例えどんな姿になったとしても。
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刹那と定春は源外の元を去り、銀時をさがしていた。
定春は元の姿に戻ったから結果としてはよし。
だが、それにより自分が元の姿に戻れる日が遠のいたというのもある。
刹那は頭を掻きむしりながら、その小さな頭で必死に策を練った。
定春はそんな彼女を守るようにして、一時もそばを離れる事はなかった。
刹那はそれを悟るようにし、愛らしい定春の顔を優しく撫でる。
「しっかし、この姿じゃ銀時が行ってるパチンコにも入れないし…。第一この姿を見てアイツが気づいてくれる確証もないしなぁ。いくらこのころの姿に見慣れているとはいえ、傷もないし今更急に子供になりました!なんて話し信じてくれなさそうだし…って、隠さないといけないんだっけか。」
はぁ、と大きくため息を零す。
定春は刹那の落ち込んだ様子を見て、クゥンと小さな声で喉を鳴らした。
「仕方ない。やっぱり別人としてしばらくアイツんとこで生活するしかないな。」
そう決意した刹那は、街から外れて筆と紙を用意してつらつらと手紙を書き始めた。
そしてそれを懐に入れ、再び銀時を探す道へと足を動かした。
通り慣れた細い路地を抜けて大通りに出ようとすると、慣れない体のせいか思いきり誰かにぶつかり、しりもちをついた。
「いたたた…」
鼻が平になってしまったのではないかと思うほどの痛みを覚える。
顔をさすっていると、そっと目の前に手が差し伸べられた。
「おい、大丈夫か。」
聞き覚えのあるその声に、冷やりと汗をかいた。
手を除けてその先を見ると、そこには黒い制服と腰に刀をさし、タバコを咥えた特徴のある鬼の副長こと、土方が立っていた。
「ひっ…!」
まさかこんな所で彼らに会うとは思っていなかった刹那は、思わず驚いて後ろに体を反らす。
銀時にバレてはいけない、となれば馴染のある彼らにも自分が刹那だという事を悟られるわけにはいかない。
かと言って今ここで逃げれば余計に怪しまれる。
どうしようかとその場で考えこんで高まっているうちに、土方の後ろからもう一人姿を現わした者がいた。
「土方さぁん、ガキがあんたの顔見て怖がってるじゃねぇですかぃ。」
「あ?なんでだよ!俺ァ手ェ差し伸べただけだろーが!」
「その万年眉間にしわが寄って血走ってる目が怖いんでさァ。ほらガキ、立てるか?」
まさしく刹那の心境は更に焦りを覚える。
彼の隣にいたのは、土方よりも馴染のある沖田だったからだ。
しかし彼も土方と同じように自分に手を差し伸べ、優しい眼差しを向けてくる。
さすがにこの手まで取らないわけにはいかず、刹那は小さく礼を言って沖田の手を掴んだ。
「なんでぇ、お前ガキには優しい一面もあるんだな。」
「何言ってんですかィ土方さん。このガキ、よく見てくだせぇ。アイツにそっくりでさァ。」
「…そういわれてみりゃぁそうだな。」
刹那の心臓がドキリと跳ねる。しかしそれとほぼ同時に、彼の手をとった小さな手を、沖田がぎゅっと強く握りしめては、含みのある笑みを浮かべた。
ーーー逃げれない。
まさかもう気づかれたのか ?!
顔を上げられず、刹那の額からは汗がぽたりぽたりと流れ落ちる。
「おいガキ、迷子か?親はどうした。おにーさんが一緒に探してやろうか?」
「ーーッ!」
自分の視界に入るようにしゃがみ込んでそう言った、沖田の目が怖い。
この子供の姿である自分の正体をもう見抜いているのだろうか。
だが今ここで刹那であることを悟られていなければ、墓穴を掘るような言動は慎まなければならない。
(よし、距離をとろう。さっさとこの場を立ち去ろう。)
「だ、大丈夫です…」
「…驚いたな。声まで似てやがる。テメェもしかして、刹那の子供だったりしねぇよな?」
(無理だったーーー!!!)
