全てを持って生まれた君は今
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人が少なくなったことをいいことに、私は屈みこんだまま盛大にため息をこぼす。
それと同時に落ちた影に、私は弾かれるように顔を上げた。
いつの間にか私の傍らに立ち、こちらを見下ろしていたのは同じクラスの轟くんだった。
端正な顔立ちの中央に浮かぶオッドアイの瞳は真っ直ぐにこちらを見据えているけれど、元々薄暗い昇降口にいる上に、逆光になっているものだから彼の表情をうまく読み取ることができない。
もしも逆光でなかったとしても、お世辞にも表情が豊かだと言い切れない彼の表情を私が判断できたかどうかは怪しいところだろう。
体育祭以降少しずつ周りのみんなとも打ち解け始めた轟くん。
私も彼と話したことはあるけれど、特別仲がいい、というわけではない。
彼と仲がいいのは緑谷くんや飯田くんだろう。
よく一緒にいるところを見かけるから。
私が彼を見上げたまま何も言えずにいると、轟くんの方から声をかけてくれた。
低くゆったりとした、落ち着いた声が私の耳に届く。
「こんなところに屈みこんでどうした?」
そう言われて初めて私は屈みこんだまま、轟くんを見上げていることに気づく。
“クラス1のイケメン”と三奈ちゃんが言うだけのことはあって、轟くんは本当に格好いい。
目許を覆う火傷の痕さえ気にさせないほど。
そんな彼から突然話しかけられて、知らず知らずのうちに見惚れてしまっていた。
話しかけられているのに、それに対して屈んだまま返事をするなんて失礼だ。
私は慌てて立ち上がるけれど、轟くんはさして気にしていなかったようで、きょとんとした表情を浮かべていた。
体育祭前には見せてくれなかった表情に、轟くんがいい方向に変わったことを嬉しく思う。
以前の轟くんなら、私が昇降口で屈んでいても絶対に声を掛けてはくれなかったと思うから。
「雨、降ってるんだけど、傘忘れちゃったから帰れないなーって……」
私の言葉に轟くんは空を見上げる。
もしかして雨が降っていることに気づいていなかったんだろうか。
空模様を確認した轟くんは無言のままで鞄の中をごそごそと探り始めた。
私も彼に倣って黙ったままその様子を見守った。
「俺も傘、忘れた……」
「そっか……」
もしも轟くんが折り畳み傘を持っていたら入れてもらおう。
そんな密かな私の魂胆はいともあっさりと打ち砕かれた。
いや、もしも轟くんが私の願い通りに傘を持っていたとしても、傘に入れてほしいと言い出すことができたかどうかは正直わからないけれど。