三.共に生きる覚悟
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「ねぇ、私今日ちょっと行きたい所あるんだけど。」
朝食を自室で取った後、緋真はそう言いながら身支度を始める。
神威は彼女が目の前で着替える様子を、反対向きに椅子に座った体勢でじっと見つめながら、ぼんやりとそれを聞いていた。
いつ見ても雪のような白さを持つ綺麗な肌。いたるところにある傷跡。長い緋色の髪を束ねて見せるうなじは、更に色っぽくて男の欲を掻き立てる。
いくら警戒心がなくなったとはいえ、目の前でさらしだけの姿で着替えをする緋真は、自分の事を何だと思っているのだろうか。
男として自分を見ていないのか、はたまた自分が女として見られてないとでも思っているのだろうか。
心の奥底で、必死に理性を押し殺して実が熟すまで待っている神威からして、緋真のその無防備さは正直堪えていた。
「…ねぇ、神威、聞いてる?」
考え事をしていて返事を返さなかったせいか、着替え終えた自分と同じ服を着た緋真は目の前に顔を出し、不満そうな顔でこちらをじっと見る。
「はいはい、聞いてるよ。行きたい所があるんだろ?」
「もう。聞いてるなら返事くらしてよね。それとも、何か悩み事?」
「…いや。んで、どこに行きたいんだ?」
「銀兄のところに行きたいんだけど。」
神威はそれを聞いては驚き、頬杖をついていた手から顔をあげ、あからさまに嫌そうな顔をした。
「…なんで?」
「なんでって…この船にいるならそれなりに万全の状態にしときたいでしょ。刀を新調したくてね。でも私長いこと町から離れてたから、いい鍛冶屋も知らないし。かぶき町に根をはってる銀兄なら、どこかいい所知ってるかなと思ってさ。」
「…刀なんて、どれも一緒だろ?」
「まさか。刀にだって一つ一つ特徴もあるし、扱いも違うよ。」
含みのある彼女の物言いに、神威は首を傾げた。
「緋真はどんな刀がいいの?」
「うーんそうだなァ…。斬れない丈夫な刀が欲しいかな。」
「…何それ。」
「ふふっ。拳で生き抜いてきた神威には、刀の事なんてそう知らないでしょう。そういう刀も世の中にはあるんだよ。」
なんだかバカにされたような気がして、神威は更にむっとした表情をする。
緋真はそんな神威を見て、小さく笑った。
「まぁ、物を見れば分かるよ。」
「ま、刀を持つことには反対しないよ。緋真の実力が見れるっていうのなら、俺も尚更その刀が欲しい。でも、アイツのとこに一人で行くのは反対。」
「えーっ!だって私、銀兄くらいしか知り合いいないし…。」
「誰も行くななんて言ってないだろ。行くんなら俺も行く。」
そう返して椅子から立ち上がると、緋真は引きつった顔をしてこっちを見た。
「い、いやいいよ神威!たまには自分のしたい事しなよ!いつも私の相手ばっかりしてちゃ退屈だし、うん。今日は別々に行動しよ!ね?」
緋真は内心酷く焦りを感じていた。
どうも自分の兄弟子と神威は仲がいいわけではないらしいし、一緒に行けば何かとまた面倒事が起きそうな気がしてならない。
「やだよ。緋真がいないとつまらないだろ。それになんだかそっちの方が面白そうだし。」
「…じゃあ、喧嘩しないって約束する?」
「しない。」
「ほらぁ!もう、喧嘩するならお家でお留守番!私が一人で行動するのが心配なら阿伏兎に一緒に行ってもらうから!ね、それでいいでしょ?!」
「何その子供みたいな扱い方。…駄目だよ。阿伏兎は団長の尻ぬぐいで忙しいんだ。」
「団長はテメェだろーが!たまには阿伏兎を見習って団長らしい事しろよ!」
