三.侍 時々 姫
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建物が徐々に崩れ落ちていく光景を、真選組はただ見て待つしかなった。
毒田病院の前にはパトカーが数台止まっており、近藤により治療班も現場に駆けつけていた。
沖田はすぐさま刹那の身体をそっとシーツの上に寝かせ、顔をまじまじと見つめた。
「沖田隊長も酷いケガをッ!早く治療を……!」
「俺より先にこの人を診てやってくれ。俺は後でいい。」
息をしているのか疑いたくなるほど、呼吸が浅く顔色は青白い。
こんな華奢な体で、本当に無理をする。
彼女の眠っている姿を見るだけで、胸が締め付けられそうになった。
そんな沖田の心に追い打ちをかけるように、刹那の容態を見ていた医者は口を渋りながら、状況を説明した。
「……衰弱が激しいですね。早く手当して体を休める場所へ行かなければ…病院へ搬送してもらいましょうか」
「病院……」
医師の言葉に、沖田は何も返せなかった。
彼女が病院を恐れる理由を、目の前で見ていたから。
あれだけの事をされておいて、トラウマにならない方がおかしい。
彼女を救いたいが、果たして連れてっていいのかの判断は自分にではできなかった。
そんな中、ドォンと地響きを鳴らしながら、病院全体が崩れていく。
やがて完全にそれは崩壊し、辺りは砂埃が舞い、視界を悪くした。
だが、奴らの姿は未だ見えてはこない。
沖田や土方たちは、手に拳を握った。
奴らは一体、何をもたもたしている。
まさか、瓦礫の中に埋もれて……。
思考は徐々に最悪な展開を予想していき、自分たちの無能さに苛立ちを抱き始めた。
その時。
「いっちちち……ったく、テメェがモタモタすっから俺が巻き添い食らいそうになっちまったじゃねーかッ!」
「何を言っている、銀時。誰の爆弾のおかげで瓦礫の下敷きを免れたと思っている。」
「いやむしろあんたの爆弾のせいで死にかけたんですよ、俺たち!!」
「私もうお腹ペコペコね。刹那姉ちゃんの美味しいご飯が恋しくて仕方ないネ」
「あーっもうテメェらうるせーよ。銀さんもー疲れちゃった。」
聞き覚えのある声に耳を傾ける。
沖田は勢いよく振り返り、ようやく姿を現した彼らを見ては、密かに安堵の息をこぼした。
「お?おいありゃ、真選組の連中じゃねーか。」
ようやくこちらの存在に気づき、ボロボロの身体になりながらも小走りで駆けてきた。
「…沖田くん、刹那は?」
彼女にずっと付きっきりでいた沖田に、銀時が問う。
沖田はくっと歯を食いしばり、彼に答えた。
「……病院で治療しねぇと、やばいみたいでさァ。」
「なっ……!」
その場にいる誰もが驚き、横たわっている刹那に目を向けた。
彼女の表情が容態を物語っていた。そして、今しがた病院を恐れている刹那のビジョンも見てしまった。
新八や神楽達は焦りを覚えた。
刹那を助けたい。でも苦痛を受けてきた記憶を蘇らせるような事をして、心が崩壊してしまったらどうしようかと思うと、すぐに病院に連れて行って欲しいとはとても言えない。
銀時は静かに彼女の元へ近づき、しばらく顔を見ているかと思えば、優しく頬をペチペチと叩いた。
「おーい、刹那。聞こえっか」
「ちょ、ちょっとあなた!!何を?!」
当然の行動に、医者は驚き銀時の手を払おうとする。
が、奇跡的にそれに応じるかのように、うっすらと目を開けた。
「なっ……刹那さん?!」
神楽たち全員が彼女の元へ駆け寄る。
何かが見えている訳でもない刹那は、ぼんやりと彼らのいる方を眺めた。
「オメェの体、結構やべぇんだ。今から病院連れてって入院させるから、ちと我慢しろよ。」
「ぎ、銀さん!?」
「旦那!!」
当然のことのように病院へ連れてくと彼女に言った銀時に驚きを隠せなかった。
だが、刹那の口元は微かに小さく笑みを浮かべている。
