三.侍 時々 姫
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刹那の耳は本当によく聞こえる。と、沖田は感心すら覚えていた。
彼女に言われて騒ぎを起こしている場所へ行けば、昼間っから酒が入った男たちが暴れていたわけだが、刹那がそれを耳にした位置から随分と離れている上に、走行中の車の中から聞き取った。
そんな研ぎ澄まされた聴覚が存在するからこそ、彼女はあんなにも潔く剣が振るえるのだろう。
呑気にそう考えながらも、刹那の手を取りつつもその現場へと到着し、気乗りしないまま仲裁役となった。
「おーい、なにしてんでぃ、あんたら。」
「し、真選組?!」
「巡回中だ。もーめんどくせぇから、テメェら両方しょっぴくぜ。せっかくデートしてたのに邪魔すんな。」
「で、デート?!さっき巡回中だって言ってたよねぇ?!職務中にデート?!」
「し、仕事してください。沖田隊長……」
自分の後ろにいる刹那に目を向けると、恥ずかしいのか微かに頬を赤らめてそっぽを向き、自分の裾をそっと握っている。
不覚にもそれが可愛いと思ってしまった沖田は、早々にこれを片付けて刹那を虐めてやろうと心に決めた。
「んで、何を言い争ってたんでぃ」
「こ、こいつがいきなり突っかかってきやがってよぉ!」
「何言ってんだ、てめぇが先だろーがッッ!」
「ふぅ…めんどくせーからやっぱ両方しょっぴ…フガッ!」
「こら総悟。真面目に仕事しろ」
二回目の刹那の突っ込みには蹴りがついていた。
沖田は前かがみになった体勢を治し、深くため息を零した。
「真面目って言ってもなぁ……こんな訳分からん親父たちの喧嘩に付き合えるほど、俺も暇じゃねぇでさァ」
「…へぇ、そうかよ。」
「?!」
沖田の言葉に返した男たちの声色が変わった。
気づけばどこから出したのか、隠し刀を手に持ち、今にも斬りかかろうというのが目に見えてわかる。
「あれれーおかしいな。さっきまで言い争いしてた奴らが今度は仲良くなってらー。……なんでぃあんたら。俺とやり合うつもりかぃ?」
沖田も刀の柄を握る。
背後に彼女がいる以上、手加減などしていられない。
そして彼女もいつの間にか、警戒して一点に視線を集中していた。
どうやら殺気に酷く敏感らしい。
「いや、あんたじゃねぇ。俺達が欲しいのはその後ろにいる、姉ちゃんだ。」
「……なにっ?!」
「……総悟。木刀でもなんでもいいから、貸して。」
この期に及んでまだ戦うつもりかい、と心の中で突っ込みを入れる。
そこで沖田はいいことを思いついて、姿勢を低くしては刹那にこう言った。
「刹那……確かさっき言ったよな?今日一回だけ言うこと聞くって。」
「……言ったけど?」
「じゃあ、この戦いに手ェ出さねぇでくだせぇ。今日一日は、俺に護らせてくれ。お姫様。その方が俺もやる気でるんで。」
「……は?!」
「そういうことだ。…何人たりとも姫には指一本触れさせねぇッ!!」
その言葉とともに、沖田は刀を抜いて斬りかかってくる奴らに立ち向かった。
刹那は沖田の取り巻くオーラが変わったことに気付いた。
普段は子犬のようなイタズラ好きの可愛らしいタイプだが、今はまるで狂犬。目の前の獲物を噛み殺すような、恐ろしいオーラだ。
一先ず刀を与えて貰えない以上、自分が出る幕はないし、下手に出れば彼の足でまといになるのは目に見えている。
じっとその背中を見守るように、刹那は身体を縮こまらせた。
だが、何故だろう。何だか胸騒ぎがする。
ただの輩には負けるはずはないことは分かっているが、相手は明らかに自分を狙っているということは、そもそもこれが仕組まれていた罠という事になる。
もしそうならば、この闘い……。
刹那がそうこう考えているうちに、沖田は次々と刃を向けてくる野党達を倒していく。
半数以上の相手を素早く倒し、沖田の持つ刀から血がぽたり、ぽたりと流れ落ちては、サッとそれを払い落とした。
「おいテメェら、なぜこの人を狙っている。誰の指示だ。」
下ろしている前髪からかすかに見える沖田の目に、赤い獣の光が灯している。
男たちはその気迫に恐れ、沖田から一歩ずつ後方へと下がっていく。
誰が見ても沖田が圧倒的に有利な状況だと、そう思える程の力の差だった。
だがその時、一瞬にして勝敗を覆される事になる。
刹那は新しくここに近づいてくる気配を察知しては、鼻をつんとさせる薬品の匂いに全身の血の気がサッと引き、条件反射で体が震え始めた。
そんな刹那の様子に気づいた沖田は、目の前にいる敵を気にしながらも彼女を気に掛ける。
「どうした、刹那!」
「そ、総悟…逃げて…!!」
掠れ欠けた彼女の声を耳にし、ますます焦りを感じる沖田。
だが、彼女を気にかけていたあまり、背後に新たな刺客が現れた事に気づくのが遅かった。
低い背丈で全身黒いマントで姿を覆い、僅かに見える口元は弧を描いている。
そして手には大切そうに抱えた小さな瓶が一つ。
「なっ…なんだテメェ…っ!!」
突然現れたその男に斬りかかろうとするが足の力が抜けてその場にしゃがみ込む。
今この一瞬で何が起きたのか、沖田は理解できない。
徐々に体が痺れてきて、全身の力が抜けていく。刀は手から離れ落ち、体は地面に崩れ落ちる。その時胸にしまっていた無線が地面に叩き落ちて反応し、自分を呼び掛ける声が遠くから聞こえるような気がした。
だが男はそれにすぐ様気づき、無線を足で踏みつけて壊した。
こうしてまた、希望は一つ失われた。
「俺の体に、なにしやがった…」
薄れゆく意識の中、沖田はなんとか顔だけを起こし、殺意を纏って男に問う。
「なぁに、命に支障のない程度の毒薬を撒いただけですよ。あなたも、そして彼女も。これから大事な人材ですからね。今はしばしお休みください。」
「なん、だと…くそっ…刹那…」
沖田は意識が飛ぶ直前まで彼女に手を伸ばしたが、それが届くことはなかった。