三.侍 時々 姫
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毒田病院が廃墟となって、二週間が過ぎた。
目の治療を終え、すっかり顔色も体調も良くなったはずの刹那が、未だ目を覚ます事はなかった。
銀時はそれでも彼女のそばを離れる事なく病室で日常生活を送り、彼女の見舞いに誰も来ない時は常に手を握ってやっていた。
今日も朝を迎える。
銀時が刹那の手を握りながら椅子に座りうたた寝をしていると、一人の足音が聞こえてきた。
「…旦那ァ。少し休んだ方がいいですぜ。何日ろくに寝てねぇんですか」
「…なんだテメェかよ。職務放棄して毎朝顔出してんじゃねーよ。」
誰よりも刹那の目覚めを今か今かと待ちわびている男二人が顔を合わせる。
沖田は手土産を袋に入れてぶら下げており、銀時に屋上へ行くよう導いた。
屋上へと繋がる入り口の扉を開ければ、身体を芯から冷やすような冷たい風が強く当たる。
もうすぐ冬がやってくるこの時期に屋上のベンチへと腰を下ろし、沖田が買ってきた朝食を手に取った。
「…刹那の様子は、相変わらずですかぃ」
「あぁ。医者が言うには、目の治療も上手くいってもう見えるだろうって言ってたし、体調もここ最近安静にしていたおかげか、落ち着いているみてぇだ。…あんな人形みたいな顔して寝てるの見てっと、息してる方が不思議なように思えてきちまうぜ。」
あーあと言っていちご牛乳を飲みながら、再びパンに手を伸ばす。
沖田は当時の事を思い出しては、俯いてアスファルトの方向をじっと見たまま銀時に話を始めた。
「…旦那。俺はあの時刹那が今まで生きてきた仕打ちを、この目でしっかりと見た。正直言うと、今でも目に焼き付いて離れねぇ。夢にも出てくる。俺も注射器一本刺されやしたが、刹那はそれの三倍はやられてた。」
「…」
「一本打たれただけの俺でさえ、叫んで叫んで痛みから逃れたくて、死んだ方がましだって思いやした。男の俺でさえ…情けねぇ話だ。…それなのに、あの人は涙を見せるどころか、今でもきっとそれと闘ってる。俺ァ、あの人の横でこれからどんな面していりゃいいのか、分からなくなっちまいやした。」
「…あいつの涙なんて、早々見れるもんじゃねーよ。」
「…?」
「普段泣くような事はない。特に自分の事で流すような涙はあいつにはねぇんだ。他人の事を想って泣く。周りの奴らが大切だからあいつはいつだって強がるし、強いんだ。別にテメェがあいつに何か気を遣うような事は何もねぇよ。アイツはたぶん、テメェにただ傍にいてもらいてぇだけだろーからな。…ただ笑って、傍にいてくれれば、それだけで十分だろーよ。」
銀時は日が昇り始めた空を見上げる。
刹那はきっと、今いる周りの存在の誰一人欠ける事を恐れている。
変な気を遣ったところで、刹那はそういうところには勘が鋭い。
沖田の発言も、刹那を大切に思うからこそ、困惑して身動きがとれない状態になっているという事から来ていると、銀時は理解していた。
「アイツは…刹那はな。昔からそーいう奴なんだよ。誰よりも笑って、誰よりも心を痛めて、それでも大切な人を護っていく。でもだからこそ、誰かがいないと強くいられねぇ。自分を見失っちまう。だから、あいつの傍には誰かがいてやらねーといけねーんだよ。」
銀時の言葉は沖田にとって、重みがあった。
刹那という存在を、心の内まで理解しているというその口ぶりと、自分を納得させるほどの確信をついてくるからだ。
やはり、この人には敵わない。
沖田の中で、少しだけ諦めがついた。
「…やっぱりあんたには敵わねぇな。」
「あ?何をだよ」
「刹那の一番近くにいる存在でありてぇと思ってた。でもあんたがいる限り、それは無謀な話だったぜ」
銀時は沖田の内の心を聞き、驚いて言葉を詰まらせた。
だが沖田の目は、そんな投げやりの言葉とは違い、澄んだ優しい瞳をしていた。
そんな彼の横顔を見て、銀時はフッと息を吐いて笑い、彼にこう返した。
「あいつに一番近い存在は、俺でもねぇよ。」
「え…?」
「それに、テメェらしくねぇんだよさっきから。いつものどSっぷりはどーしたんだよ。諦め悪いし隙あらば噛み付いてくるようなキャラじゃなかったっけ、お前」
「ひでぇな旦那…俺をそんな風に見てたんスか」
「お前が俺に遠慮するタマかよ。それに俺ァ別にテメェなんぞに負ける気はハナからねぇしな」
ニヤリと笑みを浮かべる銀時を見て、沖田は驚きつつもつられて笑う。
自分の中でもやもやしていたものが、この男によって何か晴れた気分になった。
そして、いつものように意地の悪い笑みを浮かべては、銀時にこう返した。
「…わかりやした。正々堂々と、あんたに勝って嫁にもらわせて頂きますよ」
二人がそんなやり取りを交わした事は、永遠に誰にも知られる事はなかった。