二.渇きを満たすもの
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元第七師団で利用していた船も、江戸の町の目立たないところに停めてある。
もしかしたら阿伏兎も船に戻ってきている可能性もあると考え、森を降りて少し離れた位置にある、江戸の町へとやってきた。
そのすぐ後ろでは、フードを被ってもなお、人目を気にしてマントをぎゅっと握りしめ、恥ずかしめに唇を紡ぎ歩いている緋真の姿がある。
神威は彼女のそんな表情を見ては、ニッコリ微笑んで口を開いた。
「そろそろ慣れてきた?」
「慣れるわけないでしょう!早く服買いに行こうよ!っていうか行ってよ!」
「どーしよっかなぁ。俺は別にそのままでもいいしね。」
「勘弁してくださいお願いします今すぐなんでもいいんで服買ってください。」
そう涙目になって緋真が下手に出て頼むと、神威は満足そうに笑って、しょうがないなぁ、と呟いた。
彼はようやくその気になって一番近くにある服屋に入り、緋真はそのすぐ近くの路地裏で待機した。
かぶき町のある江戸に来たのは随分久方ぶりだが、ここは相変わらず天人と人間の生活が入り交じる異様な町だ。
そして人付き合いが苦手な緋真にとって、この人気の多い街並みはいささか落ち着かない環境だった。
そんな時、まだかまだかと待ちわびている緋真に、突然悲劇が襲いかかった。
後方から物凄い気迫を感じ、振り返った。
しかしその時には既に腕を掴まれており、逃げられない窮地へと立たされたのだ。
「つーかまえた。」
「……え。」
振り返った先にいたのは、噂でしか聞いたことは無かったが、真っ黒の制服に似つかない侍の刀を腰に差したその姿…真選組だった。
真っ直ぐに自分を見るその赤い目は、まるで狼が牙を向いて噛み殺そうとしているようにさえ見える。
緋真は腕を掴まれた反射で、慌ててその手を振り払おうとしたが、思った以上にその力は強く、更には相手の方へと引っ張られた。
「いたっ……!離してください!」
「女……?おいテメェ、その薄汚ぇマントどこで手に入れやがった。それは俺の知ってる中じゃ最低最悪のクソ野郎が着てたやつなんだが。なんでテメェみてぇな女が身につけてやがんでぃ。」
赤みがかった茶色の髪をした男は、緋真の唯一の羽織であるマントを引っ張ろうと手をかけるが、緋真は死ぬ物狂いで抵抗した。
「や、辞めてください!これはちょっと、ある人からお借りしてて!私今これしか服ないので!ほんとそれ以上引っ張られると困るんですけど!」
「はぁ?マント一枚で路地歩いている女がいるかよ。そんな奴がいたら逆にわいせつ行為で逮捕してやらァ。だいたいてめぇ、なんで顔隠してやがる。お巡りさんにやましい事がねぇならその素顔とっとと見せやがれってんだ!」
「わっ!」
彼の勢いについていけず、緋真は体勢を崩して思わずフードから手を離してしまう。
そしてそのフードから露になった緋真の両目を見て、真選組の男も思わず目を見開いた。
「なっ、……!」
ーー見られた!!
緋真は激しく動揺し、慌ててフードを戻そうとするが、再び彼は動揺しつつもそれを阻止した。
じっと緋真を見つめ、なにか言いたげな表情でいる男に、今度は後方からおぞましい殺気を纏った一本の素早い蹴りが命中した。
自分からようやく離れたその手の主は、遥か後方へ吹っ飛び、砂埃を立たせて街のど真ん中へと着地した。
緋真が振り返れば、顔は笑ってはいるが内心苛立たしい気持ちを必死に抑えている神威の姿が目に映る。
思わずその威圧感に、彼女は顔をひきつらせた。
「人が服買いに行ってる間に何ナンパされてんのさ。俺を怒らせたいの?緋真。」
「な、ナンパじゃなくてお巡りさんだから!私が着てるマント見て、知ってる人のやつだって……ていうか、服!!」
「ふーん。反省の色なしか。じゃあこの服はまだもう少しお預けだ。」
お目当てのものに飛びつこうとすれば、神威は手にしていた紙袋を緋真の手の届かない高さまであげて、ニッコリ微笑んだ。
緋真はそんな彼を見ては呆れて、白い目を向ける。
「このままだと私、わいせつ罪で捕まるらしいんですけど。」
「わいせつ罪?なにそれ?俺バカだからよく分かんないんだけど。」
「あーもう、とにかく江戸でいうと立派な犯罪ってことだよ!!お願いだから服ちょうだい!」
「だーめ。俺の気がはれるまではしばらくお預けだって言ってるだろ。」
「……」
緋真はがくりと肩を落とし、落胆した。
しかしその時、自分の目の前に隼の如く神威目掛けて攻撃をしてくる人影を目にし、思わずかっと目を見開いた。
「やっぱりテメェがいやがったか、悪党ッッ!!」
