四.戦姫編
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突然爆発音のようなものが聞こえたかと思い外へ出てみれば、刹那のいる店の最上階が跡形もなく消え去り、塵と化していた。
銀時の背中に、悪寒が走る。
まさかとうとう奴が現れたのか。
一際人の殺意や気配に敏感な銀時でさえ、それを感じる事ができなかった。
そして気づけば周囲には笠を被り、羽織りを纏った無数の男たちが吉原中に姿を現し、こちらの動きを見張っていた。
「銀さん!今の音…っ!」
「銀ちゃん!刹那姉ちゃんは…!」
自分より少し遅れて神楽と新八、日輪が表通りへ飛び出してくる。
刹那は無事なんだろうか、と各々の胸がざわつく。
そして次に彼女の姿を見た時、既にひとりの男の手に捉えられていた。
刹那の腹部には短刀が刺さり、血が流れ出していたのを見ては、頭にカッと血が登り、気づけば名を呼んでいた。
「刹那ッッ!!」
届いたかどうかもわからぬその声で、彼女がこちらを見る事はなかった。
そしてその刹那が対面している男こそが、〝闇の情報屋〟と呼ばれた男…。
今すぐ目の前にいる敵を薙ぎ払って彼女の元へ全速力で向かおうとすれば、一足先に近くで待機していた月詠が奴に攻撃をしかけた。
だがそれは一太刀にして薙ぎ払われる。
「月詠ッ!!」
「ツッキー!」
「月詠さんっ!!」
新八と神楽は飛ばされて壁に激突した月詠の行方をおう。
だが銀時は、一瞬にして彼女をあしらったその男のあまりもの力の差に、手に汗を握っていた。
「ふざけんな、どーいう奴を一人で背負ってんだあのバカッ!」
思わず苦笑いをこぼした銀時は、再び刹那に手をかけようとしている男の姿を見て、気づけば高く飛び、二人のところへと向かっていた。
「その汚ぇ手を…離しやがれッ!!」
洞爺湖を抜いて素早く後ろから一太刀入れるが、奴は振り返ることも無くそれを腕で受け止めた。
確かに手応えはあったはずなのに、奴は微動だにしない。
「なっ…!」
「やれやれ、うるさい蠅どもだ。退いてろ。」
男がチラりと銀時に目を向けたその瞬間、刀を受け止めた反対の腕で腹部を思い切り殴られる。
「ぐっ……!」
「銀時ッ!」
自分の骨が軋んだ音を耳にしたと共に、凄まじい勢いを保ったまま隣の建物へ容赦なく放り込まれた。
その場に崩れ落ちた刹那は、銀時に震えた手を懸命に伸ばす。
だがその手を伸ばした先に見た光景は、彼が口から血を流し、頭を強く打ったせいか額からも血を流れ落ちている姿だった。
刹那は思わず言葉を失う。
どうしてこうなってしまったのだろう、と。
自分だけで何とかしようとしていたはずなのに。結局周りの大切な人たちを巻き込んでしまう。
彼女の心境を余所に、幻斎はもう一度刹那と向き合い再び問い始めた。
「もう一度だけ言うぞ。あの者らを生かしてお前が犠牲になるか、お前が最後まで抵抗してあの者らを全員消し去るか、どちらか選べ。」
冷たくそう言う男を前に、銀時は再び意識を取り戻し血が沸騰するような感覚になりながらも、力を振り絞って体を起こした。
全身に痛みが走る。それでも今ここで倒れていては、アイツを守れない。
銀時は奴の前にいる刹那をじっと見ては、奴に挑発じみた口調で言った。
「ハハッ…笑わせるぜクソ野郎。最初から俺たちを生かす気なんてさらさらねぇくせに、嘘八百もいいとこだ」
「そんな事はない。お前たちを生かしておけば、こいつにとってそれは人質同様だ。大人しく俺の元にいれば、大切な仲間とやらに手を出す事はせん。だがお前が俺に歯向かうというのであれば、話は別だ。奴らを皆殺しにし、この場所に留まる理由を全て断ち切る。」
「幻…斎っ…!」
キッと睨みつける刹那の目を見て、幻斎は再び口元に弧を描いては、再び片手で彼女の体を持ち上げた。
身体が自由に動かない。力が入らない。私は奴を目の前にして、ただこうして睨みつける事しかできないというのか。
守りたい。みんながいつも笑っていられるように。
