優しい影
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「黒子くん!」
部室へ向かう途中。
名前を呼ばれて振り返れば、そこには小夜さん。
今日は仕事が休みだったのだろうか。
以前見たスーツ姿ではなく、カジュアルな服装で髪を一つに束ねている。
そんな彼女の手には小さな紙袋が握られていた。
火神くんの忘れ物でも届けに来たのだろうか。
以前にも何度か小夜さんは火神くんの忘れ物を届けに誠凛高校を訪れている。
彼女のスーツ姿を見たのもその時だ。
私服とは違ってスーツ姿の小夜さんはいつもより大人びて見えて。
少し遠い存在のように思ってしまったことを今でも覚えている。
スーツに身を包まない彼女は実年齢よりもずっと若く見える。
そのことを話したときに彼女が拗ねたものだから、さらに年齢の差が縮まったような気がして嬉しかった。
「小夜さん、こんにちは。火神くんならまだ教室の掃除中で──」
「ううん、今日は黒子くんに会いにきたの」
ボクの言葉を遮って小夜さんは言う。
その言葉に抱いてはいけない感情が胸の奥に芽生える。
小さな、とても小さな、期待。
あなたが今日ボクを、ボクだけのために訪ねてくれるたった一つの理由。
期待で上擦りそうな声を必死に取り繕う。
「ボクに、ですか?」
いつも通りに言えただろうか。
おかしなところはなかっただろうか。
胸の内にくすぶるこの気持ちに感づかれていないだろうか。
いろんな感情が綯い交ぜになって思考回路が覚束ない。
ボクは努めて平静なふりをしているけれど、彼女は大人だ。
もしかしたらわかっていて知らないふりをしてくれているのかもしれない。
そんなボクの杞憂をよそに、彼女はなんのためらいもよどみもなく、ボクの欲しかった言葉を口にした。
「うん。黒子くん、お誕生日おめでとう!」