例えどんな姿になったとしても。
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ーーー
「銀時、今日から君と一緒にここで生活することになりました、刹那です。君と一緒で、侍なんですよ。」
早朝からなんつー冗談を抜かしてやがるんだ、松陽。
最初に頭の中に浮かんだ言葉は、それだった。
師匠である松陰の隣にいるのは、全身傷だらけで手当を受けた様子の一人の小さな少年。
目は輝きを失い、誰も寄せ付けぬようなその拒絶するオーラ。
自分よりも少し年下な彼を見て、銀時は思った。
ーー松陽に出会う前の、俺とそっくりだ。
食べるために、生きるために人を斬り続け、何人もの屍を踏み台にして生き延びてた昔の銀時の目と、よく似ている。
だからこそ、自分を拾った時のように彼は刹那を拾ってきたのだろうか。
そう思いつつも、銀時はすっと手を伸ばして刹那に握手を求めた。
「俺は銀時。よろしくな。」
「…」
だが彼はその手をいっこうに掴まない。それどころか、銀時の伸ばした手をじっと見ては微動だにしなかった。
「刹那、握手ってのはね、こうやるんですよ。」
それを見兼ねた松陽は優しく彼の小さな腕を取り、銀時の手のひらに重ねさせた。
刹那は目を見開いて、繋がった手をじっと見る。
そしてその時、ようやく初めて口を開いた。
「これが、握手…」
銀時はそんな刹那を見て酷く驚いた。
握手をする事すら、やり方すらしらない。きっとこいつにも、それなりに過酷な過去を抱えているのだろう。
それならばなおさら、ありのままの自分で接するほうが良い。
銀時はそう決心して、時間さえあれば刹那の傍から離れるようにしていた。
刹那の剣の腕前は最初から凄かった。
毎日松陽に稽古をつけてもらっている自分にすら容易に一本を取る事もある。
それに負けずと銀時も刹那に挑み、互いにいい刺激となっていた。
聞けば、元々いた家が剣術を教えていた道場だったとか。
それ以外は何も聞かなかった。彼が家の話に触れられると、決まって泣きそうな顔をするからだ。
だから銀時は、自分の知っている事を刹那にありったけ教えた。
そんな接し方をしているうちに、気づけば刹那が銀時の傍を離れないようになった。
寺子屋のメンバーとも徐々に仲を深めていき、特によく話したのは高杉と桂だった。
「なぁ刹那ッ!たまには俺とも勝負しろよ!」
「高杉、この前刹那に負けたばっかであろう。」
「負けたからもっかい勝負すんだよ!なーいいだろ?刹那!」
「いいよ。返り討ちにしてやるからな」
松下村塾にいて、刹那は心から笑うようになり、心から信頼できる友と出会った。
毎日一緒に剣術を磨き、毎日一緒に笑って、怒って、泣いて。
そんな日を、松陽がいなくなるまで、ずっと続けていた。
皆がいなくなった後、時折松陽と月を見て他愛ない話をする時がある。
刹那も昼間の稽古ですっかり深い眠りについており、今日は久々に松陽と二人きりで時間を過ごしていた。
「銀時、彼はどうですか。」
「あぁ、最初の頃に比べるとすげぇ笑うようになったし、明るくなったよ。」
「そうですか、それはよかった。」
松陽はそう言って、月から手に持っている酒に目を向ける。
しばらくぼんやりとそれを眺めては、再び口を開いた。
「銀時…。彼を支えてやってくださいね。」
「…あ?」
「あの子も、ここにきている松下村塾にいる子たちもいろいろと何かを抱えています。けれど、刹那は人一倍感情を殺すのが得意な子です。哀しい時に哀しいと言えない。苦しい時に苦しいと言わない。助けを求めたくても、人に甘えたくても甘え方を知らない。そんな子です。だから銀時。君が一番誰よりも近くにいて、あの子の変化に気づいてあげて下さい。きっと君なら、それができる。」
「…」
松陽の重みのあるその言葉に、銀時はすぐには返さなかった。
