前編
聖28一族に生まれた少女は、勿論純血主義教育を受けて育った純血主義者である。
ホグワーツではスリザリンに組み分けされ、スリザリンでは純血王族レギュラス・ブラックと聖28一族のバーテミウス・クラウチ・ジュニアと行動を共にした。
セルウィン家の娘として、純血主義者のみと行動し、半純血やマグルを嫌い糾弾し続けてきた。
私にとってレギュラスやバーテミウスは大切な友人だ。
レジーは落ち着いた性格故か、あまり大々的に差別をすることは無く孤高の王子様だった。
バーティは純血主義者では無かったが、聖28一族の純血の魔法使いであり、勉学においては非常に優秀な成績を収めており、女子生徒からの人気は凄まじかった。
2人はクディッチが好きだが、バーティは選手になることは無く見る専のようだった。
レジーはクディッチをする事が好きなようで、何時だったかお巫山戯でクディッチの選手になるから応援に来て欲しいと言われたことがある。
バーティはノリノリで勿論だと言い、私もブラックの力を見せつけてやるといいわと力強くエールを送った。
私たちの関係はある時から変わってしまった。
3年生の頃、レジーに言い寄る女子生徒に対して彼が酷く冷たくなった。
もともとクールな性格だったが、女性には紳士的に接してきた彼が突然拒絶を示すようになったのだ。
一応例外として、私と私の従姉妹に対しては特に変化はなかった。
その理由は恐らく、私が彼を一人の人間として認識しなんでもはっきり言ってしまうからだと思う。
拒絶された女子生徒をフォローする役割はバーティであったが、その様子を見るレジーが複雑そうな顔をしていた。
私はレジーとバーティと可愛い従姉妹を大切な親友だと思っていた。
だからか、友人なら言いたいことがあるなら言えばいいのにとレジーに言ったのだ。
彼は切なそうな声で瞳を細めて悔しそうに笑っていた。
返す言葉がないのだと態度が語っていた。
彼がバーティに言えない理由はきっと彼を愛していたからだ。
光と闇、相見えることの無い2つの立場がたまたまクロスした時代だったのだろう。
レジーの嫉妬が原因でバーティとレジーの関係は変わってしまった。
レジーが光へ向かうのか、バーティが闇へ沈むのか、バーティの性格や境遇を考えれば簡単に分かる事だ。
バーティとレジーは互いに依存し合い、愛し合う関係となったのだ。
レジーに恋をしていた従姉妹は私達から離れていった。
私は彼らの関係を美しいと思っていた。
そしてこの関係の行く末を見たいと願った。
「ねぇ、恋って何なのかしら。」
「突然どうしたんだい?レティ」
バーティの膝を借りて眠るレジーを撫でながら、バーティは不思議そうな顔をして尋ねた。
二人の関係は純粋な愛情とは違う、だが雰囲気は恋人のそれなのだ。
父や母の関係とはまた違う、運命と名付けるには地味で恋人と名付ければそれ以上に深い関係なのだ。
「二人を見ていて、恋愛って素敵だと思ったのよ。でも何時かは、親の決めた人と結婚するのよね。」
「まあ、何時かはな。」
歯切れの悪い返答だ。
未来に対する期待も希望もない世界で、バーティとレジーの小さな箱庭を愛でる日々は充実していた。
バーティとレジーが何時か別れてしまっても、きっと美しい美談となるのだろう。
「親の決めた相手と結婚するのに恋愛を楽しむなんて、どうかしていると思っていたの。でも貴方達二人の関係は少し羨ましいと思ったわ。」
「羨ましい?なら君も誰か恋人を作ってみてはどうかな?」
きっと善意の提案だったのだろう、もしくは何も考え無しに漏れた言葉。
私になんて残酷なことを言うのだろうか。
「私には火遊びは出来ないわ。」
火遊びという単語にバーティを顔を顰め、溜息を着いた。
ここで父ならば怒鳴り散らしていたのだが、バーティは冷静で賢い大人のような青年だった。
