四.戦姫編
name change
name changeお好きなお名前をどうぞ!
※下の名前は男女共用できる名前を付けるとストーリーがしっくりきます💦
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日の晩、頑なに拒んでいた日輪を説得し、銀時は匿名で刹那の店に入り、彼女を指名した。
薄暗い明かりを灯し、窓から入り込む月の光を頼りに、頭を下げて自分を迎える刹那の姿を目にした。
綺麗な指先を頭上に揃え、僅かな光だけで艶やかな髪をはっきりと目に映す。
さすが一週間余りで店の顔まで上り詰めただけの事はあると頷ける程の、可憐で気品のある姿だった。
「刹那と申します。今宵はわっちを選んで頂きーーーっっ!!」
顔を上げ、銀時の姿を見て刹那は硬直した。
日輪に口酸っぱく、自分が遊女でいる時は部屋に通すなと言っていたからだ。
「銀…どうして…」
「おいおい、遊女たるものが知人を前にして接待を止めるつもりか?俺ァ今日、オメェの前に客として来てんだ。」
「…失礼致しました。」
納得のいかない様子を押し殺しながら、刹那ら静かにそう返した
銀時は彼女の隣に座り、猪口を握って酒を注がせる。
刹那は複雑な心境のまま、銀時を見つめた。
「やっぱりいい女に酒を注がれると、酒も輝くってもんだ。だが、それと同時に注いだモンの心を表すものでもある。テメェの心の奥で不安がっているのが、徐に出てるぜ」
「…何のつもりでここに来た。」
それに返す彼女の声は遊女の刹那ではなく、銀時のよく知っている刹那の声だった。
じとりとこちらを睨みつける彼女の瞳は鋭く、怒っているようにさえ見える。
だが、銀時は動じる事はなかった。
彼もまた、心を決めてここに来たからだ。
「もう自分の身を犠牲にして何かと決着をつけるのはヤメろ。今までは一人だったかもしんねぇが、テメェには俺もいて、テメェの事を心配してる神楽や新八もいる。もうテメェは一人じゃねぇんだ。何も言わずに一人で抱え込むなんざ、独りぼっちがやる事だ。」
「…」
「いい加減話せ。その〝闇の情報屋〟とやらとどんな関係性なのか。テメェはなぜ俺にも話さず、一人で動こうとしているのか。それからいい加減、強がるのはやめろ。」
銀時のまっすぐ自分を見つめる瞳に、刹那は目を逸らして静かに閉じた。
そして諦めたかのように、ぽつりぽつりと話し始めた。
「…ケジメだ。」
「…ケジメ?」
「闇の情報屋は、以前私を殺人兵器として飼っていたエドという天人と繋がりがあった。」
「--っ!」
「エドがなぜ天人達から恐れられていたのか…。それは、最強兵器として私を作り上げた事だけではない。その闇の情報屋と繋がっていたからだ。」
「…なるほど。だからテメェは奴のツラを知ってるわけか」
「…ツラだけじゃないさ。」
そう呟いた刹那の声が、微かに震えているような気がした銀時はふと彼女の方に目を向けると、過去を思い出しているのか、今にも泣きだしそうな表情を浮かべていた。
「あの男の求める快楽も、あの男がどんな女を好んでいるのかも、私は知っている。なんせ、唯一あの男が報酬に金を求めるのではなく、女の体を要求したんだからな。」
「ま…まさか…!」
「エドと闇の情報屋は繋がっていた。そして政権を握るあらゆる奴らの情報をエドは得ていた。それなりの報酬がいるのは当然の事だ。だが、多額な金で動く情報屋と聞いていたあの男は、金よりも私の体を寄越せと言っていたんだ。」
「じゃ、じゃあお前を…」
「情報を調達するたびに、私はあの男に抱かれた。嫌がろうが拒もうが、そんな事を気にするような男ではない。むしろ喜びを覚え、何度も何度も私はあの腕に…」
刹那は下唇を噛んで、ぎゅっと拳を握りしめた。
予想以上に過酷な関係性を突き付けられた銀時は、思わず言葉を失った。
「あの男が生きている限り、私がまだ生きているという情報を誰かに流す。あの男を消さなければ、私にはきっと、いつまでたっても自由は訪れないんだ。」
「な…んで、んな事…」
「アイツを殺し、私が生きて銀時達の傍にいる情報を完全に絶たなければ、また誰がいつ殺人兵器として私を求めてくるのかもわらかない。私は少し、一時の幸せな日常に浸かり過ぎていたみたいだ…。日輪から闇の情報屋の名を聞いて、ようやくそれから抜け出した。私はまだ、ケジメをつけなければならない事がある。」
彼女のそんな言葉を聞いた矢先、銀時は気づけば刹那の手首を掴んで後ろへと押し倒していた。
そんな行動をとった銀時を、理解できないと言わんばりの表情で何度も瞬きをしては見る刹那に、とうとう銀時は我慢していたものを吐き出した。
「バカかテメェは!何でもっと早く言わねぇんだッ!そんな会うだけで辛い相手なら、俺がテメェの代わりにぶっ潰してやらァ!何でそんな相手にテメェ一人で闘おうとしてんだよッ!」
あまりにも必死に訴える銀時を見て、刹那は言葉を失った。
こんなに自分の事に熱くなってくれる人は、きっとこの人しかいない。
こんなにも自分を大切に想ってくれる人も、きっとこの人しかいないのだろう、と。
「言えよ…」
「え…?」
「言えよ、助けてって俺に言えよッ!テメェがそれを口にすれば、俺はどこへだって行くし、何にだって牙むき出しにして噛み付いてやる!一言言うだけじゃねぇか!何意地はってんだ!!」
「…銀時」
刹那はその時彼の表情を見て思った。
自分の代わりに、こんなにも心を痛めてくれる人がいるなんて、なんて幸せ者なのだろう。
だからこそもう、彼をこの件には巻き込みたくはなかった。
「言えないよ…。」
「--っ!」
「これは銀時と再会する前の私の勝手な事情だ。手は出して欲しくないし、口も出して欲しくない。」
「お前っ…」
「銀時。前にもこんな話をしたな…もう私にお前は背中を預けて戦ってはくれないのか、と。これではまた、あの時と同じだ。」
「全然違ぇだろッ!テメェわかってんのか?!そんな奴と会ってお前はどうなる!少しは俺の気持ちくらい……」
「うるせぇ。」
「ーーっ!!」
刹那の声が威圧感を放つ。
俯いた彼女がようやく顔を上げると、修羅の表情で銀時にその鋭い目を放った。
「出てって。」
「お、おい刹那…」
「いいからさっさと、出てけッッ!!」
しまいには辺にあるものを投げ出し、銀時は慌てて出口へと向かう。
そんな逃げ腰の姿勢をピタリと止め、彼は部屋を出る前にこう言った。
「テメェがなんと言おうが、俺はしっつこくテメェのそばに居るし、口挟むし手も出すからな。何よりもその道を選んだのが、テメェ自身だろーが。」
「ーーっ!!」
そう言ってピシャリと障子を閉め、刹那は一人部屋に残された。
「……い」
ぽつり、ぽつりと自分の感情が声に出る。
それは震え、涙を必死に押さえ込んだ様子だ。
「言えるわけ、ないじゃない……あいつらから私を救ってくれた銀時に、これ以上何をしてもらうって言うんだよ…ッッ!私は、あんたにこれ以上優しくされると…決心が鈍るんだよ…わかれよバカ……」
彼女のそんな独り言は、誰に届くことなく静かに消えていった。
そうしてまた、そんな刹那の元へと、一人の影が忍び寄ってきたのであった。