一,陽向
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それから数日たった今も、総悟の様子は相変わらずだった。
明日で謹慎処分がとける日ではあるが、未だ上の空でいる彼をとうとう放っておけなくなり、土方は総悟の部屋へと訪れた。
総悟はぴくりと反応し、血相を変えて土方の方へと詰め寄った。
「…あんた、その匂い……!」
土方の纏った衣類からはっきりと嗅ぎ取れる、コーヒーの香り。
それは彼女の元へと行っていたという証拠にもなり、総悟はそのまま土方の胸ぐらを掴んだ。
「なっ、なんであの人のところなんかに……ッッ!」
「…あの次の日からな…最初は詫びに行こうと思ったんだよ。あれはおめぇだけの責任じゃねぇ。俺たち真選組のとった行動だからな。部下の後始末をつけるのは、上司の仕事だろーが。」
「何言ってやがる!たとえあんたでも、あの人にとっちゃ真選組の存在自体が傷をえぐる存在にすぎねぇんだ!更に追い打ちをかけるような事を……!」
そこまで言って、総悟は酷く鋭い土方の目を見て言葉を詰まらせた。
その迫力に負け、掴んだ手を離し目を逸らす。
土方は着物を整えて、錯乱している総悟に口を開いた。
「総悟…俺ァてめぇがここから出られねぇ数日間、あの女といろんな話をしてきた。」
「……」
「おめぇが初めてあの店に行った日の話。どこぞのバカ侍と遭遇してさっさと帰っちまった日の話。夜遅くまで店をあけててめぇを待ってた話。それから、そんな一人で頑張る彼女を守るように…助けるように店の力仕事や夜顔を出してたおめぇの話。連絡先を交換して、暇さえあれば顔を出してた話。」
そう。彼女は総悟との一つ一つの出来事を、はっきりと覚えていてこと細かく話してくれたのだ。
土方はこの目で彼女が楽しそうに総悟の話をしてくれるのを目の当たりにして、彼女が沖田総悟という一人の男にどういう感情を抱いているかということも悟った。
彼女に酷く辛い思いをさせたからこそ、真選組は…総悟は彼女と向き合わなければならない。
腹を括った土方は、再び口を開けた。
「…あの人、いってたぞ。おめぇが真選組一番隊沖田隊長だと知っていても、たぶん同じ接し方で、同じ時間を過ごしたってな。」
「え……?」
「確かに婚約者にトドメをさしちまったのは、他でもなく俺たちだ。あの人にとっちゃそんな俺たちよりも、仲間を思ってその場に行ったにも関わらず、ひとり置き去りにして逃げていった奴らの方ががよっぽど憎かったってな。それをあの日、俺達がが容赦なく斬り倒したおかげで、かなり心が晴れたそうだ。」
「そんなわけ、ねぇじゃねぇですか…あの人はあの男のことを想って愛おしそうにする瞬間がありまさァ。その人を殺しちまった俺が許されるわけ……」
総悟の震えている声がわかる。
額に手を当てて、情けなく笑う彼を見ては、土方は続けた。
「彼女にとって、橘は婚約者である前に兄のような感覚だったそうだ。孤児だった彼女の傍から離れず、ずっと一緒に育ってきたらしい。だからこそ、失った時の悲しみがでかかった。そしてあの事件の日、婚約者である橘陽介を止められなかった自分も恨んでいたそうだ。与えられっぱなしで生きてきた自分が、橘にせめて何か返すことはないかと考え、あの店を一人でも営むようになったらしい。」
「どこまでお人好しなんでぇ、あの人は…自分を恨むのとこなんて、どこにもねぇじゃねぇか…」
「それからこうも言った。総悟よりも、自分の方がよっぽど最低だってよ。」
「なっ、なんで…」
酷く驚いた表情でこちらを見る。まるで理解できないと言わんばかりのそれに、土方は目を閉じた。
「橘からすれば、てめぇは仇討ちの相手だったかもしれねぇ。だがそんなことも知らずに、自分に優しく接してくれた総悟に、いつの間にか寂しさを紛らわせてもらってたそうだ。」
「……っ」
〝沖田さんは私を一人にした人だけど…もう一度、一人じゃないとも教えてくれた人なんです。だから仇討ちだと知った現実よりも、今はまた負い目を感じた彼が店に来なくなって、一人でいることの方がよっぽど辛くて…。事情を知ってもなお、そう考えてしまっている自分は、婚約者にとって最低な女なんでしょうね。〟
そう苦笑いを浮かべて話していた彼女を思い出しては、もう一度目の前の男の背中を押すべく、口を開いた。
「おい総悟。お前女のあの人にここまで言わせといて、このままでいいのかよ。」
「ーーッ!!土方さん、すいやせん、俺……!」
「…謹慎処分が空ける前に、ちゃんと片付けてこい。」
そう告げるよりと、素早く横を通過して屯所内を駆け出ていった。
胸元からタバコを取りだし、やれやれとため息をこぼして火をつける。
ふぅっと大きく息を吐き、頭の中では今しがた飛び出して行った総悟の顔を思い出していた。
死んだような目ぇしてたくせに、とんだ変わりようだ。
最後に見た彼の目には、しっかりと光を取り戻した、真っ直ぐでなにか強い思いを抱いた、真剣な眼差しだった。
「全く、今まで女に興味がなかった分不器用な奴だな。ようやくあいつも男らしいツラするようにらなったじゃねぇか……」
