ブリッグズ要塞へ
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錬金術師とひとくくりに言っても、名を馳せてる有名人から、退役した国家錬金術師を含めるとピンからきりまで様々だ。得意分野も異なる上に、研究者として名を残す場合もあるが、多くは軍事利用の為に「錬金術」は発展してきた。アメストリス国の場合は、軍事国家としての旗揚げを機に、周りの国を統合し和平条約などを得て、国を広げてきた。隣国のシン国とはそこが異なっている。
シンでは「錬金術」ではなく「練丹術」と呼ばれ、それは医療に特化している技術だ。同じ科学、同じ考え方を「誰かの為に」。その思いはいつの世の中も、うまくは伝わらず、力や組織は利用される為にある。
『錬金術師よ、大衆の為にあれ』
この場合の大衆は、一部の腐りきった権力者を差すことも、私は愚かであり、理解していなかった。
×
ブリッグズ要塞-開発ライン-
まばゆい錬成反応の後、ひどい錆で埋もれていた沢山のナットを新品同様にしてみせると、どよめきがあがった。
「……ふぅー。こんな感じでどうですか?」
「おおおお、さすがだな!錬金術師がいると仕事が捗るぜ。ありがとよ!」
「いえいえ…」
しかし開発ラインのあちこちが老朽化してるせいか、大なり小なり呼ばれるのは辛い……そろそろ休憩したいなぁ……。
「おい、##NAME1##。終わったか?」
「はい、バッカニア大尉さん」
「さんはいらんぞ」
「分かりました、大尉。……あの、いつまで私はこうしてるんですかね……?」
「さぁな、ボスのお考えは俺達には分からん。俺は命令に従って動いているだけだ。お前を見張り、仕事をさせることが今の俺の役目だ」
「……はぁい」
要塞の心臓部とも言える開発ラインについて、その後も色々とさせられた。簡単な工具の修理や大がかりなパイプ接続などなど……。錬金術師をいくらなんでもこき使いすぎじゃないか、これ……。
「あの、そろそろ休憩しても?」
「錬金術師さんー、すまんがもうひとつ頼まれてくれー」
「だそうだ。無理だな」
「このパイプなんだがなぁ、最近上手いこと稼働してなくてな、もしかしたら凍結してる可能性があってな」
「なるほど……、休憩してから行きます」
「よし、俺が抱えてやろう」
「ちょっ!バッカニア大尉!」
「よろしくなぁー、大尉!錬金術師さんー」
「ははは……」
やっぱり、鬼だ。
ここは。
半ば強引に連れていかれて、五本の太いパイプの先に向かう。
張り付いた氷は、外のブリザードの勢いを具現化したもので、私は改めて生命の不思議を感じていた。段々と温度が下がってきて、風の音が聞こえる。
もしかして、穴でも開いてるんじゃ?
ガタガタと身体が震えてくるのに、隣にいるバッカニア大尉は屁でもないようだ。やはり生まれが違うとそうなるのかな……というか!
「……寒いんですが!大尉!」
「む、忘れていた。お前用だ。使うといい」
「有難う!もっと早く欲しかったです!」
「忘れていた。」
「ひどい!」
バッカニア大尉から降ろしてもらって、温かいコートを手に入れた。防寒仕様で黒で統一された軍服なのが引っ掛かるけど……この際どうでもいい。
「##NAME1##、あれだな」
「お?」
びゅうううと、一層強く風の音が響いて五本のパイプをしならせていた。白を大きく固めた拳のように、びっしりと張り付いた氷はまるで岩のようだった。手で叩いてもびくともしない。
「……ふむ。壁の亀裂も中々大きいが、どうするんだ?」
「まずは亀裂を塞がないといけないですね。そうじゃないと、どうしようもないし。後は氷を溶かすだけですか?」
「そうだな。」
私は持ってきていた鞄からチョークと、幾つかの試験管を出す。ブリザードで凍らないように、バッカニア大尉には悪いけど、壁になってもらって事を進める。
錬成陣を足元に書いて中に入っていた微量の鉄と石灰などを混ぜて、バッカニア大尉に溜まった雪をひとすくい。仕上げにここへと来る前にナイフで削った壁の欠片をかける。
「なにを、する気だ?」
「あの亀裂を塞ぎます。もうちょい辛抱しててください、寒くなくなるから!」
「……っ、あぁ」
私は両手の指をピンと伸ばして、左手を下に右手を上に掌を重ねて錬成反応を起こす。青白い光が小さな弾ける音を立てる。
「バッカニア大尉、もう大丈夫!どいてください!」
「了解!」
「ぶっ!」
途端に勢い余ってくるブリザードに、右手を振った。青白い光は一直線に亀裂へと進み、扇状に広がると一瞬で硬い壁に変わった。
「……!」
ブリザードはそれで止まったけど、私の顔に張り付いた沢山の雪と冷たさは残ったままで、素手の掌で雪を払った。う、うう……!
