一.守護神ー羅刹女ー
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神威がこの家に来てから、早くも一週間が立っていた。
子供たちもすっかり彼に懐き、時折遊んでとせがんでくる程だった。
ただ、遊ぶと言っても手加減を知らないせいか、よく緋真に死んじゃうからやめてくれ、と言われるのが決まりのようになっていた。
子供たちが昼寝の時間になると、神威と緋真は外を眺めながら二人で話すことが増えていた。
「緋真はどうしてここで子供たちの面倒見たりしてんの?」
ふとした時、神威がもう一度そう彼女に尋ねた。
「私ね、親の顔を知らないの。まだ赤ん坊だった頃に、人に拾われてね。こんな治安の悪い時代に、血の繋がらない私を、本当の子供のように育ててくれた寺子屋があって。そこで出会った友達や、その時の先生も。攘夷戦争が終わった頃に全部失ってしまったの。あの時の温かさも、楽しかった時間も忘れられなくて。だから今度は、私がそうなりたいって思って始めたんだ。まぁ実際、私の先生のように上手くはいかないんだけどね。」
情けなく笑みを浮かべる緋真に、神威は彼女から目線を逸らし、素っ気ない態度で返した。
「当たり前だろ。その先生と、緋真は違う生き物なんだから。同じ事ができる奴なんて、たかが知れてるよ。」
「……そうだね。神威の言う通りだ。」
「……じゃあ、その右目は?戦争でなくしたの?」
神威が包帯の上からそっと手を添えると、緋真は小さな声で、そうだよ。とだけ答えた。
「ネェネー。」
「…あれ、起きちゃった?皐月。」
彼女の育てている子供の中でも一番幼い皐月が、目を擦りながら緋真の元へやってきては、膝の上によじ登って再び目を閉じる。
そんな皐月の小さな頭を優しく撫でる彼女の顔は、本当の母親のような優しい眼差しをしていた。
その姿を見る度、神威は自身の母親である江華とどことなく姿が重なって見えるような気がした。
幼い頃、妹の神楽の頭を優しく撫でる、あの母のように。
そんな時。周りの木の葉がざわつき始めたのを耳にした。
何やら不穏な空気が漂い始めたと思いきや、前方に怪しい男たちの姿が見えたのだ。
「おー。こりゃぁいい場所はっけーん。」
「野菜や作物がいっぱい作ってあらァ。こりゃたまげた。」
「ひひっ、全部取ってってやろうぜぃ!」
野党達がこの森の奥にある場所へたまたま辿り着いたようだった。
腰には刀をチラつかせ、顔は見るからに善人ではない雰囲気をしている。
緋真はそれに気づき、じっと奴らを見つめた。
そして余所者の声に反応して目を覚ました子供たちが、寝室から次々と出てきては、奴らを見てすぐさま怯えた様子を見せた。
「……」
その光景を目の当たりにして、なぜか神威ももやもやし始めた。
「お、奥に女もいるぜぇ?」
「子供もいるなぁ。ちょうどいいや。近頃噂になってる裏商売人にでも売りさばいちまえば、一儲けできるかもなァ。」
「そりゃあいい。全員生け捕りにしようぜ。」
「いやぁ、あの女を売り飛ばすのは勿体ねぇ。俺達が可愛がってやろうぜ」
ゾロゾロと集団が緋真達のいる土地に足を踏み入れ、正面から向かい合う。
そうして緋真はスっと立ち上がり、奴らを睨みつけるようにじっと見つめた。
「お?なんだァ気の強そうな女だなァ。」
「……ここから今すぐ出て行って。あなた達が得をするような物は何も無いから。」
「そんなつめてぇ事言うなよォ。俺たちゃあんたに酌して貰えりゃそれでいーんだよ。なぁ?おめーら。」
先頭に立つ男がニヒリと笑みを浮かべてそう言うと、賛同の声があがる。
ざっと十人ほどいる男たちは皆、全て刀を所持しており、いつでも抜刀できるよう、柄に手を添えていた。
「酌したら、子供たちには手を出さない。とでも言うんですか?」
「ガキどもに手ぇ出すなってんなら、酌だけじゃすまねぇなぁ。まぁあんたが、身体も俺たちに委ねてくれるっつーんなら、話は別だけどよォ。」
その言葉に、ぎゃははと品の悪い笑い声が飛び交った。
「緋真…」
「ネェネ!」
「緋真、そんな奴らの挑発なんかにのるなよ!アイツら絶対緋真に酷いことして、飽きたら殺すんだ!俺の本当の姉ちゃんだって、そういう奴らに殺されたんだよ!」
