1.序奏
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凍り付くような場所にずっといる気がしていた。
何もかもを失い、暗い世界の中でただ一人。光を探し求める事すら諦めていた。
もう十分だ。
もう十分疲れた。
歩くことを止めようとしたその時、はるか先に一つの眩しい輝いた光を目にした。
何だろう。
私はあの温かい光を知っている。あの光に触れたい。
もう一度、手を伸ばしてもいいだろうか。
一度は諦めた私が。あの光に触れる事を許されるのだろうか。
自問自答をしながら、私はその光にゆっくりと手を伸ばし、そのまま無心になって全速力で走りだしたのだ。
ーーーーー
重い瞼をゆっくりと開けると、目線の先には木製の天井らしきものが映し出された。
「…なんか、あの世って結構庶民的…いや、貧しい天井なんだな。」
ただ思いついた事を声に出して零す。
軋むような体をゆっくりと動かし、天井を触るように手を伸ばしじっと見ていると、突然視界に銀色の髪が入り込んだのだ。
「わーるかったな、貧しい天井で。」
聞き覚えのある懐かしい声。
口調も悪いし言葉も悪いが優しさが伝わってくるその声色。
私はこの声の主を知っている。
刹那は大きく目を見開き、頭を少し横に傾けた。
自分の瞳に映ったのは、意識を手放す前に最期の別れを告げたはずの男で。
なぜか不機嫌そうに、昔と変わらぬ不貞腐れた表情を浮かべながらこちらをじっと見ている銀時の姿が、そこにあった。
「銀…時。どうして…」
「どうして?はぁ?何、お前もしかして俺も一緒にあの世に来ちまったとでも寝ぼけてんのか?」
「…」
長い間眠っていたせいか、それともまだ現実が受け入れられないのか、刹那はポカンと口を開けたまま銀時を見つめた。
彼はそんな刹那の様子を見て大きくため息を零し、頭をかきむしってめんどくさそうに口を開いた。
「刹那が倒れちまった後、あいつら天人は俺たちが全部ぶっ潰した。んで、致命傷だったオメーを、真選組の連中が医者を手配してくれてな。なんとか間に合って、助かったんだよ。」
「あ…」
「もう終わったんだよ、刹那。」
「銀、時…私…」
「もうおめーを殺人人形だなんてこき使う奴なんて、どこにもいねぇんだ。だから安心しろ。とりあえず今は、そのケガが治るまで治療に専念するこったな」
「…」
銀時の言葉を聞き、刹那は現実を受け止めるのに時間がかかった。
何年もあの苦痛に耐えてきたのが、たった一人の男によって、この短時間でひっくり返されたのだ。
銀時は刹那をしばらくじっと見た後、再び大きなため息を零しては刹那の手を掴んだ。
「おい、さっきから何黙りこくってんだよ。なんか俺に言う事あんだろーよ?え?だいたい何、俺を殺したくねぇから自分が死ぬみたいな選択肢とりやがってよ。刹那が俺を殺せるとでも思ってんの?身勝手なことばっかりしやがって、銀さん結構お前に怒ってるわけよ。わかる?」
引きつった笑顔でそう言う銀時を見て、刹那は力を抜くように微笑んだ。
「…ゴメン。銀時。でもなんか…」
「あんだよ」
「銀時に怒られるのって、悪くないのな」
昔のように無邪気に笑う刹那を見て、銀時の心臓がドキリと大きく鼓動し、それを隠すかのように目を逸らす。
刹那は軽く頬を赤らめ、自分の手を優しく握る銀時の横顔を見て、目を覚ます前に見たあの強い光は、きっと彼を示していたのだろうと悟った。
そう思えば自然と笑みがこぼれ、つられて銀時もフッと声を零して笑った。
「ったく、起きたら真っ先に怒鳴り散らしてやろうと思ってたんだけどなァ。そんな顔されてちゃ、怒る気も失せちまうぜ。ったく、ほんとに扱いづれぇ奴だよ刹那は」
「銀時、ありがとう。助けてくれて。もう一度私に自由をくれて。本当に…ありがとう。」
「あぁ、気にすんな。ま、これでお前にでっけぇ貸し1だからな」
「…あぁ。」
「ったく、そんな華奢な体してんのに何もかも一人で背負い込むからこーなるんだぞ。次はねぇからな、次は。」
刹那のその答えに満足したのか、銀時は優しく微笑んで彼女の細い手を離した。
「…銀時、やっぱり知ってたんだね」
「あ?何がだよ」
「私が女だという事を。薄々気づかれてるとは思ってたけど。あの時久しぶりに再会したはずなのに、私の姿を見て驚かなかったし。っていうか、同一人物だって最初から分かってたし。」
「…まぁ、な。」
あぐらをかき、頬杖をついてフン、と息を零す。
頭の中では、刹那を必死に探し出していた時に思い出していた昔の記憶を、もう一度思い出していた。
「違和感ある?この姿も、この口調も。」
「いや、ねぇよ。今のお前はどっからどう見たって女だしな。口調だってその容姿で昔みてぇに話されても違和感あるし…それに。」
「それに?」
「口調とか姿とかは関係ねぇだろ。刹那は刹那だ。俺の昔から知ってる、戦友だろ?」
銀時のその言葉に、刹那は目頭が熱を帯びるのを感じた。
