四.戦姫編
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ーーーーエドの船に囚われていた頃。
思い出すのは、かつて背中を預けて闘い続けた仲間たちの姿ばかりだった。
一度は失ったはずの命を自分の意思ではなく、他人により繋ぎ止められたその体は、もはや自分の物のような感覚すらしなかった。
自由を奪われたまま長い期間に渡り治療を受けさせられ、奴らの成すことに抵抗しようものならば、力でねじ伏せられる。
終いには、らに逆らう原因は過去の記憶にあると言われ、定期的に脳に信号を送り込み、神経に負担のない程度に記憶を消していく装置を無理やりつけられた。
過去に失いたいものなど、何もない。
しいて言うのであれば、この作り物でできたような体とおさらばしたいくらいだった。
逃げる事すら、死ぬことすら許されない。
私はなぜ今この場に立っているのか、なぜ息をしているかすらも分からなくなった。
そんな頃だ。エド率いる浮遊船に知らない顔の女と出会ったのは。
いつものように敵を抹殺しろという指示に抗い牢獄のような場所にぶち込まれていた日の事。
彼女と初めて言葉を交わした。
「…なんじゃ、こんな薄汚い船にも宝石のように輝く女がおるとは意外じゃったな。」
暴行と無理にでも気力を無くす鎮静剤のようなものを打たれた刹那は、ぼんやりとした意識の中で、その声を耳にした。
手足は枷により壁にはりつけられてはいたが、幸い顔は動かす事ができ、その声の主の方へと目を向けた。
本来であればだれもいないはずの牢獄に、もう一人姿を見たのは初めてだった。
「…お主、口もきけぬのか。随分こっぴどくやられたようじゃな。」
「…口くらい利けるさ。まさかこんな阿呆共の船に、自分と同じく捕まるような愚かな奴がほかにもいたとはな…。」
刹那は力なく笑みを浮かべ、その女の目を見るために目を凝らした。
外から風が入り込み、唯一の灯りとなる通路の炎がなびく。
女の姿が一瞬だけ見えた時、刹那は驚きのあまりに声を失った。
深緑の腰まである長い髪、背丈もかなりあるその体格。
そして瞳は黄金色にきらきらと輝きを持たせ、耳はピンと角を立ててはっきりと見せつけるように露になっていた。
刹那と同じように、その女も彼女の姿を見て思わず口を開けて目を見開いた。
自分と似ている、と。
互いに見つめ合った後、しばらくして口を開いたのはその女のほうだった。
「どうやら、私がこの船に捕まったのはお主が関係しているやもしれんな。そなた、名をなんという。」
「…刹那だ。」
「そうか。私はイザベルと言う。ドンレミ国という星で戦姫を務めている者だ。」
「…ドンレミ国?聞いたことないな。」
「まぁさほど有名な星ではない。あそこには女騎士しか生息しておらんからな。」
「…女騎士、か。」
「そなたも見たところ、闘えるように思えるが…」
「私はもともと、地球にいた〝侍〟だ。」
「ほう、地球の侍とやらは、女でもなれるのか。」
「男と偽って侍になったんだ。ま、ここに監禁されてからは女として扱われる始末でだいぶ男っぽさは抜けてきたけどな。」
刹那の吐き捨てた言葉に、イザベルは声を押し殺して笑った。
「お主を飼うあ奴らは、大したもの好きじゃ。こんな隙あらばかみ殺すような野獣の目をしておる奴を、よく監禁できておる。」
「…全くだ。」
そんな会話をしたのが、イザベルとの最初だった。
彼女は気品があり、常に堂々たる物言いをする。
そして刹那にとっては、牢獄に入れられる度に彼女との会話が少しずつ楽しくなっていき、彼女にはいろんな話をした。
薄れかけている記憶の中に眠る仲間たちの話をした時は、いつも以上に優しい瞳で聞いてくれていたような気さえした。
話は自然と弾み、彼女の姿を見れば自然と笑みが浮かぶ。今まで船の中でこんな思いをした事は一度たりともなかった。
互いに心を許し、友と呼べる存在が新たにできた。
そう思っていたのにーーー。
イザベルと知り合って一か月ほどがたった頃だった。
いつものようにエドの部屋に呼ばれた刹那は、重い足取りでその場所へと行く。
毎晩のようにあの男に抱かれ、徐々に女になるこの体も。
女のような声をあげる自分の愚かさも。この時ばかりは嫌悪感しか抱かなかった。
