一.守護神ー羅刹女ー
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「あの方角は…!」
「今の音、私が仕掛けた地雷が爆発した音だ。」
「地雷なんてしかけてたの?怖い女。」
「仕掛けた場所は、あの家から死覚になる位置だよ。普段うろうろしてるところに仕掛けるわけないでしょうが。まぁ、あれが爆発するってことは、疚しいことを考えている誰かが侵入したってことなんだけど。」
緋真は先ほどとはうって代わり、引きつった笑みを浮かべて表情を浮かべて煙の上がる方向を見つめた。
神威はひとまず緋真の体を持ち上げ、元来た場所へと向かい走り出した。
「ちょ、神威何して…!」
「何って、行くんだろ?お前が走るより俺が担いだ方が早いじゃないか。」
「この場所を去ろうとしていたあなたにそんな事させるわけには…!」
「勘違いしないでよ。俺はあんたのたくあんを盗み取りに戻るんだ。」
「…あ、そう。」
この緊迫な表情で、緋真は呆れた声を出す。
神威は自分らしくない行動をとる事に違和感を抱きつつも、足は本能のままに一直線へと向かった。
緋真は心の中で何度も叫んだ。
子供たちが…この先希望となる彼らがどうか無事でいてくれますように、と。
だがその願いは、到着した先に見えた光景で一瞬にして儚く砕けていったのだった。
燃え上がる炎。家を飲み込むかのように周りを覆う灰色の煙。
前方の庭には子供たちが血を流して倒れている姿があり、それを斬ったであろう男たちが薄気味悪い笑みを浮かべて立っていた。
「…みんなっ…」
緋真は無理やり神威の肩から降り、一番近くにいた子供の傍へ駆け寄った。
「太一!しっかりして…どうしてすぐ逃げ出さなかったんだ!逃げ道はいつも教えていたのに……ッッ」
彼女の声に反応するように、その小さな身体は苦しそうにうめき声をあげながら、ゆっくりと目を開けて、緋真の顔を見た。そして、弱々しく枯れそうな声で口を開いたのだ。
「に、逃げて緋真…。昼間のアイツら、天人たちを連れて緋真を探しに来てるんだ。だから早く…」
そこで太一の声は途切れた。
神威はしゃがみ込んで少年の体を強く抱きしめる緋真の震える背中を見たが…そこから何も感じる事はなかった。
弱い奴には興味がない。
こんな野党達に殺される子供なら、生き永らえさせておいても強くなって自分の相手をしてくれる事はないだろう。
ここにきてようやく冷静になり、なぜ絶とうとしていたこの場所に戻ってきてしまったのか、いささか疑問を抱いた。
「…まただ。」
そんな時、彼女がぽつりぽつりと、独り言のように言葉を零し始めた。
「私は、先生のようにはなれない。夜中にここから離れて、こんな野党達から子供を守る事すらも、小さな命をつなぎとめてやる事もできない。平穏な生活を送るなんて、やっぱり私には無理だったんだ。」
「…!」
緋真を取り巻く空気が、一瞬にして変わった気がした。
彼女は太一をその場に優しく置き、ゆっくりと立ち上がった。
ようやく彼女の姿に気づいた野党達の視線が集まり、ぞろぞろと集まっては各々が口を開いた。
「テメェらが昼間俺たちをコケにしやがったんでな、天人の仲間を連れて戻ってきてやったぜ。」
「ガキにテメェの居場所を聞いても頑なに口を開かねぇからよぉ。気がみじけぇから全員殺しちまったよ。悪かったなぁ」
「どいつもこいつも、死に際にあんたの名前を叫んでは、逃げてくれって何度も何度もつぶやいて死んじまいやがった。全く、ふざけたガキ共だぜ。」
「…」
緋真はそんな奴らの言葉に、何も返さずただ俯いていた。
別に緋真と子供たちを庇い建てするつもりはないが、神威は自分が本来向こう側と同じ行いをする悪党であるのは理解している。だがこのような下等種族と一緒にされるのにはいささか腹立たしさを感じた。
子供は死んでしまったけれど、目の前にいる女はまだ生きている。
