二.大切な人、大切な場所
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は今、真選組屯所の局長である近藤さんと対面に座っていた。
改めて話をしたい、と言われて二人きりの空間にいるが、さすが彼らを束ねる局長というだけあって、いざとなればその姿からは緊迫感を漂わせるような雰囲気があった。
「あ、あの向葵さん…」
「はっ、はい!」
とっさに名前を呼ばれ、声が裏返る。
私は恥ずかしさのあまりに手で口を覆うと、彼は慌ててそんなに構えなくてもいいと言ってくれた。
少しだけ肩の力を抜いて、再度彼の話を聞こうと姿勢を正すと、小さく咳払いをして〝実はお願いしたい事がありましてね…〟と話を続けた。
「正直、あなたの店を失ってしまったのに関しては、我々真選組にも非があると俺たちは考えてます。ましてや半ば強引にとは言え、総悟が発端で計画を立てていた引っ越しも無駄に終わってしまうなんて…」
申し訳なさそうな表情でそう言う彼に、私は首を横に振った。
「さっきも言いましたが、私にとって大切なものはまだ何も奪われていません。お店もまた、一からやればいいと思ってます。陽介には申し訳ないですが、この死と隣り合わせになってもおかしくはない環境で生きる事を決めたのは、私自身ですから。」
そう告げる私の言葉は、決して強がりから出るものではなかった。
確かに店が燃え上がる炎に包まれている光景を目の当たりにした時は、自分の視界に映る視界から色が消えるような、そんな絶望な感覚を覚えた。
それでもあの時、ふと隣を見れば大切な彼が酷く傷ついた表情を浮かべて立っていて。
私は一人じゃない。まだこの人がいる。この人を囲んだ真選組の人たちがいる。
何一つ失ってなどいないではないかと思わせてくれたのは、間違いなく総悟の存在が隣にあったからだ。
それを聞いた近藤さんは、小さく笑みを浮かべて優しくその瞳を閉じた。
「あなたは本当に強い人だ。あれだけの事態が起こってもなお、そんな前向きな考えを持てる。正直驚きましたよ。俺が見てきた向葵さんは、闘いも何も知らない女の子のような気さえしていたんです。でも実際は、強い心を持つ芯の強い人だった…。俺ァ、あなたのそんな所に魅かれたんだ。」
「…近藤さん?」
「この期に及んで恥を承知で頼みたいんだが…。向葵さん。俺たち真選組の小姓として、ウチに所属していただけないだろうか。」
「…小姓?」
大きく首を傾げると、近藤さんは何やら言いにくそうな表情をしたまま話を続けた。
「あんたの強い意思、強い心。正直俺たちも救われる部分がある。それに知っちまったんだ。あの〝陽向〟での居心地の良さ。隊士たちの落ち着ける場所。温かい笑顔。全部、これからの世の中を切り抜けなければならない俺たちにとって、向葵さんの存在は強い支えになる。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私はそんな大層な人間じゃ…」
「店を再開するまででもいい。少しの間でもいい。やってみてやっぱりいやだと思ったら辞めてくれてもかまわねぇ。でも俺たち真選組にとって、あんたの存在はどうしても必要だと俺は思ってる。その真っすぐな心が…温かい笑顔が、俺たちには必要なんだ。」
「…近藤さん。」
「やっぱりその、嫌だろうか。総悟だけならまだしも、俺たち全員の世話役みたいなもんになるってのは…。恥ずかしい話、男しかいねぇむさっ苦しい場所だし、あんたにとっては居心地の悪い場所かもしれねぇ。でも…」
近藤さんはそこで一度口を噤んで、膝の上で握りしめていた拳をゆっくりと解いて、その真っすぐな目をこちらに再び向けた。