一緒にいたい。みんなの傍で笑っていたい。
でも私がそれを諦めれば、ひとまずみんなの命を助ける事はできる。
そうして再び、闇の中に身をおけば、銀時達は今まで通り、笑って毎日を過ごせるかもしれない。
私はきっと、この男にはどう足掻いても勝てない……。
刹那の心の中で、いろいろな感情が葛藤をしていた。
そんな時、一人の男の声が耳に届いたのだ。
「刹那ッ!そんな奴の言いなりになんじゃねぇッ!誰もテメェが考えてる選択は望んでねぇんだ!」
「…」
「刹那ッ!いい加減自分の気持ちに正直になれッ!!」
「--っ!!」
銀時の強い訴えに、刹那は再び言葉を失い、彼女は俯いた。
人生というのは常に複数の選択肢でできている。
道を誤れば、それ相応のものが自分に降りかかってくる。
自分が今間違いなく取らなければならない選択肢は、ただ一つ。
銀時達を助けるために、自分の身を犠牲にすることだ。
それでも…それでももし本当に銀時の言うように自分の気持ちに素直になっていいのなら。
もし本当に、自分のわがままを突き通していいのなら…。
「…て」
失っていた言葉と感情が、徐々にあふれ出す。
幻斎は一瞬聞こえてきた彼女の声に耳を澄ますかのように、刹那の口元を自分の前へと持ってくるよう、更に体を持ち上げた。
「…刹那?」
微かに聞こえる刹那の声。
銀時がもう一度耳を澄まし、彼女の口元に目を凝らす。
その時彼の視界に映り込んだのは、刹那が初めて自分のために流した涙だった。
「…けて…助けて、銀時…っっ!!」
刹那の必死の嘆きと、苦しんだ末にようやく出た言葉。
今まで一緒にいる時、どんな時だって刹那は助けを求めてはこなかった。
攘夷戦争に巻き込まれて命を落とす前も、そうだった。
もう少し死が訪れようとしている体の痛みがひどくても、助けてくれとも言わなかった。
エドという天人に操られ、自らの手でかつて仲間だった自分を殺そうとした時も、刹那は助けて欲しいとは言わず、自分の死を選ぼうとした。
そんな奴が今初めて、自分に助けを求め、自分が抱え込んだものが苦しくて、涙を流している。
気づけば銀時は再び洞爺湖を手にし、地を蹴り奴の方へと向かっていた。
「ったりめぇだバカヤローッ!!!!」
銀時が再度刀を振りかざす。
刹那の答えが自分が予想していたものと違ったせいか、一瞬でも幻斎には隙ができていた。
銀時はその瞬間を逃すことなく、全力を込めて刀を振りかざす。
だがそれだけでは奴の体は吹っ飛ぶこともなく、攻撃は受けたもののその場にとどまっていた。
「き、貴様らっ…ゆるさ…」
最後まで奴の言葉を聞く前に、別の方向からの攻撃により銀時の視界から姿が消え、後方へと吹っ飛んでいく。
「なっ…」
一瞬何が起きたのか分からなかった。
だが飛んでいった奴から刹那の方へと視線を戻せば、刀を肩にかついでその場で奴が飛んで行った先を見据えている男が、目の前に立って笑みを浮かべていたのだ。
「助けを求める奴の名前が足りねぇんじゃねぇのか、刹那。」
「晋助……!」
「お前…高杉っ!!どうしてここに…」
突然現れた高杉の姿に、銀時は酷く動揺して奴に近づこうとすれば、感動の再会をするどころか高杉は銀時に刀を振りかざした。
驚いていたとはいえ、間一髪でそれを受け止める。
「て、テメェ!どさくさに紛れて何しやがる!」
「テメェこそ、刹那と一緒にいたなら何もたもたしてやがった。どこぞの遊女にでも口説かれて出遅れたか?ハナから全力で護る気がねぇんなら、この場からとっとと失せろ。」
「あァ?!テメェこそどこに身を潜めてやがった!大方最初の襲撃ですっ飛ばされて伸びてたんじゃねぇのか?チビはすっこんでろ!」
少し先で鍔迫り合いを始めながら喧嘩をおっぱじめる二人に、刹那は唖然とし、いつの間にか流れていた涙も止まっていた。
「ちょっと何してるんですか二人とも!こんな時に喧嘩してる場合じゃ…」
「おいバカ共!そんな暇あったら刹那姉ちゃんを運べっ!」
