三.侍 時々 姫
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「目もしっかり見えてるみたいだし、身体の方もだいぶ安定してるみたいだから、もう二、三日様子を見て問題なければ退院しても大丈夫でしょう」
「…ありがとうございます。」
目を覚ました後、担当医を呼んで一通り確認を終える。
病室にいる全員が医者の背中を見送った後、刹那はふぅ、と深く息を吐いた。
「それにしても、まさかあれから二週間も経ってたなんて。みんな心配かけてごめんね。」
「いいよ!刹那姉ちゃんがいなかった二週間分、退院したらしっかり穴埋めしてもらうアル」
「そうですよ。刹那さんがいないと銀さんもろくに仕事しないし、あの美味しいご飯が恋しくて仕方ないんですから。」
「ふふ、ごめんごめん。退院したら、いっぱい作ってあげるし、いっぱいいろんなとこ出かけよう?埋め合わせちゃんとするからね。」
早くも団欒とした空気の中。
沖田はサインペンを手に取り、刹那のベッドにつけられたネームプレートに細工をしている事に気づいた銀時は、首を傾げた。
「おいお前、さっきから何やって…」
「ん?」
最後まで話す前に、彼は事を終えて銀時の方へ振り返る。
そしてそのネームプレートを見ると、如月が斜線で消されており、〝沖田〟で訂正されていた。
「そ、総悟…?」
「いやぁ、やっぱり形から入らねぇとどうもいけねぇ」
「形からってなんだよ!ていうかそれもう形とかじゃねーじゃん!このクソ野郎!今すぐ書き直せ!」
「あ、何やってんですか旦那ァ!何どさくさに紛れて坂田に変えようとしてんですか!!」
「沖田隊長!」
銀時が沖田と苗字の修正で乱闘している中、病室の入り口に数人がずらりと並んで敬礼している姿が目に入る。
「おう、来たかオメェら。」
「はい!奥様が目を覚ましたと聞きましたので!」
「お、奥様ァ!?誰がいつテメェの奥様になったんだよ!」
とうとう銀時が沖田の胸倉を掴み怒鳴る。が、沖田の隊員たちはぞろぞろと刹那の傍にやってきては、持ってきた見舞い品を差し出した。
花束やら本やら様々な物が見られ、刹那は慌てながらもそれを受け取る。
「み、みんな。来てくれたんだ、ありがとう」
一先ず〝奥様〟という言葉には触れず素直にお礼を言うと、彼らは再び口を開き始めた。
「いえ!沖田隊長の奥様の身を心配するのは当たり前の事ですので!」
「お身体は大丈夫ですか?!姐さん!まだ無理はなさらないでください!これから大事なお子さんを生む体です。」
「今はゆっくりして体を休めてくだせぇ。」
「え、あの、ちょっ…えぇ?!」
ごり押ししてくる彼らに、刹那も困り果てて空いた口が塞がらない。
「おいテメェ!何が正々堂々と勝負だよ!何周りから固める作戦してんの?!刹那が一番弱いとこから攻めてくるなんて卑怯じゃねーか!どっからどう見ても真っ向勝負どころかインチキ勝負だよコノヤロー!!」
「いやぁ、俺は別に何も小細工しちゃいませんて。あいつらが勝手に…」
そうは言うものの、総悟の顔には黒い笑みが浮かんでいる。
銀時は沖田の胸倉を掴んだ手に力を込めながらも、刹那に怒鳴った。
「テメェもテメェだ!何勝手に嫁になる約束してんだよ!」
「え、いや待って、私そんなことしてな…」
「えーーーーーっ!刹那さん、沖田さんと婚約しちゃったんですか?!そりゃ確かに銀さんよりは収入も安定してるかもしれないですけど、あんなサディストと一緒になっちゃっていいんですか?!」
「いや、新八待ってって…」
「なんであいつアルか!?百歩譲って金のないろくでなしの銀ちゃんの方がまだマシね!あんな裏で何考えてるか分からないような腹黒男なんて、刹那姉ちゃんには似合わないアル!」
