三.侍 時々 姫
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久しぶりに訪れた新八の実家を前に、銀時は目を閉じた。
頭の中には、刹那が大粒の涙を流して自分に話してくれた時のことが思い浮かぶ。
アイツと約束した。
アイツが泣くところは、できれば見たくねぇ。
それでも誰かを想って涙を流す刹那の姿が、不謹慎だが綺麗だと思っちまった。
「さ、新八の顔を拝みにでもいくかねぇ。」
銀時は強い意志を抱き、ようやく一本踏み出した。
家に入るなり、眉を八の字にした妙と神楽が銀時を迎え入れた。妙の不安げな様子からすると、どうやら事の事情は神楽から聞いたらしい。
一先ず新八の状況を二人から聞きだし、銀時は大きくため息をこぼした。
「新ちゃん、あれから一歩も部屋から出てこないのよ、銀さん。」
「…銀ちゃん、刹那姉ちゃんは大丈夫だったアルか?!すぐ治るアルか!?」
「まぁ落ち着け。刹那の事はいったん大丈夫だ。それよりも今は新八だな。」
銀時は居間から立ち上がり、新八の部屋へとゆっくり進んだ。
どうも居てもたってもいられない女二人は、黙って銀時の後に続いた。
障子一枚だけの壁が、銀時と新八の間にたっている。
銀時は大きく息を吸い込んで、腹から声を出して新八の名を呼んだ。
「おーい、新八ィ。聞こえてっかー?つうか、生きてっかー?」
「ぎ、銀さん……!」
「あ、生きてたわ。」
中から消えそうなほど弱々しい新八の声が聞こえてくる。
こんな状況でも自分のペースを崩さない銀時は、そのままのテンションで新八に再び語りかけた。
「刹那の事だけどよー、一応今は大丈夫だ。あのクソガキとマヨネーズのとこに預けてあるからな。治療もちゃんと受ければ治る可能性はあるそうだ。」
「な、治る可能性って、どういうこと?!銀さん!まさかその刹那さんって人、もう、目が……」
銀時の言葉を聞き捨てならなかった妙が、酷く青ざめた様子で彼の顔を覗き込む。
銀時はしばらく妙の顔を見て黙った後、ゆっくりと説明を始めた。
「あいつァ、今瀬戸際にいてなァ。とりあえず普通に考えれば、全治二週間程度だそうだ。ただ、入院できない以上、治療手段は限られる。もしかしたら、もう一生あいつの目は見えなくなっちまうらしい。」
「そ、そんな…じゃ、じゃあ僕は…僕のせいで、刹那さんは……!!」
「誰もてめぇのせいなんて思っちゃいねーよ。あいつだってそうだ。だからお前がそこまで背負う必要は…」
「銀さんだって!!!」
「…あ?」
話の途中で被せてきたのは、新八の大きな声だった。
震えているのがわかる。刹那のことを思うあまりに、恐怖なのだろう。
お前のせいだ、お前のせいでこうなったのだと周りから言われるのが、新八の心をなお傷つける。
銀時は密かに拳を握りしめた。
その間に、新八は再び口を開いた。
「銀さんだって、本当は僕を恨んでるんでしょう?僕のせいで、銀さんの大切な人の…大切な目を……僕だったら良かったんだ、僕が刹那さんを庇って、目が見えなくなってたら……きっと刹那さんだって、僕の事を…」
ブチン。
後方でやりとりを見守る神楽達には、新八のその言葉を耳にした銀時から、何かが切れるような音が聞こえてきた気がした。
途端、ぎゅっと強く拳を握りしめ、銀時が歯を食いしばる様子が目に映った。
「くっ……おいコラァ新八ィィッッ!!!」
あまりにもの大声に、障子が振動する。
その声に誰もが肩をビクリと震わせ、驚いた。
「テメェさっきから聞いてりゃ、何たら・ればの話してんだ!テメェはどこぞのOL気取りか?!女子大生ですかコノヤローッッ!」
「なっ…」
「テメェの知ってる如月刹那は、そんな小せぇ器の侍だったのかッ?!てめぇはアイツの何を見てきたッッ!!」
「銀ちゃん…」
「ほんとはもうちょっと刹那から聞いてる言葉を遠回しに言おうと思ったけどな…今のオメェ見てたらそんな気も失せたわ。」
スパーン!と大きな音を立てて、障子を開ける。
その先の部屋には、片隅で縮こまって身体を震わせている新八の姿があった。
両目に涙を山ほど溜めては、どれだけ泣き続けたのだろうと思えるほど、頬に涙の伝った跡ができている。