扉を開け、いつものように入ったその時。
刹那の目の前には、イザベルが全身傷を負い、囚われている姿があった。
「なっ…!」
何があったのかと驚いた刹那は、彼女を見ては思わず後退る。
体のあちこちから血を流し、意識を手放しているのか、彼女は静かに目を閉じていた。
「イザベルッッ!」
無意識のうちに、友の名を呼んだ。
そしてその友は、重い瞼をゆっくりと開いた。
「刹那…逃げろ。お前はこんな場所にいていい奴ではない。」
「な、なにを…」
「やはり、そういう事だったか。」
部屋の中には彼女の姿しかなかったはずが、気づけば一人の男が二人の間に割って姿を現した。
男は深く笠をかぶり、腰には一本の刀をさしている。
…人間か?それとも、人間の姿に近い天人だろうか。
刹那は丸腰の状態で身構えた。
全く気配を感じなかったその男に。まったく殺意すら感じないその男に、怯えさえした。
ぐっと拳を握り、射殺すようにそいつを見る。
「だ、誰だお前は…」
「エドの旦那。これで俺の言っている事は本当だって信じてくれただろう。」
「…あぁ、そのようだな。」
驚いている刹那を余所に男がそう言うと、いつの間にかその場にエドも姿を現した。
「どうやら牢獄に入れている間に、この女狐にたぶらかされていたようだな、レイ。…この女を殺せ」
「ーーッ!」
背中がぞっとした。
笑みを浮かべてそう指示をするエドを見て、刹那は体を震わせた。
人間にはない、奴の快楽の基準は刹那にとって、それほど恐ろしかった。
だがそんな彼女の様子を見ていたもうひとりの男は、エドと同じようににやりと笑みを浮かべ剣を抜いたのだ。
「その出来損ないにはできないそうですよ、旦那。俺が仕留めてやらァ。」
「ーーッ!やめろッ!」
刀を持たないまま、刹那は奴の攻撃を阻止するためにその場から走り出した。
「だめだ、刹那!!」
レイザベルは無謀な行動にでた彼女を止めようとする。
だがすでに彼女にはその声は届かなかった。
「…遅いっ!!」
男はイザベルの心臓を一突き貫いた。
刹那はそれを、ただ見つめることしかできなかった。
穢れも知らぬようなイザベルのきれいな体に、真っ赤な血が流れ落ちる。
「ほう…戦姫といえども、人間と同じ赤い血が流れるのだな。」
男はそう呟き、にやりと笑みを浮かべた。
「きっ…貴様ァァァ!!」
刹那の叫び声が響き渡る。
涙を浮かべた彼女はそのまま男へと再び足を動かし、真向からぶつかった。
だが彼女に攻撃する気配もなく、男はそのまま床へと押し倒される。
男は潤んだ瞳で凄まじい殺気を放つ刹那を見ては、静かに笑みをこぼした。
「美しいな、お前。そのまっすぐな瞳に免じて、あの女の最期くらい見届けさせてやろう。」
「なっ…」
この時、奴が何を考えているのか全く理解できなかった。
そしてその男の意見に賛同するかのように、同じ部屋で傍観していたエドも共に姿を消し、イザベルと二人きりが部屋に取り残された。
振り向けば、彼女がゆっくりと血を流し横たわっていた。
そんな姿もまた美しく、気高くさえ見えた。
刹那はゆっくり彼女のもとへと歩み、その場に崩れ落ちるように跪く。
「…て」
ぽつり、ぽつりと涙がこぼれる。
この船に拾われてから、涙などとうに流し切って枯れてしまったと思っていたのに。
刹那はただこぼれていく涙に違和感を覚えながらも、そっとイザベルの体を自分に引き寄せた。
「…どうして、あなたがこんな目にッ!」
「…泣くな。お前はこんなところで泣いていていい器ではない。」
耳元で、確かにイザベルの声を耳にした。刹那は急いで彼女の顔に視線を移し、微かに開いているその瞳をただまっすぐ見つめた。
「案ずるな。私は肉体が死んでもお前の中で戦姫として生き続ける。お前が諦めてその身を自身の力で滅ぼさぬよう、私がしかとみている。だからお前も、あきらめるな。ここでお前の短い人生を終わらせるな。私は…お前が私を護ろうとしてくれたように、いつまでもお前を見続けているからな。…お前は、もう一人の私だ。」
「…イザベル。」
「大丈夫だ。お前には、侍という仲間がいる。いつかきっと、お前が自由になれる日はくる。友がいる限り、お前は強い。だからもう泣くな。私はお前と…」
ーーーこれからも、ずっと一緒だ。
それが、彼女と交わした最期の言葉だった。