三.侍 時々 姫
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日付が変わって物静かな夜になった頃。
銀時は真選組の屯所近くまで足を運んでいた。
そして自分の数歩先には、密偵や監査を中心として動いている、真選組の中で最も地味な男、山崎が歩いていた。
「…旦那、ここです。」
山崎は足を止めて、道の前をあけた。
そこには一本のおおきなもみじの木の下で、風にあたりながら落ちてくる葉を愛でているような、刹那の姿があった。
が、銀時はすぐには駆けつけることが出来なかった。
目を覆うように何十も巻かれた包帯をした、視覚を失った刹那の姿があまりにも胸を痛め付けたからだ。
だがあいつは、気休めの同情も、心配を露骨に出した声も望んじゃいねぇ。
銀時は腹をくくり、刹那の元へと歩み寄った。
彼女はその足音を聞いて、こちらを見た。
まるで見えているかのように、何も言わなくても自分だと分かっている様子で、いつもと変わらぬ優しい表情をしていた。
二人は木にもたれ掛かるようにして座り、銀時が持参した酒を飲み交わし始めた。
「それで?どーなっちまったらそー毎度毎度満身創痍になるんだよ、テメェは。」
「いやぁ、別に望んでこうなったわけじゃないんだけどねぇ。」
「そうかい。俺としては、オメェと一緒にいるのは心臓がいくつあっても足んねぇよ」
「ははっ!ゴメン。でもさ…」
刹那は見えもしないのに、夜空を上げた。
どんな表情をしているのかすら、分からない。
銀時は刹那に悟られぬよう、その顔をじっと見た。
「人を助ける理由に、理屈なんて存在しない。気づいたら身体が勝手に動いてて、新八の前にいた。ただそれだけなんだよね。」
「…違いねぇ。なんとなくわかる気がすらァ。まぁ、それがお前らしいっちゃらしいしな。」
「……ねぇ、銀時。」
「なんだよ」
「新八は……」
刹那はそこで言葉を詰まらせた。
身を呈して守った新八の心を、酷く心配している様子だ。
こんな時まで自分のことより庇ったやつの心の心配をしているのか、と銀時は呆れてため息をこぼした。
「あいつァ、まるでこの世が終わっちまったみてぇな顔して帰ってきたぜ。」
「やっぱり、そうか。」
「とりあえず今日のところは、あいつの姉貴の妙に迎えにきてもらって、神楽も一緒に連れて帰らせたがよ。ありゃ重傷だ。完全に自分のせいだと思ってやがる。」
そう答えた銀時は、くっと酒を喉に流し込んだ。
刹那は俯いたまま、もう一度、そうか。と呟いた。
「実際、その目はどうなんだ?」
「今日明日は定期的に消毒して、全治凡そ二週間ってところかな。運が良ければ視力は回復するし、運が悪ければ視力は失う。」
「そうか…。まぁ、万が一目が見えなくなるっつーんなら、俺が一生面倒見てやるから安心しな。」
「ははっ!ありがとう。」
銀時の軽い発言に、刹那は笑う。
それでも彼女の心の中は、何かで不安に満ち溢れているような、そんな様子が伝わってきた。
どうしたら、その内の本心を彼女から聞き出せるのだろうか。
この女は、こちらから無理にでも引き出さなければ、その毒を吐き出す事はできない。
銀時は必死で考えた後、月明かりに照らされている紅葉を見上げながら、静かに口を開いた。
「…なぁ、刹那」
「…どうした?」
「オメェが怯えてんのは、もしかしたらこの先目が見えなくなるっつー事にか?それとも、別の何かか?」
「…銀時、何言ってんの。私は別に…」
ふい、と顔を反らし強がる刹那。
銀時はそっと御猪口を地面に置き、刹那の体を勢いよく抱きしめた。
「言えよ。テメェが何かに怯えてる事くらいわかってるんだよ。毎度毎度同じ事言わせんじゃねぇ。何年テメェを見てきたと思ってる」
力強く自分を包み込む銀時の腕に、人肌の体温を感じる温かい銀時の胸に、刹那は徐々に押し殺していた気持ちがあふれ出した。
「---っ!!どうしよう、銀時」
腕の中におさまっている彼女の肩が震えだす。声も途切れ途切れで、次第にエスカレートしていった。
「私が後先考えずに行動したせいで、大切な二人が心を痛めてる。目が見えなくても、それが痛いくらいに伝わってくるの…!私が目が見えなくなる可能性よりも、その二人の顔を見るのが怖い…。自分を責め立てるような顔を見るのが、辛い…!」
「…」
やはり、と銀時は思った。
彼女は自分の事で涙を流さない。こんな時にまでも、他人の事を想って涙を流す。
刹那の涙はいつも真っすぐで清らかだ。
そんな事を感じながらも、銀時は続けて話す刹那の声に耳を澄ました。
「視力を失うのが怖いんじゃない。視力を失って、二人が一生負い目を感じて私を見るほうが、私には辛くて耐えられない!」
「…刹那」
「まだこれから先人生を歩んでいく、自分よりも若い二人が、自分の咄嗟に取った行動でそんな重たいものを抱えてこの先生きていくなんて…嫌だ…」
包帯の下から、ぽたり、ぽたりと雫が零れ落ち、銀時の着物を濡らしていく。
「…オメェはほんとにバカがつくくれぇのお人好しだな。」
「だって…」
「大丈夫だよ。新八は、オメェが思ってる以上にやればできる奴なんだ。確かに今はちょっと動揺しちまって、死にそうなツラしてるがな。お前のそのあいつを想う気持ちは、絶対伝わる。だから心配すんな。テメェは、胸張って堂々としてろ。身勝手でも新八を助けて、そのうえ新八が傷付いた分まで背負おうとするなんざ、テメェの華奢な体には重すぎる。テメェの背負ってるもんくらい、俺が背負ってやらァ。だから今は、ちゃんと目ぇ治すことに専念して、もういっぺん俺のこのかっこいい顔を拝められるようにお祈りでもしとくんだな。」
「…そうだね。私が視力失っちゃったら、銀時がおじさんになっても、おじいさんになっても今のままの姿でしか記憶に残らないもの。それはちょっと、嫌だな」
「…お前さんね、少しは俺のこの精一杯の優しさを茶化さずに受け入れられねーのか。ったく。」
「…受け入れてるよ。受け入れてるからこそ、こうしてこの胸の中で唯一、涙流す事ができるんだろ」
刹那がそう答えた時、顔は見えないが確かに笑っている気がした。
月明かりの灯す紅葉の木の下で、二人はしばらく体を寄せ合い、互いの存在の大切さを、互いの存在の大きさを実感しつつ、時を過ごしたのであった。