江戸の町に春がやってきた。

街並みに咲く満開の桜がまるで空を自由に羽ばたいているようにゆらゆらと舞う。

刹那は定春と散歩に出かけ、橋の上でその光景をぼんやりと眺めていた。

定春はそんな彼女をみて、頭を擦り付ける。優しい手のひらはそのふさふさの頭を撫で、小さく笑って口を開いた。

「綺麗だね、定春。」

「ワンッ！」

しっぽを振って吠える定春。
刹那は再び足を動かし、帰り道を歩いていた。

銀時はパチンコへと出かけ、神楽は町の子供たちと遊びに行き、新八はお通ちゃんのライブへ。
ひとり用事のない刹那は、定春をゆっくり散歩へ連れていくために家を出た。

こういう日も、悪くは無いだろう。
ひと季節前の冬なんかは、吉原で死にかけていた頃もあったが、今ではすっかり完治していた。

今となっては普通の人間。
もとより普通の人間ではあったが、この身体を取り戻すのには随分時間がかかった。

どからこそ、こういう何の変哲もない日常が、有難いとさえ思う。

刹那はそんな事を考えながら、かぶき町の辺りをいつもより時間をかけて歩んだ。

街ゆく人が声を掛け、挨拶を交わす。
この町にもすっかり馴染んで、万事屋銀ちゃんに携わった人たちには、一通り顔合わせもしたおかげですっかり顔も広くなったもんだ。


ふと、刹那と定春の目の前に、万事屋でよくお世話になっている、からくり発明家の源外の家が目に入った。

どうせ時間もあるのだし、少し寄っていこうと顔を出した。
ーーのが間違いだったのかもしれない。

この時刹那と定春に、突然襲いかかる事件が起きるなど、微塵も知らなかったのだ。