一.法度破り
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圧倒的な大人数の中、闘いは未だ幕を下ろすことなく廃ビルで続いていた。
大広場では形勢が不利だと判断した沖田は、ビルの中へ駆け込み身を潜めては、不意をついて切り倒すの繰り返しを行っていた。
だが、それも限界に近づいている。
身体のあちこちから血が流れ、視界がふらつく始末だ。
ようやくこうなって初めて、苛立っていた感情も消えて冷静さを取り戻してきた。
そうして最初に思い浮かべるのは、那智の微笑んだ顔。
沖田は肩で息をしながら、彼女を想い弱音を吐いた。
「クソッ、こんな時になんで那智の顔が浮かぶかなァ。……やってらんねぇ。」
徐々に力が抜けて崩れ落ちるように地へと座り込む。
「俺が下した事が間違ってるなんて思わねぇ…思いたくもねぇ。やっぱり那智は…あの人は真選組に居るべきじゃねぇんだ。このままじゃ俺が……ホントに女として見ちまう。抑えが効かなくなったら、それこそ終ぇだ。もう、今以上に傍にいることなんて、出来やしねぇ……」
沖田は誰よりも那智を近くで見てきた。
年上でプライドの高い性格と知っていても、自分の隊に居させたくて、近藤に半ば無理に頼み込んだ事を今でもハッキリと覚えている。
あのなにか大切なものを失って、抜け殻のようだった寂しくて悲しい表情をしていた彼女を最初に見て、誰よりもそばに居てやりたいと思ったからだ。
だが時間を共にしていけばしていくほど、男として装えと言った自分が、一番女として見ていることに気づき、終いにはその女の顔が見たくてかけていたちょっかいも、一人の男を前に全くの無意味となったのだ。
今回のことがただの嫉妬心から来てると言われれば、真っ向から否定は出来ない。
だがあの晴れた那智の顔を見てしまっては、彼女にとってそれ以上のない幸せだと、沖田は悟ってしまったのだった。
「あーあ。らしくねぇことするからこんな事になっちまうんでぃ。どーせなら、あの澄ました顔をこの手で女の顔に変えてから、手放しゃ良かった……」
手のひらを見つめれば、血がべっとりとついている。
もう長くは持たないだろう。
そしてのんびり考えているうちに、再び攘夷志士達に周囲を囲まれていた。
「こんな所に隠れやがって……俺たちをナメて一人で乗り込むからそーなるんだよ。真選組もやきがまわったな。」
隠れても無駄だとわかった沖田は、再び奴らの前に姿を現す。
そして諦めず、自分の刀の柄をもう一度強く握りしめた。
「あーあ、全くだ。下手にカッコつけてらしくねぇ事しようとするから、こういう結末になるんだよ。」
「なっ……!」
突然ビル内に響いた声を耳にし、ハッとする間に後方にいた攘夷志士達が次々に悲鳴を上げて血を噴き、倒れていく。
「なっ、なんだ?!」
前方は何が起こっているのかすら分からず、ただそちらの方向をじっと見ると、そこには赤みのかかった茶色い長い髪を靡かせた、一人の女の姿があった。
「ど、どうして……」
沖田は言葉が出なかった。
あれだけキツく突き放したはずの彼女が、なぜ今この場にいるのか、と。
そしてようやく彼の前に姿を現した那智は、以前着ていた制服ではなく、女物の黒い真選組の服を着ていた。
「……」
頬や身体のあちらこちらに返り血を浴び、刀から赤い雫を垂らし、彼女は敵のど真ん中で立ち止まった。
「な、なんでぃその格好は……新しい就職先の制服にしちゃ、真選組のやつと似てやがんな……」
「私の就職先は…私の居場所はいつだって真選組だ。そもそも、自分よりも年下のクソ隊長の命令なんて素直に受け止めるわけないだろ。」
「……あぁ?」
「さっき松平長官に頼んで、正式に雇用し直してもらったのさ。真選組の女人禁止制度を撤去し、真選組の初の女隊員として入隊の手続きをとってきた。だからこれは、新しい私の制服。私は真選組から抜ける気もないし、あんたの傍から離れるつもりは無いよ、総悟。」
