1.序奏
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何から不満をぶつけりゃいい。
朝から家を一人で出てフラフラしてた事からか?
まだケガが治っているような状況じゃないのに、あの真選組のクソどSと手合わせしてた事をか?
それとも、あいつの事をいつの間にか〝総悟〟と親し気に呼んでいる経緯から聞き出すべきか?
いや、最後の質問はどう考えてもおかしい。
とりあえず上の二つから聞くべきだろ。
銀時の頭の中は、錯乱していた。
当の本人と言えば、ふぅ、と小さく息を零して木刀を元のあった位置に戻そうとゆっくりと歩きだし、銀時に背を向けた。
「おい刹那。」
名前を呼ぶが、反応はない。
あいつは一体俺に何を思っているって言うんだ。
あのクソガキは一体俺にどうしろって言うんだ。
銀時は自問自答を心の中で何度もし、頭を強くかきむしった。
刹那はそっと木刀を置くと、くるりと振り返り銀時をまっすぐ見た。
「あれだけ昨日飲んでたのに、よく起きられたね。てっきり昼過ぎまで寝てると思ってたよ」
この状況でしれっとそう話す刹那を見て、銀時はとうとうプツンと何かが切れたような感覚を覚えた。
「おい刹那っ!状況分かってんのか!そんな体で無茶してまた傷口開いたら元も子もねぇだろーがっ!少しは自分を大事ににしやがれっ!」
「…そんな体って、どんな体だよ。」
刹那は銀時の真っすぐぶつけてくるその不満に、ピクリと反応していつもよりワントーン低い声でそう呟いた。
「そんな体って、お前数日前まで寝たきりの重傷だっただろうが!普通もっと大人しくしてるもんだろ!」
その真っすぐな心配してくれる気持ちが胸をチクりと刺激する。
昔はそんな風じゃなかった。どれだけケガをしても、一緒に無茶をやってきた。
でも今は違う。
もうきっと彼は、自分の事を深く知りすぎて対等には見ていない。
刹那は静かに拳を握りしめた。
こんな心境は初めてだ。
何だこの感情は。胸がカッと熱くなって全身に力が入る。
刹那はとうとう心の中にしまい込んでいた思いを、銀時に強くぶつけ始めた。
「…あぁそうだよっ!!」
最初に発した第一声がそれだった。
銀時は怒鳴る刹那を見て驚き、一瞬身を反らしたが、それには向かうように体を前のめりにして返した。
「え、何ですか逆ギレですか?!怒ってんのは俺のほうなんですけどっ!?」
「ほんとならまだ歩くのもやっとのはずの重傷だった!なんなら自分で刺した時、殺すつもりで刺したんだよ!」
「なっ…!」
「--っ!でも違うんだ。もう、壊れ始めてるんだよ…」
現実を受け止めるのがつらい。自分の傷口が今どうなっているのかすら恐ろしくて見えなかった。
それでも今自分の体がどうなっているかくらい、見なくても感覚で理解できる。
刹那はやはり銀時にも説明しなければいけない、と心に決め、突然帯を外し着物を脱ぎ始めた。
「え、ちょ、ちょっと刹那さん?こ、こんなところで何やってるわけ?ちょっと?!」
銀時は刹那のしようとしている事についていかず、思わず目に手を当てるが、その隙間からはちゃっかり彼女の姿を捉えている。
微かに頬を赤らめながら、刹那のしようとすることに言葉も出ないまま棒立ちしていると、上半身に覆ってある包帯を素早く外したところで衝撃を受け、目から手を外した。
「やっぱり、な。…見ろ。私の体はもう、〝普通〟なんかじゃない。あいつらの実験を死ぬほど受けて生き永らえてきた代償がこれなんだ」
「き、傷が…」
確かに彼女が自ら負った傷は深く、医者も全治2か月程度はかかると言っていた。
それがどうだろう。彼女が刀を刺した位置にあるのは、完全に傷穴は塞がっていてもう何年も前に追ったような傷跡のみだった。
「人間の治癒能力を最大限に高める実験を行ってきたせいで、体にも免疫力がついてきた。もちろん傷ついた痛みは本物だよ。それでも私はもう、長い間奴らに実験台にされてきたせいで、人間ですらなくないんだ。」
「お前…」
「おかげで外傷から死ぬ確率は低くなった。でも…」
刹那はそこで言葉を詰まらせて俯いた。
銀時は突然突き付けられた事実に言葉が上手く出せない。
しばらく沈黙が流れる。
そしてそれを破ったのは、刹那だった。
「人間の器である以上、私はこの得た能力に蝕まれて、いつかは死ぬ。たぶん、そう長くは生きられないと思う。もう、銀時の前で死ぬのは嫌なんだ。お前とはここで別れる。銀時が命をかけて助けてくれたからこそ、もう自分の醜い最期を見られたくないんだ」
ふっとあげた刹那の目は、何も捉えてはいなかった。
自分の方を見てはいるものの、実際はもっと遠い先を見ているようだ。
なぜ、彼女はここまでの仕打ちを受けなければならない。
なぜ、彼女は生きるだけでここまで苦しまなければならないんだ。
俺はこいつに何もしてやれないのか。
いつだってこいつの力になる事はできねぇのか…!