射抜くような鋭い目線が二つ。
なぜ早くもこんな状況になってしまったんだと嘆きたい気持ちを必死に抑えながら、小さく息を呑んで再び口を開いた。
「総…じゃなかった。おにーさん、刹那さんを知っているの?」
その質問に、沖田はフッと嘲笑った。
「知ってるも何も、アイツァ俺の嫁で…」
「嫁じゃねぇだろ!子供にまで何でたらめ言ってんだテメェはッ!!」
沖田が最後まで言う前に、土方のげんこつが頭にめり込む。
彼は殴られた箇所を擦り、不貞腐れた表情を浮かべながら再びこちらを見つめた。
「チッ。…まぁ、よーく知ってるよ。アイツがどんな奴かも。どこで何してるかも。」
「そ、そうなんだ…。」
「テメェこそ、何でアイツの事を知ってる?」
「あ、あの!私…悪い人たちに追われているところを刹那さん助けてもらって、そのままかぶき町に行けって言われてこの町に来たの。その、銀髪のお兄ちゃんを探してこの手紙を見せろって…。」
懐にしまっていた手紙を彼らに見せる。
もちろん、自作自演ではあるが。
「おにーさん、銀髪のお兄さんがどこにいるか知らない??」
「…銀髪のお兄さんって、万事屋しかいねぇよな。」
「まぁアイツが手紙を託すっていや、旦那でしょうね。」
「探してるんだけど、見つからなくて…。」
俯いて落ち込んだ様子を見せる。
その時影に身を潜めていた定春がひょっこり顔を出し、刹那の体にそっと擦りついた。
「て、テメェは万事屋んとこの…!」
「じゃあこのガキの言ってる事はまじですかい。それにしてもアイツ、一人でどこへ…」
「刹那さんは、少し後片付けしてから戻るって言ってました…。たぶん、私を売ろうとしてた悪い人たちをぶちのめし…いや、やっつけに行ってくれたんです。」
子供の話し方というのは、難しいものだと実感した。
この年頃で知らない単語や言葉はいっぱいある。いつものように話していては、当然それも怪しまれる要素になりかねない。
何とか頭をフル回転させながらウソを並べて彼らに事情を説明すると、沖田は先ほどよりも真剣で腰にある刀に手を添えた。
「…おいガキ。アイツァどっちの方向へ行った。」
「えっ…」
「一人じゃ危ねぇかもしれねぇ。すぐ追いかけねぇと…」
そう言ったのは、土方の方だった。タバコを咥える手で半分顔は隠しているものの、この目に映る彼の真剣な顔と少しばかり焦りを抱いているのは、一目見れば明白だった。
「待ってくだせぇ土方さん。…テメェを追いかけてたのは、天人か?人間か?」
「…人です。あと、刹那さんからこうも言われてます。」
「…?」
「自分を助けにくるような人がいたら言っといて欲しいって。心配いらないから追いかけてくるなって。」
「…アイツの〝心配いらない〟と〝大丈夫〟は信用ならねぇ。」
沖田の言葉がグサリと胸に突き刺さる。
正直言えば、ぐうの音も出ない。
「とは言っても、まぁ人間相手ならよっぽど大丈夫だろう。アイツみてぇな強い女が負けることはねぇはずだ。それより、刹那がこのガキを旦那に託したんなら、出会っちまった以上俺ァ旦那に渡しに行ってきますぜ。」
「そうだな。さすがにこの町にこのガキと犬一匹が歩いてるとあっちゃ、別の連中に狙われる可能性もあるしな。んで、あの野郎はどこにいんだ。」
ひどい化け物扱いを受けている事は目をつぶるとして、とりあえず自分を探しに行くなどと無謀な行動に出る事は抑えられたようだ。
そしてこの目の前にいる小さな子供が本人であるかもしれない、という疑いもなくなったようで、刹那は気づかれぬよう小さく安堵の息を零した。
「っつーか、その犬がいんならあいつの匂いで居場所辿れるだろ。」
「刹那さんもそう言って定春を一緒に連れてくように言ってくれたんだけど、定春が急に鼻が利かなくなっちゃったみたいで、匂いじゃ辿れないみたいなの。」
ちなみにこれは嘘ではない。
あの天才からくり技師とやらの機械のせいで、定春の鼻は全くと言い程一時的に機能しなくなっていた。
あれだけの煙を吸い込んだんだ。まぁ無理もない。
刹那はそう思いながら二人の男を見上げると、ふと気が付いた。
(この二人、こんなに身長あって逞しかったっけ。)
いつもはさほど変わらない背丈で彼らを見ているせいか、身長が高いとあまり感じたことはなかったが、今の姿では彼らの足の長さと大して変わらない。
うんと首を延ばして見上げなければ、彼らの目を見て話すことはできなかった。
「しゃーねぇな、どーせ暇だし探してやるよ。」
(今、暇って言ったよなこいつ。巡回中だぞおい。)
心の中で沖田にそう返しつつも、刹那はパッと晴れた顔をして彼らに礼を言った。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「俺ァ沖田総悟。総悟様とでも呼びやがれ。」