「あ、いつぞやのお巡りさんだ。」
目の前では二人の男がぶつかり合って力勝負を始めだした。
血走った目の男に対し、神威はいつものペースを崩すことなくニコニコとしていて、さぞかし楽しそうだ。
緋真はそんな二人にどうしよう、とあたふたしつつも、止めに入ろうと手を伸ばした。
が、それは神威の一言によって止められた。
「緋真。言っとくけど、今その姿で止めに入るのはお勧めしないよ。」
「えっ……」
「緋真が動くと、マントがなびいて全部見えるから。」
「なっ、なっ……」
「おい女ァ。言っとくが俺もオススメしねぇ。コイツと殺り合うとなっちゃァ、加減が出来ねぇからな。間合いに入ったら間違ってその白い身体を、真っ赤な血の色に染めちまうかもしれねぇ。」
「…緋真はそんな弱い女じゃないよ。」
そう静かに言った神威の力が強まり、男は再び大通りの方へと吹っ飛んでいった。
街の住人たちが、凄まじい物音につられてちらほらと野次馬が集まり始めている。
緋真は一先ずフードを被り、男を追いかけて歩いていく神威を止めようと…というよりはまず先に服を確保しようと手を伸ばそうとした。
が、再びそれは邪魔が入られ阻止される事になる。
今度は神威が男の刀を肩に受け、血を噴き出しながら逆方向へと飛んでいった。
「ちょっ……神威っ!」
緋真は慌てて踵を返し、神威が飛んでいった方向へと走り出す。
だがそれよりも早く、真っ黒の服が彼女の真横を通過して行った。
「ど、どうしよう。もういろいろ面倒くさくなってきた……とりあえず服着たいんだけどぉぉ…」
ただ早く人前に立てるように服が着たいだけの緋真は、思わず嘆き始める。
しかしそれを叶えるには、一先ずあの喧嘩を止めねば始まらない。
緋真は何か策がないか辺りを見渡したのだった。
もしかしたら阿伏兎も船に戻ってきている可能性もあると考え、森を降りて少し離れた位置にある、江戸の町へとやってきた。
そのすぐ後ろでは、フードを被ってもなお、人目を気にしてマントをぎゅっと握りしめ、恥ずかしめに唇を紡ぎ歩いている緋真の姿がある。
神威は彼女のそんな表情を見ては、ニッコリ微笑んで口を開いた。
「そろそろ慣れてきた?」
「慣れるわけないでしょう!早く服買いに行こうよ!っていうか行ってよ!」
「どーしよっかなぁ。俺は別にそのままでもいいしね。」
「勘弁してくださいお願いします今すぐなんでもいいんで服買ってください。」
そう涙目になって緋真が下手に出て頼むと、神威は満足そうに笑って、しょうがないなぁ、と呟いた。
彼はようやくその気になって一番近くにある服屋に入り、緋真はそのすぐ近くの路地裏で待機した。
かぶき町のある江戸に来たのは随分久方ぶりだが、ここは相変わらず天人と人間の生活が入り交じる異様な町だ。
そして人付き合いが苦手な緋真にとって、この人気の多い街並みはいささか落ち着かない環境だった。
そんな時、まだかまだかと待ちわびている緋真に、突然悲劇が襲いかかった。
後方から物凄い気迫を感じ、振り返った。
しかしその時には既に腕を掴まれており、逃げられない窮地へと立たされたのだ。
「つーかまえた。」
「……え。」
振り返った先にいたのは、噂でしか聞いたことは無かったが、真っ黒の制服に似つかない侍の刀を腰に差したその姿…真選組だった。
真っ直ぐに自分を見るその赤い目は、まるで狼が牙を向いて噛み殺そうとしているようにさえ見える。
緋真は腕を掴まれた反射で、慌ててその手を振り払おうとしたが、思った以上にその力は強く、更には相手の方へと引っ張られた。
「いたっ……!離してください!」
「女……?おいテメェ、その薄汚ぇマントどこで手に入れやがった。それは俺の知ってる中じゃ最低最悪のクソ野郎が着てたやつなんだが。なんでテメェみてぇな女が身につけてやがんでぃ。」
赤みがかった茶色の髪をした男は、緋真の唯一の羽織であるマントを引っ張ろうと手をかけるが、緋真は死ぬ物狂いで抵抗した。
「や、辞めてください!これはちょっと、ある人からお借りしてて!私今これしか服ないので!ほんとそれ以上引っ張られると困るんですけど!」
「はぁ?マント一枚で路地歩いている女がいるかよ。そんな奴がいたら逆にわいせつ行為で逮捕してやらァ。だいたいてめぇ、なんで顔隠してやがる。お巡りさんにやましい事がねぇならその素顔とっとと見せやがれってんだ!」
「わっ!」
彼の勢いについていけず、緋真は体勢を崩して思わずフードから手を離してしまう。
そしてそのフードから露になった緋真の両目を見て、真選組の男も思わず目を見開いた。
「なっ、……!」
ーー見られた!!