そんな独り言を吐いては、黙って自室へと戻っていくのだった。
明日で謹慎処分がとける日ではあるが、未だ上の空でいる彼をとうとう放っておけなくなり、土方は総悟の部屋へと訪れた。
総悟はぴくりと反応し、血相を変えて土方の方へと詰め寄った。
「…あんた、その匂い……!」
土方の纏った衣類からはっきりと嗅ぎ取れる、コーヒーの香り。
それは彼女の元へと行っていたという証拠にもなり、総悟はそのまま土方の胸ぐらを掴んだ。
「なっ、なんであの人のところなんかに……ッッ!」
「…あの次の日からな…最初は詫びに行こうと思ったんだよ。あれはおめぇだけの責任じゃねぇ。俺たち真選組のとった行動だからな。部下の後始末をつけるのは、上司の仕事だろーが。」
「何言ってやがる!たとえあんたでも、あの人にとっちゃ真選組の存在自体が傷をえぐる存在にすぎねぇんだ!更に追い打ちをかけるような事を……!」
そこまで言って、総悟は酷く鋭い土方の目を見て言葉を詰まらせた。
その迫力に負け、掴んだ手を離し目を逸らす。
土方は着物を整えて、錯乱している総悟に口を開いた。
「総悟…俺ァてめぇがここから出られねぇ数日間、あの女といろんな話をしてきた。」
「……」
「おめぇが初めてあの店に行った日の話。どこぞのバカ侍と遭遇してさっさと帰っちまった日の話。夜遅くまで店をあけててめぇを待ってた話。それから、そんな一人で頑張る彼女を守るように…助けるように店の力仕事や夜顔を出してたおめぇの話。連絡先を交換して、暇さえあれば顔を出してた話。」
そう。彼女は総悟との一つ一つの出来事を、はっきりと覚えていてこと細かく話してくれたのだ。
土方はこの目で彼女が楽しそうに総悟の話をしてくれるのを目の当たりにして、彼女が沖田総悟という一人の男にどういう感情を抱いているかということも悟った。
彼女に酷く辛い思いをさせたからこそ、真選組は…総悟は彼女と向き合わなければならない。
腹を括った土方は、再び口を開けた。
「…あの人、いってたぞ。おめぇが真選組一番隊沖田隊長だと知っていても、たぶん同じ接し方で、同じ時間を過ごしたってな。」
「え……?」
「確かに婚約者にトドメをさしちまったのは、他でもなく俺たちだ。あの人にとっちゃそんな俺たちよりも、仲間を思ってその場に行ったにも関わらず、ひとり置き去りにして逃げていった奴らの方ががよっぽど憎かったってな。それをあの日、俺達がが容赦なく斬り倒したおかげで、かなり心が晴れたそうだ。」
「そんなわけ、ねぇじゃねぇですか…あの人はあの男のことを想って愛おしそうにする瞬間がありまさァ。その人を殺しちまった俺が許されるわけ……」
総悟の震えている声がわかる。
額に手を当てて、情けなく笑う彼を見ては、土方は続けた。
「彼女にとって、橘は婚約者である前に兄のような感覚だったそうだ。孤児だった彼女の傍から離れず、ずっと一緒に育ってきたらしい。だからこそ、失った時の悲しみがでかかった。そしてあの事件の日、婚約者である橘陽介を止められなかった自分も恨んでいたそうだ。与えられっぱなしで生きてきた自分が、橘にせめて何か返すことはないかと考え、あの店を一人でも営むようになったらしい。」
「どこまでお人好しなんでぇ、あの人は…自分を恨むのとこなんて、どこにもねぇじゃねぇか…」
「それからこうも言った。総悟よりも、自分の方がよっぽど最低だってよ。」
「なっ、なんで…」
酷く驚いた表情でこちらを見る。まるで理解できないと言わんばかりのそれに、土方は目を閉じた。
「橘からすれば、てめぇは仇討ちの相手だったかもしれねぇ。だがそんなことも知らずに、自分に優しく接してくれた総悟に、いつの間にか寂しさを紛らわせてもらってたそうだ。」
「……っ」
〝沖田さんは私を一人にした人だけど…もう一度、一人じゃないとも教えてくれた人なんです。だから仇討ちだと知った現実よりも、今はまた負い目を感じた彼が店に来なくなって、一人でいることの方がよっぽど辛くて…。事情を知ってもなお、そう考えてしまっている自分は、婚約者にとって最低な女なんでしょうね。〟
そう苦笑いを浮かべて話していた彼女を思い出しては、もう一度目の前の男の背中を押すべく、口を開いた。
「おい総悟。お前女のあの人にここまで言わせといて、このままでいいのかよ。」
「ーーッ!!土方さん、すいやせん、俺……!」
「…謹慎処分が空ける前に、ちゃんと片付けてこい。」
そう告げるよりと、素早く横を通過して屯所内を駆け出ていった。
胸元からタバコを取りだし、やれやれとため息をこぼして火をつける。
ふぅっと大きく息を吐き、頭の中では今しがた飛び出して行った総悟の顔を思い出していた。
死んだような目ぇしてたくせに、とんだ変わりようだ。
最後に見た彼の目には、しっかりと光を取り戻した、真っ直ぐでなにか強い思いを抱いた、真剣な眼差しだった。
「全く、今まで女に興味がなかった分不器用な奴だな。ようやくあいつも男らしいツラするようにらなったじゃねぇか……」
そんな独り言を吐いては、黙って自室へと戻っていくのだった。