優しい影
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こぼれるような笑顔に思わず息を飲む。
美しくて、綺麗で、可愛らしくて、可憐で。
普段から小説を読んでいるくせに、いざとなったらうまく表現する言葉が浮かばない。
頭の中が真っ白になる。
あの日、あの時、あの場所で。
あなたに出会ったのが火神くんじゃなく、ボクだったなら。
そんな風に何度も考えた。
でも、きっとそんな可能性なんてありえなくて。
もしも奇跡が起こってそんなことが起こりえたとしても、きっとボクとあなたの関係は変わらないんだろう。
あなたはきっと、ボクのことを好きにはならない。
でもきっと、ボクはあなたを知れば、何度でもあなたのことを好きになる。
「今年一年が黒子くんにとって素敵な一年になりますように」
彼女はそう言って、眩しい笑顔を向けてくれる。
ボクだけを真っ直ぐに見つめるその瞳は優しくて。
嬉しくなると同時に、ほんの少し切なくて。
あなたがそうやってボクに笑いかけてくれるなら、ボクの毎日はきっと素敵なものになるに違いない。
でも、その言葉は伝えられない。
伝えたところで、彼女から返される言葉をボクは知っているから。
知っているからこそ、彼女にその言葉を紡いでほしくはない。
その言葉をボクに返すことで彼女を悩ませ、悲しませ、苦しませることを理解しているから。
「はい。そうなれば嬉しいです」
当たり障りのない言葉。
本心を隠した言葉。
それでもあなたの笑顔が見られるのなら。
それだけで十分。
今も、これからも。
大した物じゃないんだけど、もらってくれると嬉しい。
そう言って差し出された紙袋を受け取った。
ひらりと身を翻して小さく手を振って去る彼女の姿を見送りながら、小さくうずく胸の痛みに誰にも見られないように苦笑いを浮かべた。
《ボクのためだけに》
本当にボクに会うためだけに
ここまでやってきてくれたあの人に
ボクはまた惹かれてやまない
《終》
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