二.大切な人、大切な場所
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「引っ越し?」
カウンター席に頬杖をついて座っている彼は、不貞腐れた顔で確かにそう言った。
真選組の一番隊隊長である〝総くん〟と親しい仲になってから、三か月が過ぎようとしていた。
彼はこうして見廻り中に、暇さえあれば決まって顔を出してはしばらくくつろいでから任務へと戻る習慣がついていた。
そんな彼が今日突然提案してきたのは、今しがた口にだした『引っ越し』で。
私はなぜそんな事を言い出したのか、不機嫌そうな彼に尋ねた。
「私は今の家でも不便じゃないんだけど…なんでまた引っ越し?」
「いやいや、あんなセキュリティの甘い所に向葵が一人で住むなんて、俺にゃ耐えられねぇでさァ。むしろよく三か月間耐えたとほめて欲しいくらいでぃ。」
「セキュリティが甘いって…どこもそんなもんだと思うよ?」
洗浄した食器を布巾で拭いながらそう言うと、彼は大きくため息を零して首を横に振った。
「第一になんだかんだでいつも遅くまで店に残ってるじゃねぇですか。ここから家まで遠いし、俺が招集かからなきゃ送ってやれますが、そうじゃねぇ時はいつも気が気じゃねぇんでさァ。女の夜道独り歩きは危ねぇんです。」
そう真剣な眼差しで言う彼の過保護さが、日に日に増していっている気がする。
今まで平気だったからどうってことないのに、と返したいところではあるが、彼が言いたいのはそういう事ではない。
真選組の一番隊隊長という役職についた彼と一緒にいるという事は、同時に彼の弱みになる事だってあり得る。
もし彼に恨みを持っている者が私の存在を知った時、真っ先に狙われる可能性もあるという心配をしてくれているのだろう。
とはいうものの、この歳になって引っ越しもそう簡単にできるものでもない。
どうしたものかと考えていると、彼は痺れを切らしたのか勢いよく立ち上がって強めの口調でこう言った。
「とにかく!向葵の自宅を屯所とこの店の間に変えてくだせぇ。引っ越し代は俺がもちやすから、次の休みに不動産屋に行きやしょう。」
「え…ちょ、ちょっと待ってよ。まだ私引っ越すなんて決めてな」
「俺が今決めた。そんだけ近けりゃ俺だって泊まれるし送り迎えできるし、泊まれるし、俺という名のセキュリティも万全でさァ。」
「…ねぇ、泊まれるしって言葉、今二回言わなかった?っていうか、俺という名のセキュリティってなに?」
「と、に、か、く!早々に手を打って決めやしょう。今のままじゃ俺が嫌なんでぃ。俺の次の非番は、この店も臨時休業にしなせぇ。」
「ちょ、そんな無茶な!次の非番って、明後日じゃない!そんな急にお店休むことになったら、お客さんが…」
反論する私の言葉に耳を傾けることなくカウンター席から立ち上がって、出口へと向かう彼の背中を見て、小さくため息を零した。
総くんは一度決めた事は絶対に実行するタイプだ。
一先ず彼が任務へと戻るのを見送ろうと、カウンターから出て扉のほうへ向かうと、彼は未だ店の外に立っており、扉に向かって真剣な眼差しを向けながら何か書き物をしていた。
「…総くん?」
「これでよし。」
サインペンをポケットにしまい、満足そうに笑う彼の目線の先に目を向けてみると、いつの間にか扉の前には張り紙がされており、彼の達筆な字でこう書かれていた。
〝誠に勝手ながら、●月●日は臨時休業とさせて頂きます〟
「なっ……!」
「はい、決まり。んじゃ任務に戻りまさァ。また夜迎えに来ますんで、一人で帰ろうとしねぇでくだせぇよ。」
「ちょ、ちょっと総くん!!」
いつになくご機嫌で、鼻歌を歌いながらマジックペンを投げては拾いを繰り返している。
結局彼は私の文句の一つを聞く間もなく、ニヤリと笑みを浮かべて去っていった。
