手離れ
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・・・
緋那
『男前が台無しですね』
土方
『うっせー』
夕飯の支度を終えた後、緋那は土方の部屋を訪れた。
緋那
『あんなに吹っ飛ぶ土方さん、初めて見ましたよ』
土方
『本気でぶん殴られたからな』
緋那
『傷見せて下さい』
持参した薬箱を開いて怪我の手当てに必要な物を選別する。
昔から血の気が多く生傷の絶えない土方達の面倒を見ているだけあって手慣れたものだ。
緋那
『口、開けられますか?』
土方は「あーん」と大きく口を開けた。
緋那
『歯は大丈夫そうだけど、口の中が深く切れちゃってますね。治るまでこれでこまめに口すすいで下さい』
うがい薬を渡し、今度はピンセットで摘まんだ消毒綿を腫れ上がった唇にそっと押し当てる。
緋那
『痛い?』
土方
『まぁな』
緋那
『なるべく優しくするから、少しだけ我慢して下さい』
土方
『え?あ、お、おう』
普段のように職務として淡々とこなされるのと違い、こうして気遣われながら手当てされるのは悪い気がしない。
緋那
『痣、しばらく消えないかも』
土方
『それくらい別にいい』
緋那
『…ごめんね』
土方
『何でお前が謝るんだよ』
さっきから俯き加減で全く目を合わせようとしない緋那の頬を片手で包み、今にも泣き出しそうな瞳を覗く。
緋那
『俺がしっかり足止め出来てたら、きっと、近藤さんあんなに怒らなかったと思うから』
土方
『そうか?あの様子じゃ桂を捕縛してきたところで結局ぶん殴られてたと思うぜ、俺は。お前は良くやったよ』
悪いのは俺だ。
あの時、足が止まった。
洗練された刀捌き。
最小限に抑えられた無駄の無い体捌き。
凛々しい横顔と美しく靡く緋い髪。
魅入ってしまっていた。
緋那が背後を取られ我に返ったが一足遅く、桂に逃げられたのは完全に自分の失態だ。
土方
『髪、伸ばしてたんだろ。綺麗だったのに悪かったな』
緋那
『何で土方さんが謝‥って、え、綺麗って、俺の髪?』
土方
『まぁ、少しだけだけど』
何か悔しいので見惚れるほど綺麗だったとは言わないでおく。
緋那は溢れそうだった涙をぐしぐしと両手で拭った。
緋那
『田舎にいた頃、刀を振る度に靡く貴方の髪が凄く綺麗で、ずっと憧れてました』
土方
『…何だよ、突然』
そんな素振り一度も感じたことがない。
緋那
『でも一方的に憧れてるなんて何か悔しくて、負けてる気がしてさ。だから貴方にも綺麗だって言わせたくて、それで伸ばしてたんですよ』
土方
『どんだけ負けず嫌い?』
人のことは言えないが。
緋那
『ふふっ。これでやっと相子だな、十四郎』
土方
『相子ってか俺負けた気分なんだけど。お前も勝ち誇った顔してるし』
目尻に涙の跡を残したまま満足気に笑う姿を見て、小さな憎しみと大きな安堵が湧く。
土方
『つーかいつ以来だ。お前に十四郎って呼ばれたのは』
緋那
『あっ…。はは、つい昔に戻っちゃった』
ずっと注意していたのに昔話で気が緩んだようだ。