四.戦姫編
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刹那が吉原の地に足を踏み入れてから、一週間がたっていた。
彼女の条件通り、日輪は休むことなく彼女に吉原の女であるためのノウハウをたたき込み、今はすっかり店の女の一人として輝かしい活躍をしている。
だがそれと同時に、刹那と接する日にちが増えれば増える程、日輪や月詠は後悔を重ねていった。
まず刹那とその〝闇の情報屋〟が一筋縄ではない深い関係性があるということを悟った。
どういう間柄かと尋ねたことがあったが、彼女は素性を唯一知る者だとしか教えてはくれなかった。
それに加え、彼女を遊女にする事を最後まで反対していた銀時は、月詠と日輪が今までに見たことの無いほどの悲しい表情を浮かべていた。
二人がどんな関係だったのかまでは知らない。けれども互いを大切に想い合っている事だけは、痛い程伝わってきた。
銀時だけではない。何も聞かされないまま彼女がこの依頼を引き受け、何かを一人で背負い込んでいる事を悟っている新八や神楽もまた、刹那の姿を見るなり切なげな表情を浮かべているのだった。
だがそろそろそれを見守り続けるには限界を迎えた新八は、銀時の腑抜けた様子にとうとう口を挟んだのだ。
「銀さん、このままでいいんですか。」
「…あぁ?」
「刹那さん、絶対僕たちに何かを隠してます…。また一人で背負い込んで、また一人でなんとかしようとしてますよ。」
「…だろうなァ」
「銀ちゃん、刹那姉ちゃんを止められるのは銀ちゃんしかいないアル!やっぱりこんなの良くないネ!万事屋全員で…」
「あいつを止めれるならとっくに止めてらァ。何かを決意したあいつの意思を捻じ曲げるような事、いくら付き合いが長い俺にもできねェよ。」
「…やっぱりあの子、何かいろいろ事情を抱えているみたいだねぇ。銀さん、あんたたちには本当に済まない事をしてしまった…。今更謝ってももう遅いかもしれないが…。」
三人の会話に、日輪が突然口を挟んだ。
銀時は彼女をじっと見ては、再び視線は空を見上げた。
「…だから俺ァ嫌だったんだ。あいつを吉原に連れてくるなんざ、何かひと悶着起きそうな気がしてたからな。」
「銀さん、もしかして…」
「刹那姉ちゃんがなんで一人で抱え込んでるか、知ってるアルか?!」
「…知るかよ。アイツが何考えてるなんて、俺には見当もつかねぇ。でもあいつのあの時の目を見ちまったら、何も言えねぇだろーがッ!」
ぎゅっと強く拳を握りしめ、俯いた。
届くことなら今すぐ彼女に手を伸ばして、男に媚をうるなんざ今すぐやめろと怒鳴りつけてやりたい。
それでも彼女の強い決意を踏みにじるような事はしたくない。
長い事彼女を見ているからこそ、刹那の内なる心の思いに背けない事だってある。
どうしよもできない自分の無力さに心底苛立ちを覚えていた銀時は、あれからずっと自分を責め続けていたのだ。
「…なんでぇ。すっかり腑抜けちまって。そんなんじゃ隙をついてアイツをかっさらっちまいやすぜ、旦那ァ」
普段吉原に来ることのない男の声が聞こえた。
俯いた銀時がハッと顔をあげると、そこには私服姿の沖田が立っていた。
「お、沖田さん?!」
「て、テメェ何でここに…」
「最近街で姿見かけなくなったんで、またあぶねぇ事に首突っ込んでんじゃないかと思ってしつこく連絡したら、今吉原にいるっていうんで顔見に来ただけでさァ。あの人の事だ。また何か事情を抱えて遊女にでもなってるんだと思ってはいたが…。まさかあの人の一番近いあんたがそんな腑抜けになってるたァな。」
沖田は銀時を見下して、威圧のある声でそう言った。
「…知ったふうな口聞くんじゃねぇよクソガキ。ちょっとやそこらアイツを見てきただけのテメェに何が分かる。」
「…へぇ、いっちょ前に一番の理解者気どりですか。あんた、いつからあの人の男にでもなったんでぃ。」
フッとバカにした笑みを浮かべる沖田に、神楽や新八も緊張感を覚える。
それを黙っていた銀時は、ゆっくりと立ち上がり沖田の胸倉を掴んだ。
「なってねぇよ!あいつの男になんて誰もならねぇし、なれねぇ!だから俺がそこまで止められる権利もねぇし、俺はあいつに何かあった時に手を差し伸べてやる術しかねぇんだよ!」
「分かってるじゃねーですか。じゃああんた、今なんでそんな腑抜けたツラであの人の視界に入るところうろちょろしてるんですか。」
「…なにッ!?」
「あんた前に言ってたよな。あの人は周りの奴らが大切だから、いつだって強がるし、強い。俺たちがあの人たちにしてあげられるのは、ただ笑って傍にいてやれば、それで十分だろう、って。…それが何だよ。今のあんたはただの腑抜けたツラした侍でもなんでもねぇ、ヘタレ男じゃねーか。俺からしてみれば、他の男どもに媚びうるような刹那の姿を見たくねぇっていじけてる、ただの独占欲の強ぇ一人の男にしかみえねぇよ。」
「--っ!!」
「刹那を守りたいってんなら、いつも通りの旦那でいつも通りあの人に話しかけて、少しでも気を紛らわしてやりゃいーじゃねぇか。あの人は…刹那は、いつだって、どんな時だってそんな俺たちを受け止めてくれる、器のでけぇ女だと、俺は思ってますがね。」
沖田の言葉は、銀時にとって耳を塞ぎたくなるほど心に響く言葉だった。
この男の言う通りだった。
アイツを守ると言っておきながら、アイツを見る度に虚しさを露にしていた自分の表情で、アイツを傷つけていた。
銀時は沖田の胸倉を掴んでいた手をパッと離し、深くため息を零して頭を掻いた。
「…あーっ。もう難しい事考えんのはヤメだ。俺は俺のしたいようにやる。今回だけはテメェを見逃してやるから、さっさとアイツに会ってここから帰んな。」
「銀さん!」
「銀ちゃん!」
いつも通りの銀時の口調と表情を見て、神楽と新八は心が晴れた。
自分たちではどうしよもできなかった。けれども銀時と同じように一人の男として刹那を見続けている沖田の声だからこそ、彼の心にしっかりと届いた。
「じゃ、今から俺ァデートのお誘いにでもいってきまさァ」
「…おいサディスト。心して行けよ」
「…?」
「あいつの遊女姿は、度肝抜かれるぜ」
自信に満ちた表情で笑みを浮かべる銀時を見て、沖田はフッと静かに笑った。
「じゃー、有り金全部持ってって、そのままもらっちまいやしょうかね。その度肝抜かれる遊女を。」
「おいコラマテ!テメェ税金を女買うために使うんじゃねーッ!この税金泥棒がッ!」
いつものように、意地の悪い笑みを浮かべる沖田につっかかる銀時を見て、日輪も月詠も安堵の息をこぼした。
ようやくいつもの銀時に戻ってくれた。
刹那を取り囲む人は、彼女をとても大切に想っている。
そして彼女も恐らくは、同じように見守っているのだろう。
この件が片付いた暁には、万事屋一行に加え沖田という男も吉原に歓迎してやろう、と日輪は密かに心に決めたのであった。