出て、乱数はそのまままっすぐ電車に乗るので、帝統もそれについていく。
闇雲に探すのではなくなったので、かなり気持ちはラクになったけれど。
たどり着いたのは池袋で、駅を降りるとまっすぐむかったのはとある事務所だ。
乱数はコンコンとノックをすると、大きめの声で呼びかける。


「いっちろー!僕だよー!お仕事の依頼でーっす!」












つづく
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