「……わかった。ねぇ、銀時……。こんな時に何なんだけど、わがまま、言っていいかな……」
銀時はその弱々しい声を耳にして、思わず刹那の手を取り自らの頬に触れさせる。
「あんだよ、何でも言ってみろ。」
愛想のない彼の返しに、刹那は思わずふふっと声を漏らす。
刹那は普段からワガママなど言うタイプではない。
何度自分勝手になってもいいと言っても、決してそんな素振りは見せなかった。
そんな彼女が今、初めて自分に我が儘を言おうてしている。
銀時は彼女の言葉を待った。
「私、病院行く。行って、この目も、この身体ももう少し長く生きれるようにしたいの…でも正直言うと、怖いんだ。」
「……刹那さん」
「だから、銀時……ううん、神楽も、新八にも、出来れば総悟も。私のわがまま、聞いて欲しいの」
「な、何でも聞くアル!」
「病院に行く間、そばに居てくれるかな。手、握っててくれるかな。私、みんなと一緒なら、この壁……乗り越えれる気がする。」
「そんなのお易い御用ネ!」
「そんなんでいいなら、いくらでもします!っていうか全然わがままなんかじゃないですよ!」
「何死亡フラグみてぇなこと言ってやがるんでぃ。どんなワガママかと思って焦ったぜ。」
「テメェ!縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ!」
沖田の言葉に銀時が突っ込み、刹那は再び笑った。
「みんな、ありが、と……」
そう告げた瞬間、刹那は微笑んだまま力をなくし、銀時の頬に添えていた手はするりと下へ落ちた。
「お、おい。何冗談やってんだよ。まだこれから病院行くんだろ?!銀さんがしゃーなしに言ってやるって言ってやったばっかじゃねぇか。なぁ、オイッ!」
「辞めてください!意識があっただけでも奇跡なんですよ?!」
「おい、刹那!目ぇ開けろ!」
医者の手を払い除けるも、銀時は刹那の身体を抱き抱えては揺さぶる。
それでも彼女の反応はなく、銀時が彼女の名を叫ぶ声に誰しも心を痛めるのであった。
すぅー。すぅー。
耳元で小さな可愛らしい寝息が聞こえてくるのに気づき、ハッと我に返る。
強く抱きしめていた体をいったん離し、彼女の顔をもう一度じっくり見た。
「…」
ようやくことの事態に気づく銀時は、思わず言葉を失った。
刹那は気を失ったのではない。完全に寝ている。
「…おい」
「え…刹那さん、もしかして…」
「テメェ何紛らわしい事してんだよッ!!てっきり俺ァ死んじまったかと思ったじゃねぇーか!起きろこの野郎!起きろ!」
「ああっ!ちょっとやめてください!だから言ったじゃないですか!意識があるだけ奇跡だって!」
殴りかかろうとする銀時の止めに入る治療班の隊員がなんとかそれを抑えるが、気づけば周りには沖田達が恐ろしい表情をして集っていた。
「ちょ、ちょっと、何ですか皆さん!落ち着いてくださいよ!!」
「テメェも何紛らわしい言い方してやがんだッ!何だよ意識あるだけ奇跡ってよ!重症すぎて意識も途絶えそうな程かとこっちは思うじゃねーかッ!ふざけてんのかバカヤロー!」
「誰も重症でまずいとは一言も言ってないですよ!この人は極度の睡眠不足なんです!!」
「……とんだ演技力ですねぇ、治療班さん。」
「今一瞬でも流れた涙返すネ」
「まんまと一杯食わされたってわけかい。テメェ、一瞬でも心を痛めた俺の責任どう取るんでぃ」
「そ、そんな無茶苦茶な!?ですから僕は命の危険があるだなんて一言も…!」
「紛らわしいんじゃボケェッッ!!」
治療班の隊員は全員の半ば八つ当たりの拳により、宙に舞う。
銀時はもう何をしても起きない刹那を背中に背負い、歩き始めた。
「ま、状況がどーであれ病院には連れてくぞ。いくぞ、おめーら」
皆に連れられて行く刹那の表情は、未だ柔らかい笑顔を魅せたままだった。