四.戦姫編
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幻斎から離れた刹那は、一気に気が緩み、身体を巡る痺れと刺された腹の出血が降りかかった。
「刹那さん、大丈夫ですか、しっかりしてください!!」
新八が刹那を背負い、神楽が向かってくる敵をなぎ倒していく。
視界が霞みそうになりながらも、なんとか意識を持たせて、彼女は新八に尋ねた。
「月詠は…?」
「月詠さんなら今、日輪さん達の手当てを受けてますから大丈夫です。…こんな時くらい、あなたは自分の心配して下さいッ!」
「刹那姉ちゃん、しっかりするアル!刹那姉ちゃんを泣かせる奴は、全員私がぶっ飛ばすネ!!」
頼もしい年下二人に励まされ、刹那は情けなく笑みを浮かべては、再び消えそうな声で話を始めた。
「新八、神楽。頼みがあるんだけど、聞いてくれるかな。」
「な、なんですか?」
「最期のお願いとか言ったら、ぶん殴るアルよ!」
「大丈夫、まださすがに死ぬ気はないから。今すぐ戻って、彼らに伝えて欲しいことがあるの。」
「ま、待ってください刹那さん!今こんなところであなたを置いて行ったら……!」
「私よりも今は彼らの命が危ない。だからお願い。言伝頼めるかな。二人にしか、頼めないんだけど……」
「刹那さんッッ!!」
自分の意志を覆すことなく、刹那は話を続ける。
新八と神楽は、歯を食いしばってその声に耳を傾けた。
「奴は…幻斎は普通の傷では死なない。奴を倒すにはーーーー」
その時新八と神楽が耳にしたのは、恐ろしい程困難な話だったーーー
ーーーー
カッコつけて刹那を先に手当に誘導したはいいものの、彼らは早々に苦戦していた。
幻斎を相手にしているのは、銀時と高杉の二人で、真選組達はその周囲にいる奴の部下たちと交戦していた。
斬っても斬っても手ごたえのない敵に、銀時はフッと苦笑いを浮かべた。
「んだよアイツ、このクソみてぇな奴と一人で闘おうとしてたなんて、無茶にもほどがあるっつーの。」
「なんだ銀時、早くも姫の力に縋ってんのか?」
「縋ってねぇよ。っつーかテメェこそ、あいつを昔のままだと思ったら大違いだぞ。今なんて化け物じみてて昔以上におっかねーんだからな。」
「アイツは昔から変わっちゃいねぇさ。大方手当したら全速力でここに引き返してくるようなバカだ。」
「…違いねぇ。」
「その前にさっさとケリをつけねぇと、あの姫がまた無茶したら俺たち本物の男のプライドがズタボロにされるぜ」
「…そうだな。アイツにはもう無茶はさせたくねぇ。」
高杉と銀時は思った。
やり方も違う、人格も違う。何のために自分の命を預けて動くかどうかも、どちらかと言えば真逆だった存在だ。
それでも、目的は互いに同じ。
如月刹那という存在を守りぬき、彼女に架せられたものを取り除いてやりたい。
そう思うからこそ、共に背中を合わせて闘える。
もう一度しっかりと刀を握りしめ、負わせた傷を修復させて戻ってくる幻斎を睨みつけると、奴は声を押し殺して笑っていた。
「言ったろう。俺と奴の因縁はそう簡単には断ち切れん。互いに流れる血が、互いを求めているのさ。貴様らに入り込むような隙はない。」
「うるせぇよ。あいつが戦姫で、テメェが龍王だかなんだか知らねぇがな。アイツはどこにも嫁に行く気はねーんだよ」
「アイツが一人の男に捕まるようなタマなら、俺たちはハナから苦労なんてしてねぇ。」
「そうか。それは気の毒だったな。今まで散々振り回されてきた女に、ようやく解放されるんだ。ありがたく思え。」
「生憎、アイツに振り回されるのは嫌いじゃねぇんだ。だから、テメェの思い通りにはさせるねぇよッ!!」
再び襲い掛かる幻斎に、二つの刃が立ち向かう。
それを時折見守るかのように、真選組達は後方を援護し、奇襲をしかけてくる奴らをかたっぱしから切り崩していくのであった。
だがそれも、長くは続かない。
何度か攻撃を加えたにも関わらず、時間が経てば傷がいえる相手に対し、自分たちは傷を追っては体力を消耗し、精神ともに追い詰められる。
ぜぇぜぇと肩で息を吐き、額や体のあちこちから血が流れ落ちる。
一瞬でも気を抜いてしまえば、その場に崩れ落ちてしまう事だって容易だろう。
それでも銀時は何とか意識を保ち、再び目の前に立ちはだかる一人の男を射殺すように見つめた。
「諦めの悪い男だ。そんなにあの女が大事か。そんなにあの女に執着するのか。」
「…テメェにだけは言われたくねぇ」
「確かに、あの女はいい女だ。俺の龍王の血がうずいているのももちろんそうだが、あの女はそもそもの器が違う。人間には捨て置けないほど、気品もあり芯の強い女。何度抱いてもあの心が手に入る事はなかったさ。」
「…テメェッ!!」
「嫌悪、憎悪、殺意が混じった悲鳴を上げては、果てるまでひたすら甚振る。お前はあの女を抱いた事があるか?」