「ここでなら、向葵さんのその身に何が起こっても俺たちが護れる。もうこれ以上、俺たちによくしてくれたあんたが傷付くのは、俺たちゃ誰も見たくねぇんだ。」
彼はそう言って、瞳を潤わせた。
ーーあぁ、なんて優しい目をする人なのだろう。
思いやりの強く、本当に心の底から仲間たちを護りたいという強い意思を持った人だと、私は悟った。
その中にはきっと私自身も含まれていて、彼は総悟と一緒にいる私さえもを巻き込んで守り切るつもりなのだろう。
住む場所も、働く場所さえも失ってしまった私に、彼は新しい居場所を与えようとしてくれているのだ。
確かに店はやりたい。
でも私には今、もっとやりたい事がある。
「分かりました、近藤さん。私にできる事がどれくらいあるか分かりませんが、その頼み事、心より喜んでお引き受けいたします。」
「ほ、本当ですか?!向葵さん!!」
背筋を伸ばして返事をすると、向かいに座っていた近藤さんはパッと表情を明らめては立ち上がり、がしっと私の手を握った。
「いやぁ、ありがとうございます!断られたらどうしようかって…いやぁ、本当にありがとうございます!」
「あ、あの近藤さん!落ち着いて…腕が痛っ…」
彼に両手を繋がれて上下に揺すられると、傷口が悲鳴をあげる。
無理やり手を離そうにもその力は振りほどけず、徐々に顔が引きつっていくもそんな様子は彼には全くもって伝わっていない。
どうしようものかと考えていると、その時勢いよく部屋の襖が開いた。
「近藤さん、その手を離してくだせぇ。向葵が痛がってやす。」
「そ、総悟!」
「え?…あぁ!これはすみません!あまりにも嬉しくて、つい!!」
総悟の姿を前にして、近藤さんはようやく我に返って私の手を離した。
「…向葵。覚悟は決まったんでさァ?俺たち隊員の小姓として働く覚悟は。」
「覚悟も何も、そんな話をお願いされたら引き受けないわけないでしょう。」
「…そうですかぃ。」
彼もまた、優しい顔で笑っていた。
自分を責め立てる彼を見て、どうしたものかと考えた事もあったか、どうやら立ち直ってくれたようだ。
「ま、ちょうどいいんじゃねぇの。屯所に住み込みで働くとなっちゃ、総悟に恨みを持つ奴らがこれから先出てきたとしても、迂闊に手は出せねぇだろうし…何より俺たち真選組の仲間になりゃ、これから維持でも守り通さにゃならねぇからな。」
いつの間にか彼の隣に、土方さんの姿があった。
いつどこから聞いていたのかは分からないが、彼もまた優しい笑顔を浮かべる。
そんな彼を鬼の副長などとつけたのは、誰だろうか。
あの夜私を助けてくれた後も、傍でずっと守り続けてくれていた。
ボロボロになった私に何も言わずに上着をかけてくれた。
彼もまた、そんな優しさを持つから総悟がついていこうと思えるのだろう。
「んじゃ、小姓の最初の仕事は俺の身の回りの世話でさァ。あぁ、あと土方さんのとこはやんなくていいんで。」
「なんで俺は除外してんだよテメェ!」
「だってさっき向葵の体見て厭らしい顔してたじゃねぇですかぃ。向葵の身が心配でぇ。」
「誰が厭らしい顔見てたんだよ!俺ァすぐに目ぇ逸らしたし、大して見てねぇ!」
「大してって事は…やっぱり多少は見てたんじゃねぇですか。あーやだやだ、むっつりはこれだからいけねぇ。」
「誰がむっつりだコノヤロウ!切腹させんぞテメェ!」
「向葵ー。土方さんにゃ気を付けた方がいいですぜぇ。いつどこで襲い掛かってくるかたまったもんじゃねぇ。なんせむっつりなんで。」
「むっつりじゃねぇって言ってんだろぉが!!」
中庭で二人の喧嘩が始まる。
私はそんな光景を見て、思わず笑みを浮かべた。
これから毎日、この暖かい場所で彼らと共に過ごせるのであれば、私はきっとこれから先も心から笑う事ができるだろう。
そしてそんな彼らの支えになれるよう、強くなりたい。
「向葵さん、改めてよろしくお願いします。」
