二.大切な人、大切な場所
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奴らが指定した場所は、明日から彼女の新居となる借家の住所だった。
怒りに任せて全速力で駆けつけ、ようやくその場に辿り着くと思わず目を見開き、言葉を失った。
何人もの男たが彼女を囲むように立ち、にたにたと薄気味悪い笑みを浮かべながら一点に視線を集中させている。
その中心にいる一人の小さな背中は、いつも太陽のように微笑む向葵からは想像がつかないほど、とても痛々しいものだった。
髪を鷲掴みにされて持ち上げられている彼女は、着こなしていたはずの鶯色の着物は辛うじて羽織られているほど淫らになり、そのあちこちには深紅の血がシミを作っている。
身体中に切り傷や痣が見られ、口からは殴られたせいか血を流し、苦しそうな表情を浮かべていた。
全身の血が沸騰しそうな感覚になった。
あまりにもの苛立ちに下唇を噛み締め、血が流れる。
「てっーーてめぇらッッ!!」
刀の柄に手を当ててその場へ走り出そうとすれば、彼女を掴んでいた男がこちらの気配に気づき、体ごと向けてはニヤリと笑った。
「ようやく王子様のお迎えだぜ、お姫様。」
「くっ……!」
今すぐ斬り殺してやりたいにも、彼女を盾のように差し向けるせいで、上手く手出しができない。
そのうえここ数日の間の寝不足が足を引っ張るかのように、今に来て体に負荷がかかっているのを実感していた。
その場に踏みとどまると、どこかで見覚えのあるその男は再び口を開いた。
「どうやらここ数日警戒させて寝不足にする作戦は上手く成功したようだな。真選組沖田総悟も、健気なもんだねぇ。一人の女を守るためにその身をさいて護衛に励むなんて……。おい向葵さんよぉ、そんな男に一言くらい言ってやったらどうだ。〝総くんお願い、助けてっ!〟てよぉ。」
髪を掴まれた彼女は自分が見えるように体を返され、うっすらと目を開けた。
「向葵っっ!!」
思わずその名を叫ぶ。今にも壊れてしまいそうなその身体をゆっくりと動かし、小さく掠れた声を上げた。
「誰、が……」
「あぁ?」
「誰が、助けなんて求めるか。」
「こっ、こいつまだそんな事を……!!」
「例え何をされようと、あんた達の望み通りに私は泣き言なんて言わないし、ましてや彼に〝助けて〟だなんて言わない。」
「つ、強がりを……っっ!」
「強がり?笑わせないで。これは強がりなんかじゃない。私の決意よ。」
「決意だと?!」
「私は真選組一番隊隊長の沖田総悟と生きることを選んだ。そんな私がいつかこういう目にあうのは、なんとなく予想してたから…」
弱々しい声なのに、どこか強さを感じる彼女の言葉に、俺は耳を傾けた。
「私は彼と歩むと決めた時、心に決めた。彼の足は引っ張らない。彼の重荷になるようなこともしない。一人の男である前に、彼が真選組の一番隊隊長である事を決して忘れない。それができてこそ、沖田総悟の女であれるって。だからもう……」
彼女の血に染った腕に、微かに力が入るのを目にした。
何をしようとしているのか分からぬまま、それに目を見張ると、動揺を露わにしていた男が握っていた刀を一瞬の隙に自分の顔の方へ差し向けた。
「向葵ッッ、なにをーーーッッ!」
口を挟む前に、彼女が動く方が先だった。
ザシュッと鋭い音を響かせ、彼女は男の手から逃れ、気づけば奴らと向かい合っていた。
彼女自らの手によって、長く綺麗な髪はその場に散らばり、はらはらと落ちていく。
そして彼女は大きく息を吸って叫んだ。
「もう、ただ守られるだけの弱い女のままなんて、絶対に嫌ッッ!!」
「ーーーッッ!」
「こっ、この女ァァァーー!!」
男たちがカッとなり、いつの間にか標的は自分ではなく彼女となっていた。
ーーなんだよ今の。
すんげぇ鳥肌たったじゃねぇか。
自然と口元が緩み、笑みを浮かべたまま刀に手をかけ、走り出した。
彼女の身体に奴らの切っ先が届く前に、その合間に入り刃先を受け止める。
「くっ……!」
「…おいてめぇら。死ぬ覚悟できてんだろうなァ。」
「死ねぇ女ァァァッッ!!」
いつからか後方へと回った敵が、彼女へと刀を振りかざす。
急いでそちらに体を向けようとしても、目の前の男に集中していないせいか、奴の力に押され出遅れた。