「ふ、ふざけんなァァァ!!」
洞爺湖を握りしめる力が強まり、腕からの出血が強まる。
それでもこの目の前の男には一発ぶちかまさないといけない。
そう強い想いを抱いた瞬間、自分よりも先に左右から二つの影が幻斎に攻撃を与え、その場から吹っ飛ばした。
「…お前ら、どうして。」
「これ以上テメェの汚い口から刹那姉ちゃんの事語るんなら、その口引きちぎってやるネ!」
「刹那さんはあんたが知っているような人じゃないし、あんたに抱かれていいような女でもないッ!」
倒れそうになっている銀時達の前に現れたのは、先ほど刹那の身を託した新八と神楽だった。
その姿を見て、高杉は刀を支えに立ち上がり二人に尋ねた。
「おいテメェら、刹那を託したのに何で戻ってきた!」
「刹那はどうした!」
高杉に続けて、銀時が怒鳴りつける。
新八と神楽は、飛んで行った幻斎の方から目線を変えぬまま、二人に返した。
「その刹那姉ちゃんの頼みアル。銀ちゃんたちに言伝を預かってるネ。」
「刹那さんは今頃月詠さんと日輪さんに手当を受けてますから大丈夫です。それより、聞いてください。刹那さんが奴の弱点を教えてくれたんです。」
「…何ッ?!」
「いいですか、奴はーーー」
新八が口を開いた矢先、目の色を変えた幻斎がいきなり背後に現れ、刀を新八に振りかざした。
「新八ッ!!!」
銀時が彼の名を叫ぶ。新八は振り返るが、反応が遅れ刀を防ぐ事ができない。
やられる。
瞬きをする間もなく、その刃は自分へと襲い掛かる。
だがその刀は途中で動きを止め、再び幻斎は腹部を斬られて数メートルその場から吹っ飛ばされた。
「やれやれ、間一髪で間に合ったようだな。」
長い髪を風になびかせ、なんとか新八の命を救った男がその場で安堵の息を零す。
誰もが男を見ては驚き、思わず名を呼んだ。
「ヅ、ヅラァ!!」
「桂さん!」
「ヅラじゃない、桂だ!」
緊張感のないその登場っぷりに、周りにいた連中は小さくため息を零す。
新八は驚きのあまり地に尻をつける。
「ど、どうしてこんなところに…?」
「あぁ、ある奴から連絡が入ってな。仕事を手伝ってもらえんかと言われたんだ。」
「…それって、刹那さん?」
「いや、アイツではない。」
「あははははっ!あははははっ!おまんらすごいケガぜよ!随分派手にやられとるのぅ」
「そ、その笑い方はーーーっ!」
「辰馬!」
「坂本さん!」
桂に加えてもう一人その場に現れたのは、刹那のもう一人の昔の戦友でもある、坂本辰馬の姿だった。
そしてその隣には、彼が率いる怪援隊の副官でもある陸奥の姿があった。
「みんな久しぶりじゃのぅ。元気しとったか」
「これが元気してるように見えるのか、テメェには。」
「あはははっ!そんな口が叩けるならまだまだ大丈夫じゃろうて。何やら荷物を届けにきただけのつもりが、偉い騒ぎになっとるのぅ。」
「…荷物?こんな時に何の荷物届けに来たんだよテメェは。」
銀時と高杉からじとりと冷たい視線を浴びながら、坂本は再びがははと笑った。
「いやぁ、うちの陸奥がわしに黙って何やらこそこそと最近動いっとったけぇのう。ちょっと問い質したら、おもしろい奴とやりとりしておったんに気づいたんじゃ。」
「…陸奥さんが?」
「手紙の差出人は〝麒麟〟。その相手が何やら物騒なもんをうちの副官殿に探させてここに届けるように頼み事をしたみたいでのぅ。」
「き、麒麟ってまさか…!」
「な、なんで陸奥が?」
「…わしは昔、その〝麒麟〟と親しくしてもらっておってのう。まさかその麒麟が辰馬とも知り合いだったとは、わしも知らなんだわ。」
笠を少しだけ上げ顔を露にする陸奥は、苦笑いを浮かべてはそう言った。
「その情報を得た坂本が、俺に連絡を寄越してきたのだ。少し商いに付き合え、とな。まぁ案の定、ついてきて正解だったみたいだな。お前らバカ二人では、刹那の身一つ守ることもできんようだからな。」
「んだとテメェ、ヅラァ!」
「で。その麒麟はいずこへ?」
「…今手当してらァ。あいつを戦闘に立たせる前に、さっさとこっちのケリをつけてやらねぇといけねぇからな。」
「…そうか。」
銀時の強がる言葉に、陸奥は俯いた。
麒麟が陸奥に内密に頼んだ捜し物。
陸奥はそれを知っているからこそ、この場に彼女がいなければ勝算はないと瞬時に理解してしまった。
彼女が依頼した探しものは手に入れてこうしてここに運んできたわけではあるが、少し遅かったようだ。
懐にしまい込んだそれを手で触れて確かめながら、陸奥は再び刹那の姿を思い出した。
彼女にしか使えない代物。
そして、もしかすると彼女も命を落としかねない代物。
それを探し出して彼女に渡してしまって、本当にいいのだろうか。
陸奥の心の中では、この商いの疑念が渦を巻いていたのだった。