四.戦姫編
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高杉と銀時の渾身の一撃を食らったにもかかわらず、その男は血を一滴たりとも流すことも無く、強いて言うなら笠がなくなったのとかすり傷程度で、再び彼らの前に立ちはだかった。
銀時たちはそんな姿を見て思わず目を見開いたが、刹那は奴の強さを、奴の丈夫さを身に染みて理解していた。
奴を倒す方法は数える程はない。真正面から向かったところで、幻斎に勝ち目はないのだ。
「笑わせるなよ。俺の強さは、てめぇが一番わかってるだろう。なぁ、刹那」
「……」
刹那は肯定も否定もしなかった。
たった一人の男に、全員が束になってかかったとしてもし勝機があったとしても、何人命を落とすかは分からない。
「刹那さん、あの人は一体何者なんですか…?」
なんとか立っている刹那の身体を支えながら、新八が彼女に問う。
笠が外れて露になった奴の顔は、血が通っているのか疑うほど青白い肌と、人を平気で斬り殺してきたであろう恐ろしい目を持っていた。
髪は銀時とは真逆の漆黒で、地球上の男と比べたものならば、一際顔立ちはいい方とは言えるだろう。
刹那は、下唇を噛み締めながらもその質問に答えた。
「私の知る限り、最強と呼ぶに相応しい男だ。一瞬でも気を抜けば、こっちが殺られる。そして奴は恐らく……」
「お前たちが大事そうに抱えているその女と、同じ類だ。」
「なっ……!」
「エドという天人達を知っているな。奴らは世界中のあらゆるエイリアン達の血を集め、人間を強化するためにその血を実験に用いた。だが人には相性ってもんがあってな、そいつの中の中心の血はエイリアンの血などではない。ある国で讃えられていた、気高く人間の姿に限りなく近い、オルレアン族の女たちの血だ。」
「オルレアン族……?!」
「翼を生やし、剣を持ち、訪れる戦にただ立ち向かう、気高いヤツらだ。だからこそ刹那と相性があい、奴らの血もまた、そんなお前を受け入れた。」
「う、うそだ、そんな……!」
「そう。覚えているだろう。お前が昔エドという男に拾われて命を吹き返した後訪れた星で、最初にお前を救おうとした奴の血だ。」
「ーーッ!」
吐き気がした。
未だに覚えている。
唯一自分の心を読み、救おうとしてくれた人を。
だがその血はエドたちによって抜き取られ、まさか自分の体の中で生きていたなんて。
刹那はその場に崩れ落ち、口元に手を当てた。
「お前が奴らを殺せないっていうんで、俺が手をかけて殺してやっただろう。あのそっくりな女がこうして今、また美しいお前の身体の中で生き続けている。」
「あ……、あ……」
「おい刹那、しっかりしろッ!」
「刹那さん!」
「刹那姉ちゃん!!」
ガタガタと身をふるわせ、刹那はかつての記憶を思い返していた。
同じ船で囚われた身同士、一時でも友と呼べた存在。
殺せと命じられたのは自分自身で、それでも抗おうとしていた自分を助けようと、エドや玄斎に立ち向い、その命を落としてしまった、気高く正義感の強い人。
まさか心を許した彼女の血は、私を強くするために殺され、この体に流れていたとはーー。
胸の中が焼けそうだった。
だが、刹那のそんな様子は余所に幻斎は続けた。
「お前は奴ら戦姫の血を受け継ぐ。そして俺は、女種族である奴らに唯一許された存在…龍王族の血を受け継いだ。」
「龍王族……?!って、なんだそりゃ。なんか名前だけ聞いてっと強そうだが……。」
こんな状況で、自分のペースを貫き通す銀時。刹那はそれを聞いて、少しばかり緊張感が解れた気がした。
「竜王族とは、かつて攘夷戦争が起こる頃密かにバックで勢力をあげていた奴らだ。そして、今話にでてきたオルレアン族たちの血を繋げるために、龍王族の血を繋げるために
、互いに体を預け子孫を作る。……そうだな、名が知れる一族でその強さを例えるならば、夜兎族の力の三倍に匹敵するくらいだ。」
「夜兎の三倍……?!」
「でも夜兎よりも厄介なのは、奴らの再生能力だ。」
