一.守護神ー羅刹女ー
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畳の広間に一つだけ大きなテーブルが置かれた部屋に誘導され、子供たちに囲まれながらも腰を下ろした。
緋真は作った料理を順番に並べていき、召し上がれ。と優しく告げる。
子供たちは大きな声で〝いただきます!〟と言ったあと、夜兎の血を引く神威でも驚くほどの物凄い勢いで食事を始めた。
「ほら、君も食べないとこの子達に取られちゃうよ?」
「緋真のメシはうめーんだよ!兄ちゃんも早く食べなよー!」
自分の前に置かれたのは、子供たちとは比べ物にならないほど大きな丼にてんこ盛りに装ってあるご飯だった。
緋真は神威と目が合うと、にっこりと微笑む。
さすがに倒れる前から空腹だった神威は、箸を手に取りその米を口の中にかきいれるように食べ始めた。
「うわぁっ!お兄ちゃんすげー!」
「わたしもやるー!」
「ぼくもー!」
「俺だって早く食えるんだぜ!負けねぇからな!」
「はいはい、そんなとこ争わなくていいから。まだあるから沢山食べてね。」
子供と彼女の会話をバックに、神威は腹が満たされるまで、テーブルの上に置かれたたくあんで白米を食べ続けた。
子供たちはご飯を食べ終えるとすぐに庭へ出て遊び、
部屋には再び緋真と神威の二人が取り残された。
全員分の食器を片付けるために、緋真が腰をあげて動き始める。
神威はそんな彼女の姿をじっと目で覆い、再び尋ねた。
「……なんで俺が怪我したかとかも、何も聞かないんだな。」
「…怪我した原因にろくな理由はないからね。それに知ったところでどうかなる訳でもないし。」
「…」
神威にとって、彼女の返す言葉の意味はどれも理解出来ないことが多かった。
そもそも人助けをする心境も、自分と血の繋がらない子供たちを育てている彼女の人生そのものが疑問だった。
それもこんな山奥で生活してるが故に、食材の調達や栽培も自分たちでしなければいけない。
考えれば考えるほど、謎は深まっていくばかりだ。
あまり考えるのが得意ではない神威は、一旦全てを忘れることにして、全く別の質問を彼女にしてみた。
「メシ、美味かった。あのたくあん、どこのやつ?」
「どこのって…あれは畑で取れた大根から私が作ったやつだよ。何処産でもない。」
「へぇ、そりゃ凄いや。今まで食べた地球食の中でも格別に美味かった。」
「お褒めの言葉ありがとう。あ、これ終わったら包帯取り替えるから。」
「いいよ別に変えなくて。」
「はいはい、反論はまともに動けるようになってから言おうね。」
「……子供扱いするなよ。殺しちゃうよ?」
「よしてよ。もう何年も子供としか話してないから癖ついちゃってて。ごめんごめん。」
ひとつ文句を言えば、二つや三つ返してくる。口で勝てそうもないせいか、自分のペースでなかなか話せないことに違和感でしかなかった。
けれどもなぜか、それが少しだけ心地のいいような気もした。
涼しい乾いた風が家の中を通り抜けた。
緋真は慣れた手つきで神威の上半身に巻かれた包帯を解いていき、新しい包帯をしっかりと綺麗に巻いていく。
彼女の真っ直ぐな綺麗な髪が時折顔に触れ、擽ったさを感じながらも動かぬよう意識する。
そんな神威の努力を余所に、緋真はふぅ、と息を吐いて額の汗を拭った。
「やっぱりすごい回復力だね。もうほとんど傷は塞がってる。問題なのは傷口よりも、全身の血管に流れている毒の方だね。」
「……毒?」
「あれ、知らないの?傷口からしてたぶん刀だと思うけど、切っ先に毒を塗ってあったみたいだよ。夜兎族を相手にするんだから、まぁそれくらいの用意があってもおかしくは無いと思うんだけど。君はその毒のせいで出血もなかなか治まらなくて、貧血で倒れたってところかな。」
緋真に言われて、神威は奇襲を受けた時の記憶を遡っては、あぁなるほど!と言わんばかりに手のひらに拳を乗せた。
「まぁ、もう毒はほとんど抜いてあるから大丈夫。残りが抜ければいつも通り動けるようになると思うよ。ま、それまではしばらくここにいてもいいから、ゆっくり身体治しなよ。」
「……あんたって、何者?医者?それとも料理人?」
治療の手際の良さと判断と言い、料理のうまさといい、どちらが正解と答えられても納得がいく。
だが神威の予想していたそれを聞いた彼女は、ふふっと小さく笑い首を横に振った。
「残念、どっちもハズレ。まぁ時代の関係もあって医学の心得も料理の心得もあるけれど、どちらも本業じゃないよ。」
「じゃあ、本業は?」
そう尋ねると、彼女は始めて言葉を詰まらせた。
しばらくして、くしゃっと微笑んでは何故かいつもと違って弱々しい声で、こう返した。
「なんだろうな。今はあの子たちの、〝お姉さん〟かな。それで充分だよ。」
随分含みのある言い方だった。
神威は少しばかり、興味を抱き始めていた。
そうして彼が彼女に返した言葉は、自分でもらしくない発言だった。
「……神威だよ。」
「え?」
「このままだと、俺の名前も聞かないだろ、緋真。」
「男が怪我を負って倒れてたのに、いろいろ聞いたらそれこそ野暮でしょ?神威。」
