一,陽向
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一分一秒でも早く向葵の姿が見たくて、何度も縺れる足に体勢を立てながら、荒々しく息を吐きながら、〝陽向〟へと向かった。
もう十時を回っているのに、未だ灯りがついているのを確認すると、呼吸を整えることもなくその勢いのまま店内へと入った。
「いらっしゃいま……」
膝に手を当ててぜぇぜぇと息をする姿を見たせいか、彼女の声が途中で途切れる。
何とか無理やり深呼吸をして、ふっと顔を上げるとそこにはグラスに水を入れたのを差し出す、向葵の姿があった。
「あ……」
「…やっと来た。毎日毎日遅くまで店番してるの、結構退屈なんですよ?」
そう言って笑う向葵の表情は、全てを許したかのような優しいもので、拍子抜けをして無意識にそのグラスを手に取った。
「あの……」
「とりあえず、水飲んで。落ち着いてから話しましょうよ。今コーヒー入れますから、ここに座ってまっててくださ……」
彼女はなんら変わらない様子で、厨房へと戻ろうと歩み始める彼女を、気づけば力強く後ろから抱きしめていた。
「お、沖田さん……?!」
「ごめんなさい、ごめん……俺ァ、欲張りだ。あんたに酷いことをしちまったのに、結局あんたから離れる勇気もねぇし、土方から聞いた言葉を間に受けて、こうしてまたあんたの前に現れちまった……許してもらえるような事じゃねぇのは分かってる。でも……」
抱きしめる腕の力が自然と強まる。
この華奢な体を、出来ることならずっと守り続けていきたい。
もし許してくれるのなら、いつも通りでいい。自分が特別な存在になどならなくてもいい。
それでもいいから、傍で見守り続けたいんだ。
婚約者の命を奪ってしまった自分が、今唯一彼のためにしてられる事は、このくらいしか思い浮かばない。
「…沖田さん。正直私、あなたの事恨んでます。」
「……っ、」
突然真っ直ぐに向けられたその言葉に、酷く心を痛めた。
それでも彼女の本心であれば、それを受け止めなければならない。
ぐっと歯を食いしばり、彼女の体から離れようとしたその瞬間、抱きしめる腕にそっと触れるように、小さな手が重なった。
「陽介を殺したことじゃないですよ。私を守ると言ってくれたあの日の約束を破ったことに、私は恨んでます。」
「え……」
「陽介が死んでしまったのは、彼自身のお人好しの良さが仇になってしまったのと、そんな彼を置いていった連中。そしてあの日の夜彼を止められなかった、私自身のせいなんです。事情を知らなかったとはいえ、そもそもあなたは人々を…国を守るためにとった手段ですから、私があなたを恨むのは筋違い。」
「で、でも…」
「陽介がいなくなってしまって、私はひとりぼっちになった。彼がやりたいという店も、なんか現実を受け止めたくないが故のただの悪あがきで営んでいるような感覚でした。でも…それを変えてくれたのが、あなたなんですよ、沖田さん。」
「俺……?」
「前に店に来た時に言ってくれたでしょう。ここのコーヒーが飲みたくて来てるんだって。この店が気に入ったって。美味しそうに私のいれたコーヒーを飲んでくれるあなたに、私はやりがいと喜びを感じていました。だから本当にこの店をやりたいって心の底から思えたのは、あの日からだったんです。」
確かにそう言う言葉を彼女に言ったことははっきりと覚えてはいる。
総悟は再び背中越しで話す彼女の小さな声に耳を傾けた。
「そんな沖田さんと気づけば仲良くなって、店の力仕事や買い出しも手伝ってくれるようになって、今までずっと一人でやってきたのに、沖田さんが一緒にいてくれると私は毎日が楽しくなって…あなたは確かに私から婚約者の命を奪って一人にさせた人ですが、今ひとりじゃないって思わせてくれたのも、沖田さんなんです。…まぁ、命を絶たせたた人を私が大切だーなんて、陽介が知ったらなんて女だ!って呆れられそうですけどね…。」
「…」
「でもそうし思わせてくれたあなたが、私をまた一人にしちゃうなんて、酷いじゃないですか。沖田さんは私に二度も、一人ぼっちの人生を歩ませるつもりですか?……しかもそのきっかけを、あなたは先日私の手で作るように差し向けた。それが許せなくて、この前はついカッとなって…頬を叩いたりしてごめんなさい。痛かったですよね。」
「向葵、さ…」
「私は真実を知った今でも、今まで通りあなたといたい。沖田さんは、婚約者がいた女だと知って興ざめですか?その婚約者を殺した人と一緒にいたいと言うなんて最低な女だって、呆れらますか?」
