帝幻ワンドロまとめ
ぱらり、ぱらりとページをめくる。
普段、本などまったく読まない帝統が、珍しくめくっているのは、かの夢野幻太郎先生の最新作である。
有栖川帝統、25歳の秋のことだった。
幻太郎と連絡を取らなくなり数年。
チームの解散と同時に行方をくらまし、そのまま音信不通となり、乱数とも徐々に疎遠となる。
乱数のデザインしたピアスを、5年前にもらってからずっとつけっぱなしのまま。
幻太郎は帝統のことを好きで居てくれていたし、そんなことを言っていたことも何度かあったが、当時の帝統にはまさか本気とは思わず、おふざけだと理解していた。
まともに取り合っても嘘ですよといなされることは予想できたからこそ、ある程度の距離を保ったままの関係を続けていたのだ。
いなくなってから、おふざけだったとしても真面目に話せばよかったと心底後悔をした。
つまるところ、帝統は幻太郎のことが好きだったのだと気付いたのである。
もちろん時すでに遅しで、もう幻太郎はいない。
帝統は相変わらずのその日暮らしで、その日はそこそこスロットで儲けたので、美味いものでも食おうとフラフラしていた。
すると、とある書店の前を通りかかり、小さなポスターに目を奪われる。
『夢野幻太郎最新作』
でかでかと書かれたその文字の下、本のタイトルが小さく書かれている。
普通はタイトルを大きくするものじゃないのか、と幻太郎の名前の凄さを実感すると、タイトルを確かめ、しばし時間が止まった。
『素寒貧のギャンブラー』
······いつか、書くと言っていた約束。
帝統はふらりと書店に入り、その本を手に取る。
帯には、デタラメな前世の縁を今、なんて書かれていて。
食事に行くのをやめ、その本を買うと、安いホテルに入った。
静かに読みたい、そう思ったからだ。
しかし、ページをめくれどそれらしい描写はなく、内容はタイトルとは関係の無い、純愛物語だった。
不思議に思いながらも、さすが惹き込まれる文章に帝統はじっくり読み進める。
運命の相手と出会い、紆余曲折を経て恋仲になり、無情な別れの後に、奇跡の再会。
最後は結婚して、こじんまりとした幸せな結婚式を挙げて、終わりだ。
難しい描写は無く、するすると内容が入ってくる、子どもでも楽しく読めるようなものだった。
最後のページをめくり終えて、パタンと閉じると、裏表紙に何か書いてある。
『横歩きのデタラメ集めには事欠かない』
この文章自体がまるでデタラメなような、意味のわからないものだった。
でたらめ集めには事欠かない、は聞いたことがある。
幻太郎のソロ曲の一節だ。
それでは、横歩きとは?
うーん、ともう一度目次を開いて、少し眺める。
横、歩き。
第1章から順番に目次タイトルを読み上げる。
『真実』
『不格好な愛』
『約束』
『はにかむ君』
『千切れた縁』
『恋しあなた』
『嘘を暴いて』
『20日目』
『紛れも無い事実』
『続く、永遠に』
横歩きを、すると、どうなるのか。
今日は、日付が変わって20日だ。
発売して1週間。
おそらく今日のことだろう。
待っているというのか。
あの時、伝えられなかったまま燻っている感情を、ぶつけてもいいというのか。
偶然かもしれない。
だけど、一か八か、そう、得意のギャンブルじゃないか。
帝統は立ち上がりホテルを出ると、犬の像の所へと走った。
人混みを掻き分けながら、息を切らして走った。
居るかもしれない。
会えるかもしれない。
そうしたら今度こそ、伝えるんだ。
走って走って、ひたすら走った。
あぁ、世界が色を増す。
終わり
普段、本などまったく読まない帝統が、珍しくめくっているのは、かの夢野幻太郎先生の最新作である。
有栖川帝統、25歳の秋のことだった。
幻太郎と連絡を取らなくなり数年。
チームの解散と同時に行方をくらまし、そのまま音信不通となり、乱数とも徐々に疎遠となる。
乱数のデザインしたピアスを、5年前にもらってからずっとつけっぱなしのまま。
幻太郎は帝統のことを好きで居てくれていたし、そんなことを言っていたことも何度かあったが、当時の帝統にはまさか本気とは思わず、おふざけだと理解していた。
まともに取り合っても嘘ですよといなされることは予想できたからこそ、ある程度の距離を保ったままの関係を続けていたのだ。
いなくなってから、おふざけだったとしても真面目に話せばよかったと心底後悔をした。
つまるところ、帝統は幻太郎のことが好きだったのだと気付いたのである。
もちろん時すでに遅しで、もう幻太郎はいない。
帝統は相変わらずのその日暮らしで、その日はそこそこスロットで儲けたので、美味いものでも食おうとフラフラしていた。
すると、とある書店の前を通りかかり、小さなポスターに目を奪われる。
『夢野幻太郎最新作』
でかでかと書かれたその文字の下、本のタイトルが小さく書かれている。
普通はタイトルを大きくするものじゃないのか、と幻太郎の名前の凄さを実感すると、タイトルを確かめ、しばし時間が止まった。
『素寒貧のギャンブラー』
······いつか、書くと言っていた約束。
帝統はふらりと書店に入り、その本を手に取る。
帯には、デタラメな前世の縁を今、なんて書かれていて。
食事に行くのをやめ、その本を買うと、安いホテルに入った。
静かに読みたい、そう思ったからだ。
しかし、ページをめくれどそれらしい描写はなく、内容はタイトルとは関係の無い、純愛物語だった。
不思議に思いながらも、さすが惹き込まれる文章に帝統はじっくり読み進める。
運命の相手と出会い、紆余曲折を経て恋仲になり、無情な別れの後に、奇跡の再会。
最後は結婚して、こじんまりとした幸せな結婚式を挙げて、終わりだ。
難しい描写は無く、するすると内容が入ってくる、子どもでも楽しく読めるようなものだった。
最後のページをめくり終えて、パタンと閉じると、裏表紙に何か書いてある。
『横歩きのデタラメ集めには事欠かない』
この文章自体がまるでデタラメなような、意味のわからないものだった。
でたらめ集めには事欠かない、は聞いたことがある。
幻太郎のソロ曲の一節だ。
それでは、横歩きとは?
うーん、ともう一度目次を開いて、少し眺める。
横、歩き。
第1章から順番に目次タイトルを読み上げる。
『真実』
『不格好な愛』
『約束』
『はにかむ君』
『千切れた縁』
『恋しあなた』
『嘘を暴いて』
『20日目』
『紛れも無い事実』
『続く、永遠に』
横歩きを、すると、どうなるのか。
今日は、日付が変わって20日だ。
発売して1週間。
おそらく今日のことだろう。
待っているというのか。
あの時、伝えられなかったまま燻っている感情を、ぶつけてもいいというのか。
偶然かもしれない。
だけど、一か八か、そう、得意のギャンブルじゃないか。
帝統は立ち上がりホテルを出ると、犬の像の所へと走った。
人混みを掻き分けながら、息を切らして走った。
居るかもしれない。
会えるかもしれない。
そうしたら今度こそ、伝えるんだ。
走って走って、ひたすら走った。
あぁ、世界が色を増す。
終わり