「………かおが、つめたいっ……!」
「……ふん。」
バッカニア大尉がハンカチをくれて、それで顔を拭いたら幾分ましになった。
後は、パイプの氷だけだ。
「残った雪も同じようにするのか?」
「いえ、こっちは早いから大丈夫です」
「……錬成陣は書かないのか?」
「必要ありません」
「?」
道具を片付ける私にバッカニア大尉は、不思議そうに見ていたけど、気にすることはなくトランクの蓋を締めた。
「でもちょっと危ないから、一応どこかに隠れてたほうがいいかもしれません」
「……」
「別に逃げたりはしませんよー。命の恩人ですし、バッカニア大尉は」
「……ふん」
あ、照れてる?意外にも優しい人なのかもなぁ。
だからこそ、傷つけたくないから。
「一瞬、ものすごい熱くなります。その辺でいいですから、隠れてください。」
「……分かった。」
「なるべくならコートで身体を隠したほうが……」
「あぁ」
物陰にバッカニア大尉が逃げたのを確認して、私はパイプに手を触れた。中々頑丈に出来ているが、外の冷気もかなり凄い。寒冷対策も一緒にしていたほうがよさそうだけど、それは余計なお世話かな……。
冷たい氷を右手でなぞって、意識を集中させる。水の中を泳ぐように優しく撫でるだけでいい、水は自由になれる。何物にも囚われることはなく、生まれ変われる。
「……いくよ!」
青白い光が錬成反応を示す。私の前にあった固くて大きな氷は一瞬で沸騰点まで高まり、水蒸気となって空中へと分散される。その余熱がパイプを震わせ、ブリッグズの風によって冷やされて霧へと変わった。量が多いから少しずつ少しずつ、霧へと変えて……手を離した。
「……何も見えんぞ」
「もう少ししたら、晴れますよ。さてさて、お腹すいたしご飯食べたいです、大尉。」
「むぅ、そうだな。」
霧には慣れているから、さっきとは逆に私がバッカニア大尉の腕を引く。右手のほうがいいのか迷って、一応気を使って左手を引いた。
彼の右手は凶器というか、武器だし。
「##NAME1##、大丈夫だ」
「そうですか?このまま進むと頭打ちますよ、大尉の高さは」
「ちっ、分かってる」
「ふふふ。まぁ、逃がさない為だということにしときます?」
どうやら照れが糸を引いてるみたいなので、仕方なくロープを持って引くことにした。ある程度進めば、視界は晴れて穏やかな明かりと開発ラインが見えてきた。
「終わりましたよー」
「おお、錬金術師さん。助かったよ。今しがたこいつも息を吹き返したところさ。」
「ならよかった。ここがダメだと、少将も困るでしょうしね」
「殺されちまうさ、俺たちは。……しかしまぁ、あんたはすごいな、どこの者だ?」
「出身はセントラルですけど、訳ありで転々としてます」
「ずっと居てくれたら、俺たちとしてはありがたいんだけどなぁ……」
やっぱり人の役に立つ仕事はいい。一応、こき使われているということを除けばだけど。自分の仕事に誇りをもっている開発ラインのメンバーに苦笑いする。
「それじゃ仕事取っちゃいますからダメですよ」
「それもそうだな、ははは」
「ふふふ」
「おい」
バッカニア大尉がロープを引いた。
途端に鳴く腹の虫。
「……飯にするぞ」
「やったあ…やっと休める……!」
「その前に、少将に報告だな。」
「え、ご飯食べてからでも」
「お前があの少将に殺されてもいいなら、構わんぞ」
「すぐ行きます、はい」
安息日は遠い。
×
「アームストロング少将、お呼びでしょうか?」
「丁度いい、マイルズ。遭難者を拾ったぞ、今はバッカニアにつけているが、そろそろ終わる頃だろう。報告が終わればこちらに寄越すように伝えてあるから、好きにしろ」
「了解。ところで……少将。ドラクマのやつらに動きが見られます。山岳警備兵による報告によると近日中にも兵を進めるのではないかとのこと。」
「その事なら考えがある、それを含めて『遭難者』をうまく利用しろ」
「……その遭難者というのは?」
「お前も聞いたことがあるだろう、国家錬金術師『##NAME1##・##NAME2##』の名を。」