「……っ、」
彼女のそっと触れている手から、微かに震えているのが分かる。
許してくれているのだろうか。
許されていいのだろうか。
もしそうだったとして、この手を取ったとしても、彼女の幸せは自分のせいで遠のいてしまうかもしれない。
真選組に籍を置いている以上、彼女と親しくなればなるほど危険に巻き込む可能性はある。
そしてかつて愛した男よりも、いつ命を落とすかわからない自分が、この人の傍にいてもいいのだろうか。
そんな葛藤を胸に抱いていると、腕の中に納まっていた彼女がくるりと反転し、こちらをじっと見つめた。
応えを求めている向葵の表情は、今にも泣き出しそうで弱々しかった。
そんな表情を見たら、答えはひとつしかない。
「いいんですかぃ…」
「…え?」
「俺で、いいんですかぃ。あんたの幸せを1度は奪ったこの、血で汚れた俺で……」
「その手は汚れるためにあるんですよ。だって、そうして市民の手を汚さずに守るべき人なんですから。私だって、その一人です。私の手を血で汚す代わりに、あなたがあの連中を捌いてくれた。こんな素敵で逞しい手に、私はずっと守られていたいと思ってます。いけませんか?」
「ーーッ!」
今度は正面から向葵を抱きしめた。
頭一つ分違うその身長の差は、顔をすっぽり胸の中へ押し込める。
「俺ァあんたに貰ってばっかだ。俺だってあんたに返したい。あんたが望んでくれるんなら、俺ァそばにいたい。どうやったらあんたを幸せに出来るのかも分からねぇし、何が出来るかもわかんねぇけど…」
掠れた声でそう応えると、胸の中の彼女は小さく笑った。
「良かった。私はもう、ひとりぼっちにならなくて済むんですね。」
「…させねぇさ。俺ァ実際のところ結構しつけぇし、独占欲の塊みてぇなもんでさァ。それでもいいんだな?」
「ふふっ、望むところですよ。私だって、実際は結構怒りやすいし、子供っぽいところだってあるんですから。お互いこれから知ってっていけば、いいんじゃないですか。時間なら、まだたっぷりありますから…」
「あぁ……どうやら俺ァ、これから先意地でも生き延びなきゃならねぇみてぇだしな。」
「そうですよ?次一人にしたら、死んでも許さないんですからね!あの世まで追いかけて行ってやりますから、覚悟してくださいよ。」
そう言って涙目で微笑む彼女を目の当たりにしては、もう一度強く抱き締めたのであった。
もう十時を回っているのに、未だ灯りがついているのを確認すると、呼吸を整えることもなくその勢いのまま店内へと入った。
「いらっしゃいま……」
膝に手を当ててぜぇぜぇと息をする姿を見たせいか、彼女の声が途中で途切れる。
何とか無理やり深呼吸をして、ふっと顔を上げるとそこにはグラスに水を入れたのを差し出す、向葵の姿があった。
「あ……」
「…やっと来た。毎日毎日遅くまで店番してるの、結構退屈なんですよ?」
そう言って笑う向葵の表情は、全てを許したかのような優しいもので、拍子抜けをして無意識にそのグラスを手に取った。
「あの……」
「とりあえず、水飲んで。落ち着いてから話しましょうよ。今コーヒー入れますから、ここに座ってまっててくださ……」
彼女はなんら変わらない様子で、厨房へと戻ろうと歩み始める彼女を、気づけば力強く後ろから抱きしめていた。
「お、沖田さん……?!」
「ごめんなさい、ごめん……俺ァ、欲張りだ。あんたに酷いことをしちまったのに、結局あんたから離れる勇気もねぇし、土方から聞いた言葉を間に受けて、こうしてまたあんたの前に現れちまった……許してもらえるような事じゃねぇのは分かってる。でも……」
抱きしめる腕の力が自然と強まる。
この華奢な体を、出来ることならずっと守り続けていきたい。
もし許してくれるのなら、いつも通りでいい。自分が特別な存在になどならなくてもいい。
それでもいいから、傍で見守り続けたいんだ。
婚約者の命を奪ってしまった自分が、今唯一彼のためにしてられる事は、このくらいしか思い浮かばない。
「…沖田さん。正直私、あなたの事恨んでます。」
「……っ、」
突然真っ直ぐに向けられたその言葉に、酷く心を痛めた。
それでも彼女の本心であれば、それを受け止めなければならない。
ぐっと歯を食いしばり、彼女の体から離れようとしたその瞬間、抱きしめる腕にそっと触れるように、小さな手が重なった。
「陽介を殺したことじゃないですよ。私を守ると言ってくれたあの日の約束を破ったことに、私は恨んでます。」
「え……」