そう心の中で強く叫んだ時、気づけば刹那は服を元に戻しその場を去ろうとしてた。
確かに刹那の言う通り、また次あいつが自分の目の前で死ぬ様を見ても平気かと言われれば、それは愚問だ。
死ぬほど自分の無力さを責めるし、死ぬほど悲しむ。
だからこそ、あいつを守りたいと思った。
「おいちょっと待て刹那っ!」
そんな強い思いが、いつの間にか歩みだした彼女の手を強く取っていた。
刹那は突然の事に酷く驚いた表情を浮かべつつ、銀時の目を睨むように見た。
「何一人で勝手に全部決めてんだコノヤロー。確かにオメェがまた俺の前で死ぬような事があったら、正直どうなるか分からねぇ。でもな、俺にとっちゃ俺の知らねぇ間にこの世から消えちまうほうがよっぽど嫌だね!」
「なっ…」
突然の子供じみた言い方に、刹那は空いた口が塞がらない。
こうなりゃヤケだ。この勢いでこいつに言いたいことは全部いっちまえ。
ふと、銀時の中でそう囁きが聞こえたかと思いきや、思いきり声に出してしまった。
「あぁぁあもうっ!こうなりゃヤケだコンチクショー!」
「…は?!」
「オメェがどう思ってるか知らねぇけどな、俺だっていろいろ複雑なんだよ!あいつらから解放されて、はれて自由の身になったお前を俺が縛るような真似はしたくねぇ!だから新八や神楽みてぇに一緒に万事屋をやろうやなんて俺の口からは言わなかったんだよ!俺はテメェの自由に生きて欲しいと大人な対応したつもりだったんだ!
珍しく銀さんが紳士な対応をとったっつーのに、オメェは何か?自分の体が人並外れた治癒能力があるから、そのせいでいつ死ぬかもわからねぇから俺の前から消えるってか?!ふざけんんじゃねぇ!」
自分でも驚く程、大声で叫ぶ銀時は更に続けて刹那に自分の思いをぶつけた。
「んな事俺にはどーだっていいんだよ!人間離れしてようが女だろうがお前は俺の知ってる刹那である事に代わりねぇだろーがッ!治癒能力たけぇんなら喧嘩したってすぐ回復できるんだ!返って最強だろぉがッ!そんぐらいのポジティブシンキングでいいだろ!だいたい、俺だって糖尿で明日死ぬかもしれねぇんだぞ、どーだすげぇだろ」
「…」
「何が言いてぇかって言うとなぁ、俺ァ、昔みてぇに死ぬまでテメェと一緒にいてぇんだよ!」
そこまで言い終えて、銀時はハァハァと肩で息をした。
こんなに怒鳴り散らしたのは久方ぶりだ。もう何が何だか分からない。
やけくそとはまさにこのことだ、と不覚にも冷静に思った。
だがここまで言えばもう刹那にも自分の気持ちは伝わるだろう、と安堵した直後。
今の話を聞いて俯いた刹那が、ふつふつと自分の思いを零し始めたのだ。
「昔みたいに…?それは無理だよ。銀時はもう、私に背中は預けてくれない!いざ闘う場に居合わせても…私の前に立って、私を護るように闘うだろ!目が覚めてから、銀時がそういう優しい視線で私を見てるのは分かってたんだ!もうそんなの対等なんて言えないっっ!昔とはもう違うのっ!」
刹那の顔をまじまじと見ると、天人達と闘った時のように目に涙を浮かべていた。
「銀時がそうするのは、私が女だと認識してるから?私が傷付いてるから?!私はもう、昔のように信頼して戦わせてもらえないんだろ!」
「…そういうんじゃねぇ!!!」
震えている刹那の肩の上に銀時の手が置かれ、強く握りしめられる。
銀時の表情を見ると、彼の必死な様子が痛いほど伝わってきた事にハッとした。
「なんでストレートに言ってんのに全然伝わらねぇんだよ!オメェはバカですか!バカヤローですかっ!いい加減気づけよこのクソッタレが!!」
徐々にトーンが落ち、銀時は彼女の耳元に口を持ってきたかと思えば、先ほどまでとは違う甘い優しい声で呟いた。
「いい加減分かれよ、女とかどうこうの問題じゃない。オメェが死ぬほど大切な奴だから護りてぇんだ。一分一秒でも永く傍においときてぇからだ。」
「ぎんっ…」
「ほんと何なのオマエ。死んだって理解するのに何年もかけてようやく受け入れられたと思ったら、生きて目の前に現れて。今度はいつ死ぬかも分かんねぇから俺の前から消えるって。勘弁してくれよマジで。いくら銀さんが最強でも心臓いくつあってももたねぇよ」
「ごめっ…」
「でも、俺もお前とずっと一緒にいたのに肝心なこと忘れてたわ。お前は黙って俺に守られるような可愛らしいそこらの女じゃねぇってこと。」
「え、ちょっと待ってなにそ」
「もう何でもいいよ。お前が手の届く距離にいんなら。女だろうが殺人マシーンだが何だろうが。目の届く範囲で生きててくれりゃそれでいい。もうそれ以上お前に何も望まねぇ」