「…」
腹黒いサディストの笑顔を見て、思わず白い目を向ける。
すると沖田は声をあげて笑い、僅かに出た涙を人差し指でぬぐいながら優しい声でこう言った。
「ははっ!その引いたツラなんかアイツにそっくりでぃ。気に入った。特別に総悟って呼んでやらせてやらァ。んで、こっちがマヨネーズだ。」
「誰がマヨネーズだッ!俺ァ土方十四郎だ!!」
「ひ、土方さんと総悟さん…」
「オメェ子供のくせに律儀で礼儀正しいな…。んで、テメェはなんて名前なんだ?」
「えっ…」
その質問に、再びドキリと心臓が跳ねる。
すっかり忘れて名前など考えてもいなかった。ましてや本名を名乗るわけにもいかず、刹那はとっさに出てきた名前を名乗った。
「わ、私は紗奈って言います!」
「そーかい。んじゃ、行くぞ。おい犬っころ。こいつァ俺たちがきちんとテメェのご主人様の所に届けてやっから、テメェは大人しく家に帰って留守番でもしてな。」
「クゥン…」
沖田の言葉に、定春が鼻を鳴らす。
刹那はその頭をそっと撫でて、定春にしか聞こえないよう、小さく優しい声で言った。
「大丈夫だよ、定春。鼻が利かないし、そろそろお昼寝の時間だし。先に家に帰ってて。私も後で銀時連れて帰るから、ね。」
その言葉を聞いた定春は、もう一度だけワンッ!と元気よく吠えて、背中を向けて自宅の方へと歩んでいった。
それを見送った後、土方と沖田の方に目を向ける。
「んじゃ、行くか。」
「旦那探しは骨が折れそうだな」
そう言いながら、彼らは足を動かし始めた。
刹那もそれに続いて歩いていくが、歩幅が違いすぎて小走りになる。
運動音痴な事をすっかり忘れていた刹那は、小走りで彼らを追いかけようとしてーーーーー
「んぐっ!!!」
転んだ。
定春は元の姿に戻ったから結果としてはよし。
だが、それにより自分が元の姿に戻れる日が遠のいたというのもある。
刹那は頭を掻きむしりながら、その小さな頭で必死に策を練った。
定春はそんな彼女を守るようにして、一時もそばを離れる事はなかった。
刹那はそれを悟るようにし、愛らしい定春の顔を優しく撫でる。
「しっかし、この姿じゃ銀時が行ってるパチンコにも入れないし…。第一この姿を見てアイツが気づいてくれる確証もないしなぁ。いくらこのころの姿に見慣れているとはいえ、傷もないし今更急に子供になりました!なんて話し信じてくれなさそうだし…って、隠さないといけないんだっけか。」
はぁ、と大きくため息を零す。
定春は刹那の落ち込んだ様子を見て、クゥンと小さな声で喉を鳴らした。
「仕方ない。やっぱり別人としてしばらくアイツんとこで生活するしかないな。」
そう決意した刹那は、街から外れて筆と紙を用意してつらつらと手紙を書き始めた。
そしてそれを懐に入れ、再び銀時を探す道へと足を動かした。
通り慣れた細い路地を抜けて大通りに出ようとすると、慣れない体のせいか思いきり誰かにぶつかり、しりもちをついた。
「いたたた…」
鼻が平になってしまったのではないかと思うほどの痛みを覚える。
顔をさすっていると、そっと目の前に手が差し伸べられた。
「おい、大丈夫か。」
聞き覚えのあるその声に、冷やりと汗をかいた。
手を除けてその先を見ると、そこには黒い制服と腰に刀をさし、タバコを咥えた特徴のある鬼の副長こと、土方が立っていた。
「ひっ…!」
まさかこんな所で彼らに会うとは思っていなかった刹那は、思わず驚いて後ろに体を反らす。
銀時にバレてはいけない、となれば馴染のある彼らにも自分が刹那だという事を悟られるわけにはいかない。
かと言って今ここで逃げれば余計に怪しまれる。
どうしようかとその場で考えこんで高まっているうちに、土方の後ろからもう一人姿を現わした者がいた。
「土方さぁん、ガキがあんたの顔見て怖がってるじゃねぇですかぃ。」
「あ?なんでだよ!俺ァ手ェ差し伸べただけだろーが!」
「その万年眉間にしわが寄って血走ってる目が怖いんでさァ。ほらガキ、立てるか?」
まさしく刹那の心境は更に焦りを覚える。
彼の隣にいたのは、土方よりも馴染のある沖田だったからだ。
しかし彼も土方と同じように自分に手を差し伸べ、優しい眼差しを向けてくる。
さすがにこの手まで取らないわけにはいかず、刹那は小さく礼を言って沖田の手を掴んだ。
「なんでぇ、お前ガキには優しい一面もあるんだな。」
「何言ってんですかィ土方さん。このガキ、よく見てくだせぇ。アイツにそっくりでさァ。」
「…そういわれてみりゃぁそうだな。」
刹那の心臓がドキリと跳ねる。しかしそれとほぼ同時に、彼の手をとった小さな手を、沖田がぎゅっと強く握りしめては、含みのある笑みを浮かべた。
ーーー逃げれない。
まさかもう気づかれたのか ?!