「陽介が死んでしまったのは、彼自身のお人好しの良さが仇になってしまったのと、そんな彼を置いていった連中。そしてあの日の夜彼を止められなかった、私自身のせいなんです。事情を知らなかったとはいえ、そもそもあなたは人々を…国を守るためにとった手段ですから、私があなたを恨むのは筋違い。」
「で、でも…」
「陽介がいなくなってしまって、私はひとりぼっちになった。彼がやりたいという店も、なんか現実を受け止めたくないが故のただの悪あがきで営んでいるような感覚でした。でも…それを変えてくれたのが、あなたなんですよ、沖田さん。」
「俺……?」
「前に店に来た時に言ってくれたでしょう。ここのコーヒーが飲みたくて来てるんだって。この店が気に入ったって。美味しそうに私のいれたコーヒーを飲んでくれるあなたに、私はやりがいと喜びを感じていました。だから本当にこの店をやりたいって心の底から思えたのは、あの日からだったんです。」
確かにそう言う言葉を彼女に言ったことははっきりと覚えてはいる。
総悟は再び背中越しで話す彼女の小さな声に耳を傾けた。
「そんな沖田さんと気づけば仲良くなって、店の力仕事や買い出しも手伝ってくれるようになって、今までずっと一人でやってきたのに、沖田さんが一緒にいてくれると私は毎日が楽しくなって…あなたは確かに私から婚約者の命を奪って一人にさせた人ですが、今ひとりじゃないって思わせてくれたのも、沖田さんなんです。…まぁ、命を絶たせたた人を私が大切だーなんて、陽介が知ったらなんて女だ!って呆れられそうですけどね…。」
「…」
「でもそうし思わせてくれたあなたが、私をまた一人にしちゃうなんて、酷いじゃないですか。沖田さんは私に二度も、一人ぼっちの人生を歩ませるつもりですか?……しかもそのきっかけを、あなたは先日私の手で作るように差し向けた。それが許せなくて、この前はついカッとなって…頬を叩いたりしてごめんなさい。痛かったですよね。」
「向葵、さ…」
「私は真実を知った今でも、今まで通りあなたといたい。沖田さんは、婚約者がいた女だと知って興ざめですか?その婚約者を殺した人と一緒にいたいと言うなんて最低な女だって、呆れらますか?」
「……っ、」
彼女のそっと触れている手から、微かに震えているのが分かる。
許してくれているのだろうか。
許されていいのだろうか。
もしそうだったとして、この手を取ったとしても、彼女の幸せは自分のせいで遠のいてしまうかもしれない。
真選組に籍を置いている以上、彼女と親しくなればなるほど危険に巻き込む可能性はある。
そしてかつて愛した男よりも、いつ命を落とすかわからない自分が、この人の傍にいてもいいのだろうか。
そんな葛藤を胸に抱いていると、腕の中に納まっていた彼女がくるりと反転し、こちらをじっと見つめた。
応えを求めている向葵の表情は、今にも泣き出しそうで弱々しかった。
そんな表情を見たら、答えはひとつしかない。
「いいんですかぃ…」
「…え?」
「俺で、いいんですかぃ。あんたの幸せを1度は奪ったこの、血で汚れた俺で……」
「その手は汚れるためにあるんですよ。だって、そうして市民の手を汚さずに守るべき人なんですから。私だって、その一人です。私の手を血で汚す代わりに、あなたがあの連中を捌いてくれた。こんな素敵で逞しい手に、私はずっと守られていたいと思ってます。いけませんか?」
「ーーッ!」
今度は正面から向葵を抱きしめた。
頭一つ分違うその身長の差は、顔をすっぽり胸の中へ押し込める。
「俺ァあんたに貰ってばっかだ。俺だってあんたに返したい。あんたが望んでくれるんなら、俺ァそばにいたい。どうやったらあんたを幸せに出来るのかも分からねぇし、何が出来るかもわかんねぇけど…」
掠れた声でそう応えると、胸の中の彼女は小さく笑った。
「良かった。私はもう、ひとりぼっちにならなくて済むんですね。」
「…させねぇさ。俺ァ実際のところ結構しつけぇし、独占欲の塊みてぇなもんでさァ。それでもいいんだな?」
「ふふっ、望むところですよ。私だって、実際は結構怒りやすいし、子供っぽいところだってあるんですから。お互いこれから知ってっていけば、いいんじゃないですか。時間なら、まだたっぷりありますから…」
「あぁ……どうやら俺ァ、これから先意地でも生き延びなきゃならねぇみてぇだしな。」
「そうですよ?次一人にしたら、死んでも許さないんですからね!あの世まで追いかけて行ってやりますから、覚悟してくださいよ。」
そう言って涙目で微笑む彼女を目の当たりにしては、もう一度強く抱き締めたのであった。