三.共に生きる覚悟
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神威は自室へと戻るため、船の中の長い通路を歩んでいた。
すると後方から阿伏兎が追いかけてきては、情けない声で彼を呼んだ。
「おぉい団長ぉ。いいのかあんな事言っちまって…」
「なんだよ阿伏兎。もしかして、阿伏兎も納得いってない?」
くるりと阿伏兎の方へ振り返った神威は、いつも通りニコニコしている。
阿伏兎は大きくため息をこぼして、再び歩み始める神威の横に肩を並べた。
「そりゃァ姉ちゃんが実際どこまで強いか見た事ねぇからなんとも言えねぇが…。それよりもさっきの団員たちのツラ見ただろう。どう見ても奴らは姉ちゃんの事を男のやらしい目で見てるし、ありゃ姉ちゃんが危ねぇんじゃねぇのか?」
「……なんだそんな心配?それなら必要ないよ。」
軽い口調でそう返す神威に、阿伏兎は首を傾げた。
「まぁそんなに緋真の身を心配してるってんなら、阿伏兎もついておいでよ。面白いものが見えるから。」
にこりと微笑んで人差し指を口元にやり、辿り着いた自室へと入っていく。
阿伏兎は訳も分からぬまま、神威の後ろに続いた。
「……ッッ!」
最初に見て驚いたのは、団長である神威のベッドの隅で彼女がすやすやと寝息を立てている姿を見たことだった。
船から出る様子は見かけなかったしこの部屋にいるのは分かっていたが、まさかあの団長様が女と一緒に一つのベッドで夜を過ごしているのはさすがの阿伏兎も想定外だった。
次に驚いたのは、木刀を大事そうに抱えて眠っていることだった。
まるで愛しい男でも抱いているかのように、肌身離さず頬をくっつけている。
よくもまぁあんな体勢で熟睡できるもんだ、と阿伏兎は感心した。
神威は眠っている彼女を見て唖然としている阿伏兎の表情を見てニヤリと笑うと、彼の側へよって耳打ちをした。
「阿伏兎。緋真に向けて、殺気を放ってみなよ。」
「……はぁ?何言ってんだ団長」
「いいから。それが出来ないなら、あの無防備に寝てる女をエロい目で見てみなよ。」
「そっちの方が無茶な注文だぜぃ。俺にはあの姉ちゃんに欲情するほどの若さがもうねぇよ。」
阿伏兎は長い髪を掻きむしり、神威が何をさせようとしているのか意図が掴めないまま、じっと彼女を見つめた。
よく分からないが、試してみるか。
阿伏兎はその両目をカッと見開き、寝息を立てている緋真に向かって殺そうとする意志を差し向ける。
すると瞬く間の速さでベットから彼女の姿が消えたと思えば、次にその姿を見たのは自身の目の前だった。
「なっ……!」
ベッドから飛び、その左右違う色の目をかっと見開き殺意をまとった彼女は勢いよく手にしていた木刀をふりかざす。
あまりにもの驚きと素早い速さに阿伏兎の身体は反応しきれず、手に汗を握ったままその場で硬直した。
だが木刀が頭に振りかかるあと一歩のところで、横で傍観していた神威が口を挟んだのだ。
「緋真、阿伏兎だよ。」
穏やかな口調でそう呟くと、緋真はピタリと腕の動きを止め、宙を浮いた状態でパチリと瞬きして、阿伏兎を見つめた。
「あれ、阿伏兎?おはよ……ってわぁぁぁッッ!!」
今しがた見た彼女とは別人のように優しく微笑んでは、体勢を崩して阿伏兎の上に落ちる。
後ろに反っていた阿伏兎はそのまま彼女を乗せて床に倒れた。
「いったた……」
「……」
阿伏兎は未だに今起きた事を受け止められず、目を見開いたまま、上で座り込んで背中を摩っている緋真を見つめた。
ーーなんだったんだ、今のは。
そう思う彼の心を悟ったかのように、神威が口を開いた。
「…分かったろ、阿伏兎。寝込みの緋真は下手に手を出したらこっちが殺される。今まで生きてきた残酷な環境のせいで、緋真の身体は無意識でも殺意とかには反応するようにできてるんだ。」
得意げに笑って話す神威は、緋真が起き上がれるように手を差し伸べた。
「神威、また試したな……」
「あははっ。だって何度見ても面白いんだもん。あーんな子供っぽくて無防備な顔して寝てるのにさ。殺意向けたらまるで別人のように豹変して襲ってくるんだもん。」
