涙を貯めた緋真の目線の先には…その震えた自身の腕を掴んだ先にあるのは、随分と懐かしい男が映っていた。

耳からそっと手を離し、彼の赤い瞳をじっと見つめる。

「銀、にい…？」

消えそうな、弱々しい声で彼女が呟く。
銀時はその声を聞いて、フッと優しい笑みを零した。
それはまるで、大丈夫だ。安心しろと言っているかのようで。

気づけば銀時と同じように、もう二人が緋真の前に仁王立ちしていて、民間人たちの目に映らぬようにしていた。

「…あーもう、何やってんだよお前、片方カラコン落としやがって！ほら、俺達も探してやるから。な？」

「ちょっとちょっとー！見せもんじゃないアルよ！」

「はーいどいてどいて！緋真さんのコンタクト踏まないでくださいよー！じゃないと珍しい目だって疑われちゃうじゃないですか！」

緋真にとって、彼らが何を言っているかは分からなかったが、自分を囲むように立つ彼らの背中は、周囲の人達の軽蔑や強欲な目から守ってくれているように見えた。
彼らはしゃがみこんで、本当に地面の辺りを手で触り、コンタクトを探しているような素振りを見せた。

沖田は少しながら罪悪感を感じ、仕方なく万事屋のでっち上げた話に乗ることにした。

「…はーい、散った散ったァ。見せもんじゃねぇんだからとっととズラかりやがれ。」

手のひらを市民に向けて、しっしと追いやるように動かせば、さすが真選組と言うべきか。野次馬となって集まっていた奴らは少しずつ、踵を返して散り始めた。

「なんだ、ただの偽モンかぁ。」

「びっくりしたぁ。まぁそうだよね。オッドアイの奴がこんな町にいたら、それこそ誰が手にするか戦争になっちゃうし。」

「あーあ、残念だったな。これがホントなら、あの女手に入れて長者になれたかもしれねぇのに。」

「……」

一人の男がそう言ったのを耳にした神威は、拳を強く握り殺意を向ける。

だが銀時がそれを見ては、これ以上ここで荒立ててはまずいと悟り、急いで緋真の手を掴み全速力で走り出した。

「おい、今のうちにずらかるぞ！！」

「あぁ、ちょっと！！」

銀時の手に引かれ、緋真は瞬く間にその場から姿を消し、新八と神楽も慌てて二人の背中を追う。

そうして残された沖田と神威は、周囲に誰もいなくなったことを確認しては深くため息をつき、疾風の如く姿を消してしまった彼らの元へと走り出したのであった。