全てを持って生まれた君は今
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相変わらず表情は読み取れない。
それでも、今は彼の意志を知っている。
言葉で、直接伝えられたから。
私と話をしたい、と。
求められて嬉しくないわけじゃない。
必要とされることは、私にとって喜びだ。
自分の存在を許されていると思えるから。
私の答えを待つ轟くんは先ほど空を見上げていた時と寸分違わぬ表情で。
すぐに応えを返さない私に苛立っているとか、緊張しているとか、そういった感情は一切見えない。
だから私は伺うように小さな声で問いかけた。
問いかけに対して問いかけて返すというのは、少し卑怯な気もするけれど、そこはあえて平静を装った。
「……でもいつも私ばっかり話してるよね?」
そうなのだ。
体育祭以降、緑谷くんや飯田くんとも仲の良くさせてもらっている私は、必然的に轟くんとも話すことが増えた。
それでも、いつも私と轟くんが話すときは、基本的には私が何かを話して、轟くんがそれに対して相槌を打つ、ということが多いのだ。
人と話すことがそれほど得意ではない私の話すことが楽しいとは思えない。
時折自分が何を話しているのかわからなくなることさえあるくらいだ。
そんな私なのに。
それでも轟くんは私と話したいと思ってくれているというのだろうか。
肯定の返答を願って、すがるように轟くんを見上げる。
轟くんの唇が動くまでの時間が、やけにゆっくりと感じられる。
「嫌か……?俺はお前の話聞くの好きだ」
わずかに寄せられた眉根。
いつもより少し不安げに揺らいだ声。
それでも瞳は変わらずに真っ直ぐに私に向けられていて。
感情の起伏はほとんど感じられないけれど、それでもその言葉に嘘偽りがないことは伝わってくる。
それに、今ここで私に嘘をつくメリットが轟くんにはない。
「嫌、じゃないよ」
「そうか……よかった」
轟くんが安堵したような表情を浮かべる。
ああ、こうやって真っ直ぐに見つめると、微かではあるけれど表情の変化を読み取れる。
穏やかな眼差しに見下ろされていることを自覚して、ぽっと身体があたたかくなるのを感じた。