顔を上げられず、刹那の額からは汗がぽたりぽたりと流れ落ちる。
「おいガキ、迷子か?親はどうした。おにーさんが一緒に探してやろうか?」
「ーーッ!」
自分の視界に入るようにしゃがみ込んでそう言った、沖田の目が怖い。
この子供の姿である自分の正体をもう見抜いているのだろうか。
だが今ここで刹那であることを悟られていなければ、墓穴を掘るような言動は慎まなければならない。
(よし、距離をとろう。さっさとこの場を立ち去ろう。)
「だ、大丈夫です…」
「…驚いたな。声まで似てやがる。テメェもしかして、刹那の子供だったりしねぇよな?」
(無理だったーーー!!!)
射抜くような鋭い目線が二つ。
なぜ早くもこんな状況になってしまったんだと嘆きたい気持ちを必死に抑えながら、小さく息を呑んで再び口を開いた。
「総…じゃなかった。おにーさん、刹那さんを知っているの?」
その質問に、沖田はフッと嘲笑った。
「知ってるも何も、アイツァ俺の嫁で…」
「嫁じゃねぇだろ!子供にまで何でたらめ言ってんだテメェはッ!!」
沖田が最後まで言う前に、土方のげんこつが頭にめり込む。
彼は殴られた箇所を擦り、不貞腐れた表情を浮かべながら再びこちらを見つめた。
「チッ。…まぁ、よーく知ってるよ。アイツがどんな奴かも。どこで何してるかも。」
「そ、そうなんだ…。」
「テメェこそ、何でアイツの事を知ってる?」
「あ、あの!私…悪い人たちに追われているところを刹那さん助けてもらって、そのままかぶき町に行けって言われてこの町に来たの。その、銀髪のお兄ちゃんを探してこの手紙を見せろって…。」
懐にしまっていた手紙を彼らに見せる。
もちろん、自作自演ではあるが。
「おにーさん、銀髪のお兄さんがどこにいるか知らない??」
「…銀髪のお兄さんって、万事屋しかいねぇよな。」
「まぁアイツが手紙を託すっていや、旦那でしょうね。」
「探してるんだけど、見つからなくて…。」
俯いて落ち込んだ様子を見せる。
その時影に身を潜めていた定春がひょっこり顔を出し、刹那の体にそっと擦りついた。
「て、テメェは万事屋んとこの…!」
「じゃあこのガキの言ってる事はまじですかい。それにしてもアイツ、一人でどこへ…」
「刹那さんは、少し後片付けしてから戻るって言ってました…。たぶん、私を売ろうとしてた悪い人たちをぶちのめし…いや、やっつけに行ってくれたんです。」
子供の話し方というのは、難しいものだと実感した。
この年頃で知らない単語や言葉はいっぱいある。いつものように話していては、当然それも怪しまれる要素になりかねない。
何とか頭をフル回転させながらウソを並べて彼らに事情を説明すると、沖田は先ほどよりも真剣で腰にある刀に手を添えた。
「…おいガキ。アイツァどっちの方向へ行った。」
「えっ…」
「一人じゃ危ねぇかもしれねぇ。すぐ追いかけねぇと…」
そう言ったのは、土方の方だった。タバコを咥える手で半分顔は隠しているものの、この目に映る彼の真剣な顔と少しばかり焦りを抱いているのは、一目見れば明白だった。
「待ってくだせぇ土方さん。…テメェを追いかけてたのは、天人か?人間か?」
「…人です。あと、刹那さんからこうも言われてます。」
「…?」
「自分を助けにくるような人がいたら言っといて欲しいって。心配いらないから追いかけてくるなって。」
「…アイツの〝心配いらない〟と〝大丈夫〟は信用ならねぇ。」
沖田の言葉がグサリと胸に突き刺さる。
正直言えば、ぐうの音も出ない。
