三.侍 時々 姫
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「何やってんだテメェはッ!隊長らしからぬ行動取りやがって!ほんとに俺の言った事分かってたのか、あぁ?!」
まるで般若の顔をした土方が、沖田へと詰め寄るが彼は怯えるどころか眠気眼を擦りながら、何食わぬ表情でそれを聞いていた。
「おい、聞いてんのか総悟!!」
「…そんな大声出さなくても聞こえてまさァ、土方さん」
「て、てめっ…!」
「まぁまぁ、落ち着けトシ。一晩一緒にいて何もなかっただけよかったじゃねーか。」
いがみ合う二人をいったん近藤が宥める。
そんな光景を直接見る事ができない刹那も、何やら不安げな様子でそれをじっと見ていた。
「あの、ごめんなさい…私が…」
「いやぁ!刹那さんが責任を感じる事なんて微塵もないんだよ!」
刹那は事の事情を説明したいのにも関わらず、こちらの話を聞くこともなく話はどんどん大きくなり、とうとうここに真選組の警察庁長官である〝松平 片栗虎〟までやってくる始末に。
自分のせいで沖田が処罰を受けることになってしまったらどうしよう、と内心冷や冷やしつつも、身動きがあまり取れないので座っている事しかできず、とうとうその人物は目の前に現れてしまった。
「お待たせぃ。」
突然現れた聞き慣れない声に、刹那は体ごとピクリと反応する。
声を聞く限りでは歳は五十前後だろうか。さすが真選組を束ねる長という位置にいる人物だけあって、声を聞いただけである程度の強さが伝わってくるのに、思わず音をたてて息を呑んだ。
「あー、あんたが以前ウチの連中を救ってくれたお嬢さんかぁ。初めまして、おじさんは松平片栗虎っていうもんでぇ、一応こいつらを取り締まってるんでぃ。」
「あーえっと、如月刹那です、初めまして」
「刹那ちゃんかぁ。今回の目は災難だったねぇ。おじさん、超絶美人だって噂聞いたもんだからぁ、元気な時に一度会ってみたかったなぁ。」
自分の一人称は〝おじさん〟なんだろうか。いまいち人格が掴めない中、刹那はひとまず笑って誤魔化した。
そんな刹那の心中を察してか、傍により耳打ちした。
「とっつぁんはそんな硬くならねぇでも、大丈夫でさァ。」
「あ、うん。でも顔も見えないし、声だけ聞いてると何となく威圧感が…」
そう話している間に、松平が低い声で総悟の名を呼んでは遮った。
「聞けばこのお嬢さんと一晩過ごしらしいじゃねぇかぁ。よりにもよって、屯所で事をやらかすたぁ、良い度胸じゃねぇか。」
「あ、あの違うんです!こ、これには事情があって!っていうかやってないし。」
「刹那、こいつを庇うこたぁねぇ。つか、女のくせにやってねぇとかさらっと言うな。」
「庇うも何も、何もないんだってば!ホントに!」
沖田の肩を誰一人として持たない状況に、刹那は大きな声を上げてむきになる。
今度は土方と刹那のいがみ合いが始まり、松平はそんな様子をまじまじ見ては、にやりと笑った。
「ほぉ、こりゃぁ驚いたねぇ。もしかして刹那ちゃん、真選組のメンバーと結構仲良しだったりするじゃぁない?」
「仲良し…仲良し?」
「そこは仲良しって言っとくもんですぜぇ、刹那。」
首を傾げている刹那に思わず沖田が突っ込むと、気づけば姉御から呼び捨てに昇格していた事に土方が気づき、沖田に突っ込んだ。
「テメェいつの間に姉御から昇格してんだよ!っつーか一回り近く年上だろーが!敬え!」
「ちょっとトシ!それさりげなく傷つく突っ込みだからやめてよ!だいたい、誰が年増だ、誰が!」
「んな事一言も言ってねぇだろ!テメェは耳までおかしくなっちまったのか?!」
「なんだと?!大体誰が大声出して大事にしちゃったと思ってんの?!」
「なんだよ俺のせいか?!あぁッ?!」
「え、じゃあ刹那さんは実際年齢いくつなの?」
刹那、沖田、土方の三人が言い争いをしていると、近藤がそう質問し、動きを止めた。
「…私、自分がいくつなのか正直分からないんですよね。」
「えぇ?!まじでか!」
「銀時よりは年下なのは分かるんだけど、じゃあ実際何歳なのかって聞かれるとはっきりは分からなくて…。」
「ふぅん。まぁ年齢なんて関係ないかァ。まぁ余談はおいといて、だ。そろそろ本題に入りましょうかねぇ」
刹那は耳をピクリとたててその声を聞いた。
松平の声色が急に変わる。
例えるならば、温かみを感じるオレンジ色から、鋭く射抜くような赤色に変わったような感覚だ。
自然と額から冷や汗を流し、息を呑んだ。
「まぁこれだけ噂が広まっちゃァ、後始末つけるのが侍として当然の義務だからねぇ。総悟ォ、この件はちゃぁんと責任もって落とし前つけろやぁ。じゃねぇと、てめぇの下の奴らにも示しがつかなぇだろーが。」
「…」
次にくる松平の発言次第で、今後の沖田の人生が全て変わってしまう可能性だってある。
密かに鼓動を走らせながら、静かに拳を握った。
