三.侍 時々 姫
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※下の名前は男女共用できる名前を付けるとストーリーがしっくりきます💦
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ポタリ、ポタリと雫が垂れる音が聞こえる。
背中が冷たい。鼻をツンと刺激する匂いがする。
身体を動かそうにも、いまいち力が入らない。
ここは一体どこだ。一体どうなっちまったんだ。
意識を失う前の事を思い出そうとするが、それは一人の苦痛な叫び声によって遮られ、一瞬にして現実の世界へと引き戻された。
「刹那っ!!!」
パッと目を見開いて名を呼んでは、入り込んでくる光景があまりにも恐ろしく、沖田は思わず言葉を失った。
彼女の両手足は壁から伸びている鎖に結ばれ、自由を失っている中、必死に暴れている。
目の包帯は外され、何か別の機械が充てられている。
そして彼女の近くに白衣を纏った男たちが群がり、手にもつ注射器を一本ずつゆっくりと彼女の体内へと流し込んでは、様子を見る。
思わず目を背けたくなる光景に、沖田は全身の血がカット沸騰するような感覚を覚えた。
「なっ…」
止めに入ろうと力を振り絞るが、自分も彼女と同じように縛られているのに気づく。
ほんの数歩前に護りたい人がいるというのに、自分は手を差し伸べる事すらできない。
それどころか彼女が何か苦痛に耐えているのを、目の前で黙って見ていろとでもいうのだろうか。
沖田は下唇を血が滲むほど強く噛みしめ、奴らにこう言い放った。
「汚い手で触るんじゃねぇぇッ!!」
血走った目で奴らを睨み、怒りのあまりに呼吸が荒くなる。
沖田が意識を取り戻したことに気付いた刹那は、はっと我に返り弱々しい声で口を開いた。
「そ、総悟……?どうして……」
「ほぉ、ようやく目覚めたか。どれどれ」
ニヤついた顔をしながら、一人の小柄な老人が長い顎髭を撫でながら、沖田へとゆっくり近づく。
人間なのか、それとも人間の姿をした天人なのか。
沖田は無理やりにでも鎖を引きちぎってその男に殴り掛かろうとしたが、きつく結ばれたそれはビクリともしなかった。
「くそっ……!」
「ほうほう、あれだけの毒を吸い込んでおいてまだそんな元気があるのかね。あわよくばと思い回収しておいてよかったわぃ。少しは骨のある奴かもしれんのぅ」
ようやくその老人が、先程小瓶を抱えて突然姿を現した男と同一だと気づく。
刹那は奴のその言葉を聞いて、必死に悶えた。
「やめて、その人には何もしないで!!」
「……?」
沖田はイマイチ状況が掴めない。
奴らは彼女に何をしようとしていて、そのうえ真選組である自分を連れてきて一体何になるというのだろうか。
「いやぁ、さすがは〝レイ〟じゃのう。あれだけの薬品を体内にいれても、まだそんな自我を保っているのか。おい、もう少し投与する量を増やせ。」
「了解しました」
沖田は背筋に寒気を走らせ、視界がぐらりと揺れた気がした。
〝レイ〟と言う名には聞き覚えがある。
刹那を長年殺人兵器として遣い、あらゆる手法で彼女を実験台にしてきた天人達が呼んでいた名だ。
なぜ、この男は知っている。
なぜ、彼女は再び苦痛を味わっている。
なかなか現実を受け入れられない沖田に、老人は笑った。
「さてさて、お主もなかなかの頑丈な奴じゃ。レイほどとはいかんが、もしかすると成功するかもしれんし…どれ、少々試してみるかのう。」
「なに……?」
「や、やめて!!総悟には、手をだす……な」
刹那は身体全身が溶けるような痛みと、頭の中を真っ白にさせるようなこの薬品から逃れられるわけもなく、力のない声でそう言うことしか出来なかった。
だが彼女の言葉を受け入れる気のない老人は、一本の注射器を手に取り、容赦なく沖田の体に差し込んだ。
「……なにしやがっ……うあぁぁぁッッ!!」
突如身体が溶けていくような痛覚と、激しい目眩が襲いかかってくる。
意識が吹っ飛びそうなほどの苦痛を味わい思わず大声でんだが、そんなものは何の気休めにもならない。
「ほほ、一本でそれだけ苦しむとは。やはりそれに長年耐えてきたレイは本物じゃ。カッカッカッ!」
老人は喜びの声をあげ、笑った。
ーーこんな苦痛に彼女は何年も、何年も耐えてきたというのか。
そして今再び、この痛みに耐えながらも自分を庇おうとしているというのか。
「ふざ、けるな……」
「お?まだ喋れるか。どれ、もう一本。」
陽気な声でそう言っては、容赦なく注射器を体に刺す老人に憎悪感を抱く。
この男は、人をただの物としか思っていない、道具としか思っていない。
「ふざけんなァァァッッ!!」
彼女が薬品の匂いに怯え、白衣を着ている病院を拒む理由が今なら分かる。
沖田は薬を投与され意識が薄れる中、何度も何度も怒りに任せて叫ぶ事しかできなかった。
自分の周囲に転がる何本もの注射器を眺めながら、視界がぼやけるのを理解する。
こんな目の前にいて、刹那を助けてやれない。
ようやく自由になれたはずの彼女を、再び地獄へと連れてくる手助けをしてしまったというのか。
護る、と誓ったのに。
薄れゆく意識の中で、沖田は己を責めた。
もう抵抗する力もなく、諦めかけたその時。
「…汚い手でこいつに触んな」
聞き慣れた声を耳にし、自分の視界に光が差し込んだ気がした。