きみはここから
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……それなのに、私は今、傘を忘れたせいで、こうして無為な時間を過ごしているわけだけれど。
やはり相澤先生に相談するのが一番の現状一番の解決策だろうか。
それとも明日の自分が雨に濡れたくらいでは風邪など引かないと、盲目的に信じてこの雨の中を全力で駆け抜けるべきだろうか。
悲しいことに、先ほどよりもさらに雨脚が強まったような気がしないでもない。
そうであるならば決断は早いに越したことはない、ということなのかもしれない。
そんなことを逡巡していると、後ろから声をかけられた。
ひどく不機嫌そうな、低い声。
私はその声を知っている。
その声の主を知っている。
「なに突っ立っとんだ」
雄英高校1-A爆豪勝己。
クラスメイトの上鳴電気をして、クソを下水で煮込んだような性格と言わしめた男。
先刻頭をよぎった、傘に一緒に入れてくれないか、とお願いをしたとして、断られる可能性のある人物。
その可能性の高さナンバー1。
文句なしの、ぶっちぎりで。
ああ、振り向きたくない。
でも振り返らざるをえない。
だって彼は、無視を決め込むことなく、決断に踏み切れずにその場で立ち尽くしていた私に声をかけてきたのだから。
ギギギ……と錆びた機械のような緩慢な動作で、私は後ろを振り返る。
そして私の後ろには予想通りの人物が立っていた。
色素の薄いつんつんと逆立った金の髪。
血の色にも、炎の色にも似た赤い瞳。
黙っていればクラス1のイケメンと称される轟くんにも引けを取らない整った顔立ちをした彼は、それを台無しにしてしまうほど深く眉間に皺を刻んでいる。
眉間の皺と吊り上がった瞳を見ない日はないのでないかとさえ思う。
彼の心からの笑顔を、私はまだきっと知らない。
そしてこれから知ることができるようになるのかも怪しいような気がする。
見ることができなかったからといって、私にとってどうということもないけれど、それはそれで少し寂しい……かもしれない。
爆豪くんはすぐに返答しない私を訝しく思ったのか、さらに眉間の皺を深くした。
ああ、早く、早く答えなくては。
沸点の低い彼の導火線に火が点かないうちに。