どちらも譲らないせいで、二人のいがみ合いが始まる。
そんな空気の中、神威の部屋へと訪れてきた阿伏兎は一歩足を踏み入れてその光景を目の当たりにし、真っ青な顔をしては立ち止まった。
このままそっと気づかれぬように出ていこう。
そう決意して踵をくるりと返し、抜き足忍び足で歩み始めた直後、背後にいる二人の声が重なった。
「「阿伏兎ッッ!!」」
恐る恐る振り向くと、凄まじい迫力の目線が二つ、こちらをじりじりと睨みつけていた。
「…あんだよぉ。二人の喧嘩に俺を巻き込むんじゃねぇやぃ。」
そう顔を引きつらせて零している間に、緋真がさっと近づいては阿伏兎の服の裾を掴んで上目遣いでこう言った。
「阿伏兎お願い!私と一緒に町へ行こう!ね!?」
「…はぁ?」
「何阿伏兎に上目遣いしておねだりみたいな事してんのさ。」
後ろにいる神威の不機嫌オーラが更に強まり、阿伏兎の額からは冷や汗が伝う。
「な、なんの話してんだお前さんたち…」
「私が銀兄の所に行こうとしたら、神威もついて行くってきかなくて!でも神威と銀兄たちが顔合わせると面倒事が起きそうだし、一人じゃとても止められる自信ないもん!」
上目遣いなうえにうるうると瞳を揺らしながらそう必死に訴える緋真の顔を見て、阿伏兎は苦い顔を浮かべた。
何て返そうか言葉を詰まらせていると、その逆サイドに神威が立ち満面の笑みで阿伏兎に視線を送った。
「…阿伏兎は、仕事で忙しいよね?」
「~~~ッッ!おいおい、勘弁してくれよぉ!二人で俺を挟むんじゃねぇ!」
「神威が暴走したら私一人じゃ止められないよーッ!助けて阿伏兎!お願い!」
「…」
ぎゅっと泣きついてくる緋真を見て、とうとう阿伏兎は脱力感を覚えた。
「緋真、阿伏兎が困ってるだろ。もう諦めなよ。阿伏兎はついて行かないよ。」
「神威が変な威圧与えるからでしょ!もういいよ、分かった。阿伏兎が行かないんなら、私も町へ出るのやめる。」
「…何でそうなるのさ。」
「刀の事ももう諦める。別に木刀一本でもなんとかなるし。」
フン、と不貞腐れた緋真を見て神威は小さくため息を零す。
だが内心ホッとはしたものの、彼女が求めているその刀を手にした時の強さが見たいのもまた事実。
ただでさえどこにでもある木刀を拾って渡しただけで、あの気迫を持つ緋真が、一体どこまで強くなるのかと考えるだけで、心が躍る。
ふんぞり返ってベッドに腰を下ろして腕を組み、そっぽを向いている緋真を見て、神威は再び大きくため息を零しては口を開いた。
「…わかったよ。阿伏兎も一緒でいい。」
「ほんと?!」
「お、おい何勝手に俺の意見なしで話を進めてんだよ!」
阿伏兎の主張を余所に、先ほどまでとは真逆のパッと晴れた顔をして立ち上がる緋真。
神威はそんな彼女と阿伏兎を見て、静かに口角を上げては付け加えをした。
「ただし、条件つきだけどね。」
「…え?」
「条件…?」
「今後俺の部屋で寝る時だけは、その刀は抱きしめて寝ない事。いいね?」
「…い、嫌だ!」
「えー、嫌なの?じゃあ阿伏兎は一緒に行かせないよ。」
「ひ、酷い!そんなの天秤にかけるなんて!私刀抱きしめて寝ないと落ち着かない主義なんだけど!」
「大丈夫だよ。ちゃんと眠れるように代わりのものを用意してあげるから。」
「代わりの物って何?!なんかいろいろ恐ろしいんですけど…阿伏兎ぉぉぉッ!」
再び満面の笑みを浮かべる神威に対し、緋真は阿伏兎の方へ泣きつく。
阿伏兎はしばらく二人のやり取りを見ては、もう一度大声で叫んだのであった。
「だからお前さんらの喧嘩に俺を巻き込むんじゃねぇぇッッ!!」
