三.共に生きる覚悟
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ものの数分で何十人といる攘夷志士を全て倒し、ため息ひとつ零して木刀を腰にさした。
「あれだけの人数を相手にして、無傷でなおかつ息も乱れていねぇなんて、恐ろしい人ですねぇ。」
聞き覚えのある特徴的なその口調と、ゆっくりと近づいてくるその容姿を見て、緋真は驚いて声を上げた。
「そっ、総悟!どうしてここに?」
「それはこっちのセリフでさァ。昨夜からコソコソ隠れて攘夷志士が何かやらかそうとしてるって情報が入ったんで、はえぇうちに畳んじまおうと思って来たら、入口で悪党に出くわすわ、いざ来てみればあんたが敵の中心に立ってるわで、よくわかんねぇんすけど。」
「あー…ちょ、ちょっと野暮用でね。」
「それより、どういう心境の変化でぃ。あれだけ姿を隠してたあんたが、ありのままの姿でいる方がよっぽど驚きなんだが…」
緋真を見て、沖田は尋ねる。
それを応えようとしたところで、もう一人真っ黒の髪をした男が沖田と並んでは、タバコに火をつけて彼女の方を見た。
ようやく近くに来て顔を上げると、土方はあっと驚いてタバコを落としそうになる。
ここに来る前に大方彼女のことは沖田から聞いていたが、真選組が灯した灯りで左右の違う瞳の色と赤く燃えるような炎の色をした髪がはっきりと見え、呼吸をすることすら忘れそうだ。
なんて綺麗な瞳をしているのだろう。
暗闇の少ない灯りでしか見えないものの、それはまさに人間のものとは思えぬほどの輝きを放っていた。
「土方さん、何見とれてるんですかァ?もしかして、緋真に一目惚れですかい?」
「ばっ、バカ言うなッッ!俺ぁただこの女の目が……」
「気味悪い、ですか?」
先程の闘う勇ましい姿とはうって変わり、弱々しい声とくしゃりと笑う彼女を見て、更に驚いた。
「気味悪いなんて思ってねぇよ。ただ、人間とは思えねぇ綺麗な目をしてやがんなと思っただけだ。」
素直にそう応えると、緋真は驚いた表情をしてはすぐにクスりと小さく微笑む。
沖田は恥ずかしいあまりに顔を逸らした土方を見て、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「まさか土方さんが女に一目惚れする日がくるたァ、俺も今まで生きてきたかいがあったってもんです。」
「だから違ぇって言ってんだろッッ!!だいたい何お前その気持ちわりぃツラ!俺をおちょくってんのか?!切腹させるぞコラァッッ!」
「ふふっ。仲良しなんですね。土方さん、でしたっけ。悪いんですけどそこの奴らまとめて真選組で身柄を引き取って貰えますか?」
「引き取るも何もコイツらは俺たちが元々目ェつけてた連中だからな。ま、どいつもこいつも既に息の根止められてそうだが…」
「いいえ。誰一人止めてませんよ。」
「なに……?」
あれだけの凄まじい闘いをしていて、誰一人敵が命を落としていないとでも言うのだろうか。
彼女が腰に差している刀を見ると、真剣だと思っていたそれは木刀で、奴らの処理を任せていた部下たちの方へと目を向けると、彼らも驚いた表情を浮かべながら運んでいた。
「こりゃすげぇや、みんな伸びちゃいるが誰一人死んでねぇ。」
誰かがそう呟いた時、土方は驚いた表情で目の前にいる緋真へと視線を戻す。
緋真は小さく笑って、その綺麗な目を再び開けた。
「無駄な殺生はするつもりはありませんよ。それに…」
「緋真ー!ここに刀あったよ。」