「…はいっ!」
私は近藤さんに言われた言葉に、大きな声で笑顔で返事を返したのであった。
改めて話をしたい、と言われて二人きりの空間にいるが、さすが彼らを束ねる局長というだけあって、いざとなればその姿からは緊迫感を漂わせるような雰囲気があった。
「あ、あの向葵さん…」
「はっ、はい!」
とっさに名前を呼ばれ、声が裏返る。
私は恥ずかしさのあまりに手で口を覆うと、彼は慌ててそんなに構えなくてもいいと言ってくれた。
少しだけ肩の力を抜いて、再度彼の話を聞こうと姿勢を正すと、小さく咳払いをして〝実はお願いしたい事がありましてね…〟と話を続けた。
「正直、あなたの店を失ってしまったのに関しては、我々真選組にも非があると俺たちは考えてます。ましてや半ば強引にとは言え、総悟が発端で計画を立てていた引っ越しも無駄に終わってしまうなんて…」
申し訳なさそうな表情でそう言う彼に、私は首を横に振った。
「さっきも言いましたが、私にとって大切なものはまだ何も奪われていません。お店もまた、一からやればいいと思ってます。陽介には申し訳ないですが、この死と隣り合わせになってもおかしくはない環境で生きる事を決めたのは、私自身ですから。」
そう告げる私の言葉は、決して強がりから出るものではなかった。
確かに店が燃え上がる炎に包まれている光景を目の当たりにした時は、自分の視界に映る視界から色が消えるような、そんな絶望な感覚を覚えた。
それでもあの時、ふと隣を見れば大切な彼が酷く傷ついた表情を浮かべて立っていて。
私は一人じゃない。まだこの人がいる。この人を囲んだ真選組の人たちがいる。
何一つ失ってなどいないではないかと思わせてくれたのは、間違いなく総悟の存在が隣にあったからだ。
それを聞いた近藤さんは、小さく笑みを浮かべて優しくその瞳を閉じた。
「あなたは本当に強い人だ。あれだけの事態が起こってもなお、そんな前向きな考えを持てる。正直驚きましたよ。俺が見てきた向葵さんは、闘いも何も知らない女の子のような気さえしていたんです。でも実際は、強い心を持つ芯の強い人だった…。俺ァ、あなたのそんな所に魅かれたんだ。」
「…近藤さん?」
「この期に及んで恥を承知で頼みたいんだが…。向葵さん。俺たち真選組の小姓として、ウチに所属していただけないだろうか。」
「…小姓?」
大きく首を傾げると、近藤さんは何やら言いにくそうな表情をしたまま話を続けた。
「あんたの強い意思、強い心。正直俺たちも救われる部分がある。それに知っちまったんだ。あの〝陽向〟での居心地の良さ。隊士たちの落ち着ける場所。温かい笑顔。全部、これからの世の中を切り抜けなければならない俺たちにとって、向葵さんの存在は強い支えになる。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私はそんな大層な人間じゃ…」
「店を再開するまででもいい。少しの間でもいい。やってみてやっぱりいやだと思ったら辞めてくれてもかまわねぇ。でも俺たち真選組にとって、あんたの存在はどうしても必要だと俺は思ってる。その真っすぐな心が…温かい笑顔が、俺たちには必要なんだ。」
「…近藤さん。」
「やっぱりその、嫌だろうか。総悟だけならまだしも、俺たち全員の世話役みたいなもんになるってのは…。恥ずかしい話、男しかいねぇむさっ苦しい場所だし、あんたにとっては居心地の悪い場所かもしれねぇ。でも…」
近藤さんはそこで一度口を噤んで、膝の上で握りしめていた拳をゆっくりと解いて、その真っすぐな目をこちらに再び向けた。
「ここでなら、向葵さんのその身に何が起こっても俺たちが護れる。もうこれ以上、俺たちによくしてくれたあんたが傷付くのは、俺たちゃ誰も見たくねぇんだ。」
彼はそう言って、瞳を潤わせた。