緋真はその手をとりつつもじとりと神威を睨んだ後、阿伏兎の身体を起こすべく、背中に手を添えた。
「ごめんなさい、阿伏兎。重かったでしょう、怪我はない?」
そう心配そうな目で見つめる彼女は、普段通りの虫も殺せないような優しい顔をしていた。
「…緋真。心配しなくても阿伏兎だって夜兎族なんだ。そんなヤワじゃないよ。」
「そんな言い方ないでしょう。どーせ神威が面白がって阿伏兎で試したんでしょうが。阿伏兎は被害者だよ。」
「…ふぅん。」
阿伏兎の肩を持つ緋真が気に食わなかったのか、神威はつまらない表情を露骨にだしまま、頭の後ろで両手を組み、ベッドへ勢いよく腰を下ろした。
「…なぁるほど。こりゃ団長が気に入るわけだ。」
阿伏兎はゆっくりとその場に立ち上がり、自分よりも小さい緋真を見下ろして、優しく笑った。
「俺ァあんたを女だと思って見くびっちまってたようだ。…そうだよなァ。あの女に対して興味も示さず欲もない団長が、これだけ執着してる女なんだ。一筋縄で行くはずもねぇや。」
「…阿伏兎?さっきから何言ってるの?」
きょとんとした表情で首を傾げる。
阿伏兎はそんな可愛らしい緋真を見て、小さく首を横に振った。
「いや、何でもねぇよ。」
自分の団員達が密かに緋真に欲情している事を話すだけ、かえって彼女を不安にさせるかもしれない。
阿伏兎はそう考えて、その口を噤む。
しかしそこで、彼の頭の中にふとした疑問が浮かんだ。
「…なぁ、あんたのその寝起きの癖、団長はどうやって知ったんだ?俺と同じように殺気放ってやられた身か?それとも…」
声に出しつつ、よからぬ方向へと考えが進んでいき、言葉を詰まらせる。
緋真はそれを聞いて、腰に手を当てて小さく息を吐いた。
「おたくの団長様は、本当にとんでもない奴だよ。」
「…ってぇと?」
「あぁ、俺はね。阿伏兎が考えている事の両方を同時にしようとしたんだよ。」
「なっ…」
しれっと笑顔で応える神威に、団長らしからぬ行動をとった事に思わず阿伏兎は叫んだのだった。
「こんのすっとこどっこぉぉいッッ!!」
すると後方から阿伏兎が追いかけてきては、情けない声で彼を呼んだ。
「おぉい団長ぉ。いいのかあんな事言っちまって…」
「なんだよ阿伏兎。もしかして、阿伏兎も納得いってない?」
くるりと阿伏兎の方へ振り返った神威は、いつも通りニコニコしている。
阿伏兎は大きくため息をこぼして、再び歩み始める神威の横に肩を並べた。
「そりゃァ姉ちゃんが実際どこまで強いか見た事ねぇからなんとも言えねぇが…。それよりもさっきの団員たちのツラ見ただろう。どう見ても奴らは姉ちゃんの事を男のやらしい目で見てるし、ありゃ姉ちゃんが危ねぇんじゃねぇのか?」
「……なんだそんな心配?それなら必要ないよ。」
軽い口調でそう返す神威に、阿伏兎は首を傾げた。
「まぁそんなに緋真の身を心配してるってんなら、阿伏兎もついておいでよ。面白いものが見えるから。」
にこりと微笑んで人差し指を口元にやり、辿り着いた自室へと入っていく。
阿伏兎は訳も分からぬまま、神威の後ろに続いた。
「……ッッ!」
最初に見て驚いたのは、団長である神威のベッドの隅で彼女がすやすやと寝息を立てている姿を見たことだった。
船から出る様子は見かけなかったしこの部屋にいるのは分かっていたが、まさかあの団長様が女と一緒に一つのベッドで夜を過ごしているのはさすがの阿伏兎も想定外だった。
次に驚いたのは、木刀を大事そうに抱えて眠っていることだった。
まるで愛しい男でも抱いているかのように、肌身離さず頬をくっつけている。
よくもまぁあんな体勢で熟睡できるもんだ、と阿伏兎は感心した。
神威は眠っている彼女を見て唖然としている阿伏兎の表情を見てニヤリと笑うと、彼の側へよって耳打ちをした。
「阿伏兎。緋真に向けて、殺気を放ってみなよ。」
「……はぁ?何言ってんだ団長」
「いいから。それが出来ないなら、あの無防備に寝てる女をエロい目で見てみなよ。」