そしてその場に新八と神楽が現れ、刹那の体に寄り添った。
「大丈夫ですか、刹那さん!早く手当を…!」
「私の背中に乗るアル!日輪の所に連れて行くネ!」
「新八…神楽…っ」
何の疑いもなく刹那をただ信じ、それを守ろうとする真っすぐな眼差し。
自分の身を案じ、笑みを浮かべる二人。
まるで、一人じゃない。大丈夫だと言ってくれているその優しい顔を見て、刹那は再び涙を零した。
「…ゴメン。みんな。」
「…刹那さん?」
「私がこんな選択しなければ、みんなは助かったかもしれないのに…でも、やっぱり、言えなかった。」
「…」
「みんなと離れて生きてくなんて、私にはもうできない…。みんなと一緒にいたい。みんなと一緒に…生きたいッ!!」
泣きじゃくる刹那は、彼らにとって新鮮で、且つ心を穏やかにさせた。
「何言ってるんですか、刹那さん。そんなの当たり前です。」
「私たちの方こそ、刹那姉ちゃんがいない万事屋なんて卵かけご飯にご飯がないのと一緒ネ。いてもらわないと困るアル。」
「いや神楽ちゃん、この期に及んでその例えはちょっと……」
「ぎゃーぎゃー泣いてんじゃねぇよ、刹那。俺ァ安心したぜ。テメェがこの期に及んでもまだ俺たちを守るとかぬかして、あいつの手を取るのかと一瞬でも疑っちまったからな。俺たちはそんな風にお前に護られたって、なんも嬉しくねぇ。テメェが隣を歩いて、テメェとバカやって、一緒に笑って、怒って、泣いてやりてぇ。それが俺たち万事屋だ。」
「…銀時。」
彼の言う言葉に賛同するかのように、神楽と新八は再び優しい笑みを浮かべた。
それを見ていた高杉は、フッと息を吐いて彼女への傍へと寄った。
「もうテメェに俺たちは止められねぇよ。もう聞いちまったからなァ。テメェが生まれて初めて、助けを求めた言葉を。…それに、泣けるじゃねぇか。初めて他人のためじゃなくてテメェのために泣けるなんてよ。最初からそうしやよかったんだ。いつまでも意地はってんじゃねぇよ、バーカ。」
「し、晋助……」
高杉が穏やかな顔で、刹那の頭にそっと触れる。新八や神楽からすれば、その光景は格別に異様なもので、思わず息を飲んだ。
「たたたた、高杉さんがっ…!」
「ぎ、銀ちゃん!悪役顔がなんか優しい兄貴みたいな顔に…!」
「…あいつは昔から刹那だけにはあぁいう接し方できんだよ。」
白い目で高杉を見るも、彼は刹那との再会を喜び、そんな銀時の視線にすら気づいていない。
「…おい刹那。もーいっぺん言ってみ。」
「…へ?」
見るに堪えられなかったのか、感動シーンをぶち壊すかのように、銀時が意地の悪い笑みを浮かべて彼女にそう言う。
今度は高杉が銀時を白い目で睨むも、彼は再び刹那に言った。
「ここにいる連中に聞こえるように、もーいっぺん言ってみろ。テメェはそれだけ他人を動かす力がある。みんなテメェに力を貸すために、ここに残ってんだよ。」
「あ…」
「いつも自分だけで背負いこんで、視野狭くしてっから、テメェは何も見えちゃいねぇ。テメェを死なせたくねぇ。テメェと一緒に生きたいって願ってる奴がこんなにもいる。テメェはそれを作り上げてきた日常を一時のもんだって言うのかよ。」
「ふっ…」
納まったはずの涙が、銀時により再び零れ始める。
気づけば吉原中に残った闘える者たちすべてが、刹那の傍まで集まっていた。
「みんな、助けて……力を貸して…。私、みんなとずっと一緒にいたいッ!!」
そう叫ぶと、視界に映るみんなの顔は優しく笑みを浮かべていた。
いつの間にか、一緒にいたいと願う人たちがこんなにもたくさんいた。
私はまだ、諦める選択肢を取るべきじゃない。
どうせなら、最後まで悪あがきして、一分一秒でも永くみんなのところにいたい。
そう思えば、痺れていたはずの体も徐々に力をこめられるようになり、刹那はその場に立ち上がった。
「…もう、ここで終わらせる。私の過去を背負った、最期の闘いだ。」
凛とした小さな声が、吉原にいる全員に響き渡る。
だがそれを、一人の男が嘲笑ったのだった。