「!……まさか『天理の錬金術師』ですか?!」
「容姿は昔とは異なっているがな。……奴の腕次第では、このブリッグズの鉄壁に勝る矛となりうるかもしれん……」
マイルズと名のついた男は雪眼用の眼鏡を外し、イシュヴァール人特有の赤い瞳でオリヴィエを見つめた。
「……」
「どうした、マイルズ」
「いえ、なんでもありません。」
「らしくないな、貴様が迷うなど」
「……彼女の名を聞いたのは、イシュヴァール戦の後でしたが、同胞達が惨い死を知らされたものですから……思い出しただけです。」
「……」
拳を握り締めて、震わせている様はあの頃を見ているようだった。イシュヴァール人を粛正せよ、軍が推し進めた横暴とも言える人種差別の成れの果てを、ほんの少し掠めただけのマイルズに、己の意味を問われた。
「……同胞に惨い死を与えた、国家錬金術師が憎いか?」
「……憎い、憎まない。その様な問題ではありません、少将。この服に袖を通している限り、私は常に『同胞の敵』なのです。しかし心までもを殺してはいません、息の根を止めてなどいないのです。……そして、未だ、私は迷っている。」
オリヴィエは椅子へと深く腰掛け、マイルズを見つめた。
「お前の正義が、どうくだされようとも……私にはお前が必要だ。前にも言ったが、許せないと思うならいつでもかかってこい」
「……承知。」
そんなこと出来るわけがない。マイルズは苦笑いを浮かべて、漆黒の眼鏡をかけた。
『アームストロング少将、バッカニア大尉です』
「きたか。入れ」
『失礼します』
バッカニアの後に続いて、軍が支給した黒のコートを身につけた銀髪とダークブラウンの髪をした女が入ってきた。
確かに、異なっている。
天理の錬金術師といえば『アーモンド色の悪魔』なんて噂もあった位だ。
「おお、戻っていましたか…マイルズ少尉。」
「バッカニアか、そちらは?」
「あ、初めまして…。##NAME1##と申します。」
「マイルズだ。」
確かに名前も一緒だが……本当に、あの悪魔だと言われた錬金術師なのか疑わしい。
「遭難者はどうだ、使えそうか?」
「開発ラインの連中が、仕事をしなくなるレベルです」
「……ふん、後で言って聞かせるか」
「アームストロング少将!いい加減覚えてくださいよ……私は遭難者って名前じゃない!」
「うるさい。次はマイルズにつけ。」
「あの、その前に。ご飯食べさせてください……疲れたし」
「マイルズ、連れていけ」
「了解。……##NAME1##、こっちだ。」
「あのご飯」
「貴様の役目が終わったら食え。」
「アームストロング少将は鬼だ、悪魔だ……。遥か東の国の言葉で「腹が減っては戦は出来ぬ」って言葉があってですね」
「なんとでもいえ。」
鬼、悪魔。
まさかそう呼ばれていた人間から、恨めしそうに睨み付けられるとは思わなかった。
「うううう……はい」
「なに、すぐに済むさ。」
「よろしくお願いします……マイルズ少尉」
「あぁ。」
×
「##NAME1##の錬金術は本物でした。噂に違わぬ『水の使い手』である、そう言えます。」
「そうか……」
「水以外の物質を操る時は、他の錬金術師同様に錬成陣を必要としますが、氷……または雪などの水分を含んだものであれば操れるのではないかと。なにせ、手を当てただけで氷を一瞬で蒸発させる力がありましたからな……」
「なるほど、な。」
「まぁ、本来ならばそのチョークなども使わずに錬成できるという噂もありますが……」
「いずれ、わかる。」
オリヴィエは椅子から立ち上がると、晴れ渡るブリッグズの空を眺める。
「……少将。素人考えではありますが、あの力は今のブリッグズではいかんなく発揮され、また有効利用が可能かと。」
「よく分かった。ご苦労だったな、下がっていいぞ」
「はっ!」
バッカニアが退出した後に、オリヴィエは席へと戻り、再び空を見る。……山の端から延びる黒い暗雲が薄く伸びていた。
直に、嵐が来る。
その予感は後に的中する。
end.