四.戦姫編
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意識を保っている誰もが、自身の目に映る光景を疑った。
銀時の投げた一本の刃は、刹那ごと幻斎を貫いていたのだ。
「……ッ」
言葉が出ない。言葉にならない。
自ら投げた刀が、己が一番大切にしてきた者に刺さるなど……。
「刹那ーーーッ!」
気づけば、体は起きあがり刹那の名を叫んでいた。
それでも現実は変わらない。
刹那の背中からは、溢れんばかりの血が噴き出していた。
「き、貴様まさか自分ごと……ッ」
彼女の行動が理解できなかったのは、幻斎も同じだった。
味方から刀を投げさせたまでの作戦は知っていた。
てっきりそれを交わし、自分にその刃を突き刺そうという魂胆だと思っていた。
それなのに、なぜこの女は自分と一緒にその一本の刃に貫かれているのだ。
幻斎は隠しきれない動揺を露わにする。
刹那はそんな奴の表情を間近に見ては、フッと口元に弧を描いた。
「つーかまえた。」
刹那はそう言って、自分の身にも突き刺さっている木刀を握る。
「な、なにをッッー!」
「これなら刺さっても容易く抜けねぇだろ。追いかけっこはもう終いだ。」
「ま、まさかーッ、これを狙って……!」
「いや……これはあくまであんたの隙を作るためだ。本当の狙いは、ここからだッッ!!」
刹那はそのままの姿勢で、右手に握りしめていた無石を奴と自分のあいだに投げ捨てた。
パリン、と石が碎ける音を耳する。
そしてそれと同時に、青白い光が石から発し始めた。
「こ、これは……ッ」
「さすがのあんたも、この石の力の前じゃ再生出来ねぇだろ。」
刹那と銀時が負わせた幻斎の傷が、回復どころか更に血を流して広がり始めた。
「グッ……やってくれるな……刹那。だが、分かってるのか。この光を浴びればお前も……」
「この光からは逃げらんねぇよ。お前も……私も。」
「まさか、自ら共に滅びる覚悟で来るとは……恐れ入るよ。お前の強さには……ガハッ」
笑みを浮かべては、石の力のせいで全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる。
幻斎と繋がれている刹那も、同じようにその場に跪いた。
遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
愛しい仲間の声だ。
必死に自分の名を呼び、悲しんでくれる人がこんなにもいる。
こんな人生をまた歩めるなど、誰が想像していただろう。
「……私は、不幸なんかじゃない。充分幸せものだった。」
力が抜けていくのに、刹那は自然と微笑んでいた。
それを見た幻斎は、徐々に体が溶けつつも、彼女のそんな様子を見て不覚ながらも綺麗だとさえ、思った。
「…お前が心中してくれるとは。俺も幸せ者かも、しれんな……」
幻斎が放った最期の言葉はそれだった。
そして粉々に散っていき、刹那よりも先に消滅した。
恐らく奴の方が自分よりも龍王族の血を多く取り入れていたのだろう。
だが刹那自身の体も、力が入らないどころか感覚すら消えていく。
痛みも無くなり、身体が暖かい光に包まれていく。
かかる時間は違えど、先に逝った幻斎と同じ運命を辿ることは明白だ。
そう思い、夜空を見上げている刹那の元に、身体を這いつくばらせてでも彼らが集った。
「刹那ッッ!!」
何度も何度も呼ばれるそれを聞いた刹那は、微笑むも涙がポツリ、ぽつりと零れ始めた。
「……やめてよ。湿っぽいの、そう好きじゃないんだ。」
「バカ野郎、なんで、なんでッッー!!」
「死ぬな刹那ッ!クソッ、消えるなッッ!」
「俺がまだ口説き落としてねぇのに消えるなんざ、許さねぇ!」
「刹那姉ちゃん、嫌アル!消えるなんてダメアル!」
皆のかける言葉を一つ一つ聞きながら、徐々に崩れ落ちる自分の身体を、銀時がそっと抱きとめる。
何も言わず、ただそのボロボロになった腕で抱きしめる。
「……銀時。ごめん、また辛い役、やらせて。」
「んなこたァ今はどうだっていいんだよッ!なんでテメェが消えなきゃそうになってんだッ!これは一体どーいう事なんだよッ!ちゃんと説明しやがれッ!」
耳元で怒鳴り声を響かせる。
刹那が説明をすべくゆっくり口を開けると、それを助けるかのように陸奥が先に口を開いた。
「ワシが麒麟に頼まれていた商いじゃ。龍王族が生きる星に眠る、〝無石〟という石の欠片じゃ。奴らの不死の力を弱めさせ、消滅させる代物じゃった。だがなぜ、刹那まで……ッ」
「戦姫の血を、私も身体の中に持っているからだね。やっぱり別の種族の血を維持する器の限界は、とうに超えてたんだよ……」
力なき彼女の声が銀時たちの耳に届く。
それでも刹那は、微笑んでいた。
「でも、これでやっと。化け物でもない、殺人兵器として作られた〝レイ〟の名を持つ私でもない、本当の刹那として、みんなとこうして再会できた……やっと、元に戻れたような気がするよ。」
「刹那さんは最初から刹那さんですッッ!!」
新八が目に涙を浮かべながら、その手を握る。
もう血が通っていないのではないかという程の冷たい身体に、彼女が消えていく現実を更に突きつけられた様な気がした。
「ーーーッ」
だがそれを誰よりも理解しているのは、刹那の身体を支えるようにして抱いている、銀時だった。
元々軽い身体をしていたのに、今ではまるで宙に浮いているかのように重みを感じない。
温かみもない、触れている感覚もない。
胸が鷲掴みにされているような痛みを灯す。
「……バカだなぁ、みんな。」
「……」
「そんな顔してたら、去りずらいんだけど。」
「……」
「ばかもの!去っていいはずないだろ!」
「せっかく久しぶりに再会したっちゅーんに、そげん早く去るなんてわしは聞いとらんぞ。」
「それにテメェはまだ銀時しか相手してねぇだろーが。」
「ははっ、やっぱり手厳しいな。」
桂、坂本、高杉が彼女のもう反対の手を取る。
「ごめん、もう、感覚ないや。」
「おぬし、わっちを騙したな……一か八かと言うておろうたではないか……」
「月詠、ごめん。最初からこの選択肢を取った時にこうなることは、理解してたよ。」
「……っ」
「でも、みんなのおかげでようやく自由になれた……ありがとう。」
弱々しく微笑む彼女の顔を見ると、自然と涙が零れてくる。
銀時は、そっとその体を引き寄せた。
「…う、…馬鹿野郎…」
皆に見えないように涙を静かに零す銀時の姿を見て、刹那は心を痛めた。
できることなら、私だってもっとみんなといたい。
やっと人間の頃の自分を取り戻せたというのに、このまま消えるなんて嫌だ。
そう願った時、新たな声が突然耳に入り込んだのだ。
「まったくお前は、相変わらず何もかも一人で背負う阿呆の性格は変わっておらぬな。」
「…え?」
誰もがその声に反応し、辺りを見渡す。
どうやらその声が聞こえてくるのは、刹那だけではなさそうだった。
「お前は少し、物分かりが良すぎだ。ま、よく言えばの話だがな。」
「--ッ!」
青白い光の中に、一人のシルエットが浮かび上がる。
そしてそれは徐々に人の形からはっきりと姿を映し出し、彼らの目の前に突如現れたのだった。