「そっちの方が無茶な注文だぜぃ。俺にはあの姉ちゃんに欲情するほどの若さがもうねぇよ。」
阿伏兎は長い髪を掻きむしり、神威が何をさせようとしているのか意図が掴めないまま、じっと彼女を見つめた。
よく分からないが、試してみるか。
阿伏兎はその両目をカッと見開き、寝息を立てている緋真に向かって殺そうとする意志を差し向ける。
すると瞬く間の速さでベットから彼女の姿が消えたと思えば、次にその姿を見たのは自身の目の前だった。
「なっ……!」
ベッドから飛び、その左右違う色の目をかっと見開き殺意をまとった彼女は勢いよく手にしていた木刀をふりかざす。
あまりにもの驚きと素早い速さに阿伏兎の身体は反応しきれず、手に汗を握ったままその場で硬直した。
だが木刀が頭に振りかかるあと一歩のところで、横で傍観していた神威が口を挟んだのだ。
「緋真、阿伏兎だよ。」
穏やかな口調でそう呟くと、緋真はピタリと腕の動きを止め、宙を浮いた状態でパチリと瞬きして、阿伏兎を見つめた。
「あれ、阿伏兎?おはよ……ってわぁぁぁッッ!!」
今しがた見た彼女とは別人のように優しく微笑んでは、体勢を崩して阿伏兎の上に落ちる。
後ろに反っていた阿伏兎はそのまま彼女を乗せて床に倒れた。
「いったた……」
「……」
阿伏兎は未だに今起きた事を受け止められず、目を見開いたまま、上で座り込んで背中を摩っている緋真を見つめた。
ーーなんだったんだ、今のは。
そう思う彼の心を悟ったかのように、神威が口を開いた。
「…分かったろ、阿伏兎。寝込みの緋真は下手に手を出したらこっちが殺される。今まで生きてきた残酷な環境のせいで、緋真の身体は無意識でも殺意とかには反応するようにできてるんだ。」
得意げに笑って話す神威は、緋真が起き上がれるように手を差し伸べた。
「神威、また試したな……」
「あははっ。だって何度見ても面白いんだもん。あーんな子供っぽくて無防備な顔して寝てるのにさ。殺意向けたらまるで別人のように豹変して襲ってくるんだもん。」
緋真はその手をとりつつもじとりと神威を睨んだ後、阿伏兎の身体を起こすべく、背中に手を添えた。
「ごめんなさい、阿伏兎。重かったでしょう、怪我はない?」
そう心配そうな目で見つめる彼女は、普段通りの虫も殺せないような優しい顔をしていた。
「…緋真。心配しなくても阿伏兎だって夜兎族なんだ。そんなヤワじゃないよ。」
「そんな言い方ないでしょう。どーせ神威が面白がって阿伏兎で試したんでしょうが。阿伏兎は被害者だよ。」
「…ふぅん。」
阿伏兎の肩を持つ緋真が気に食わなかったのか、神威はつまらない表情を露骨にだしまま、頭の後ろで両手を組み、ベッドへ勢いよく腰を下ろした。
「…なぁるほど。こりゃ団長が気に入るわけだ。」
阿伏兎はゆっくりとその場に立ち上がり、自分よりも小さい緋真を見下ろして、優しく笑った。
「俺ァあんたを女だと思って見くびっちまってたようだ。…そうだよなァ。あの女に対して興味も示さず欲もない団長が、これだけ執着してる女なんだ。一筋縄で行くはずもねぇや。」
「…阿伏兎?さっきから何言ってるの?」
きょとんとした表情で首を傾げる。
阿伏兎はそんな可愛らしい緋真を見て、小さく首を横に振った。
「いや、何でもねぇよ。」
自分の団員達が密かに緋真に欲情している事を話すだけ、かえって彼女を不安にさせるかもしれない。
阿伏兎はそう考えて、その口を噤む。
しかしそこで、彼の頭の中にふとした疑問が浮かんだ。
「…なぁ、あんたのその寝起きの癖、団長はどうやって知ったんだ?俺と同じように殺気放ってやられた身か?それとも…」
声に出しつつ、よからぬ方向へと考えが進んでいき、言葉を詰まらせる。
緋真はそれを聞いて、腰に手を当てて小さく息を吐いた。
「おたくの団長様は、本当にとんでもない奴だよ。」
「…ってぇと?」
「あぁ、俺はね。阿伏兎が考えている事の両方を同時にしようとしたんだよ。」
「なっ…」
しれっと笑顔で応える神威に、団長らしからぬ行動をとった事に思わず阿伏兎は叫んだのだった。
「こんのすっとこどっこぉぉいッッ!!」