話の途中で小屋の中を見て神威がそう叫ぶのを聞き、彼女は目線をそちらに向けて〝はーい〟と返事をする。
そしてもう一度くるりと二人の方を見ては、口角を上げて再び口を開いた。
「刀をただの殺人道具としてか見てない腐った侍を、この場で死なせるような事はしません。せいぜい生きて、己のした罪を死ぬまで後悔させないと。」
そう言った緋真の表情は、笑っていても恐ろしさがひしひしと伝わってきた。
沖田と土方は思わず身震いをし、苦笑いをうかべた。
「さっ、では私はこれで。」
小さく頭を下げて、神威の方へとゆっくり歩いていく。
その小さな背中と華奢な身体は、刀を手にして神威と共に姿を消していった。
残った沖田と土方は、しばらく呆然と彼女達の背中を見送ったあと、ようやく我に返り大きく溜息をこぼした。
「…おっかねぇ女だぜ。あの神威って奴と一緒にいれるだけのこたァあるな。」
「…羅刹女、か。」
沖田は戦場跡を見て、そう小さく呟く。
土方はそれを聞き、首を傾げる。
「羅刹女?」
「あの人が攘夷戦争として闘っていた時、誰かがつけた通り名だそうでさァ。」
「鬼神の中でも強いといわれた、守護神〝羅刹女〟か。守るために剣を振るう。無駄な殺生はしねぇ。すげぇじゃねぇか。ウチの隊員に欲しいくれぇだ。」
「全くでさァ。ま、本人はどうやらその通り名が自分に合ってねぇとか言ってましたが、案外適切なのかもしれねぇなァ。どこかの副長も見習って欲しいとこですね。」
「おい、どこかの副長ってそれお前、明らかに俺の事だろぉがッッ!ねぇ、俺の事だよね?!」
「さぁて、帰りやすかね。おーいおめーら、引き上げるぞーい」
「おいこらてめ、総悟ッッ!待ちやがれッッ!!」
土方の嘆きを余所に、沖田は早々と部下たちを引き連れて歩いていく。
そして遅れながらも土方はそれについて行き、もう一度空を見上げては、彼女の綺麗な瞳思い出しては、小さく笑って走り出したのであった。
「あれだけの人数を相手にして、無傷でなおかつ息も乱れていねぇなんて、恐ろしい人ですねぇ。」
聞き覚えのある特徴的なその口調と、ゆっくりと近づいてくるその容姿を見て、緋真は驚いて声を上げた。
「そっ、総悟!どうしてここに?」
「それはこっちのセリフでさァ。昨夜からコソコソ隠れて攘夷志士が何かやらかそうとしてるって情報が入ったんで、はえぇうちに畳んじまおうと思って来たら、入口で悪党に出くわすわ、いざ来てみればあんたが敵の中心に立ってるわで、よくわかんねぇんすけど。」
「あー…ちょ、ちょっと野暮用でね。」
「それより、どういう心境の変化でぃ。あれだけ姿を隠してたあんたが、ありのままの姿でいる方がよっぽど驚きなんだが…」
緋真を見て、沖田は尋ねる。
それを応えようとしたところで、もう一人真っ黒の髪をした男が沖田と並んでは、タバコに火をつけて彼女の方を見た。
ようやく近くに来て顔を上げると、土方はあっと驚いてタバコを落としそうになる。
ここに来る前に大方彼女のことは沖田から聞いていたが、真選組が灯した灯りで左右の違う瞳の色と赤く燃えるような炎の色をした髪がはっきりと見え、呼吸をすることすら忘れそうだ。
なんて綺麗な瞳をしているのだろう。
暗闇の少ない灯りでしか見えないものの、それはまさに人間のものとは思えぬほどの輝きを放っていた。
「土方さん、何見とれてるんですかァ?もしかして、緋真に一目惚れですかい?」
「ばっ、バカ言うなッッ!俺ぁただこの女の目が……」
「気味悪い、ですか?」
先程の闘う勇ましい姿とはうって変わり、弱々しい声とくしゃりと笑う彼女を見て、更に驚いた。