こうしてかぶき町へと向かうメンバーは、緋真と神威。そして二人の保護者として阿伏兎が加わったのだった。
朝食を自室で取った後、緋真はそう言いながら身支度を始める。
神威は彼女が目の前で着替える様子を、反対向きに椅子に座った体勢でじっと見つめながら、ぼんやりとそれを聞いていた。
いつ見ても雪のような白さを持つ綺麗な肌。いたるところにある傷跡。長い緋色の髪を束ねて見せるうなじは、更に色っぽくて男の欲を掻き立てる。
いくら警戒心がなくなったとはいえ、目の前でさらしだけの姿で着替えをする緋真は、自分の事を何だと思っているのだろうか。
男として自分を見ていないのか、はたまた自分が女として見られてないとでも思っているのだろうか。
心の奥底で、必死に理性を押し殺して実が熟すまで待っている神威からして、緋真のその無防備さは正直堪えていた。
「…ねぇ、神威、聞いてる?」
考え事をしていて返事を返さなかったせいか、着替え終えた自分と同じ服を着た緋真は目の前に顔を出し、不満そうな顔でこちらをじっと見る。
「はいはい、聞いてるよ。行きたい所があるんだろ?」
「もう。聞いてるなら返事くらしてよね。それとも、何か悩み事?」
「…いや。んで、どこに行きたいんだ?」
「銀兄のところに行きたいんだけど。」
神威はそれを聞いては驚き、頬杖をついていた手から顔をあげ、あからさまに嫌そうな顔をした。
「…なんで?」
「なんでって…この船にいるならそれなりに万全の状態にしときたいでしょ。刀を新調したくてね。でも私長いこと町から離れてたから、いい鍛冶屋も知らないし。かぶき町に根をはってる銀兄なら、どこかいい所知ってるかなと思ってさ。」
「…刀なんて、どれも一緒だろ?」
「まさか。刀にだって一つ一つ特徴もあるし、扱いも違うよ。」
含みのある彼女の物言いに、神威は首を傾げた。
「緋真はどんな刀がいいの?」
「うーんそうだなァ…。斬れない丈夫な刀が欲しいかな。」
「…何それ。」
「ふふっ。拳で生き抜いてきた神威には、刀の事なんてそう知らないでしょう。そういう刀も世の中にはあるんだよ。」
なんだかバカにされたような気がして、神威は更にむっとした表情をする。
緋真はそんな神威を見て、小さく笑った。
「まぁ、物を見れば分かるよ。」
「ま、刀を持つことには反対しないよ。緋真の実力が見れるっていうのなら、俺も尚更その刀が欲しい。でも、アイツのとこに一人で行くのは反対。」
「えーっ!だって私、銀兄くらいしか知り合いいないし…。」
「誰も行くななんて言ってないだろ。行くんなら俺も行く。」
そう返して椅子から立ち上がると、緋真は引きつった顔をしてこっちを見た。
「い、いやいいよ神威!たまには自分のしたい事しなよ!いつも私の相手ばっかりしてちゃ退屈だし、うん。今日は別々に行動しよ!ね?」
緋真は内心酷く焦りを感じていた。
どうも自分の兄弟子と神威は仲がいいわけではないらしいし、一緒に行けば何かとまた面倒事が起きそうな気がしてならない。
「やだよ。緋真がいないとつまらないだろ。それになんだかそっちの方が面白そうだし。」
「…じゃあ、喧嘩しないって約束する?」
「しない。」
「ほらぁ!もう、喧嘩するならお家でお留守番!私が一人で行動するのが心配なら阿伏兎に一緒に行ってもらうから!ね、それでいいでしょ?!」
「何その子供みたいな扱い方。…駄目だよ。阿伏兎は団長の尻ぬぐいで忙しいんだ。」
「団長はテメェだろーが!たまには阿伏兎を見習って団長らしい事しろよ!」
どちらも譲らないせいで、二人のいがみ合いが始まる。
