四.戦姫編
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新八と神楽の手を離した後、刹那は一人で迫り来る敵を何とか倒しながらも前へと進んでいると、すぐに月詠の姿を見た。
手当を追え、再びあの戦場へ向かおうとしたところを、一人でいた刹那と鉢合わせになったのだ。
彼女の援護により、日輪の元へようやくたどり着いた刹那は、荒々しい息のまま日輪に言った。
「すまない日輪。せっかくの吉原が…私の勝手な戦のせいで…」
「何言ってんだよ。私こそ悪かったね、あんたと闇の情報屋がそんなに深い因縁だという事を知らずに頼んでしまって…」
「いや、それに関してはむしろ感謝してる。いつまでも逃げられる相手ではなかったしな…。」
情けない笑みを浮かべながら、日輪と晴太は彼女の止血と手当を急いだ。
「…日輪、面倒ついでにもう一つ頼んでもいいか?」
「…?」
日輪から見れば、刹那の顔色は随分悪い。
呼吸も乱れたまま、止血をしても何度も口から血が流れてくる。
どう考えても腹の傷からくるものだとは思えなかった。
彼女は何か、大きなものを抱えている。
何も知らない日輪でも、それだけは理解していた。
彼女が小さな声で話すのを、日輪は聞き耳を立てる。
刹那はそんな真剣な日輪を見て、小さく笑みを零した。
「痛み止め、ありったけくれ。それから、私の水無月を……刀を、持ってきて欲しいんだ。」
「ちょ、ちょっとあんた、こんな傷と体でまだ闘おうってんじゃ…!」
「闘うさ。みんな私のために命を預けてくれた。まだ私には、ぶっ倒れていい資格もないし、ここで呑気に休んでる資格もない。だから頼む。」
「…あんた、綺麗な女の顔して、男の侍みたいな事言うんだね。」
「もともと男として生きてきたんだ。今更急に女っぽい性格には戻れねーさ。」
「…わかったよ、ちょっと待ってな。」
「母ちゃん!!」
晴太が日輪を止めようと呼ぶが、刹那が弱々しい力で彼の裾を引っ張りそれを止めた。
「晴太、よく聞いて。」
「な、なんだよ刹那姉ちゃん…」
「私はあいつらをぶっ潰して、必ず吉原を取り戻す。そして誰一人死なせないし、誰も死なない。だから、吉原を…あんたの母ちゃんを見守って。」
「そ、そんなこと当たり前だよ!!」
「それと…ここにけが人を誘導するから、そん時は手当頼むわ。」
「…それも、分かってるよ。」
「ありがとう。」
「約束…だからな。」
「…?」
「今刹那姉ちゃんが言ったように、必ず吉原を取り戻して、誰一人死なずにこの戦いを終わらせるんだ!その約束破ったら、俺は刹那姉ちゃんを許さないからなッ!」
「…わかったよ。」
潤ませた瞳からは、強い信念と意思を感じさせた。
刹那はそんな晴太に心を打たれ、静かに笑みを浮かべた。
そんな約束をされたら、無茶をしてでも全員生き延びてこの子の元に帰ってこなければいけない。
無茶難題の約束をしてしまったな、と心の中で弱音を吐いては心が少し暖かさを覚えたような気がした。
「…刹那。」
そんな時、日輪に呼ばれる。
手には自分の愛刀である〝水無月〟を大事そうに持ち、こちらへ差し出す。
「…ありがとう。すまない。」
「…いってらっしゃい、刹那。」
「え…」
「いってらっしゃいって言うって事は、ただいまを言わなきゃいけないよ。そのために、生きてもう一度ここに帰ってくるんだ。私はあんたに手当してやる事くらいしかできないけど、それでも…私にとってはもう、大切で大事な吉原の女だよ。」
「---っ!」
「さ、気張ってきな。みんなが待ってる。」
「…ありがとう、日輪、晴太。いってきますッ!!!」
刹那は温かい笑顔を向けてくれる二人を背に、再び戦場へと全速力で走り始めた。
今にも傷が開きそうだ。
今にも足元がふらついて倒れそうだ。
それでもなお、今は立ち止まっている場合ではない。
