一,陽向
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漠然とした格の違いにより、土方と総悟の二人は一瞬の間で攘夷志士達を倒した。
向葵は二人の驚くほどの強さに目を奪われ、ただ見つめることしか出来なかった。
そんな彼女の方へ視線をやり、総悟は刀を鞘に収めぬまま、彼女の元へと歩み寄った。
そして両手両足の縄を素早く斬り、刀の柄を彼女へと差し出した。
「お、おい総悟!てめぇ何を……!」
一部始終見ていた土方が、総悟を止めに入ろうとするが、とても二人の間に入れるような空気ではなく、足を留まらせた。
「向葵さん…確かにあいつらの言う通り、あんたの婚約者を殺したのは、間違いなく俺でさァ。一人で俺たち真選組に立ち向かう事情も大して聞かず、仲間を必死に逃がすあの男を攘夷志士の一人として、俺ァ容赦なく斬りやした。まさか、その男の婚約者があんただったなんて……許してもらえることだなんて思っちゃいねぇ。」
目を閉じて、彼女の前に正座する。
向葵は突きつけられたその状況についていけないのか、身を震わせつつも目の前にある刀を掴んだ。
「まっ、待ってくれ!総悟はただ、真選組として……」
「やめてくれ土方さん!この人にとっちゃ、真選組の立場とかそういうのは関係ねぇんだ。」
気迫あるその声に、土方は拳を握って再びその場で足を留める。
「実は前、旦那に聞いたんでさァ。あの店…陽向はあんたの婚約者が夢にみてた店だって。ようやくその店を始めるってなった前日に姿を消し、帰ってこなくなったって事情を。あんたが俺に時折見せる寂しそうなツラも、あの人を思い出して心を痛めている姿も…事情を知っちまった以上、俺ァもうこの人の前で堂々と生きて行けねぇ。俺は今まで、あんたの笑顔に、あんたのその優しさに救われてきた。」
「総悟…」
「あの頃俺はまだ、近藤さんが大事で真選組の名をあげることに必死だった。もしもう少し頭が回れば…他人に興味があれば、結果は違ったかもしれねぇ。でもその人が死に際に言ってた、あの言葉がようやく理解出来やした。」
「あの人の、言葉……?」
「ごめんな。一人にさせちまってごめんな。そうやって何度も何度も、呟いてやした。あれはあんたに向けて言ってた言葉だったんだ…」
「ーーッ!」
「あんたを一人にさせたのも、あんたを苦しめたのも、あの男を苦しめたのもこの俺でぃ。…そんな俺がこの先あんたを守ってやりたいだなんて、どんなツラで言えばいい……」
ぐっと拳を握りしめ、歯を食いしばった。
この人の笑顔を守りたいと思っていたのに、それを奪ってしまったのは間違いなく俺だ。
あんなに暖かく笑うはずの彼女は今、大粒の涙を零して必死に声を押し殺している。
そして再び目を閉じ、彼女に斬られる覚悟で大人しく口を閉じた。
視覚は閉ざされたが、彼女の震えた手が刀を手にしている証拠の、カタカタと柄が揺れる音が聞こえる。
それでいい。あんたの心が晴れて、あの男に償いができるのであれば。
そう思えば、心は自然と穏やかだった。
だが次に聞こえたのは、パァンという鈍い音と共に、左頬が強く叩かれた痛みが走った。
思わず目を開けると、涙を流し怒りに充ちた表情で手を上げた後の彼女が見える。
反射的に叩かれた頬にそっと手を添え、酷く弱々しい声で呟いた。
「どうして…」
「ふ…ふざけないでください!」
そう必死に力を込めて叫んだ彼女は、手に持った刀を放り投げて立ち上がった。
「真選組という組織は…一般人に刀を握らせて人を殺させるよう仕向ける組織なんですか…あなたが命をはって守っている組織は、たかが一人の女の仇のために、そんなに簡単にその身を差し出していいような組織なんですか?!」
「向葵…さ…」
「……すみません、今日は失礼します。助けて下さって、ありがとうございました。」
「お、おいあんた…」
総悟をその場に残し、彼女は踵を返して歩み出す。
土方が手を差し伸べようとしたが、向葵はそれを払い除け、彼は何も言わず彼女を見送った。