「勘違いしないで。私は貴方達の関係を火遊びだと表現した訳では無いの。私から見たら貴方達は恋人のような雰囲気を醸し出した依存関係で、運命と名付けるには安っぽい愛とか恋とか複雑な関係なのよ。」
私の言葉を聞いて考える素振りをし、彼はレジーの額に口付けた。
こんなことを言われればイラつきもするだろうに、顔に出さず愛する人を労る彼は紳士だった。
その薄い唇でどのように愛を綴るのか、白く長い指がどのように肌を這いずるのか。
想像しても私には分からなかった。
紳士的な彼でロマンスを創造することは出来ても、彼らしい振る舞いを知らないため途中で行き詰ってしまう。
マグルを嫌う私だが、シェイクスピアの《ロミオとジュリエット》という作品の内容を知っている。
読んだことは無いが、知識として話を聞いたことがあったのだ。
互いを互いの仇とした2人の男女が舞踏会で恋に落ちた。
多くの障害を越えることが出来ず、最終的に二人は死んでしまうのだ。
仮死になる薬を飲んだジュリエット、ジュリエットが死んでしまったと思ったロミオ。
ロミオは勘違いにより毒を飲みしんでしまった。
仮死から目覚めたジュリエットはロミオの死に気づき、ロミオの短剣で胸を刺して後を追った。
互いを仇のように思うブラックとクラウチ、闇と光。
二人の結末は生か死か、愛か憎悪か。
私は意識して彼らをロミオとジュリエットとして見ていた。
ラブロマンスなんてぬるい、これは悲劇なのだから。
「君はレジーを好きなのか?」
レジーを愛おしく見つめ、私を移さない瞳は密かに揺れていた。
バーティは綺麗な顔をした美男子だった。
儚く美しいレジーの傍に並べば異彩の光を放つ。
恋とか愛とかそういう安っぽい言葉で表現出来ないが、私は確かにレジーを愛していた。
「好きというより、愛しているのよ。」
私の言葉に面食らったかのように口を閉ざした。
私は口角を上げ告白したのだ。
「私はバーティとレジーを愛しているのよ。」
「それは光栄だ。俺も君を…」
言葉を続ける彼の口元に人差し指を触れさせた。
私の行動が予想外だったのか、彼は口角を上げてニヒルに笑った。
「おはよう、レジー」
私は先程から拳を強く握り締めて、狸寝入りをしていたレジーに朝を告げる。
バーティがレジーの頬に口付けると、ピクリとレジーの身体が強ばった。
レジーはバツが悪そうに体を起こし、ソファへ座ってから窓の外を見た。
そして口を開いた。
「もう夜ですよ。早く広間へ行きましょう。」
"愛している"
恋人の前で、友人に使う言葉としては不適切だ。
私達は机を片付け、広間へと向かった。
そして私はその言葉を聞きたくなかった。
聞いたら何かが変わってしまう気がした。
何かが私の中から消えてしまう気がした。
私はこの関係を愛しているあまり、臆病で弱々しい性格になってしまったようだ。
この事実を知る者は未来永劫、私だけで充分である。
バーティとレジーに対する気持ちを見ないをフリをし、私は彼らの隣に居座った。
その結末が悲劇を迎えるその日まで、私は彼らの物語のエキストラになるのだ。
私はロレンスになりたかった。
ロレンス神父の犯した罪は許されるものではなく、彼は悲劇をこよなく愛する人物だと思っている。
彼はロミオの行動を、ジュリエットの悲しみを想像しなかったことが間違いだった。
2人の行動を考えて完璧な道筋で彼らを成就させる、理想のロレンスを演じたかった。
だから、今はこの気持ちに蓋をして行く末を、未来を願うのみなのだ。
いつか全てが丸く収まった時、私は彼らに尋ねるだろう。
私をどう思っているのかと。
私は貴方達にとってどのような存在なのかと。
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