気に入ったものは、自分の手で殺す。強い奴も、自分の手で殺す。
そうやって生きてきた神威は、無意識に彼女の首に手をかけようと伸ばしていた。
ここでこんな奴らに殺されるくらいなら、さっき言っていたように俺が殺してやろうか。
その手が彼女にもう少しで届こうという時、背中越しで彼女はその男の名を呼んだ。
「…ねぇ、神威。」
「…なんだよ。」
「さっき言った言葉、忘れないでよ。」
「さっき言った?俺バカだからもう忘れちゃったよ。」
「…自分で言うかなぁ馬鹿って…。まぁいいや。これを片付けたら、私を殺してよ。神威。」
「…!」
そう言って顔だけ振り向いた彼女の表情は、確かに笑みを浮かべていた。
「おいこそこそ何喋ってやが…ッッ!!」
男たちが口を開いた瞬間、先ほどまで少し先にいたはずの緋真の姿が目の前に移動している事に驚き、言葉を詰まらせた。
油断した隙に、緋真は素早く男の手にしている刀を叩き落し、その手で強く落ちた刀を拾い握りしめては上に振り上げた。
体に真っすぐ斬り込まれる深い傷からは溢れるように血が噴き出し、彼女の体にべったりと付着した。
「なっ…なんだこの女ァァッ!」
隣にいた男が慌てて彼女に斬りかかろうとするが、それよりも早く緋真の刀が男の腹を突き刺した。
「ぐっ…」
「おせぇよ、クズ共。」
とても同じ人物とは思えぬほどの、地を這うような低い声。
神威はそんな緋真の姿を、微動だにせず、瞬きをする事もなく両目をかっと開いて見つめた。
全身の毛が逆立つような、武者震いのような感覚が体に伝わってくる。
なんだあの女は。
細くて弱そうで、一発でも殴ってしまえば死んでしまいそうなあの華奢な体のいったいどこに、あんな力があるとでもいうのだろうか。
無駄のない動き、華麗な剣捌き、相手を斬って血を浴びるその姿までもが、まるで彼女の魅力を引き立てるものの一つとなっているような気さえした。
弱いと思っていた存在が、目の前で鬼のような強さを見せる光景に、神威は自然と笑みが零れていた。
ーーー面白い。
心の底から、そう思った。
そんな神威の心境を余所に、緋真は次々と野党達を切り刻んで数を減らしていた。
人間の男たちはあっという間に彼女に全滅させられ、残りは人間の姿とはほど遠い、動物に似たような顔をした天人達だけが残った。
緋真は俯いたまま奴らに近づき、右目を覆っていた包帯をゆっくりほどきながら、口を開いた。
「やっぱり向いてない事はやらないもんだな。自分のこの手に抱えられるモンすら守れない。こんな奴らを殺すために、再び刀に手を延ばさなければいけない。つくづく自分の人生に、嫌気がさすよ。」
そう言って顔を上げたと同時に露となった彼女の右目は、誰もが言葉を失う程の鋭い殺気を放った金色の瞳の色をしていた。
神威も思わず、その圧倒的な威圧感に息を呑んだ。
「て、テメェまさかあの…!」
彼女の互いに違う瞳の色を目の当たりにした天人が、酷く驚いて近づいてくる彼女から逃げるよう、一歩、二歩と後ずさりをし始めた。
「あの色の違う薄気味わりぃ目、間違いねぇ…!攘夷戦争で最後まで戦場に立っていたと言われる最強の鬼…羅刹女緋真だッ!!」
「へぇ、通り名なんてあったんだ。てっきり、白夜叉くらいしかないと思ってたけど…。光栄だねぇ。羅刹女だって…笑わせる。」
緋真が口元をフッと上げ、再び奴らの前から姿を消す。
そうして次にその視界でとらえたのは、既に自分の噴き出る血と共に、笑っている女の恐ろしい姿だった。
あっという間に何十人もいた天人や人間達を斬り殺し、緋真は手にしていた刀をその屍の山の中へ放り投げた。
「やっぱり人斬りは人斬りだ。結局刀を取って、闘うことを選んでしまう。何一つ守れない、何一つ残せやしない。羅刹女なんて守護神の通り名つけたセンスのないやつは、どこのどいつだ。」