どうしていいかわからなかった総悟は、その場に崩れたまま何度も何度も強く地面を殴りつけ、悔しさと自身の過去について嘆いては、心に深い傷をつくったまま、屯所へともどったのであった。
向葵は二人の驚くほどの強さに目を奪われ、ただ見つめることしか出来なかった。
そんな彼女の方へ視線をやり、総悟は刀を鞘に収めぬまま、彼女の元へと歩み寄った。
そして両手両足の縄を素早く斬り、刀の柄を彼女へと差し出した。
「お、おい総悟!てめぇ何を……!」
一部始終見ていた土方が、総悟を止めに入ろうとするが、とても二人の間に入れるような空気ではなく、足を留まらせた。
「向葵さん…確かにあいつらの言う通り、あんたの婚約者を殺したのは、間違いなく俺でさァ。一人で俺たち真選組に立ち向かう事情も大して聞かず、仲間を必死に逃がすあの男を攘夷志士の一人として、俺ァ容赦なく斬りやした。まさか、その男の婚約者があんただったなんて……許してもらえることだなんて思っちゃいねぇ。」
目を閉じて、彼女の前に正座する。
向葵は突きつけられたその状況についていけないのか、身を震わせつつも目の前にある刀を掴んだ。
「まっ、待ってくれ!総悟はただ、真選組として……」
「やめてくれ土方さん!この人にとっちゃ、真選組の立場とかそういうのは関係ねぇんだ。」
気迫あるその声に、土方は拳を握って再びその場で足を留める。
「実は前、旦那に聞いたんでさァ。あの店…陽向はあんたの婚約者が夢にみてた店だって。ようやくその店を始めるってなった前日に姿を消し、帰ってこなくなったって事情を。あんたが俺に時折見せる寂しそうなツラも、あの人を思い出して心を痛めている姿も…事情を知っちまった以上、俺ァもうこの人の前で堂々と生きて行けねぇ。俺は今まで、あんたの笑顔に、あんたのその優しさに救われてきた。」
「総悟…」
「あの頃俺はまだ、近藤さんが大事で真選組の名をあげることに必死だった。もしもう少し頭が回れば…他人に興味があれば、結果は違ったかもしれねぇ。でもその人が死に際に言ってた、あの言葉がようやく理解出来やした。」
「あの人の、言葉……?」
「ごめんな。一人にさせちまってごめんな。そうやって何度も何度も、呟いてやした。あれはあんたに向けて言ってた言葉だったんだ…」
「ーーッ!」
「あんたを一人にさせたのも、あんたを苦しめたのも、あの男を苦しめたのもこの俺でぃ。…そんな俺がこの先あんたを守ってやりたいだなんて、どんなツラで言えばいい……」
ぐっと拳を握りしめ、歯を食いしばった。
この人の笑顔を守りたいと思っていたのに、それを奪ってしまったのは間違いなく俺だ。
あんなに暖かく笑うはずの彼女は今、大粒の涙を零して必死に声を押し殺している。
そして再び目を閉じ、彼女に斬られる覚悟で大人しく口を閉じた。
視覚は閉ざされたが、彼女の震えた手が刀を手にしている証拠の、カタカタと柄が揺れる音が聞こえる。
それでいい。あんたの心が晴れて、あの男に償いができるのであれば。
そう思えば、心は自然と穏やかだった。
だが次に聞こえたのは、パァンという鈍い音と共に、左頬が強く叩かれた痛みが走った。
思わず目を開けると、涙を流し怒りに充ちた表情で手を上げた後の彼女が見える。
反射的に叩かれた頬にそっと手を添え、酷く弱々しい声で呟いた。
「どうして…」
「ふ…ふざけないでください!」
そう必死に力を込めて叫んだ彼女は、手に持った刀を放り投げて立ち上がった。
「真選組という組織は…一般人に刀を握らせて人を殺させるよう仕向ける組織なんですか…あなたが命をはって守っている組織は、たかが一人の女の仇のために、そんなに簡単にその身を差し出していいような組織なんですか?!」
「向葵…さ…」
「……すみません、今日は失礼します。助けて下さって、ありがとうございました。」
「お、おいあんた…」
総悟をその場に残し、彼女は踵を返して歩み出す。
土方が手を差し伸べようとしたが、向葵はそれを払い除け、彼は何も言わず彼女を見送った。
どうしていいかわからなかった総悟は、その場に崩れたまま何度も何度も強く地面を殴りつけ、悔しさと自身の過去について嘆いては、心に深い傷をつくったまま、屯所へともどったのであった。