二.大切な人、大切な場所
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隣にいた彼女の足の力が、がくんと抜け落ちたのを横目にした。
すぐさま支えてやらなければいけないのに、目の前の光景から目も離せなければ、身体が動かない。
俺はまた、奪ってしまった。
彼女の大切なものを、二度も……。
どう声をかけたらいい。どう償えばいい。
愛した男も、その男の願いを叶えるために営んできた店も、彼女の手から奪ってしまったのは間違いなく自分だ。
そう考えれば考えるほど、彼女の体に寄り添うことが出来なくなっていく。
気づけば身体が震え、恐怖心に飲まれそうになる。
俺は彼女の何を守ってきたんだ。
真選組の一番隊隊長という身でありながら、彼女に何がしてやれたというんだ。
「ーーッッ」
胸が痛い。
まるで店の炎が自分にも移ってきたかのように身体中が熱い。
目の前に突きつけられた現実により、心が闇の中へ引っ張られそうな感覚になった。
その時、彼女が自分の裾を弱々しく引っ張ったことに気づき、はっと我に返った。
「そう、く……」
周囲の雑音の中で、弱々しくも彼女の声だけがはっきりと聞こえてきた。
名を呼ばれた次は、責め立てられるだろうか。
あなたのせいで私は何もかも失った、と。
あなたさえいなければ、私はこんな不幸になることは無かった、と。
彼女に憎しみの目を向けられようとも、例えこの身に刃を刺されることになったとしても、俺はもう逃げない。
彼女がさっきのような強い決意を、ほんのひと時でも自分に抱いてくれたことで、もうこの上なく十分幸せだ。
まるでなにかの糸に引っ張られるように彼女の隣に屈むと、彼女は静かに涙を流し、消えそうな声で呟いた。
「ご、めんね……総悟、ごめんなさ……」
「……!」
どうして謝っているのだろうか。
なぜ彼女は自分の名を呼んで涙を流しているのだろうか。
理解できない彼女の心境を前に、とうとう心の中に秘めていた感情を表に吐き出した。
「なんで、謝ってんだ……!いっそのこと責めてくれよ!俺が全部悪いんだって!お前がいなけりゃこんな事にはならなかったって、言ってくれよ……!」
無意識に涙がボロボロと溢れ出す。
彼女の肩を強く掴んでそう言うと、彼女の血塗れの手はこの汚い手の上に優しく被さった。
「ごめん、なさい。また、私の重荷を……背負わせ、て……あなたのせいじゃない。これ以上、自分を責めない、で……」
「向葵ッッ!!」
優しく笑みを浮かべたかと思えば、彼女の力がフッと抜け、そのまま意識を手放してどさりと倒れた。
「向葵ッッ!しっかりしろ、向葵ッッ!
」
何度叫んでも、彼女の返事は返ってこない。
抱き抱えたその身体は、あちこちから出血していて肌は既に人間の体温を遥かに下回っていた。
「くっ……死ぬな……!死なないでくれ、生きて俺を恨んでくれぇぇ!!」
そうしてくれたら、どれ程心が楽になるだろう。
そうしてくれたら、俺はこの首を喜んで差し出すのに。
だがそんな想いは彼女に届くことなく、燃え上がる炎の中、自分の泣き叫ぶ声だけが、夜空にただ一つ響いたのだった。
すぐさま支えてやらなければいけないのに、目の前の光景から目も離せなければ、身体が動かない。
俺はまた、奪ってしまった。
彼女の大切なものを、二度も……。
どう声をかけたらいい。どう償えばいい。
愛した男も、その男の願いを叶えるために営んできた店も、彼女の手から奪ってしまったのは間違いなく自分だ。
そう考えれば考えるほど、彼女の体に寄り添うことが出来なくなっていく。
気づけば身体が震え、恐怖心に飲まれそうになる。
俺は彼女の何を守ってきたんだ。
真選組の一番隊隊長という身でありながら、彼女に何がしてやれたというんだ。
「ーーッッ」
胸が痛い。
まるで店の炎が自分にも移ってきたかのように身体中が熱い。
目の前に突きつけられた現実により、心が闇の中へ引っ張られそうな感覚になった。
その時、彼女が自分の裾を弱々しく引っ張ったことに気づき、はっと我に返った。
「そう、く……」
周囲の雑音の中で、弱々しくも彼女の声だけがはっきりと聞こえてきた。
名を呼ばれた次は、責め立てられるだろうか。
あなたのせいで私は何もかも失った、と。
あなたさえいなければ、私はこんな不幸になることは無かった、と。
彼女に憎しみの目を向けられようとも、例えこの身に刃を刺されることになったとしても、俺はもう逃げない。
彼女がさっきのような強い決意を、ほんのひと時でも自分に抱いてくれたことで、もうこの上なく十分幸せだ。
まるでなにかの糸に引っ張られるように彼女の隣に屈むと、彼女は静かに涙を流し、消えそうな声で呟いた。
「ご、めんね……総悟、ごめんなさ……」
「……!」
どうして謝っているのだろうか。
なぜ彼女は自分の名を呼んで涙を流しているのだろうか。
理解できない彼女の心境を前に、とうとう心の中に秘めていた感情を表に吐き出した。
「なんで、謝ってんだ……!いっそのこと責めてくれよ!俺が全部悪いんだって!お前がいなけりゃこんな事にはならなかったって、言ってくれよ……!」
無意識に涙がボロボロと溢れ出す。
彼女の肩を強く掴んでそう言うと、彼女の血塗れの手はこの汚い手の上に優しく被さった。
「ごめん、なさい。また、私の重荷を……背負わせ、て……あなたのせいじゃない。これ以上、自分を責めない、で……」
「向葵ッッ!!」
優しく笑みを浮かべたかと思えば、彼女の力がフッと抜け、そのまま意識を手放してどさりと倒れた。
「向葵ッッ!しっかりしろ、向葵ッッ!
」
何度叫んでも、彼女の返事は返ってこない。
抱き抱えたその身体は、あちこちから出血していて肌は既に人間の体温を遥かに下回っていた。
「くっ……死ぬな……!死なないでくれ、生きて俺を恨んでくれぇぇ!!」
そうしてくれたら、どれ程心が楽になるだろう。
そうしてくれたら、俺はこの首を喜んで差し出すのに。
だがそんな想いは彼女に届くことなく、燃え上がる炎の中、自分の泣き叫ぶ声だけが、夜空にただ一つ響いたのだった。