そんな空気の中、神威の部屋へと訪れてきた阿伏兎は一歩足を踏み入れてその光景を目の当たりにし、真っ青な顔をしては立ち止まった。
このままそっと気づかれぬように出ていこう。
そう決意して踵をくるりと返し、抜き足忍び足で歩み始めた直後、背後にいる二人の声が重なった。
「「阿伏兎ッッ!!」」
恐る恐る振り向くと、凄まじい迫力の目線が二つ、こちらをじりじりと睨みつけていた。
「…あんだよぉ。二人の喧嘩に俺を巻き込むんじゃねぇやぃ。」
そう顔を引きつらせて零している間に、緋真がさっと近づいては阿伏兎の服の裾を掴んで上目遣いでこう言った。
「阿伏兎お願い!私と一緒に町へ行こう!ね!?」
「…はぁ?」
「何阿伏兎に上目遣いしておねだりみたいな事してんのさ。」
後ろにいる神威の不機嫌オーラが更に強まり、阿伏兎の額からは冷や汗が伝う。
「な、なんの話してんだお前さんたち…」
「私が銀兄の所に行こうとしたら、神威もついて行くってきかなくて!でも神威と銀兄たちが顔合わせると面倒事が起きそうだし、一人じゃとても止められる自信ないもん!」
上目遣いなうえにうるうると瞳を揺らしながらそう必死に訴える緋真の顔を見て、阿伏兎は苦い顔を浮かべた。
何て返そうか言葉を詰まらせていると、その逆サイドに神威が立ち満面の笑みで阿伏兎に視線を送った。
「…阿伏兎は、仕事で忙しいよね?」
「~~~ッッ!おいおい、勘弁してくれよぉ!二人で俺を挟むんじゃねぇ!」
「神威が暴走したら私一人じゃ止められないよーッ!助けて阿伏兎!お願い!」
「…」
ぎゅっと泣きついてくる緋真を見て、とうとう阿伏兎は脱力感を覚えた。
「緋真、阿伏兎が困ってるだろ。もう諦めなよ。阿伏兎はついて行かないよ。」
「神威が変な威圧与えるからでしょ!もういいよ、分かった。阿伏兎が行かないんなら、私も町へ出るのやめる。」
「…何でそうなるのさ。」
「刀の事ももう諦める。別に木刀一本でもなんとかなるし。」
フン、と不貞腐れた緋真を見て神威は小さくため息を零す。
だが内心ホッとはしたものの、彼女が求めているその刀を手にした時の強さが見たいのもまた事実。
ただでさえどこにでもある木刀を拾って渡しただけで、あの気迫を持つ緋真が、一体どこまで強くなるのかと考えるだけで、心が躍る。
ふんぞり返ってベッドに腰を下ろして腕を組み、そっぽを向いている緋真を見て、神威は再び大きくため息を零しては口を開いた。
「…わかったよ。阿伏兎も一緒でいい。」
「ほんと?!」
「お、おい何勝手に俺の意見なしで話を進めてんだよ!」
阿伏兎の主張を余所に、先ほどまでとは真逆のパッと晴れた顔をして立ち上がる緋真。
神威はそんな彼女と阿伏兎を見て、静かに口角を上げては付け加えをした。
「ただし、条件つきだけどね。」
「…え?」
「条件…?」
「今後俺の部屋で寝る時だけは、その刀は抱きしめて寝ない事。いいね?」
「…い、嫌だ!」
「えー、嫌なの?じゃあ阿伏兎は一緒に行かせないよ。」
「ひ、酷い!そんなの天秤にかけるなんて!私刀抱きしめて寝ないと落ち着かない主義なんだけど!」
「大丈夫だよ。ちゃんと眠れるように代わりのものを用意してあげるから。」
「代わりの物って何?!なんかいろいろ恐ろしいんですけど…阿伏兎ぉぉぉッ!」
再び満面の笑みを浮かべる神威に対し、緋真は阿伏兎の方へ泣きつく。
阿伏兎はしばらく二人のやり取りを見ては、もう一度大声で叫んだのであった。
「だからお前さんらの喧嘩に俺を巻き込むんじゃねぇぇッッ!!」
こうしてかぶき町へと向かうメンバーは、緋真と神威。そして二人の保護者として阿伏兎が加わったのだった。