「あ、あの、だからほんとに誤解で…」
切迫した空気に耐えられなくなった刹那が慌てて弁解しようとその場を立ったとほぼ同時に、松平が再び口を開いた。
「もう、籍入れちゃえよオメェら。俺ァ自分の息子が嫁をもらったみてぇに今嬉しいんだ。孫の顔が早くみたいもんだねぇ。」
「え。」
刹那は前のめりの姿勢のまま、停止した。
予想していた言葉とは全く違う方向からの落とし前のつけ方に思わず言葉も出ない。
「わかりやした、とっつぁん。俺が刹那を大事に」
「こらこらこら!わかりました、じゃないから!」
松平の悪乗りに沖田が賛同し、刹那は慌てて突っ込みを入れる。
「なんでぃ刹那。責任とるっつったらそれしかないでさァ」
「違う!ていうかそもそも根本的に、責任取るようなことしてないから!」
「刹那…もう諦めて大人しく身を委ねちまいな。」
「総悟っ!てめぇはもう黙ってろ!」
予想外の展開に、土方も思わず沖田の頭を殴る。
近藤は苦笑いを浮かべては、口を挟もうとはしなかった。
「っとまぁ、冗談はおいといてぇ」
「なんでぃ冗談かぃ。俺ァ本気だったぜとっつぁん。」
「総悟ッ!」
土方と刹那の声が重なる。
松平はそのやり取りを見て、大声で笑い飛ばした。
「いやぁ、実は刹那ちゃんの噂はずっと聞いてたもんでなぁ。しばらく屯所にいるなら、ちょっと顔を見たいってことでぇ、今日はそもそもここに来る予定だったんだよねぇ。おじさんびっくりさせちゃったよねぇ、ゴメンねぇ。」
「……」
刹那はまんまと松平に踊らされていたと確信し、深くため息をこぼした。
どっと疲れが押し寄せてきては、今の松平の言葉に疑問を抱いて首を傾げた。
「ん?じゃあ、松平さんは私を見に来ただけ?」
「そうだよぉ。ウチの奴らを体張って守ってくれたって聞いたからねぇ。上司の俺としては、一言お礼を言おうと思って。」
「あぁ、その事でしたら気にしないでください。好きでやった事なんで。」
「へぇ。じゃあ、刹那ちゃんのお気に入りはやっぱり、総悟かぃ?それともー…」
「え?」
「トシかぃ?まぁトシなら歳も近いし全然アリだよねぇ。この際もう、うちのヤツらの誰でもいいから結婚しちゃってよ。おじさん刹那ちゃん気に入っちゃったからさぁ。」
「……いや、全然話が繋がらないんですけど。」
「総悟、テメェもよく場所考えて手ェ出すんだぞぉ。邪魔が入ったら苦しむのはお前なんだからぁ。」
「肝に銘じときやす」
「はー…もう何でこうなるのー…」
嘆きの言葉を零すと、そんな刹那を見た土方が傍へ寄り、ぽんぽんと頭を撫でた。
「わりぃな、うちのバカ連中らに巻き込んじまって。」
「あー…こんなの銀時の耳に入ったら私また怒られるじゃん。」
しゅん、と肩を落として泣きべそをかく刹那。
そんな事をお構いなしに松平は再び話を続けた。
「刹那ちゃん。まあそう気を落とさないでェ、おじさんの話聞いてくれる?たぶん、刹那ちゃんにとっても悪くない話だからさァ」
「…なんですか?」
少し悪ふざけが過ぎた事を理解したのか、彼の声色からほんの少しではあるが申し訳なさそうな感じが伝わってくる。
刹那は再び聞く姿勢を取り、松平と向き合った。
「刹那ちゃんがかかった薬品はアルカリ性のものだって話したよねェ。おじさんの知り合いに、世界各国を飛び回っている名医がいるんでぇ、もし二週間経っても回復できない場合は、その医者の治療を受けてもらおうと思ってさァ」
「…視力、回復するんですか?!」
「おじさんに任せなさァい。こう見えて、結構顔が広いんだから。まぁ、奴をここに呼ぶにも時間がかかるからねぇ。ちょっとそれまでの間は、屯所でゆっくりでもしていってよ。」
「はぁ…ありがとうございます。」
「刹那ちゃんには、うちの奴らが何度か助けてもらってるからねぇ。ほんのお礼にしか過ぎないけど、それでいいかい?」
「もちろんです。目が見えるようになるのなら、お願いします。」
「いい返事だ。おじさんも早く、包帯をとった君の顔が見てみたいからねぇ。あぁ、屯所に自由に出入りできるように、近藤もちゃんと下の奴らに言っとくんだよぉ。」
「わかったぜ、とっつぁん」
松平は満足そうな笑みを浮かべて、腰を上げては〝またねぇ〟と軽い声で去ろうとした。
「はぁ…」
刹那がようやく落ち着いたと深呼吸をすると、去っていったはずの松平の気配を再び感じ、背筋をピンと立てた。
「あ、刹那ちゃん?屯所にいる間に、誰の嫁にいくか選んじゃってもぉ」
「結構ですっ!!」
とうとう我慢の限界がきて、話の途中で大声で怒鳴り返す。
フン、と腕を組んでそっぽを向く刹那の姿を見ては、松平は嫌われただの言いながら、ようやく屯所から去っていった。
「なんでぇ刹那。俺が旦那じゃ不満かぃ」
「なんで話がぶり返るんだよ。あぁ、もうなんか急に帰りたくなってきた…」
刹那は今日も雲ひとつない青空を見上げては、少しばかりホームシックになるのだった。