だが銀時はそれでも、怒りを抑えなかった。
ズカズカと部屋に入り、新八の胸倉を掴み思い切り持ち上げた。
あまりにもの強引さに、妙と神楽は思わず身を乗り出して止めに入ろうとしたが、銀時の言葉はそれを抑止させるほど感情的だった。
「いいか新八ィッ!耳の穴かっぽじってよく聞けやッ!俺ァあいつに昨日会った。確かに不安がってたよ。もし目が見えなくなっちまったらどうしよう、ってな!」
「ほ、ほら、やっぱり…」
「でもそれは単純に目が見えなくなることを恐れてるんじゃねぇ!目が見えなくなって、新八が自分を責めるようになっちまったらどうしようって意味でだッッ!」
その言葉に、妙は衝撃を受けて思わず手で口を覆った。
自分の弟を、そこまで大切に思ってくれている人がいる事に初めて気がついたのだ。
「アイツは、バカが着くほどのお人好しだ。人を助けるのに理屈はねぇって言うような奴だ!身勝手な自分の行動で、新八が自分を責めるような事をしてしまって、今後自分の姿を見る度に負い目に感じたらどうしよう。もしそれなら、自分はもう万事屋には帰れねぇ、って言ってたんだ。実際目の見えねぇ刹那が、新八を追い詰めちまった、って…そうやって自分を責めてんだよッッ!」
「そ、そんな、どうして…ッッ」
力が抜けてしまっている新八から、再び大粒の涙が溢れる。
「なぁ新八。アイツがそんな強ぇ心持ってるか、オメェ知ってるか?」
「……?」
「笑顔だよ。自分の周りにいる奴らの…」
「え、笑顔……」
「新八や神楽、俺や真選組の奴ら。あいつの周りを囲む奴らに、いつも笑ってて欲しいんだとよ。だから身を呈して守るし、無茶もする。だから、アイツは、刹那は…誰よりも新八に笑ってて欲しいって望んでんだよッッ!!」
「刹那……さ、ん……」
「いいか新八ィッ!終わったことをいくら嘆いたって時間は戻ってこねぇ。何度後悔したって、録画したテレビみたいに巻き戻しはきかねーよ。だからこそ毎日を真剣に生きるし、毎日飽きねぇんだ。刹那はもう、目がみえるようになるかもわかんねぇ。かと言って俺らは医者でも何でもねぇ。どう足掻いたって、その視力が回復するとも限らねぇんだ。」
「ふっ…ふぐっ…」
「アイツにそんなに負い目を感じるくれぇならなァ、あいつの目になってやれよ!アイツが困ってる時出来ることは力になってやれよ!アイツの隣で笑ってやれ!そんでもって、今出来ることをしろ。テメェにだって、今のアイツにしてやれる事は山ほどあるだろーが。」
「ぎ、銀さん……ご、ごめんなさっ……」
「謝んなッ!別に新八が悪いだなんて、俺もアイツも思っちゃいねぇって言ってんだろ。篭って自分を責めてても、何も状況は変わらねぇ。それなら、あいつの為に何かしてやれることを探してやりゃいーじゃねぇか。あいつは何よりも、今のテメェみたいな弱っちい男じゃなくて、いつもの新八が大好きで仕方ねぇんだよ。」
徐々に優しい声で話す銀時に、新八はもちろん神楽と妙も涙を流していた。
もう、新八は大丈夫だ。
刹那に聞こえるはずもないが、銀時は心の中で彼女にそう呼びかけた。
「銀ちゃん…私、刹那姉ちゃんの目を奪った攘夷志士の奴ら、ぶっ潰しに行くネ。」
「ほぉ、奇遇だな神楽ァ。俺も今からそいつらがどこに潜んでるのか、情報集めに行こうと思ってたんだぜ。……いくか?」
「当たり前アル!刹那姉ちゃんのためにも……いや、むしろもう八つ当たりネ!そいつらボッコボコにして腹いせしてやる!!」
「だとよ、新八。オメェも行くか?」
銀時のニヤリと笑う笑みに、新八は大きな声で叫んだ。
「はいッッッ!!!」
袖で荒々しく涙を拭い、キッと前を見る。
またさらに成長し、いい侍になったものだと妙は思った。
そして出ていこうとする銀時の裾を掴み、妙はこう言った。
「銀さん、全てが終わったら、刹那さんに会わせて欲しいの。私も、弟をそんなに思ってくれている人と話がしてみたいわ。」
その言葉を聞いて、銀時は一瞬驚いたが、フッと息を吐くように笑みを浮かべて、こう返した。
「あぁ、きっとアイツも喜ぶだろーよ。なんせ、妹分の神楽はいるが、女友達はいねぇからな。」
銀時はそのまま再び歩みだし、妙に〝んじゃ、ちょっくらいってくるわぁ〟といつものように道場を後にしていったのだった。