全てを持って生まれた君は今
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入学したばかりの頃、轟くんの瞳を怖いと思ったことがあった。
でも今私を見下ろす彼の瞳を、怖いなんて少しも思わない。
きっとそれは、彼がいい変化を遂げたことによることが大きいのだろうと思う。
でも、ほんの少しばかりは私自身の心の持ちようにも理由があるような気がする。
轟くんはそれ以上は何も言わず、ただ真っ直ぐに私を見下ろしている。
クラス1のイケメンに何秒も凝視されてしまうとさすがに照れてしまう。
私は彼から視線を逸らし、しどろもどろになりながらもなんとか言葉を紡いだ。
何か、話さなければ。
沈黙に耐えられそうになかった。
「ど、どうしようか…?どこかに移動して座ってお話しするか、それともここで雨がやむのを待ちながらお話しするか……」
「そうだな……もうすぐやみそうだし、このままでもいいか?おまえがよければ」
轟くんは自分から話をすることがあまりない。
いや、もしかしたら緑谷くんや飯田くんと一緒にいるときはそうではないのかもしれないけれど。
少なくとも、私と話をしているときの彼は“そう”なのだ。
でも、私が問いかければ、必ずそれに応えてくれる。
相槌だけのときもあるけれど、彼自身の思いや意見もちゃんと伝えてくれる。
私はそれが嬉しい。
だからこそ、さっき轟君に声をかけてもらえたことが、驚きはしたけれど純粋に嬉しかったのだ。
「それじゃあ、ここで」
「ああ」
「そういえばこの間、お茶子ちゃんとね──」
変な沈黙が落ちてしまったら、さすがの轟くんも気を遣うかもしれない。
そう思って、私は轟くんの返答を確認してから、間髪入れずに話し始めた。
内容は本当に大したことはない、と思う。
私がお茶子ちゃんたちと話をしていて面白いな、と思ったこと。
それを轟くんも同じように面白いと思ってくれるかどうかはわからないけれど、今の私の話せることなんてそうそうない。
今の自分の精一杯で轟くんにぶつかっていくしかないのだ。
どうか、私の拙い話が、今日も君を楽しませることができますように。
《この雨がやむまで》
雨がやむまでのほんの少しの時間
君の声も
君の視線も
君の時間も
私が全部、独り占め
了
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