泣きじゃくりながらも、彼女を必死で止めようとする子供たちの声を聞き、神威は更なる苛立ちを覚え、密かに拳を握った。
「大丈夫だよ、みんな。ちょっとだけ留守番頼んでいいかな。神威もいるし、できるよね?」
顔をこちらに向けることなく、緋真はいつもの優しい声でそう言った。
神威の視界に映る彼女の背中は、確かに弱い人間の小さな背中のはずなのに、その時は酷く勇ましくて強い背中に見えたような気がした。
緋真はゆっくりと奴らに近づいていき、距離を縮める。
そうして、彼女の身体を舐めまわすように見ている男たちが、その雪のような白い肌に手を伸ばそうとしたその時。
気づけば神威は男の手を強く握り締め、緋真の前に立ちはだかっていた。
この感情をなんて言うのか、どんな時に湧き出るものなのかは知らない。だけど今見てるこの光景は、間違いなく神威を腹立たせている事は確かだった。
「うっ、うわぁぁぁぁッッ!」
神威に腕を掴まれた男は大声で悲鳴をあげる。
緋真は彼の取った行動に酷く驚き、思わずその名を呼んだ。
「かっ、神威?!」
「なんかよく分かんないんだけどさァ。見ててつまんないんだよね。」
彼の顔はそれこそ見えないが、声色からして酷く怒りを抱いているのは緋真でも理解出来た。
「居候の俺に、子供の面倒押し付けてコイツらについてくくらいなら、俺がコイツら殺すから子供の面倒見ててよ。」
「えっ…」
「その方がよっぽど、お互いの性分にあってると思うんだよね!」
微笑んだまま、神威はまるで人形かのように大男をひょいと片手で持ち上げ、ほかの野党達に投げつける。
奴らはドミノ倒しのように次々と倒れていき、そして頭に血が上り、素早く抜刀した。
「か、神威待って!子供たちの前で残酷な戦い方はーーッッ」
「えぇ?それ難しい注文なんだけど。あいつら俺を殺る気だし。」
「お願い!首突っ込んだなら何とかして!じゃないと……今日の夜ご飯たくあん抜きにするよ!!」
緋真の精一杯の交渉に、神威は思わず噴き出した。
「ククッ、たくあん抜きって……!どんな脅しだよ。言われたことも聞いたことも無いんだけど。」
「……いやだって、他に思いつかなくて。」
「しょうがないなぁ。緋真のたくあん抜かれたんじゃ頑張っても意味が無いから、今回ばかりは言われた通りにしてやるよ。」
そう言って、神威は腰を低くして体勢を構えた。
迫り来る野党たちの太刀筋を見ては避け、一撃ずつ拳や蹴りを入れる。
すると、彼らの手にしていた刀は見事折れ、それを見た野党たちは目の前に立ちはだかった的に恐怖すら抱いた。
「たくあんに免じて、このくらいにしてやるけど、死にたくなけりゃ、二度とここに足を踏み入れんな。次は殺すよ?」
「くっ、くそ、なんて奴だ!!」
「撤退するぞ!命がいくつあっても足りやしねぇ!」
一瞬にして敵の強さを悟った奴らは、目にも止まらぬ早さで目の前から立ち去っていった。
神威を夜兎と知らない子供たちは、彼の強さにポカンと口を開けたまましばらく見惚れ、神威がやれやれ、といつもの笑顔に戻るのを見ると、裸足のまま神威の元へ駆け寄った。
「すげぇー!兄ちゃんめちゃくちゃ強ぇ!」
「かっこよかったよー!ねぇ、緋真姉ちゃん!」
「緋真もこれくらい強けりゃあなぁ。」
「…にちゃ、つよい!」
キラキラと輝いた目で自分見つめる子供たちに、神威は小さく息を吐いた。
緋真はそんな彼の元へ歩み寄り、柔らかい笑顔で口を開いた。
「ありがとう、神威。お礼に今日はご飯とたくあん大盛りにするね。」
「他にお礼の仕方知らないの?ねぇ。」
思わず突っ込む神威だが、そんな彼を余所に彼女はいつの間にか子供たちに囲まれていた。
「緋真!神威がいれば安心だな!」
「もう、ずーっとここにいてくれればいいのにな!」
「そうそう、緋真とけっこんして、ずーっと一緒にいればいいんだよ!」
「こらこら、結婚とかむやみに言わないの。それにお兄ちゃんだって帰るところがあるんだから、そんなこと言ったら困るでしょ?」
優しい声で子供をあやす彼女を見ては、いつの間にか自分の原因不明の苛立ちが収まっていることに気がついた。
さっきの感情は、一体なんだったのだろう。