しばらく考えた後、髪を掻いては松陽に向かってこう言った。
「難しい事は俺にも分からねぇ。でも、アイツが周りの奴らを大切に想ってるのは見てりゃ分かる。俺は別に人の気持ちに敏感でもねぇし気づいてやれるような優しい奴でもねぇから、せいぜい死なずにアイツの隣を歩いているよ。何年も、何十年も。あいつに背中を守られながら、あいつの背中を守る。俺にできるのはそれくらいだ。」
「…十分ですよ、銀時。ありがとう。」
月の光に照らされた松陽の顔は、とても優しい微笑みを浮かべていた。
銀時は少し照れ臭そうに鼻の頭を掻いては、フンと顔を背け、刹那が眠っている寝室の方に目を向けた。
こうしていつまでも、こんな日が続けばいいと思った。
アイツがいつも笑って、楽しく過ごせる日々が続けばいいと思った。
これが、銀時と刹那の幼い頃の記憶。
ーーーー
「へぇ、刹那さんって最初はそんな感じだったんですね。」
「…」
銀時がゆっくり話す過去の話に刹那もその頃を思い出していた。
松陽のおかげで、銀時のおかげでこうして今がある。あの時の自分がいる。
そう思うと、出会いというのは本当に不思議なもので、この横に座っている男とは、一生縁が切れないような気さえした。
「あの子もいろいろあったんだねぇ。いつも笑って明るい子だから、あたしゃ全然気にもとめなかったよ。」
「アイツはそういう奴さ。だからこそ、アイツの周りには人が集まって、アイツを支えようとする。それを守ろうとするために、アイツは強くなったんだ。」
いつも何気なく聞いているせいか、全く気が付かなかった。
銀時が自分を想って話す時、こんな優しい目をすることに。
こんな優しい声色で、ゆっくりと話す事に。
いつもと違う視点で、見えぬものが見えるかもしれないとよく言うが、まさにこの事だと、刹那は思った。
そして彼の事を改めて、大切で一番護り抜きたいと心の中で強く誓いを立てたのであった。
「銀時、今日から君と一緒にここで生活することになりました、刹那です。君と一緒で、侍なんですよ。」
早朝からなんつー冗談を抜かしてやがるんだ、松陽。
最初に頭の中に浮かんだ言葉は、それだった。
師匠である松陰の隣にいるのは、全身傷だらけで手当を受けた様子の一人の小さな少年。
目は輝きを失い、誰も寄せ付けぬようなその拒絶するオーラ。
自分よりも少し年下な彼を見て、銀時は思った。
ーー松陽に出会う前の、俺とそっくりだ。
食べるために、生きるために人を斬り続け、何人もの屍を踏み台にして生き延びてた昔の銀時の目と、よく似ている。
だからこそ、自分を拾った時のように彼は刹那を拾ってきたのだろうか。
そう思いつつも、銀時はすっと手を伸ばして刹那に握手を求めた。
「俺は銀時。よろしくな。」
「…」
だが彼はその手をいっこうに掴まない。それどころか、銀時の伸ばした手をじっと見ては微動だにしなかった。
「刹那、握手ってのはね、こうやるんですよ。」
それを見兼ねた松陽は優しく彼の小さな腕を取り、銀時の手のひらに重ねさせた。
刹那は目を見開いて、繋がった手をじっと見る。
そしてその時、ようやく初めて口を開いた。
「これが、握手…」
銀時はそんな刹那を見て酷く驚いた。
握手をする事すら、やり方すらしらない。きっとこいつにも、それなりに過酷な過去を抱えているのだろう。
それならばなおさら、ありのままの自分で接するほうが良い。
銀時はそう決心して、時間さえあれば刹那の傍から離れるようにしていた。
刹那の剣の腕前は最初から凄かった。
毎日松陽に稽古をつけてもらっている自分にすら容易に一本を取る事もある。
それに負けずと銀時も刹那に挑み、互いにいい刺激となっていた。
聞けば、元々いた家が剣術を教えていた道場だったとか。
それ以外は何も聞かなかった。彼が家の話に触れられると、決まって泣きそうな顔をするからだ。