「初の女隊員……?なんだよそれ、全然意味わかんねぇよ……」
「男と装って行くのが無理なら、堂々と女として真選組にいるって言ってんだよ。その筋を通せるように、今まで散々ムカつく任務にも耐えて信頼を得てきたんだ。今更それを棒になんてふるかっつーの。」
「……」
淡々と話す那智を見て、沖田は思わず苦笑いを浮かべてその場にしゃがみこむ。
いなくなってしまったと後悔すれば、何食わぬ顔で再び目の前に現れた那智を見て、気が抜けてしまったのだ。
那智はそんな傷だらけの沖田を見て、突如現れた自分の存在に驚いて身動きを取らない敵を睨みつける。そして、地を這うような低い声でこう言った。
「……どいつだよ。」
「……あ?」
「総悟をこれだけ手負いにしたのはどいだっつってんだ。」
前髪から微かに見える那智の目は、鬼のような鋭い殺気を放っていた。
更にそれを見て攘夷志士達は怯え始める。
だが那智は答えを待つことなく、手にしていた刀をもう一度グッと握りしめ、周囲にいる奴らをあっという間に斬り倒し始めた。
「全員死ぬ覚悟しろ。私は大事な人を傷つけられて、不殺を貫くほど優しくはない。」
更に奴らの殺意を駆り立て、全員で一人の女に総攻撃を仕掛ける。
「くっ、クソ女がァァァッッ!!」
「那智ッッ!!」
危機となった彼女の状況に思わず沖田が彼女の名を呼ぶと、那智はフッと息を吐いて彼に言った。
「その目ぇ見開いてよく見とけ総悟ッ!テメェがみすみす捨てようとした、真選組一番隊副隊長の強さを。」
その言葉を言い終えると、瞬く間に次々と敵を斬り捨てる。
澄ました顔で次々と平気で人を斬り、逆に斬られても
平然とした顔のままでその刀を振るう。
これが、周防那智の本当の力。
沖田は彼女の剣さばきと立ち振舞に目を見張り、息を飲んだ。
真選組の中で、きっと彼女に適う奴は他にはいないだろう。
もしこの女と太刀打ちできる人物がいるとしたら、かつて彼女が背中を守り抜いてきた、坂田銀時くらいだ。
あっという間に攘夷志士の連中は全てその場に倒れ、死体の瓦礫の山に那智はただ一人、何食わぬ顔で立っていたのだった。
大広場では形勢が不利だと判断した沖田は、ビルの中へ駆け込み身を潜めては、不意をついて切り倒すの繰り返しを行っていた。
だが、それも限界に近づいている。
身体のあちこちから血が流れ、視界がふらつく始末だ。
ようやくこうなって初めて、苛立っていた感情も消えて冷静さを取り戻してきた。
そうして最初に思い浮かべるのは、那智の微笑んだ顔。
沖田は肩で息をしながら、彼女を想い弱音を吐いた。
「クソッ、こんな時になんで那智の顔が浮かぶかなァ。……やってらんねぇ。」
徐々に力が抜けて崩れ落ちるように地へと座り込む。
「俺が下した事が間違ってるなんて思わねぇ…思いたくもねぇ。やっぱり那智は…あの人は真選組に居るべきじゃねぇんだ。このままじゃ俺が……ホントに女として見ちまう。抑えが効かなくなったら、それこそ終ぇだ。もう、今以上に傍にいることなんて、出来やしねぇ……」
沖田は誰よりも那智を近くで見てきた。
年上でプライドの高い性格と知っていても、自分の隊に居させたくて、近藤に半ば無理に頼み込んだ事を今でもハッキリと覚えている。
あのなにか大切なものを失って、抜け殻のようだった寂しくて悲しい表情をしていた彼女を最初に見て、誰よりもそばに居てやりたいと思ったからだ。
だが時間を共にしていけばしていくほど、男として装えと言った自分が、一番女として見ていることに気づき、終いにはその女の顔が見たくてかけていたちょっかいも、一人の男を前に全くの無意味となったのだ。
今回のことがただの嫉妬心から来てると言われれば、真っ向から否定は出来ない。
だがあの晴れた那智の顔を見てしまっては、彼女にとってそれ以上のない幸せだと、沖田は悟ってしまったのだった。
「あーあ。らしくねぇことするからこんな事になっちまうんでぃ。どーせなら、あの澄ました顔をこの手で女の顔に変えてから、手放しゃ良かった……」