「いや、神楽、だから…」
「おいテメェら!さっきから聞いてりゃ俺のフォロー一切してねぇじゃねぇか!!だいたい刹那ッ!オトーサンは許しませんからね!真選組に嫁ぐなんて、思ってる以上に大変なんだから!」
目にもとまらぬ速さで進展していくこの状況に、刹那は突っ込む気力もなくなり頭を抱える。
どうしたものかと悩んでいると、その場に救世主が現れた…ような気がした。
「何やってんだテメェらッ!病院で騒がしくすんじゃねぇッ!!非常識すぎんだよ!!」
「あ」
目を血走ってそう怒鳴り散らしたのは、一目見て真選組だと分かる黒い制服を纏った土方の姿だった。
「ったく!テメェらちょっと目を離した隙に好き勝手やりやがって…」
「おーい土方、ここァ病院だぜ?まさかタバコ吸うなんて非常識な事しねぇよな?」
「うぐっ…」
咄嗟に出たいつもの癖で、ポケットから煙草を取り出し火をつけようとした土方に対し、今言われたことをそっくりそのまま、いや更に腹黒さを加えて沖田が返す。
刹那のためを思う土方は、手にしていたタバコをくしゃりとへし折り、下唇を噛みしめたまま彼女の元へと歩み寄った。
「よぉ、随分長かったじゃねーか。ようやく目ぇ覚めたみてぇだな」
「トシ、来てくれたんだ。ありがとう」
「僕もいますよーっ!刹那さーん!!」
クールでいる土方の後ろからいきなり現れたのは、やけにテンションの高い、局長の近藤だった。
「近藤さんまで!わざわざ来てくださって、ありがとうございます。」
「いやいや、刹那さんは真選組にとって女神のようなもんですからね。」
「…女神?」
「総悟と結婚目前みたいじゃないですか!俺ァてっきり刹那さんは万事屋と・・ふごっ!」
近藤がさわやかな笑顔でそう話す矢先、銀時が股間に蹴りをかます。
「テメェの部下はどーなってんだよ!何周りから固めて落とす大作戦立ててんだよ!うちの子は真選組んとこには嫁には行きませんからね!」
「何田舎のかーちゃんみてぇな口調になってんだ、テメェは」
土方が銀時の様子を見て、白い視線を向ける。
そこだけではなく、気づけば沖田に神楽と新八が交戦をしかけ、一番隊である部下たちも沖田に加勢し始める。
銀時はすました顔をしていた土方と近藤をいがみ合いを始め、刹那はベッドの上でとうとう孤立状態になった。
何だ、この状況は。
人がようやく目を覚まして見舞いに来てくれたというのに、何て騒がしいんだろう。
パタリとベッドへと持たれ、天井を見上げる。
いつまでたっても終わらない口喧嘩をバッグに、刹那はぼんやりとそれを聞いては顔を腕で隠した。
ーーあぁ、なんて温かい場所なんだろう。
そう思うと、自然と涙腺が緩み涙が零れ落ちそうになる。
あの頃の夢を見ていた。
どんな姿をしても一緒にいてくれると言った銀時。
いつも兄貴面して優しく傍にいてくれる小太郎。
どんな時でも一緒に笑ってくれる辰馬。
自分の事を壊れ物のように優しく扱う晋助。
そしてその四人は今、私と隣を歩いてはいない。
けれども新たな仲間たちが、大切な人たちが今こうして、共に時間を過ごしてくれる。
殺人兵器として、ただの性欲解消の道具として遣われていた時代は終わった。
私は今、彼らと共に生きている。
こうして人間らしく、涙も流せる。
刹那は考えれば考える程、彼らの事が大切に思えて仕方がなくなった。
そうして感動に浸っている間に、銀時の優しい声が彼女の名を呼んだのだ。
「刹那。」
「刹那さん。」
「刹那姉ちゃん。」
それに続けて、新八や神楽たちも彼女の名を呼ぶ。
気づけば乱戦はいつの間にか終わっており、刹那一点に視線が集中し、各々が彼女の名を呼ぶ。
「…?」
ーーーおかえり。
それぞれの声が、刹那の耳にそう届いた時、
結局我慢していた涙は一気に洪水と化した事は、言うまでもない。