彼女は先程の行動で全ての力を使ったのか、その場に崩れるように座り込んでいて、もうその身一つ動かせずにぼんやりと斬りかかる男を眺めていた。
「向葵ッッ!」
そう名を叫んだと同時に、再び敵と彼女の間に黒い服を纏った男が攻撃を間一髪でとめた。
「「土方さん!」」
俺と向葵の声が重なる。
土方さんは口元に笑みを浮かべながら、彼女に向かって口を開いた。
「…しっかり聞こえたぜぇ。あんたの覚悟…。ただの女にしとくにゃ、勿体ねぇくれぇだ!」
その叫びと共に敵の男の剣を薙ぎ払い、一太刀浴びせる。
「くそっ、新撰組の土方まできやがった!」
「なんて奴らだ!!」
「あいにくてめぇらの出した条件なんざ、俺にゃ知ったこっちゃねぇんだよ。それに、こうして人質の向葵も無事にテメェらから奪還できたんだ。…おい、総悟。思う存分暴れて来い。」
「……ラジャー」
なんと絶妙なタイミングで現れる男だろうか。
そんな奴のおかげで、自分の表情は再び笑みを浮かべていた。
一気に方の力が抜けた俺は、名のある剣客だろうが敵がどんな奴だろうが見てすらいなかった。
立ちはだかる奴らを全て切り裂き、その憎き連中の血の雨を振らせた。
闘いの中横目で彼女の様子を見ると、少々癪ではあるが土方が彼女に上着を被せ、守るように傍についていた。
まだはっきりとは見たわけではないが、そのか細い体で酷い暴行を受けた中、泣き叫ぶことも無くよく耐えたものだ。
闘いに集中してはいるものの、さっき向葵が言った言葉が何度も頭の中で繰り返される。
あの真っ直ぐな目と凛とした声を思い出す度、武者震いのように身体が震えた。
最初はただのどこにでもいる女だと思っていたのに、俺はとんだ勘違いをしていた。
剣もろくに振るえない。戦場に立って真っ先に命を落とすほど力は弱い。
それでもその魂のと意志の強さは、間違いなくそこらの侍よりも本物だ。
彼女が躊躇なく自分の髪を切り、男の手から逃れたことにより、自分は今こうしてこの男たちを制裁できる。
足を引っ張りたくない?重荷になりたくない?
冗談じゃない。
俺の闘志を駆り立てるのは、間違いなくあの女だ。
そう思えば思うほど、自然と口角は上がっていったのだった。
怒りに任せて全速力で駆けつけ、ようやくその場に辿り着くと思わず目を見開き、言葉を失った。
何人もの男たが彼女を囲むように立ち、にたにたと薄気味悪い笑みを浮かべながら一点に視線を集中させている。
その中心にいる一人の小さな背中は、いつも太陽のように微笑む向葵からは想像がつかないほど、とても痛々しいものだった。
髪を鷲掴みにされて持ち上げられている彼女は、着こなしていたはずの鶯色の着物は辛うじて羽織られているほど淫らになり、そのあちこちには深紅の血がシミを作っている。
身体中に切り傷や痣が見られ、口からは殴られたせいか血を流し、苦しそうな表情を浮かべていた。
全身の血が沸騰しそうな感覚になった。
あまりにもの苛立ちに下唇を噛み締め、血が流れる。
「てっーーてめぇらッッ!!」
刀の柄に手を当ててその場へ走り出そうとすれば、彼女を掴んでいた男がこちらの気配に気づき、体ごと向けてはニヤリと笑った。
「ようやく王子様のお迎えだぜ、お姫様。」
「くっ……!」
今すぐ斬り殺してやりたいにも、彼女を盾のように差し向けるせいで、上手く手出しができない。
そのうえここ数日の間の寝不足が足を引っ張るかのように、今に来て体に負荷がかかっているのを実感していた。
その場に踏みとどまると、どこかで見覚えのあるその男は再び口を開いた。
「どうやらここ数日警戒させて寝不足にする作戦は上手く成功したようだな。真選組沖田総悟も、健気なもんだねぇ。一人の女を守るためにその身をさいて護衛に励むなんて……。おい向葵さんよぉ、そんな男に一言くらい言ってやったらどうだ。〝総くんお願い、助けてっ!〟てよぉ。」
髪を掴まれた彼女は自分が見えるように体を返され、うっすらと目を開けた。
「向葵っっ!!」
思わずその名を叫ぶ。今にも壊れてしまいそうなその身体をゆっくりと動かし、小さく掠れた声を上げた。
「誰、が……」
「あぁ?」
「誰が、助けなんて求めるか。」
「こっ、こいつまだそんな事を……!!」