そう吐き捨てて焼かれた建物をじっと見つめる緋真を、神威はただじっと見て、拳を震わせたのだった。
「今の音、私が仕掛けた地雷が爆発した音だ。」
「地雷なんてしかけてたの?怖い女。」
「仕掛けた場所は、あの家から死覚になる位置だよ。普段うろうろしてるところに仕掛けるわけないでしょうが。まぁ、あれが爆発するってことは、疚しいことを考えている誰かが侵入したってことなんだけど。」
緋真は先ほどとはうって代わり、引きつった笑みを浮かべて表情を浮かべて煙の上がる方向を見つめた。
神威はひとまず緋真の体を持ち上げ、元来た場所へと向かい走り出した。
「ちょ、神威何して…!」
「何って、行くんだろ?お前が走るより俺が担いだ方が早いじゃないか。」
「この場所を去ろうとしていたあなたにそんな事させるわけには…!」
「勘違いしないでよ。俺はあんたのたくあんを盗み取りに戻るんだ。」
「…あ、そう。」
この緊迫な表情で、緋真は呆れた声を出す。
神威は自分らしくない行動をとる事に違和感を抱きつつも、足は本能のままに一直線へと向かった。
緋真は心の中で何度も叫んだ。
子供たちが…この先希望となる彼らがどうか無事でいてくれますように、と。
だがその願いは、到着した先に見えた光景で一瞬にして儚く砕けていったのだった。
燃え上がる炎。家を飲み込むかのように周りを覆う灰色の煙。
前方の庭には子供たちが血を流して倒れている姿があり、それを斬ったであろう男たちが薄気味悪い笑みを浮かべて立っていた。
「…みんなっ…」
緋真は無理やり神威の肩から降り、一番近くにいた子供の傍へ駆け寄った。
「太一!しっかりして…どうしてすぐ逃げ出さなかったんだ!逃げ道はいつも教えていたのに……ッッ」
彼女の声に反応するように、その小さな身体は苦しそうにうめき声をあげながら、ゆっくりと目を開けて、緋真の顔を見た。そして、弱々しく枯れそうな声で口を開いたのだ。
「に、逃げて緋真…。昼間のアイツら、天人たちを連れて緋真を探しに来てるんだ。だから早く…」
そこで太一の声は途切れた。
神威はしゃがみ込んで少年の体を強く抱きしめる緋真の震える背中を見たが…そこから何も感じる事はなかった。
弱い奴には興味がない。
こんな野党達に殺される子供なら、生き永らえさせておいても強くなって自分の相手をしてくれる事はないだろう。
ここにきてようやく冷静になり、なぜ絶とうとしていたこの場所に戻ってきてしまったのか、いささか疑問を抱いた。
「…まただ。」
そんな時、彼女がぽつりぽつりと、独り言のように言葉を零し始めた。
「私は、先生のようにはなれない。夜中にここから離れて、こんな野党達から子供を守る事すらも、小さな命をつなぎとめてやる事もできない。平穏な生活を送るなんて、やっぱり私には無理だったんだ。」
「…!」
緋真を取り巻く空気が、一瞬にして変わった気がした。
彼女は太一をその場に優しく置き、ゆっくりと立ち上がった。
ようやく彼女の姿に気づいた野党達の視線が集まり、ぞろぞろと集まっては各々が口を開いた。
「テメェらが昼間俺たちをコケにしやがったんでな、天人の仲間を連れて戻ってきてやったぜ。」
「ガキにテメェの居場所を聞いても頑なに口を開かねぇからよぉ。気がみじけぇから全員殺しちまったよ。悪かったなぁ」
「どいつもこいつも、死に際にあんたの名前を叫んでは、逃げてくれって何度も何度もつぶやいて死んじまいやがった。全く、ふざけたガキ共だぜ。」
「…」
緋真はそんな奴らの言葉に、何も返さずただ俯いていた。
別に緋真と子供たちを庇い建てするつもりはないが、神威は自分が本来向こう側と同じ行いをする悪党であるのは理解している。だがこのような下等種族と一緒にされるのにはいささか腹立たしさを感じた。
子供は死んでしまったけれど、目の前にいる女はまだ生きている。
気に入ったものは、自分の手で殺す。強い奴も、自分の手で殺す。
