三.侍 時々 姫
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その日の深夜、眠れない沖田は稽古場へと行き、灯りも付けずにただひたすら闇雲に素振りをしていた。
身体を動かしていないと、心が壊れる。
守ると決めたのに、守れなかった人がいる。
自分はまだ、強くならねばいない。
あの人を守るために、もっと強く在らねばいけない。
そう自分を責めることで、現実から目を背けていた。
手に汗を握る。がむしゃらに何かをしていたところで、得られるものは何も無い。そんなことはわかっていても、止まることは出来なかった。
そんな時、一人の砂利を踏む足音を耳にする。
僅かに空いた入口に目を向ければ、そこには土方の後ろ姿が映っていた。
「…なんですかぃ、こんな夜中に稽古してる俺を注意にでもしにきたんすか」
「…違ぇよ。」
土方は、沖田の声色を聞いて心中を察した。
必死に悶え、何かと戦っているその姿に、まっすぐ目を当てることすら出来なかったのだ。
正直沖田の気持ちも痛いくらい分かる。
自分ももう少し若ければ、同じように考えていたかもしれない。
いや、年齢じゃない。
彼女の本当の気持ちを聞いてしまったから、もう沖田のようには思えない…思ってはいけないのだ。
「おい総悟。体動かしてぇんなら、俺も混ぜろ」
「はぁ?何言ってんですか。」
「いーから、手合わせしろって言ってんだよ」
土方は咥えていたタバコの火を消し、稽古場の中へ入る。
木刀を一本取り出しては、沖田の前へと立ち、構えた。
「テメェの悪あがきを受け止めてやらァ。気のすむまでかかってこい」
「…」
その言葉に沖田は返せなかった。
この男は、自分の心境を理解している。そのうえでこうして、正面に立っているという事が分かったからだ。
沖田は再び木刀を握りしめ、目の前にいる土方に全速力で立ち向かったのだった。
ーーーー
どれだけ長い間対戦をしていたのか分からないが、身体の中に体力は残っていなかった。
大の大人二人が床に寝ころび、荒い息遣いで天井を見上げる。
沖田は柄にもなく、自分に付き合ってくれた土方にぽつぽつと自身の気持ちを打ち明け始めた。
「土方さん…俺ァあの人を護りてぇ。護れるほど強くなりてぇ。そのためには、今のままじゃダメなんだ」
「…」
土方は、沖田のその言葉にすぐには返さなかった。
「姉御は人一倍、他人の事ばかり考える人でさァ。自分の事なんて二の次どころか三の次くらいにしか考えちゃいねぇ。そして誰よりも、周りの笑顔を見ては幸せを感じる人だ。それなのに、俺があそこで助けられなかったせいで、目が見えなくなっちまった。一時的なもんじゃねぇかもしれねぇ。もしかしてこのまま視力を失っちまったんじゃ…俺ァあの人の幸せを奪っちまったって事になる。やっと長年かけて手にした自由だったのに…やっとつかんだ姉御の幸せを…俺は…」
「…おい、総悟。アイツが何に落ち込んでいるか、何に怯えてんのか知ってるか」
「…は?」
自分を責め立てる沖田の言葉を、土方は遮った。
沖田は土方の質問の意図が掴めず、ただ彼の顔をじっと見た。
「確かにテメェが言う気持ちも分かる。アイツの視力がもしもとに戻らなきゃ、それこそ生活も不自由になっちまうし、今のように剣はふれねぇだろうからな。でもよ、アイツが本当に恐れてるのは…本当に気にしてんのはそこじゃねえ。」
「…?!」
「自分がとった行動で、二人の年下の男が傷付いた。自分のせいだと思って欲しくない、己を責めて欲しくない。ただ、笑っていて欲しい。だからこそ、もし視力が回復せず見えなくなっちまった時に、一生その傷を背負っていこうとする二人を見る事の方が、よっぽど辛ぇんだとよ。」
「…土方さんにそう言ったんですかぃ?姉御が。」
「…いや、俺にじゃねぇよ。アイツが本当に心の内にある気持ちを吐き出せる男は、一人しかいねぇ。普段くっだらねぇ野郎のくせに、ああいうところは大した野郎だよ、全く。」
「…旦那ですかぃ。」
「あぁ。だからテメェも、いつまでもうじうじテメェの事を責めて悪あがきすんじゃなくて、あいつが気を遣わなくてもテメェに接すれるようにしやァいいだけの話だ。」
「…簡単に言ってくれますね、土方さん。」
「いつも通り、あいつに接するだけだろーが。んな難しく考えんな。だいたいこんな事してる暇があるんなら、俺たちァ俺たちなりの後始末のつけ方があんだろーが。」
「…!」
「ったく、テメェは不器用か。気づくのがおせぇんだよ」
土方はそう言って、ゆっくりと体を起こしては、沖田を一人残してその場を早々に去っていった。
俺たちなりの後始末の付け方。
今不自由になってしまった彼女を、何があっても全力で守り抜く事。
今までの借りを全て返しきるまで、彼女をずっと。
すぎたことを悔やむのではなく、今できることを。今やるべき事をやるまでだ。
寝静まった屯所の中で、沖田の拳を強くにぎりしめる力の音が、やけに大きく聞こえた。