銀時はそう告げて、顔を見られないようにそっと刹那の肩に置いた。
そんな銀時の弱みを露にした姿を見た刹那は、もうそれ以上突っぱねることも何もできなくなり、ようやく銀時の心境を理解した。
あぁ、なんて単純な事だったのだろう。ちゃんと本人に直接聞けば、こんなに早く彼の気持ちを理解する事ができたのに。
なんて遠回りをしてしまったのだろう、と後悔した。
そしてそれと同時に、目の前にある大きな体にそっと腕を回した。
「…バカだなぁ。言ったじゃん。今度は私があんたの身勝手さに振り回される番だって。最初からそうやって言ってくれれば、こんな喧嘩じみた事する事もなかったのに。」
刹那から出た声も、温かみのあるものだった。
銀時は耳元でその言葉を聞き、はぁ、と大きくため息を零した。
「あのね、大の大人がそんな常々自分の気持ちを正直に言えると思う?銀さんお前さんより年上よ?いい年こいてそんな子供っぽい事言えるわけねぇじゃん」
「普段子供っぽい事しかしてないのに、よく言うよ」
「あんだとコラ、もういっぺん言ってみろコノヤロー」
「ははっ!世話のやける相棒だよ、全く。」
「テメェにだけは言われたくねぇよ!年下のくせに年上ぶってんじゃねぇ!」
「年だけろくにとってる奴に年下扱いされる筋合いねーよ!」
「やるか?!」
「やんのか?!」
二人の声が重なり、額がすり付き添うなくらい至近距離になると、二人はフッと笑みをこぼし、小さく笑った。
「なんか、こういうの久しぶりだね。長い間時間が空いてたから、私たぶん銀時への接し方がぎくしゃくしてたんだと思う」
「違いねぇ。お互いいい歳だしな。」
やけに落ち着きを感じる刹那は、今しがた銀時に伝えられた言葉をもう一度噛みしめていた。
そしてふと感じた事を、何も考えずそのまま銀時に言ったのだ。
「…ねぇ銀ちゃん。今思い返せば、なんかさっきのある意味プロポーズに聞こえるよね」
「は?!な、なななななにバカな事言っちゃってんの刹那ちゃん!俺がいつプロポーズみたいな事言ったわけよ!」
「ほら、死ぬまで一緒にいたい、みたいな事言ったじゃん。はたから聞いたらプロポーズよね」
ふふ、っと小さく笑う刹那を見て、銀時は怒りと感情に任せてストレートに言ってしまったことを思い出し、顔を真っ赤にして焦り始めた。
「いいいいいや、それはだな、そういんじゃなくて、その…!」
確かにそういうつもりで言ったんだが、否、でもそんなに早くこいつに自分の気持ちを伝えるようなんて事したら、こいつはまた女がどーのこーのって…!
「バカ、冗談だよ。大丈夫、ちゃんとわかってるから」
「…あ?」
刹那に爽やかな笑顔を見せられ、銀時はどこか嫌な予感がした。
「銀時が私にプロポーズするわけないじゃん。だって女としての私と知り合ったのなんて、ほんのつい最近だし。それに私黙って護られない可愛くない女だし?」
「え、何お前、そこ気にしてんの?」
「ううん別に。可愛さなんてそもそもとうの昔にどこぞに捨ててきたわ。なくて結構。」
「あの、ちょっと、刹那さん?」
「そうじゃん。よくよく考えたら私銀時に女として見られる要素なかったわ」
「…おーい。」
勝手に自己完結していく刹那は、銀時の声すら届かず終いにはパッと晴れた顔をして銀時にこう言った。
「ごめん!なんかたぶん、自由になっていろいろ考えてむしゃくしゃしてたんだわ!はい、この話おしまいね!」
再び爽やかな笑顔。
誰が何を分かってるだって?これだけ本気でぶつかってんのにこいつは俺の気持ち一切分かってねぇじゃねぇか!
昔から鈍い奴だとは思ってたがまさかここまで鈍かったとは…!俺以上にやべぇ奴だ!いや、それ以上にこいつ一生恋愛なんて言葉に縁がねぇんじゃねぇのかっ?!
銀時はそう考えながらも落胆し、肩の力を一気に落とした。
それを不思議そうに見ている刹那の顔を見て、不覚にも可愛らしいと思ってしまったために、とりあえず諦 1/3でも伝わってればまだマシだと思うことにして諦めた。
「まぁ、いっか。俺も今自分の気持ち初めて理解したし…気長に行くか。」
「ん?今なんて?小さすぎて聞こえなかったんだけど」
「なんでもねーよ、バァーカ。」
「…なんだよ」
「なんでもねぇって言ってんだろ、ほら帰んぞ」
「帰るって…」
「俺ん家に決まってんだろ。オメェはこれからみっちり万事屋に営んでもらうからな」
「…はいはい」
刹那は照れ隠しにそっぽ向く銀時の横顔を見て、再び小さく笑い、歩き出した彼の背中の後を追うのだった。