「気味悪いなんて思ってねぇよ。ただ、人間とは思えねぇ綺麗な目をしてやがんなと思っただけだ。」
素直にそう応えると、緋真は驚いた表情をしてはすぐにクスりと小さく微笑む。
沖田は恥ずかしいあまりに顔を逸らした土方を見て、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「まさか土方さんが女に一目惚れする日がくるたァ、俺も今まで生きてきたかいがあったってもんです。」
「だから違ぇって言ってんだろッッ!!だいたい何お前その気持ちわりぃツラ!俺をおちょくってんのか?!切腹させるぞコラァッッ!」
「ふふっ。仲良しなんですね。土方さん、でしたっけ。悪いんですけどそこの奴らまとめて真選組で身柄を引き取って貰えますか?」
「引き取るも何もコイツらは俺たちが元々目ェつけてた連中だからな。ま、どいつもこいつも既に息の根止められてそうだが…」
「いいえ。誰一人止めてませんよ。」
「なに……?」
あれだけの凄まじい闘いをしていて、誰一人敵が命を落としていないとでも言うのだろうか。
彼女が腰に差している刀を見ると、真剣だと思っていたそれは木刀で、奴らの処理を任せていた部下たちの方へと目を向けると、彼らも驚いた表情を浮かべながら運んでいた。
「こりゃすげぇや、みんな伸びちゃいるが誰一人死んでねぇ。」
誰かがそう呟いた時、土方は驚いた表情で目の前にいる緋真へと視線を戻す。
緋真は小さく笑って、その綺麗な目を再び開けた。
「無駄な殺生はするつもりはありませんよ。それに…」
「緋真ー!ここに刀あったよ。」
話の途中で小屋の中を見て神威がそう叫ぶのを聞き、彼女は目線をそちらに向けて〝はーい〟と返事をする。
そしてもう一度くるりと二人の方を見ては、口角を上げて再び口を開いた。
「刀をただの殺人道具としてか見てない腐った侍を、この場で死なせるような事はしません。せいぜい生きて、己のした罪を死ぬまで後悔させないと。」
そう言った緋真の表情は、笑っていても恐ろしさがひしひしと伝わってきた。
沖田と土方は思わず身震いをし、苦笑いをうかべた。
「さっ、では私はこれで。」
小さく頭を下げて、神威の方へとゆっくり歩いていく。
その小さな背中と華奢な身体は、刀を手にして神威と共に姿を消していった。
残った沖田と土方は、しばらく呆然と彼女達の背中を見送ったあと、ようやく我に返り大きく溜息をこぼした。
「…おっかねぇ女だぜ。あの神威って奴と一緒にいれるだけのこたァあるな。」
「…羅刹女、か。」
沖田は戦場跡を見て、そう小さく呟く。
土方はそれを聞き、首を傾げる。
「羅刹女?」
「あの人が攘夷戦争として闘っていた時、誰かがつけた通り名だそうでさァ。」
「鬼神の中でも強いといわれた、守護神〝羅刹女〟か。守るために剣を振るう。無駄な殺生はしねぇ。すげぇじゃねぇか。ウチの隊員に欲しいくれぇだ。」
「全くでさァ。ま、本人はどうやらその通り名が自分に合ってねぇとか言ってましたが、案外適切なのかもしれねぇなァ。どこかの副長も見習って欲しいとこですね。」
「おい、どこかの副長ってそれお前、明らかに俺の事だろぉがッッ!ねぇ、俺の事だよね?!」
「さぁて、帰りやすかね。おーいおめーら、引き上げるぞーい」
「おいこらてめ、総悟ッッ!待ちやがれッッ!!」
土方の嘆きを余所に、沖田は早々と部下たちを引き連れて歩いていく。
そして遅れながらも土方はそれについて行き、もう一度空を見上げては、彼女の綺麗な瞳思い出しては、小さく笑って走り出したのであった。