緋真は激しく動揺し、慌ててフードを戻そうとするが、再び彼は動揺しつつもそれを阻止した。
じっと緋真を見つめ、なにか言いたげな表情でいる男に、今度は後方からおぞましい殺気を纏った一本の素早い蹴りが命中した。
自分からようやく離れたその手の主は、遥か後方へ吹っ飛び、砂埃を立たせて街のど真ん中へと着地した。
緋真が振り返れば、顔は笑ってはいるが内心苛立たしい気持ちを必死に抑えている神威の姿が目に映る。
思わずその威圧感に、彼女は顔をひきつらせた。
「人が服買いに行ってる間に何ナンパされてんのさ。俺を怒らせたいの?緋真。」
「な、ナンパじゃなくてお巡りさんだから!私が着てるマント見て、知ってる人のやつだって……ていうか、服!!」
「ふーん。反省の色なしか。じゃあこの服はまだもう少しお預けだ。」
お目当てのものに飛びつこうとすれば、神威は手にしていた紙袋を緋真の手の届かない高さまであげて、ニッコリ微笑んだ。
緋真はそんな彼を見ては呆れて、白い目を向ける。
「このままだと私、わいせつ罪で捕まるらしいんですけど。」
「わいせつ罪?なにそれ?俺バカだからよく分かんないんだけど。」
「あーもう、とにかく江戸でいうと立派な犯罪ってことだよ!!お願いだから服ちょうだい!」
「だーめ。俺の気がはれるまではしばらくお預けだって言ってるだろ。」
「……」
緋真はがくりと肩を落とし、落胆した。
しかしその時、自分の目の前に隼の如く神威目掛けて攻撃をしてくる人影を目にし、思わずかっと目を見開いた。
「やっぱりテメェがいやがったか、悪党ッッ!!」
「あ、いつぞやのお巡りさんだ。」
目の前では二人の男がぶつかり合って力勝負を始めだした。
血走った目の男に対し、神威はいつものペースを崩すことなくニコニコとしていて、さぞかし楽しそうだ。
緋真はそんな二人にどうしよう、とあたふたしつつも、止めに入ろうと手を伸ばした。
が、それは神威の一言によって止められた。
「緋真。言っとくけど、今その姿で止めに入るのはお勧めしないよ。」
「えっ……」
「緋真が動くと、マントがなびいて全部見えるから。」
「なっ、なっ……」
「おい女ァ。言っとくが俺もオススメしねぇ。コイツと殺り合うとなっちゃァ、加減が出来ねぇからな。間合いに入ったら間違ってその白い身体を、真っ赤な血の色に染めちまうかもしれねぇ。」
「…緋真はそんな弱い女じゃないよ。」
そう静かに言った神威の力が強まり、男は再び大通りの方へと吹っ飛んでいった。
街の住人たちが、凄まじい物音につられてちらほらと野次馬が集まり始めている。
緋真は一先ずフードを被り、男を追いかけて歩いていく神威を止めようと…というよりはまず先に服を確保しようと手を伸ばそうとした。
が、再びそれは邪魔が入られ阻止される事になる。
今度は神威が男の刀を肩に受け、血を噴き出しながら逆方向へと飛んでいった。
「ちょっ……神威っ!」
緋真は慌てて踵を返し、神威が飛んでいった方向へと走り出す。
だがそれよりも早く、真っ黒の服が彼女の真横を通過して行った。
「ど、どうしよう。もういろいろ面倒くさくなってきた……とりあえず服着たいんだけどぉぉ…」
ただ早く人前に立てるように服が着たいだけの緋真は、思わず嘆き始める。
しかしそれを叶えるには、一先ずあの喧嘩を止めねば始まらない。
緋真は何か策がないか辺りを見渡したのだった。