手のひらを見つめれば、血がべっとりとついている。
もう長くは持たないだろう。
そしてのんびり考えているうちに、再び攘夷志士達に周囲を囲まれていた。
「こんな所に隠れやがって……俺たちをナメて一人で乗り込むからそーなるんだよ。真選組もやきがまわったな。」
隠れても無駄だとわかった沖田は、再び奴らの前に姿を現す。
そして諦めず、自分の刀の柄をもう一度強く握りしめた。
「あーあ、全くだ。下手にカッコつけてらしくねぇ事しようとするから、こういう結末になるんだよ。」
「なっ……!」
突然ビル内に響いた声を耳にし、ハッとする間に後方にいた攘夷志士達が次々に悲鳴を上げて血を噴き、倒れていく。
「なっ、なんだ?!」
前方は何が起こっているのかすら分からず、ただそちらの方向をじっと見ると、そこには赤みのかかった茶色い長い髪を靡かせた、一人の女の姿があった。
「ど、どうして……」
沖田は言葉が出なかった。
あれだけキツく突き放したはずの彼女が、なぜ今この場にいるのか、と。
そしてようやく彼の前に姿を現した那智は、以前着ていた制服ではなく、女物の黒い真選組の服を着ていた。
「……」
頬や身体のあちらこちらに返り血を浴び、刀から赤い雫を垂らし、彼女は敵のど真ん中で立ち止まった。
「な、なんでぃその格好は……新しい就職先の制服にしちゃ、真選組のやつと似てやがんな……」
「私の就職先は…私の居場所はいつだって真選組だ。そもそも、自分よりも年下のクソ隊長の命令なんて素直に受け止めるわけないだろ。」
「……あぁ?」
「さっき松平長官に頼んで、正式に雇用し直してもらったのさ。真選組の女人禁止制度を撤去し、真選組の初の女隊員として入隊の手続きをとってきた。だからこれは、新しい私の制服。私は真選組から抜ける気もないし、あんたの傍から離れるつもりは無いよ、総悟。」
「初の女隊員……?なんだよそれ、全然意味わかんねぇよ……」
「男と装って行くのが無理なら、堂々と女として真選組にいるって言ってんだよ。その筋を通せるように、今まで散々ムカつく任務にも耐えて信頼を得てきたんだ。今更それを棒になんてふるかっつーの。」
「……」
淡々と話す那智を見て、沖田は思わず苦笑いを浮かべてその場にしゃがみこむ。
いなくなってしまったと後悔すれば、何食わぬ顔で再び目の前に現れた那智を見て、気が抜けてしまったのだ。
那智はそんな傷だらけの沖田を見て、突如現れた自分の存在に驚いて身動きを取らない敵を睨みつける。そして、地を這うような低い声でこう言った。
「……どいつだよ。」
「……あ?」
「総悟をこれだけ手負いにしたのはどいだっつってんだ。」
前髪から微かに見える那智の目は、鬼のような鋭い殺気を放っていた。
更にそれを見て攘夷志士達は怯え始める。
だが那智は答えを待つことなく、手にしていた刀をもう一度グッと握りしめ、周囲にいる奴らをあっという間に斬り倒し始めた。
「全員死ぬ覚悟しろ。私は大事な人を傷つけられて、不殺を貫くほど優しくはない。」
更に奴らの殺意を駆り立て、全員で一人の女に総攻撃を仕掛ける。
「くっ、クソ女がァァァッッ!!」
「那智ッッ!!」
危機となった彼女の状況に思わず沖田が彼女の名を呼ぶと、那智はフッと息を吐いて彼に言った。
「その目ぇ見開いてよく見とけ総悟ッ!テメェがみすみす捨てようとした、真選組一番隊副隊長の強さを。」
その言葉を言い終えると、瞬く間に次々と敵を斬り捨てる。
澄ました顔で次々と平気で人を斬り、逆に斬られても
平然とした顔のままでその刀を振るう。
これが、周防那智の本当の力。
沖田は彼女の剣さばきと立ち振舞に目を見張り、息を飲んだ。
真選組の中で、きっと彼女に適う奴は他にはいないだろう。
もしこの女と太刀打ちできる人物がいるとしたら、かつて彼女が背中を守り抜いてきた、坂田銀時くらいだ。
あっという間に攘夷志士の連中は全てその場に倒れ、死体の瓦礫の山に那智はただ一人、何食わぬ顔で立っていたのだった。