だから銀時は、自分の知っている事を刹那にありったけ教えた。
そんな接し方をしているうちに、気づけば刹那が銀時の傍を離れないようになった。
寺子屋のメンバーとも徐々に仲を深めていき、特によく話したのは高杉と桂だった。
「なぁ刹那ッ!たまには俺とも勝負しろよ!」
「高杉、この前刹那に負けたばっかであろう。」
「負けたからもっかい勝負すんだよ!なーいいだろ?刹那!」
「いいよ。返り討ちにしてやるからな」
松下村塾にいて、刹那は心から笑うようになり、心から信頼できる友と出会った。
毎日一緒に剣術を磨き、毎日一緒に笑って、怒って、泣いて。
そんな日を、松陽がいなくなるまで、ずっと続けていた。
皆がいなくなった後、時折松陽と月を見て他愛ない話をする時がある。
刹那も昼間の稽古ですっかり深い眠りについており、今日は久々に松陽と二人きりで時間を過ごしていた。
「銀時、彼はどうですか。」
「あぁ、最初の頃に比べるとすげぇ笑うようになったし、明るくなったよ。」
「そうですか、それはよかった。」
松陽はそう言って、月から手に持っている酒に目を向ける。
しばらくぼんやりとそれを眺めては、再び口を開いた。
「銀時…。彼を支えてやってくださいね。」
「…あ?」
「あの子も、ここにきている松下村塾にいる子たちもいろいろと何かを抱えています。けれど、刹那は人一倍感情を殺すのが得意な子です。哀しい時に哀しいと言えない。苦しい時に苦しいと言わない。助けを求めたくても、人に甘えたくても甘え方を知らない。そんな子です。だから銀時。君が一番誰よりも近くにいて、あの子の変化に気づいてあげて下さい。きっと君なら、それができる。」
「…」
松陽の重みのあるその言葉に、銀時はすぐには返さなかった。
しばらく考えた後、髪を掻いては松陽に向かってこう言った。
「難しい事は俺にも分からねぇ。でも、アイツが周りの奴らを大切に想ってるのは見てりゃ分かる。俺は別に人の気持ちに敏感でもねぇし気づいてやれるような優しい奴でもねぇから、せいぜい死なずにアイツの隣を歩いているよ。何年も、何十年も。あいつに背中を守られながら、あいつの背中を守る。俺にできるのはそれくらいだ。」
「…十分ですよ、銀時。ありがとう。」
月の光に照らされた松陽の顔は、とても優しい微笑みを浮かべていた。
銀時は少し照れ臭そうに鼻の頭を掻いては、フンと顔を背け、刹那が眠っている寝室の方に目を向けた。
こうしていつまでも、こんな日が続けばいいと思った。
アイツがいつも笑って、楽しく過ごせる日々が続けばいいと思った。
これが、銀時と刹那の幼い頃の記憶。
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「へぇ、刹那さんって最初はそんな感じだったんですね。」
「…」
銀時がゆっくり話す過去の話に刹那もその頃を思い出していた。
松陽のおかげで、銀時のおかげでこうして今がある。あの時の自分がいる。
そう思うと、出会いというのは本当に不思議なもので、この横に座っている男とは、一生縁が切れないような気さえした。
「あの子もいろいろあったんだねぇ。いつも笑って明るい子だから、あたしゃ全然気にもとめなかったよ。」
「アイツはそういう奴さ。だからこそ、アイツの周りには人が集まって、アイツを支えようとする。それを守ろうとするために、アイツは強くなったんだ。」
いつも何気なく聞いているせいか、全く気が付かなかった。
銀時が自分を想って話す時、こんな優しい目をすることに。
こんな優しい声色で、ゆっくりと話す事に。
いつもと違う視点で、見えぬものが見えるかもしれないとよく言うが、まさにこの事だと、刹那は思った。
そして彼の事を改めて、大切で一番護り抜きたいと心の中で強く誓いを立てたのであった。