三.侍 時々 姫
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刹那は道場へゆっくりと入り、床に手を触れた。
懐かしい感触。懐かしい匂い。
何度も何度ものこの場所で倒れては、立ち向かった遠い記憶。
少しばかり思い出してはクスリと笑って立ち上がり、木刀を受け取った。
そんな刹那の傍に、足音を忍ばせて騒ぎを聞きつけてやってきた山崎が駆け寄った。
刹那は山崎の方を見て、首を傾げた。
「山崎さん?」
「ちょっと、刹那さん、何やってるんですかッ!こんな騒ぎ起こして、俺が旦那に知られたら殺されちゃうじゃないですか!」
「大丈夫ですよ。銀時は適当にあしらえば。なんか、成り行きでこーなっちゃったけど、いい暇潰しにはなるしね。」
「暇つぶしどころか、刹那さんが負けちゃったらあの沖田隊長に絶対服従ですよ?!彼の負けず嫌いは底知れないし、勝てない勝負はしない主義なんですよォ、あの人!」
焦りつつもなんとか刹那に辞退するように説得を測る山崎だったが、その行為は彼女にさらに火をつけた。
「勝てない勝負はしない主義ねぇ…それひっくり返したら、さぞ面白いじゃねーか。」
「ええぇっ?!」
「自信はない。でも、ハナから負けるつもりもない。大丈夫ですよ。幸いここはただのゲーム会場で、戦争では無いですから。」
刹那はそう言って、口角を上げたまま山崎の元を離れた。
そんな彼女に圧倒された山崎は、唖然として刹那の背中をしばらく見つめては、はっと我に返った。
「あれ……そういえば、今俺が声かける前になんで俺が来たってわかったんだ…?まさか…」
そんなバカな。と山崎は心の中で自分に呟いた。
視力を失った今、彼女の目ではなく別の何かで、人を識別できるようにしているとでも言うのだろうか。
自分は監察官であるが故に目立たないし、隊員の中でも存在に気づかれないことも多い。
それなのに彼女は、なぜ自分が今近づいたと認識できたのだろうか。
ごくり、と息を飲み彼女の背中を食い入るようにじっと見た。
そんな山崎の心境を知る由もない刹那は、軽く腕を回して呑気に準備運動をしていた。
目には分厚い包帯。
胴着に着替えたはいいものの、動きづらいのは確かだし、気づけばギャラリーの声も遠くから聞こえてきていた。
「なんか、大事になっちゃったな…。ま、いっか。」
「準備できましたかぃ。俺たちゃいつでもいけやすぜぃ」
制服から胴着に着替えた沖田は、にやけた顔をして彼女の前に現れた。
実際この間に、一番隊から誰が彼女と剣を交えられるか、全身全霊をかけてジャンケンを行っていたわけだが、偶然にも隊の中でも腕っぷしの良い奴ばかりが集った。
隊員たちは、こんな女性と剣を交えられるなど滅多にないとはしゃいでいる。
刹那はスっと彼らの前に立ち、姿勢を質した。
「いつでもどうぞ。」
男ばかりの環境に、華やかで煌びやかな声がよく通る。
ハンデが大きいものの、やるからには負けないという沖田の負けん気が、どことなく伝わってくるような気がした。
「勝敗基準は、どちらかが背中を地べたに着いた方が負けでぃ。それでいいですかね。」
「うん、いいよ。」
刹那も刹那で、久しぶりの道場の匂いと木刀で心を弾ませる。ここまできたら、もう引き下がることなんて出来ないと腹を括った。
「あー…ごめん、ちょっと待って。」
「な、なにして…」
長い髪が邪魔なので、目に巻かれた包帯をとり、髪留めに使う。
目は閉じたままではあるが、その姿を見て観客たちはおぉっ、と歓喜の声をあげた。
「はー。窮屈だった。よし、これでいいよ。いつでもどうぞ。」
「あーもう、知らないからなぁ俺はっ……開始ッッ!!」
なぜか試合開始の合図を任された山崎が、そう投げやりに叫ぶ。
すると、沖田の前に立つ一番隊隊員はすかさず数人が走り出した。
「先手必勝。勝負やるからには、勝ちに行きますぜぃ」
「うぉぉぉ!!すいません隊長の奥さんッ!俺たち勝たねぇと、隊長に殺されるんですぅぅッッ!!」
どうやら何としてでも勝つようにと沖田に念を押されているようだ。
だが、刹那は木刀を持って立ったまま、微動打にしない。
そのまま全員で刹那を倒そうと、木刀を振りかざして彼女の至近距離に入ったその時だった。
会場にいた誰もが、目の前にある光景に目を疑った。
「おいおい、勝負に情を持ち込んでちゃ勝てるもんも勝てねぇぜ。死ぬ気でかかってこないと隊長に花は咲かせてやれねーよ。」
刹那は瞬く間に、彼らを全員薙ぎ倒した。
本当に目が見えていないのだろうか、と疑うほど正確に素早く急所を一人ずつ狙い、その場に崩れ落ちさせた。
「なっ、なんでぃ、ありゃ…」
先程まで余裕の笑みを浮かべていた沖田もその表情を崩し、驚いた。
「はい、今の連中はお終いね。次。」
木刀を肩に担ぎ、口元を見ると小さく笑みを浮かべている。
確かに隊員たちにある程度手加減はしろと指示はしたが、それは果たして本当に必要だったのであろうか。
刹那の計り知れぬ強さに、沖田は手に汗を握り、引きつった笑みを浮かべた。
「おいおい、刹那の中で目隠しプレイは過去に経験済みってかぃ?おっかねぇな、オイ」
「確かに目が見えなけりゃ本気は出せない。でも闘えないとは一言も言ってねぇ。生憎、目が見えないくらいで、敵の太刀筋が分からなくなるような甘っちょろい修行はしてきてないんでね。」
「…くっ、上等だ!それならこっちも本気出すぜぃ、刹那。……おいテメェら、下がってろ。」
隊員たちを下がらせ、沖田が前に出る。
刹那はそれに気づき、ふっと小さく笑って刀を下ろした。
「ちょっと、ちょっと、隊長さんが相手だなんて聞いてないよ?そりゃーさすがの私も結構きついんですけど。」
「よく言うぜ、俺ァ勝てない勝負はしない派なんでね。あんたにゃ悪いが、俺の今日の絶対服従制度は何としてでも決行したいんでぃ。大人しく…倒れろォォッッ!!」
「くっ……!」
野望が詰まった沖田の一振は重く、刹那は紙一重でなんとかそれを防ぐ。
鍔迫り合いが続く中、沖田は刹那の顔に近づいた。
「……刹那、もう諦めな」
「……嫌だね。実は私結構負けず嫌いなんだッッ!」
押し負けそうになりながらも、なんとか沖田を弾き返す。
誰もが手に拳を握り、隊長と刹那の対戦を瞬きすることなく見守る。
「トドメだァァッッ!」
「させるかぁぁっ!」
お互いが距離を縮めるため、全速力で駆け出した。
あともう一歩で間合いに入り、木刀を振りかざそうとしたその時。
「なぁにやってんだテメェらァッッ!」
巡回から戻ってきた土方が、二人の頭に拳を入れて幕を閉じた。