みんな闘ってる。みんな自分のために、集まってくれた。
誰一人死なせたくない。みんなでもう一度、笑うためにーーー。
「援護は任せろ、刹那。」
「…月詠!?」
「お前はわっちの友人の大切な友人じゃ。わっちも守らせろ。それとも、わっちのような非力では背中は預けられんとでも?」
「フッ…ご冗談を。頼もしい限りだよ。参ったな、吉原の女はみな、本当に強い女だ。」
「ご謙遜を。おぬしだって、吉原の中でも一、二位を争う程強い女じゃ。よく今まで闘い続けたな、刹那。」
「…」
優しく笑う月詠を見ては、目頭が熱くなる。
「そんな事言ってもらえるような人間ではないよ、私は。…こんな大事な人たちを巻き込んで、アイツと闘っている時点で、私は臆病者だ。」
刹那は情けない笑みを浮かべてそう言った。
月詠は思った。
この女の事を、結局自分はよく知らない。
けれども銀時の眼差しを見ているだけで、彼女が何か大きなものを背負っているのは明白だった。
最初はどんな人間かと思っていたが、こうして一つ一つ言葉を交わしていくと、自然とその人間の在り方というものが分かってくるものだ。
そんな事を考えている月詠の心境を余所に、刹那は思い詰めた表情で走りながらも口を開いた。
「…月詠。アイツは不死身と言われてきた男だ。さっきその目で見たから分かると思うが、負傷させても傷はすぐ再生されて元に戻る。」
「…倒す方法はあるのか。」
「ある。方法は二つだ。奴は決して不死身などではない。人間よりも心臓が多くあるんだ。その数は最大で七つ。それを一斉に潰す事ができれば、さすがのあの男も死を迎える事になる。」
「あんな手強い相手に一斉で七カ所から攻撃か…。骨が折れそうじゃな。」
「…そしてもう一つは、もうそろそろ到着するであろう快援隊からの届け物…。絶滅した龍王族の星に眠っている、奇跡の石と言われた代物を奴の体内にぶち込む事。」
「奇跡の石?」
「あぁ。そのかけら一つを探す事でさえ相当苦戦する代物だが…今回は旧友に頼んだから間違いなく届けてくれるはずだ。その石の名は、〝無石〟。 それは名前の通り、何もかもを無にできるという優れものだ。それを奴にぶち込めば、奴の体の中にある龍王族の血を無効化する事に最適なんだ。」
「…なるほど。あとはどうやってそれを奴の体内に入れるかというところが問題だな。」
「…それができるのは恐らく、今いるメンバーの中では同じ異族の血が流れる私しかいない。」
刹那が静かにそう言った時の表情を見た月詠は、胸騒ぎがした。
「お主まさか…!」
「私まで消えるかどうかは分からんが、一か八かにかけるしかない。」
「そんな作戦を銀時達が許すとでも…!」
「でもここでアイツを消さなければ、みんなが殺されるどころかこの国ごと消されてしまう。ただそんな作戦をアイツらに言ったところで、銀時達は絶対に許さないし、私を行かせてはくれない。」
「…なるほど。そこでまだ付き合いの浅いわっちにその汚れ役を頼もうというのだな。」
「いや、付き合いが浅いとかそういうんじゃない。ただ闘う一人の女として、共に銀時と闘ってこの吉原を救った月詠。私はあんたに頼みたい。」
迷いのない、真っすぐな青色の瞳が月詠を見つめて微笑みかける。
全てを悟り、全てを諦めた…いや、むしろそれに全てを賭けて勝つ気でいるのだろう。
だがいくら日が浅いといっても、友人である万事屋が大切にしている人をみすみす死なせる程、自分も薄情な奴ではない。
「…いいか。わっちがお主の作戦に協力する時は、もうそれしか方法がないと思った時だけじゃ。それまではわっちは勝手に動くからな。」
「ははっ!手厳しい。さすが百華を率い、この吉原を守る番人だけある。…任せたよ、月詠。」
「…」
返事はしなかった。
できる事ならその手段はとりたくない。けれども奴の強さを身に染みている月詠にとっては、彼女が言う最悪の手段を完全に否定する事はできなかった。