もう一度微笑んだ彼女の表情は、今度は紛れもなく心の底から笑ったものだった。
緋真は作った料理を順番に並べていき、召し上がれ。と優しく告げる。
子供たちは大きな声で〝いただきます!〟と言ったあと、夜兎の血を引く神威でも驚くほどの物凄い勢いで食事を始めた。
「ほら、君も食べないとこの子達に取られちゃうよ?」
「緋真のメシはうめーんだよ!兄ちゃんも早く食べなよー!」
自分の前に置かれたのは、子供たちとは比べ物にならないほど大きな丼にてんこ盛りに装ってあるご飯だった。
緋真は神威と目が合うと、にっこりと微笑む。
さすがに倒れる前から空腹だった神威は、箸を手に取りその米を口の中にかきいれるように食べ始めた。
「うわぁっ!お兄ちゃんすげー!」
「わたしもやるー!」
「ぼくもー!」
「俺だって早く食えるんだぜ!負けねぇからな!」
「はいはい、そんなとこ争わなくていいから。まだあるから沢山食べてね。」
子供と彼女の会話をバックに、神威は腹が満たされるまで、テーブルの上に置かれたたくあんで白米を食べ続けた。
子供たちはご飯を食べ終えるとすぐに庭へ出て遊び、
部屋には再び緋真と神威の二人が取り残された。
全員分の食器を片付けるために、緋真が腰をあげて動き始める。
神威はそんな彼女の姿をじっと目で覆い、再び尋ねた。
「……なんで俺が怪我したかとかも、何も聞かないんだな。」
「…怪我した原因にろくな理由はないからね。それに知ったところでどうかなる訳でもないし。」
「…」
神威にとって、彼女の返す言葉の意味はどれも理解出来ないことが多かった。
そもそも人助けをする心境も、自分と血の繋がらない子供たちを育てている彼女の人生そのものが疑問だった。
それもこんな山奥で生活してるが故に、食材の調達や栽培も自分たちでしなければいけない。
考えれば考えるほど、謎は深まっていくばかりだ。
あまり考えるのが得意ではない神威は、一旦全てを忘れることにして、全く別の質問を彼女にしてみた。
「メシ、美味かった。あのたくあん、どこのやつ?」
「どこのって…あれは畑で取れた大根から私が作ったやつだよ。何処産でもない。」
「へぇ、そりゃ凄いや。今まで食べた地球食の中でも格別に美味かった。」
「お褒めの言葉ありがとう。あ、これ終わったら包帯取り替えるから。」
「いいよ別に変えなくて。」
「はいはい、反論はまともに動けるようになってから言おうね。」
「……子供扱いするなよ。殺しちゃうよ?」
「よしてよ。もう何年も子供としか話してないから癖ついちゃってて。ごめんごめん。」
ひとつ文句を言えば、二つや三つ返してくる。口で勝てそうもないせいか、自分のペースでなかなか話せないことに違和感でしかなかった。
けれどもなぜか、それが少しだけ心地のいいような気もした。
涼しい乾いた風が家の中を通り抜けた。
緋真は慣れた手つきで神威の上半身に巻かれた包帯を解いていき、新しい包帯をしっかりと綺麗に巻いていく。
彼女の真っ直ぐな綺麗な髪が時折顔に触れ、擽ったさを感じながらも動かぬよう意識する。
そんな神威の努力を余所に、緋真はふぅ、と息を吐いて額の汗を拭った。
「やっぱりすごい回復力だね。もうほとんど傷は塞がってる。問題なのは傷口よりも、全身の血管に流れている毒の方だね。」
「……毒?」
「あれ、知らないの?傷口からしてたぶん刀だと思うけど、切っ先に毒を塗ってあったみたいだよ。夜兎族を相手にするんだから、まぁそれくらいの用意があってもおかしくは無いと思うんだけど。君はその毒のせいで出血もなかなか治まらなくて、貧血で倒れたってところかな。」
緋真に言われて、神威は奇襲を受けた時の記憶を遡っては、あぁなるほど!と言わんばかりに手のひらに拳を乗せた。
「まぁ、もう毒はほとんど抜いてあるから大丈夫。残りが抜ければいつも通り動けるようになると思うよ。ま、それまではしばらくここにいてもいいから、ゆっくり身体治しなよ。」
「……あんたって、何者?医者?それとも料理人?」
治療の手際の良さと判断と言い、料理のうまさといい、どちらが正解と答えられても納得がいく。
だが神威の予想していたそれを聞いた彼女は、ふふっと小さく笑い首を横に振った。
「残念、どっちもハズレ。まぁ時代の関係もあって医学の心得も料理の心得もあるけれど、どちらも本業じゃないよ。」
「じゃあ、本業は?」
そう尋ねると、彼女は始めて言葉を詰まらせた。
しばらくして、くしゃっと微笑んでは何故かいつもと違って弱々しい声で、こう返した。
「なんだろうな。今はあの子たちの、〝お姉さん〟かな。それで充分だよ。」
随分含みのある言い方だった。
神威は少しばかり、興味を抱き始めていた。
そうして彼が彼女に返した言葉は、自分でもらしくない発言だった。
「……神威だよ。」
「え?」
「このままだと、俺の名前も聞かないだろ、緋真。」
「男が怪我を負って倒れてたのに、いろいろ聞いたらそれこそ野暮でしょ?神威。」
もう一度微笑んだ彼女の表情は、今度は紛れもなく心の底から笑ったものだった。