「ただ、」
なぜ今まで頑なに女と明かさなかったのか、その肩の傷には一体どんな過去が、そろそろ俺には話してくれてもいいんじゃねぇのか。
そう言いたくても、なかなか声に出せない。
銀時は複雑な顔を浮かべて刹那から目を逸らした。
「私は、代々最強の侍を育てる神化の家に産まれたんだ。私の一族は、男しか産まない。その中で、私が産まれた。その後母は子供が出来ない体になってしまったから。異端児だと扱われ、両親は現実から目を背け始め、男として育てたの。でもやっぱり……」
「おい、無理に理由を話さなくていい。俺は別にお前の過去を無理やり聞きてぇ訳じゃねぇんだ。」
「…ううん。聞いて欲しいと思ったから話したいの。」
切なげな目をしては、情けなく微笑む刹那を見て、銀時は姿勢を正して聞く耳を立てた。
「成長していくにつれて、女というのが露骨に出てくると、私の両親は酷くそれを嫌がって…殺そうとしたんだ。」
「なっ……」
「肩の傷跡は、その時必死に逃げて付いたもの。逃げて逃げて、そして私は……」
ごくり、と息を飲んだ。
淡々と話していく彼女の内容は、あまりにも辛く受け止めがたいものだったからだ。
「両親を、この手にかけた。親を……殺してしまったんだ。」
「それで、寺子屋に…」
「そう。今でもあの時の恐怖心は忘れないし、親を斬った時の感触も忘れられない。私も死にたかった。生きていてはいけないものだと思ったから……。でもね、そう考えてる時に、銀時達と知り合えた。いるのが当たり前のように接してくれるみんなに、私は生きる希望を貰えた。」
「…」
「女だと明かさなかったのは、幼少期の名残というのもあったけれど、みんなと対等でいたかったからなんだ。今まで黙っててごめん。」
「いーよもう、そんな事でいちいち謝んな。」
「奴らに囚われていた時も、記憶を消されていく時も、どんな時でも銀時たちのことが頭から離れなかった。あの日死んだと思っていたのに、もう一度目を覚ました時、殺人人形として使われていた時も…もう一度だけ会いたいって強く願ってた。今は、あきらめなくて良かったって心から思える。」
「そーかよ。」
そう返した銀時の言葉は適当ではあったが、声と表情は刹那を思う優しさを表していた。
「ところで、私はどのくらい眠ってた?」
「一週間だ。ほんとに息してんのか何回も確認しちまったじゃねぇか」
「げ、まじか。一週間ってやべぇな。そりゃ死んでると思われてもおかしくない。よく生きてたな、私。」
「何他人事みてぇな言い方してんだよ、おめぇのことだろーが。」
「ふふ、そうだね。さて、さすがに体固まっちゃいそうだから起き上がるわ」
「いやダメだろ。普通に結構重傷者なんだぞお前」
「一週間寝てたんだし、それで生きてたんだから大丈夫だろ。」
何とも適当な理屈を並べ、刹那はゆっくりと体を起こした。
心配そうに銀時はそれを眺めるが、手を差し伸べていいものかも分からなかった。
「お、意外といけるじゃん。」
思いのほかすんなり起き上がれたのに喜び、そのまま足に力を入れて立ち上がった。
「だから刹那。あんま無茶すんなって…おい!」
順調に立ち上がれたと思いきや、久しぶりの感覚によろけて体が傾いた。
「あっぶね…。銀ちゃんナイスキャッチ」
「てめぇ調子のいい時だけ銀ちゃんって言うんじゃねぇよ!!」
間一髪のところで銀時が手を差し伸べ、倒れそうになった刹那を抱きかかえるように受け止め、そのまま床に倒れ込んだ。
銀時は危機感のない刹那に怒鳴り声をあげ、当の本人はといえば苦笑いを浮かべて後頭部をさする。
銀時は呆れていたが、刹那と密着状態である事に気づき、もう一度彼女の生きている証拠を体感した。
「よかった、もうあったけぇな」
そう独り言のように呟き、優しく銀時の腕が刹那の体を包み込む。
刹那は突然の事に驚き、瞬きを何度もして硬直した。
生きててくれて、本当に良かった。
もう一度こうして、刹那と話す事ができて本当に良かった。
「…刹那。もうぜってーロクな死に方すんなよ。」
「…うん。」
お互いが目を見つめあって、微笑む。
この時互いの心が、少しずつ変化をもたらしている事に、自身で気づいてはいなかった。
シリアスな雰囲気が流れる中。
凄まじい豪快な足音が徐々に近づき、部屋の扉の方へ視線だけ向けると、そのタイミングで勢いよく扉が開いた。
「銀さん、今凄い音しましたけど大丈夫ですか!?」
「え」
「あ」
突如その場に現れたのは、息を切らして下のお登勢のスナックから駆け付けた剣八の姿だった。
だが剣八の目には、銀時が刹那の下で抱きしめるようにしている光景。
一瞬状況を理解する事に時間を要した剣八も、次第に顔が般若へと変わっていく。
「おい、新八。おめぇ何か勘違いを…」
「重傷者に手を挙げるなんて何やってんだてめぇ!!!!この変態クソ天パダメ男がぁぁぁっ!!!」
その言葉と共に銀時の顔に新八の踵落としが入った事は、言うまでもない。