「例え何をされようと、あんた達の望み通りに私は泣き言なんて言わないし、ましてや彼に〝助けて〟だなんて言わない。」
「つ、強がりを……っっ!」
「強がり?笑わせないで。これは強がりなんかじゃない。私の決意よ。」
「決意だと?!」
「私は真選組一番隊隊長の沖田総悟と生きることを選んだ。そんな私がいつかこういう目にあうのは、なんとなく予想してたから…」
弱々しい声なのに、どこか強さを感じる彼女の言葉に、俺は耳を傾けた。
「私は彼と歩むと決めた時、心に決めた。彼の足は引っ張らない。彼の重荷になるようなこともしない。一人の男である前に、彼が真選組の一番隊隊長である事を決して忘れない。それができてこそ、沖田総悟の女であれるって。だからもう……」
彼女の血に染った腕に、微かに力が入るのを目にした。
何をしようとしているのか分からぬまま、それに目を見張ると、動揺を露わにしていた男が握っていた刀を一瞬の隙に自分の顔の方へ差し向けた。
「向葵ッッ、なにをーーーッッ!」
口を挟む前に、彼女が動く方が先だった。
ザシュッと鋭い音を響かせ、彼女は男の手から逃れ、気づけば奴らと向かい合っていた。
彼女自らの手によって、長く綺麗な髪はその場に散らばり、はらはらと落ちていく。
そして彼女は大きく息を吸って叫んだ。
「もう、ただ守られるだけの弱い女のままなんて、絶対に嫌ッッ!!」
「ーーーッッ!」
「こっ、この女ァァァーー!!」
男たちがカッとなり、いつの間にか標的は自分ではなく彼女となっていた。
ーーなんだよ今の。
すんげぇ鳥肌たったじゃねぇか。
自然と口元が緩み、笑みを浮かべたまま刀に手をかけ、走り出した。
彼女の身体に奴らの切っ先が届く前に、その合間に入り刃先を受け止める。
「くっ……!」
「…おいてめぇら。死ぬ覚悟できてんだろうなァ。」
「死ねぇ女ァァァッッ!!」
いつからか後方へと回った敵が、彼女へと刀を振りかざす。
急いでそちらに体を向けようとしても、目の前の男に集中していないせいか、奴の力に押され出遅れた。
彼女は先程の行動で全ての力を使ったのか、その場に崩れるように座り込んでいて、もうその身一つ動かせずにぼんやりと斬りかかる男を眺めていた。
「向葵ッッ!」
そう名を叫んだと同時に、再び敵と彼女の間に黒い服を纏った男が攻撃を間一髪でとめた。
「「土方さん!」」
俺と向葵の声が重なる。
土方さんは口元に笑みを浮かべながら、彼女に向かって口を開いた。
「…しっかり聞こえたぜぇ。あんたの覚悟…。ただの女にしとくにゃ、勿体ねぇくれぇだ!」
その叫びと共に敵の男の剣を薙ぎ払い、一太刀浴びせる。
「くそっ、新撰組の土方まできやがった!」
「なんて奴らだ!!」
「あいにくてめぇらの出した条件なんざ、俺にゃ知ったこっちゃねぇんだよ。それに、こうして人質の向葵も無事にテメェらから奪還できたんだ。…おい、総悟。思う存分暴れて来い。」
「……ラジャー」
なんと絶妙なタイミングで現れる男だろうか。
そんな奴のおかげで、自分の表情は再び笑みを浮かべていた。
一気に方の力が抜けた俺は、名のある剣客だろうが敵がどんな奴だろうが見てすらいなかった。
立ちはだかる奴らを全て切り裂き、その憎き連中の血の雨を振らせた。
闘いの中横目で彼女の様子を見ると、少々癪ではあるが土方が彼女に上着を被せ、守るように傍についていた。
まだはっきりとは見たわけではないが、そのか細い体で酷い暴行を受けた中、泣き叫ぶことも無くよく耐えたものだ。
闘いに集中してはいるものの、さっき向葵が言った言葉が何度も頭の中で繰り返される。
あの真っ直ぐな目と凛とした声を思い出す度、武者震いのように身体が震えた。
最初はただのどこにでもいる女だと思っていたのに、俺はとんだ勘違いをしていた。
剣もろくに振るえない。戦場に立って真っ先に命を落とすほど力は弱い。
それでもその魂のと意志の強さは、間違いなくそこらの侍よりも本物だ。
彼女が躊躇なく自分の髪を切り、男の手から逃れたことにより、自分は今こうしてこの男たちを制裁できる。
足を引っ張りたくない?重荷になりたくない?
冗談じゃない。
俺の闘志を駆り立てるのは、間違いなくあの女だ。
そう思えば思うほど、自然と口角は上がっていったのだった。