私はもう一度大きくため息をこぼし、重い足取りで店内へと戻っていったのだった。
カウンター席に頬杖をついて座っている彼は、不貞腐れた顔で確かにそう言った。
真選組の一番隊隊長である〝総くん〟と親しい仲になってから、三か月が過ぎようとしていた。
彼はこうして見廻り中に、暇さえあれば決まって顔を出してはしばらくくつろいでから任務へと戻る習慣がついていた。
そんな彼が今日突然提案してきたのは、今しがた口にだした『引っ越し』で。
私はなぜそんな事を言い出したのか、不機嫌そうな彼に尋ねた。
「私は今の家でも不便じゃないんだけど…なんでまた引っ越し?」
「いやいや、あんなセキュリティの甘い所に向葵が一人で住むなんて、俺にゃ耐えられねぇでさァ。むしろよく三か月間耐えたとほめて欲しいくらいでぃ。」
「セキュリティが甘いって…どこもそんなもんだと思うよ?」
洗浄した食器を布巾で拭いながらそう言うと、彼は大きくため息を零して首を横に振った。
「第一になんだかんだでいつも遅くまで店に残ってるじゃねぇですか。ここから家まで遠いし、俺が招集かからなきゃ送ってやれますが、そうじゃねぇ時はいつも気が気じゃねぇんでさァ。女の夜道独り歩きは危ねぇんです。」
そう真剣な眼差しで言う彼の過保護さが、日に日に増していっている気がする。
今まで平気だったからどうってことないのに、と返したいところではあるが、彼が言いたいのはそういう事ではない。
真選組の一番隊隊長という役職についた彼と一緒にいるという事は、同時に彼の弱みになる事だってあり得る。
もし彼に恨みを持っている者が私の存在を知った時、真っ先に狙われる可能性もあるという心配をしてくれているのだろう。
とはいうものの、この歳になって引っ越しもそう簡単にできるものでもない。
どうしたものかと考えていると、彼は痺れを切らしたのか勢いよく立ち上がって強めの口調でこう言った。
「とにかく!向葵の自宅を屯所とこの店の間に変えてくだせぇ。引っ越し代は俺がもちやすから、次の休みに不動産屋に行きやしょう。」
「え…ちょ、ちょっと待ってよ。まだ私引っ越すなんて決めてな」
「俺が今決めた。そんだけ近けりゃ俺だって泊まれるし送り迎えできるし、泊まれるし、俺という名のセキュリティも万全でさァ。」
「…ねぇ、泊まれるしって言葉、今二回言わなかった?っていうか、俺という名のセキュリティってなに?」
「と、に、か、く!早々に手を打って決めやしょう。今のままじゃ俺が嫌なんでぃ。俺の次の非番は、この店も臨時休業にしなせぇ。」
「ちょ、そんな無茶な!次の非番って、明後日じゃない!そんな急にお店休むことになったら、お客さんが…」
反論する私の言葉に耳を傾けることなくカウンター席から立ち上がって、出口へと向かう彼の背中を見て、小さくため息を零した。
総くんは一度決めた事は絶対に実行するタイプだ。
一先ず彼が任務へと戻るのを見送ろうと、カウンターから出て扉のほうへ向かうと、彼は未だ店の外に立っており、扉に向かって真剣な眼差しを向けながら何か書き物をしていた。
「…総くん?」
「これでよし。」
サインペンをポケットにしまい、満足そうに笑う彼の目線の先に目を向けてみると、いつの間にか扉の前には張り紙がされており、彼の達筆な字でこう書かれていた。
〝誠に勝手ながら、●月●日は臨時休業とさせて頂きます〟
「なっ……!」
「はい、決まり。んじゃ任務に戻りまさァ。また夜迎えに来ますんで、一人で帰ろうとしねぇでくだせぇよ。」
「ちょ、ちょっと総くん!!」
いつになくご機嫌で、鼻歌を歌いながらマジックペンを投げては拾いを繰り返している。
結局彼は私の文句の一つを聞く間もなく、ニヤリと笑みを浮かべて去っていった。
私はもう一度大きくため息をこぼし、重い足取りで店内へと戻っていったのだった。