そうやって生きてきた神威は、無意識に彼女の首に手をかけようと伸ばしていた。
ここでこんな奴らに殺されるくらいなら、さっき言っていたように俺が殺してやろうか。
その手が彼女にもう少しで届こうという時、背中越しで彼女はその男の名を呼んだ。
「…ねぇ、神威。」
「…なんだよ。」
「さっき言った言葉、忘れないでよ。」
「さっき言った?俺バカだからもう忘れちゃったよ。」
「…自分で言うかなぁ馬鹿って…。まぁいいや。これを片付けたら、私を殺してよ。神威。」
「…!」
そう言って顔だけ振り向いた彼女の表情は、確かに笑みを浮かべていた。
「おいこそこそ何喋ってやが…ッッ!!」
男たちが口を開いた瞬間、先ほどまで少し先にいたはずの緋真の姿が目の前に移動している事に驚き、言葉を詰まらせた。
油断した隙に、緋真は素早く男の手にしている刀を叩き落し、その手で強く落ちた刀を拾い握りしめては上に振り上げた。
体に真っすぐ斬り込まれる深い傷からは溢れるように血が噴き出し、彼女の体にべったりと付着した。
「なっ…なんだこの女ァァッ!」
隣にいた男が慌てて彼女に斬りかかろうとするが、それよりも早く緋真の刀が男の腹を突き刺した。
「ぐっ…」
「おせぇよ、クズ共。」
とても同じ人物とは思えぬほどの、地を這うような低い声。
神威はそんな緋真の姿を、微動だにせず、瞬きをする事もなく両目をかっと開いて見つめた。
全身の毛が逆立つような、武者震いのような感覚が体に伝わってくる。
なんだあの女は。
細くて弱そうで、一発でも殴ってしまえば死んでしまいそうなあの華奢な体のいったいどこに、あんな力があるとでもいうのだろうか。
無駄のない動き、華麗な剣捌き、相手を斬って血を浴びるその姿までもが、まるで彼女の魅力を引き立てるものの一つとなっているような気さえした。
弱いと思っていた存在が、目の前で鬼のような強さを見せる光景に、神威は自然と笑みが零れていた。
ーーー面白い。
心の底から、そう思った。
そんな神威の心境を余所に、緋真は次々と野党達を切り刻んで数を減らしていた。
人間の男たちはあっという間に彼女に全滅させられ、残りは人間の姿とはほど遠い、動物に似たような顔をした天人達だけが残った。
緋真は俯いたまま奴らに近づき、右目を覆っていた包帯をゆっくりほどきながら、口を開いた。
「やっぱり向いてない事はやらないもんだな。自分のこの手に抱えられるモンすら守れない。こんな奴らを殺すために、再び刀に手を延ばさなければいけない。つくづく自分の人生に、嫌気がさすよ。」
そう言って顔を上げたと同時に露となった彼女の右目は、誰もが言葉を失う程の鋭い殺気を放った金色の瞳の色をしていた。
神威も思わず、その圧倒的な威圧感に息を呑んだ。
「て、テメェまさかあの…!」
彼女の互いに違う瞳の色を目の当たりにした天人が、酷く驚いて近づいてくる彼女から逃げるよう、一歩、二歩と後ずさりをし始めた。
「あの色の違う薄気味わりぃ目、間違いねぇ…!攘夷戦争で最後まで戦場に立っていたと言われる最強の鬼…羅刹女緋真だッ!!」
「へぇ、通り名なんてあったんだ。てっきり、白夜叉くらいしかないと思ってたけど…。光栄だねぇ。羅刹女だって…笑わせる。」
緋真が口元をフッと上げ、再び奴らの前から姿を消す。
そうして次にその視界でとらえたのは、既に自分の噴き出る血と共に、笑っている女の恐ろしい姿だった。
あっという間に何十人もいた天人や人間達を斬り殺し、緋真は手にしていた刀をその屍の山の中へ放り投げた。
「やっぱり人斬りは人斬りだ。結局刀を取って、闘うことを選んでしまう。何一つ守れない、何一つ残せやしない。羅刹女なんて守護神の通り名つけたセンスのないやつは、どこのどいつだ。」
そう吐き捨てて焼かれた建物をじっと見つめる緋真を、神威はただじっと見て、拳を震わせたのだった。