「とは言っても、まぁ人間相手ならよっぽど大丈夫だろう。アイツみてぇな強い女が負けることはねぇはずだ。それより、刹那がこのガキを旦那に託したんなら、出会っちまった以上俺ァ旦那に渡しに行ってきますぜ。」
「そうだな。さすがにこの町にこのガキと犬一匹が歩いてるとあっちゃ、別の連中に狙われる可能性もあるしな。んで、あの野郎はどこにいんだ。」
ひどい化け物扱いを受けている事は目をつぶるとして、とりあえず自分を探しに行くなどと無謀な行動に出る事は抑えられたようだ。
そしてこの目の前にいる小さな子供が本人であるかもしれない、という疑いもなくなったようで、刹那は気づかれぬよう小さく安堵の息を零した。
「っつーか、その犬がいんならあいつの匂いで居場所辿れるだろ。」
「刹那さんもそう言って定春を一緒に連れてくように言ってくれたんだけど、定春が急に鼻が利かなくなっちゃったみたいで、匂いじゃ辿れないみたいなの。」
ちなみにこれは嘘ではない。
あの天才からくり技師とやらの機械のせいで、定春の鼻は全くと言い程一時的に機能しなくなっていた。
あれだけの煙を吸い込んだんだ。まぁ無理もない。
刹那はそう思いながら二人の男を見上げると、ふと気が付いた。
(この二人、こんなに身長あって逞しかったっけ。)
いつもはさほど変わらない背丈で彼らを見ているせいか、身長が高いとあまり感じたことはなかったが、今の姿では彼らの足の長さと大して変わらない。
うんと首を延ばして見上げなければ、彼らの目を見て話すことはできなかった。
「しゃーねぇな、どーせ暇だし探してやるよ。」
(今、暇って言ったよなこいつ。巡回中だぞおい。)
心の中で沖田にそう返しつつも、刹那はパッと晴れた顔をして彼らに礼を言った。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「俺ァ沖田総悟。総悟様とでも呼びやがれ。」
「…」
腹黒いサディストの笑顔を見て、思わず白い目を向ける。
すると沖田は声をあげて笑い、僅かに出た涙を人差し指でぬぐいながら優しい声でこう言った。
「ははっ!その引いたツラなんかアイツにそっくりでぃ。気に入った。特別に総悟って呼んでやらせてやらァ。んで、こっちがマヨネーズだ。」
「誰がマヨネーズだッ!俺ァ土方十四郎だ!!」
「ひ、土方さんと総悟さん…」
「オメェ子供のくせに律儀で礼儀正しいな…。んで、テメェはなんて名前なんだ?」
「えっ…」
その質問に、再びドキリと心臓が跳ねる。
すっかり忘れて名前など考えてもいなかった。ましてや本名を名乗るわけにもいかず、刹那はとっさに出てきた名前を名乗った。
「わ、私は紗奈って言います!」
「そーかい。んじゃ、行くぞ。おい犬っころ。こいつァ俺たちがきちんとテメェのご主人様の所に届けてやっから、テメェは大人しく家に帰って留守番でもしてな。」
「クゥン…」
沖田の言葉に、定春が鼻を鳴らす。
刹那はその頭をそっと撫でて、定春にしか聞こえないよう、小さく優しい声で言った。
「大丈夫だよ、定春。鼻が利かないし、そろそろお昼寝の時間だし。先に家に帰ってて。私も後で銀時連れて帰るから、ね。」
その言葉を聞いた定春は、もう一度だけワンッ!と元気よく吠えて、背中を向けて自宅の方へと歩んでいった。
それを見送った後、土方と沖田の方に目を向ける。
「んじゃ、行くか。」
「旦那探しは骨が折れそうだな」
そう言いながら、彼らは足を動かし始めた。
刹那もそれに続いて歩いていくが、歩幅が違いすぎて小走りになる。
運動音痴な事をすっかり忘れていた刹那は、小走りで彼らを追いかけようとしてーーーーー
「んぐっ!!!」
転んだ。