ーーあぁ、なんて優しい目をする人なのだろう。
思いやりの強く、本当に心の底から仲間たちを護りたいという強い意思を持った人だと、私は悟った。
その中にはきっと私自身も含まれていて、彼は総悟と一緒にいる私さえもを巻き込んで守り切るつもりなのだろう。
住む場所も、働く場所さえも失ってしまった私に、彼は新しい居場所を与えようとしてくれているのだ。
確かに店はやりたい。
でも私には今、もっとやりたい事がある。
「分かりました、近藤さん。私にできる事がどれくらいあるか分かりませんが、その頼み事、心より喜んでお引き受けいたします。」
「ほ、本当ですか?!向葵さん!!」
背筋を伸ばして返事をすると、向かいに座っていた近藤さんはパッと表情を明らめては立ち上がり、がしっと私の手を握った。
「いやぁ、ありがとうございます!断られたらどうしようかって…いやぁ、本当にありがとうございます!」
「あ、あの近藤さん!落ち着いて…腕が痛っ…」
彼に両手を繋がれて上下に揺すられると、傷口が悲鳴をあげる。
無理やり手を離そうにもその力は振りほどけず、徐々に顔が引きつっていくもそんな様子は彼には全くもって伝わっていない。
どうしようものかと考えていると、その時勢いよく部屋の襖が開いた。
「近藤さん、その手を離してくだせぇ。向葵が痛がってやす。」
「そ、総悟!」
「え?…あぁ!これはすみません!あまりにも嬉しくて、つい!!」
総悟の姿を前にして、近藤さんはようやく我に返って私の手を離した。
「…向葵。覚悟は決まったんでさァ?俺たち隊員の小姓として働く覚悟は。」
「覚悟も何も、そんな話をお願いされたら引き受けないわけないでしょう。」
「…そうですかぃ。」
彼もまた、優しい顔で笑っていた。
自分を責め立てる彼を見て、どうしたものかと考えた事もあったか、どうやら立ち直ってくれたようだ。
「ま、ちょうどいいんじゃねぇの。屯所に住み込みで働くとなっちゃ、総悟に恨みを持つ奴らがこれから先出てきたとしても、迂闊に手は出せねぇだろうし…何より俺たち真選組の仲間になりゃ、これから維持でも守り通さにゃならねぇからな。」
いつの間にか彼の隣に、土方さんの姿があった。
いつどこから聞いていたのかは分からないが、彼もまた優しい笑顔を浮かべる。
そんな彼を鬼の副長などとつけたのは、誰だろうか。
あの夜私を助けてくれた後も、傍でずっと守り続けてくれていた。
ボロボロになった私に何も言わずに上着をかけてくれた。
彼もまた、そんな優しさを持つから総悟がついていこうと思えるのだろう。
「んじゃ、小姓の最初の仕事は俺の身の回りの世話でさァ。あぁ、あと土方さんのとこはやんなくていいんで。」
「なんで俺は除外してんだよテメェ!」
「だってさっき向葵の体見て厭らしい顔してたじゃねぇですかぃ。向葵の身が心配でぇ。」
「誰が厭らしい顔見てたんだよ!俺ァすぐに目ぇ逸らしたし、大して見てねぇ!」
「大してって事は…やっぱり多少は見てたんじゃねぇですか。あーやだやだ、むっつりはこれだからいけねぇ。」
「誰がむっつりだコノヤロウ!切腹させんぞテメェ!」
「向葵ー。土方さんにゃ気を付けた方がいいですぜぇ。いつどこで襲い掛かってくるかたまったもんじゃねぇ。なんせむっつりなんで。」
「むっつりじゃねぇって言ってんだろぉが!!」
中庭で二人の喧嘩が始まる。
私はそんな光景を見て、思わず笑みを浮かべた。
これから毎日、この暖かい場所で彼らと共に過ごせるのであれば、私はきっとこれから先も心から笑う事ができるだろう。
そしてそんな彼らの支えになれるよう、強くなりたい。
「向葵さん、改めてよろしくお願いします。」
「…はいっ!」
私は近藤さんに言われた言葉に、大きな声で笑顔で返事を返したのであった。
12/12ページ