「そ、それってまさか……!」
「私は人より傷が治るのが早いし、生命力も高い。でも龍王族はそれよりも厄介だ……細胞が瞬間再生能力を活発にし、傷を無きものにする。一言で簡単に言うなら、不死身というわけだ。」
「うわー、ほんとに厄介だなそりゃ……。」
「知ったような口ぶりじゃないか、刹那。まさか俺の中に流れる血の正体に薄々気づいていたか?」
「自分が実験台になってる時は見えねぇからさすがに知らなかったけど……あんたがその血を得ていることは気づいてたよ。皮肉なもんで、あんたが言ったように嫌という程その身体を、私の身体が覚えているからな……」
刹那は情けなく笑みを浮かべた。
その時銀時は知った。
こいつはただ、黙ってこの男に抱かれていた訳ではなかった。
幻斎という得体の知れない男を、いつか闘う時が来るかもしれないということを見据えて、彼女は抱かれている中でも奴としっかり闘っていたのだ。
「闇の情報屋とは言ったものだ。ただ情報を盗み聞きするものではなく、真っ向から情報を聞き出し、殺そうとしても死なないその体を、今まで利用してきたんだろうが…」
刹那は再び立ち上がり、幻斎に殺意を向ける。
「私はあんたがどうすれば死ぬかくらい、もう知ってる。でも、私じゃとてもお前には勝てない…」
彼女の言葉に、幻斎はニヤリと笑ってほぉ、と喉を鳴らす。
余裕たるその態度から目をそらさぬまま、刹那は更に口を開いた。
「でも、みんながいてくれれば……一人じゃ倒せない敵も倒せるかもしれない。だから私はそれに賭けたい。」
「ほぅ、ではこの人数相手に貴様らだけで立ち向かうと言うわけだな。」
「……!」
気づけば幻斎の仲間達が自分たちの周囲を囲んでいた。
確かに幻斎を率いる奴らだけあって、骨がありそうだ。
銀時たちは息を飲んだ。
勝算はないが、負けたらここで全員死ぬ。
ただそれだけは、皆が共通して理解していた。
腹を括り、奴らと剣を交えようと覚悟を決めたその時。
「じゃあ、刹那の言う〝みんな〟とやらに俺達も加えてもらおうじゃねぇか。」
「えっ……」
突然戦場に新たな声が加わる。
刹那は驚いて振り返ると、そこには見慣れた姿がいくつかあった。
「こんなおもしれぇ場に俺を呼ばねぇとは、万事屋も隅に置けねぇな。」
「てっ、てめぇはッ!」
「刹那さん、水臭いじゃないですかァ。我々の戦に手を貸してくれたアンタが、自分の戦に俺たちを呼ばねぇなんて。」
「訳ありでもなきゃ、刹那が吉原の遊女になんて大それたことしねぇとは思ってたけど、ド派手なことやってくれらァ。」
「トシ、近藤さん、総悟ッ!」
「残念でした刹那さん、俺達もいます。」
「や、山崎さん?!みんな、どうして……」
「…おいおい、うちの姫はいつの間に幕府の犬まで手懐けたんだ?」
「アイツがなりふり構わず人を寄せ付けるのは昔からだろ。」
「…違いねぇ。」
高杉は苦笑いを浮かべ、銀時はそれに呆れた笑みを浮かべながら返し、お互いため息をこぼした。
彼女は新たに現れた真選組一同を見て、再び涙を零した。
「ーーッ、ありがとう、みんな……」
「あんたの涙ほど見たくねぇ物はねぇ。俺たちが動く理由はそれだけで充分だ。」
土方が真選組を代表してそう言うと、彼らはみな腰にさした刀を一斉に抜き、構えた。
「ケッ、歯が浮く台詞言いやがる。…おい銀時んとこのガキ共」
「は、はい!」
高杉に名を呼ばれ、新八が返事をする。
彼はもう一度だけ、久方ぶりに再会した刹那を名残惜しそうにみては、再び口を開いた。
「…俺たちが時間を稼いでる間に、そいつを頼む。まだ聞きてえことが山ほどあるから、死なせるな。」
「わかりましたッ!」
「任せるアルッ!」
「ま、待って私も……!」
「テメェはひとまずその痛々しい腹の出血を止めてこい。参加するのはそれからだ。」
「行きますよ、刹那さん!」
「晋助、銀時ーーッ!」
神楽と新八が刹那を支えながら、その場から引き離す。
刹那は自分を身を呈して守るむかしの仲間の名を呼びながらも、その大きな背中が見えなくなるまで目を逸らさなかった。