そして家の中に入っていく彼女たちの背中を見て、少しここに長くい過ぎて情が湧いたのかともしれない考えては、真っ向からそれを否定したのだった。
子供たちもすっかり彼に懐き、時折遊んでとせがんでくる程だった。
ただ、遊ぶと言っても手加減を知らないせいか、よく緋真に死んじゃうからやめてくれ、と言われるのが決まりのようになっていた。
子供たちが昼寝の時間になると、神威と緋真は外を眺めながら二人で話すことが増えていた。
「緋真はどうしてここで子供たちの面倒見たりしてんの?」
ふとした時、神威がもう一度そう彼女に尋ねた。
「私ね、親の顔を知らないの。まだ赤ん坊だった頃に、人に拾われてね。こんな治安の悪い時代に、血の繋がらない私を、本当の子供のように育ててくれた寺子屋があって。そこで出会った友達や、その時の先生も。攘夷戦争が終わった頃に全部失ってしまったの。あの時の温かさも、楽しかった時間も忘れられなくて。だから今度は、私がそうなりたいって思って始めたんだ。まぁ実際、私の先生のように上手くはいかないんだけどね。」
情けなく笑みを浮かべる緋真に、神威は彼女から目線を逸らし、素っ気ない態度で返した。
「当たり前だろ。その先生と、緋真は違う生き物なんだから。同じ事ができる奴なんて、たかが知れてるよ。」
「……そうだね。神威の言う通りだ。」
「……じゃあ、その右目は?戦争でなくしたの?」
神威が包帯の上からそっと手を添えると、緋真は小さな声で、そうだよ。とだけ答えた。
「ネェネー。」
「…あれ、起きちゃった?皐月。」
彼女の育てている子供の中でも一番幼い皐月が、目を擦りながら緋真の元へやってきては、膝の上によじ登って再び目を閉じる。
そんな皐月の小さな頭を優しく撫でる彼女の顔は、本当の母親のような優しい眼差しをしていた。
その姿を見る度、神威は自身の母親である江華とどことなく姿が重なって見えるような気がした。
幼い頃、妹の神楽の頭を優しく撫でる、あの母のように。
そんな時。周りの木の葉がざわつき始めたのを耳にした。
何やら不穏な空気が漂い始めたと思いきや、前方に怪しい男たちの姿が見えたのだ。
「おー。こりゃぁいい場所はっけーん。」
「野菜や作物がいっぱい作ってあらァ。こりゃたまげた。」
「ひひっ、全部取ってってやろうぜぃ!」
野党達がこの森の奥にある場所へたまたま辿り着いたようだった。
腰には刀をチラつかせ、顔は見るからに善人ではない雰囲気をしている。
緋真はそれに気づき、じっと奴らを見つめた。
そして余所者の声に反応して目を覚ました子供たちが、寝室から次々と出てきては、奴らを見てすぐさま怯えた様子を見せた。
「……」
その光景を目の当たりにして、なぜか神威ももやもやし始めた。
「お、奥に女もいるぜぇ?」
「子供もいるなぁ。ちょうどいいや。近頃噂になってる裏商売人にでも売りさばいちまえば、一儲けできるかもなァ。」
「そりゃあいい。全員生け捕りにしようぜ。」
「いやぁ、あの女を売り飛ばすのは勿体ねぇ。俺達が可愛がってやろうぜ」
ゾロゾロと集団が緋真達のいる土地に足を踏み入れ、正面から向かい合う。
そうして緋真はスっと立ち上がり、奴らを睨みつけるようにじっと見つめた。
「お?なんだァ気の強そうな女だなァ。」
「……ここから今すぐ出て行って。あなた達が得をするような物は何も無いから。」
「そんなつめてぇ事言うなよォ。俺たちゃあんたに酌して貰えりゃそれでいーんだよ。なぁ?おめーら。」
先頭に立つ男がニヒリと笑みを浮かべてそう言うと、賛同の声があがる。
ざっと十人ほどいる男たちは皆、全て刀を所持しており、いつでも抜刀できるよう、柄に手を添えていた。
「酌したら、子供たちには手を出さない。とでも言うんですか?」
「ガキどもに手ぇ出すなってんなら、酌だけじゃすまねぇなぁ。まぁあんたが、身体も俺たちに委ねてくれるっつーんなら、話は別だけどよォ。」
その言葉に、ぎゃははと品の悪い笑い声が飛び交った。
「緋真…」
「ネェネ!」
「緋真、そんな奴らの挑発なんかにのるなよ!アイツら絶対緋真に酷いことして、飽きたら殺すんだ!俺の本当の姉ちゃんだって、そういう奴らに殺されたんだよ!」
泣きじゃくりながらも、彼女を必死で止めようとする子供たちの声を聞き、神威は更なる苛立ちを覚え、密かに拳を握った。
「大丈夫だよ、みんな。ちょっとだけ留守番頼んでいいかな。神威もいるし、できるよね?」
顔をこちらに向けることなく、緋真はいつもの優しい声でそう言った。
神威の視界に映る彼女の背中は、確かに弱い人間の小さな背中のはずなのに、その時は酷く勇ましくて強い背中に見えたような気がした。
緋真はゆっくりと奴らに近づいていき、距離を縮める。
そうして、彼女の身体を舐めまわすように見ている男たちが、その雪のような白い肌に手を伸ばそうとしたその時。
気づけば神威は男の手を強く握り締め、緋真の前に立ちはだかっていた。
この感情をなんて言うのか、どんな時に湧き出るものなのかは知らない。だけど今見てるこの光景は、間違いなく神威を腹立たせている事は確かだった。
「うっ、うわぁぁぁぁッッ!」
神威に腕を掴まれた男は大声で悲鳴をあげる。
緋真は彼の取った行動に酷く驚き、思わずその名を呼んだ。
「かっ、神威?!」
「なんかよく分かんないんだけどさァ。見ててつまんないんだよね。」
彼の顔はそれこそ見えないが、声色からして酷く怒りを抱いているのは緋真でも理解出来た。
「居候の俺に、子供の面倒押し付けてコイツらについてくくらいなら、俺がコイツら殺すから子供の面倒見ててよ。」
「えっ…」
「その方がよっぽど、お互いの性分にあってると思うんだよね!」
微笑んだまま、神威はまるで人形かのように大男をひょいと片手で持ち上げ、ほかの野党達に投げつける。
奴らはドミノ倒しのように次々と倒れていき、そして頭に血が上り、素早く抜刀した。
「か、神威待って!子供たちの前で残酷な戦い方はーーッッ」
「えぇ?それ難しい注文なんだけど。あいつら俺を殺る気だし。」
「お願い!首突っ込んだなら何とかして!じゃないと……今日の夜ご飯たくあん抜きにするよ!!」
緋真の精一杯の交渉に、神威は思わず噴き出した。
「ククッ、たくあん抜きって……!どんな脅しだよ。言われたことも聞いたことも無いんだけど。」
「……いやだって、他に思いつかなくて。」
「しょうがないなぁ。緋真のたくあん抜かれたんじゃ頑張っても意味が無いから、今回ばかりは言われた通りにしてやるよ。」
そう言って、神威は腰を低くして体勢を構えた。
迫り来る野党たちの太刀筋を見ては避け、一撃ずつ拳や蹴りを入れる。
すると、彼らの手にしていた刀は見事折れ、それを見た野党たちは目の前に立ちはだかった的に恐怖すら抱いた。
「たくあんに免じて、このくらいにしてやるけど、死にたくなけりゃ、二度とここに足を踏み入れんな。次は殺すよ?」
「くっ、くそ、なんて奴だ!!」
「撤退するぞ!命がいくつあっても足りやしねぇ!」
一瞬にして敵の強さを悟った奴らは、目にも止まらぬ早さで目の前から立ち去っていった。
神威を夜兎と知らない子供たちは、彼の強さにポカンと口を開けたまましばらく見惚れ、神威がやれやれ、といつもの笑顔に戻るのを見ると、裸足のまま神威の元へ駆け寄った。
「すげぇー!兄ちゃんめちゃくちゃ強ぇ!」
「かっこよかったよー!ねぇ、緋真姉ちゃん!」
「緋真もこれくらい強けりゃあなぁ。」
「…にちゃ、つよい!」
キラキラと輝いた目で自分見つめる子供たちに、神威は小さく息を吐いた。
緋真はそんな彼の元へ歩み寄り、柔らかい笑顔で口を開いた。
「ありがとう、神威。お礼に今日はご飯とたくあん大盛りにするね。」
「他にお礼の仕方知らないの?ねぇ。」
思わず突っ込む神威だが、そんな彼を余所に彼女はいつの間にか子供たちに囲まれていた。
「緋真!神威がいれば安心だな!」
「もう、ずーっとここにいてくれればいいのにな!」
「そうそう、緋真とけっこんして、ずーっと一緒にいればいいんだよ!」
「こらこら、結婚とかむやみに言わないの。それにお兄ちゃんだって帰るところがあるんだから、そんなこと言ったら困るでしょ?」
優しい声で子供をあやす彼女を見ては、いつの間にか自分の原因不明の苛立ちが収まっていることに気がついた。
さっきの感情は、一体なんだったのだろう。
そして家の中に入っていく彼女たちの背中を見て、少しここに長くい過ぎて情が湧いたのかともしれない考えては、真っ向からそれを否定したのだった。